【8話完結】ざまぁされて廃嫡されたバカ王子とは俺のことです。

キノア9g

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第7話:信じるということ

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「ねえ、レオナード様……少しお時間をいただけませんか?」

 その声を聞いた瞬間、俺の足が止まった。

 広場の片隅。陽の光が差し込むカフェの前で、リリィがレオナードに話しかけていた。

 この街で彼女と顔を合わせるのは初めてだが、嫌でも分かる。あれは”獲物”を捕らえるときの顔だ。

 俺は咄嗟に近くの建物の影に身を潜めた。

「何の用だ?」

 レオナードは冷静だった。だが、その声にはわずかな警戒心がにじんでいる。

 リリィは微笑みを崩さず、彼のすぐそばに寄る。

「……カイルのことで、お伝えしておきたいことがあるのです」

 俺の名が出た瞬間、心臓が跳ねた。

「……カイル?」

「ええ。……あの人、何も変わっていませんわ」

 俺の中で、嫌な予感が広がっていく。

「彼がどんな人だったのか、レオナード様はご存じでしょう?」

 リリィは甘ったるい声で続ける。

「自信過剰で、他人を見下して、都合が悪くなればすぐに人のせいにする……。それでいて、捨てられた途端に被害者ぶるなんて……あまりにも、滑稽ではなくて?」

「……」

 胸がズキンと痛む。

 その言葉に反論したかった。

 でも、俺はかつて、そんな人間だった。

 王宮にいた頃の俺は、傲慢で、愚かで──そして、何も見えていなかった。

 あの時の俺は、確かに最低だった。

「彼、今は冒険者として生きているようですけど……」

 リリィはくすっと笑い、挑発するように言った。

「どうせまた問題を起こすのではないかしら? ギルドでも、もう孤立しているそうですし……本当に、更生するつもりがあるのかどうか……」

 ──やめろ。

 俺は拳を握りしめた。

 ここで飛び出したい衝動に駆られる。

 だけど、足が動かない。

 怖かった。

 レオナードが、もし彼女の言葉を信じたら──?

 もし「やっぱりカイルは変わっていない」と思われたら──?

「それで?」

 だが、その時。

 レオナードの声が響いた。

「だから、何だと言うんだ?」

「え?」

 リリィの笑顔が、わずかに引きつる。

「君は何が言いたい? カイルが過去に傲慢だった? それでどうした?」

「……っ」

「君は、カイルの”今”を見たのか?」

 レオナードの声が低くなる。

「過去がどうであれ、カイルは今、変わろうとしている。君が知っている”王子”ではなくなった。……少なくとも、私はそう信じている」

 リリィの顔が歪む。

「……レオナード様は、彼の肩を持つのですか?」

「ああ、持つとも」

 レオナードは即答した。

「何を言われようと、私が信じるのはカイルだ」

 ──ああ。

 胸が、痛い。

 苦しい。

 でも、それ以上に──温かい。

 俺がどれだけ愚かだったか知っているはずなのに。

 誰よりも俺の過去を知る彼が、それでも俺を信じると言ってくれた。

「……」

 喉の奥が熱くなる。

 リリィはしばらく沈黙した後、ふっと笑みを作った。

「……分かりましたわ。レオナード様がそこまでおっしゃるなら、これ以上は申しません」

 そう言い残し、彼女はレオナードに背を向ける。

 去り際、彼女の目が一瞬だけ、俺の隠れている方を向いた。

 ──気づいている?

 それとも、ただの偶然か?

 どちらにせよ、もうどうでもいい。

 俺の頭の中は、レオナードの言葉でいっぱいだった。

(……俺は)

(レオナードが、好きだ)

 ようやく、自分の気持ちに気づいた。

 今までは「親友」だった。

 だけど、違う。

 ただの友情なら、こんなにも心が揺れるはずがない。

 彼の言葉が、何度も助けてくれた。

 俺にとって、レオナードは──ただの友人じゃない。

「……っ」

 動悸が激しくなる。

 この気持ちをどうすればいいのか、分からなかった。

 でも、確かに分かることがある。

 俺はもう、彼なしではいられない。
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