7 / 8
第7話:信じるということ
しおりを挟む「ねえ、レオナード様……少しお時間をいただけませんか?」
その声を聞いた瞬間、俺の足が止まった。
広場の片隅。陽の光が差し込むカフェの前で、リリィがレオナードに話しかけていた。
この街で彼女と顔を合わせるのは初めてだが、嫌でも分かる。あれは”獲物”を捕らえるときの顔だ。
俺は咄嗟に近くの建物の影に身を潜めた。
「何の用だ?」
レオナードは冷静だった。だが、その声にはわずかな警戒心がにじんでいる。
リリィは微笑みを崩さず、彼のすぐそばに寄る。
「……カイルのことで、お伝えしておきたいことがあるのです」
俺の名が出た瞬間、心臓が跳ねた。
「……カイル?」
「ええ。……あの人、何も変わっていませんわ」
俺の中で、嫌な予感が広がっていく。
「彼がどんな人だったのか、レオナード様はご存じでしょう?」
リリィは甘ったるい声で続ける。
「自信過剰で、他人を見下して、都合が悪くなればすぐに人のせいにする……。それでいて、捨てられた途端に被害者ぶるなんて……あまりにも、滑稽ではなくて?」
「……」
胸がズキンと痛む。
その言葉に反論したかった。
でも、俺はかつて、そんな人間だった。
王宮にいた頃の俺は、傲慢で、愚かで──そして、何も見えていなかった。
あの時の俺は、確かに最低だった。
「彼、今は冒険者として生きているようですけど……」
リリィはくすっと笑い、挑発するように言った。
「どうせまた問題を起こすのではないかしら? ギルドでも、もう孤立しているそうですし……本当に、更生するつもりがあるのかどうか……」
──やめろ。
俺は拳を握りしめた。
ここで飛び出したい衝動に駆られる。
だけど、足が動かない。
怖かった。
レオナードが、もし彼女の言葉を信じたら──?
もし「やっぱりカイルは変わっていない」と思われたら──?
「それで?」
だが、その時。
レオナードの声が響いた。
「だから、何だと言うんだ?」
「え?」
リリィの笑顔が、わずかに引きつる。
「君は何が言いたい? カイルが過去に傲慢だった? それでどうした?」
「……っ」
「君は、カイルの”今”を見たのか?」
レオナードの声が低くなる。
「過去がどうであれ、カイルは今、変わろうとしている。君が知っている”王子”ではなくなった。……少なくとも、私はそう信じている」
リリィの顔が歪む。
「……レオナード様は、彼の肩を持つのですか?」
「ああ、持つとも」
レオナードは即答した。
「何を言われようと、私が信じるのはカイルだ」
──ああ。
胸が、痛い。
苦しい。
でも、それ以上に──温かい。
俺がどれだけ愚かだったか知っているはずなのに。
誰よりも俺の過去を知る彼が、それでも俺を信じると言ってくれた。
「……」
喉の奥が熱くなる。
リリィはしばらく沈黙した後、ふっと笑みを作った。
「……分かりましたわ。レオナード様がそこまでおっしゃるなら、これ以上は申しません」
そう言い残し、彼女はレオナードに背を向ける。
去り際、彼女の目が一瞬だけ、俺の隠れている方を向いた。
──気づいている?
それとも、ただの偶然か?
どちらにせよ、もうどうでもいい。
俺の頭の中は、レオナードの言葉でいっぱいだった。
(……俺は)
(レオナードが、好きだ)
ようやく、自分の気持ちに気づいた。
今までは「親友」だった。
だけど、違う。
ただの友情なら、こんなにも心が揺れるはずがない。
彼の言葉が、何度も助けてくれた。
俺にとって、レオナードは──ただの友人じゃない。
「……っ」
動悸が激しくなる。
この気持ちをどうすればいいのか、分からなかった。
でも、確かに分かることがある。
俺はもう、彼なしではいられない。
82
あなたにおすすめの小説
【16話完結】スパダリになりたいので、幼馴染に弟子入りしました!
キノア9g
BL
モテたくて完璧な幼馴染に弟子入りしたら、なぜか俺が溺愛されてる!?
あらすじ
「俺は将来、可愛い奥さんをもらって温かい家庭を築くんだ!」
前世、ブラック企業で過労死した社畜の俺(リアン)。
今世こそは定時退社と幸せな結婚を手に入れるため、理想の男「スパダリ」になることを決意する。
お手本は、幼馴染で公爵家嫡男のシリル。
顔よし、家柄よし、能力よしの完璧超人な彼に「弟子入り」し、その技術を盗もうとするけれど……?
「リアン、君の淹れたお茶以外は飲みたくないな」
「君は無防備すぎる。私の側を離れてはいけないよ」
スパダリ修行のつもりが、いつの間にか身の回りのお世話係(兼・精神安定剤)として依存されていた!?
しかも、俺が婚活をしようとすると、なぜか全力で阻止されて――。
【無自覚ポジティブな元社畜】×【隠れ激重執着な氷の貴公子】
「君の就職先は私(公爵家)に決まっているだろう?」
オメガだと隠して魔王討伐隊に入ったら、最強アルファ達に溺愛されています
水凪しおん
BL
前世は、どこにでもいる普通の大学生だった。車に轢かれ、次に目覚めた時、俺はミルクティー色の髪を持つ少年『サナ』として、剣と魔法の異世界にいた。
そこで知らされたのは、衝撃の事実。この世界には男女の他に『アルファ』『ベータ』『オメガ』という第二の性が存在し、俺はその中で最も希少で、男性でありながら子を宿すことができる『オメガ』だという。
アルファに守られ、番になるのが幸せ? そんな決められた道は歩きたくない。俺は、俺自身の力で生きていく。そう決意し、平凡な『ベータ』と身分を偽った俺の前に現れたのは、太陽のように眩しい聖騎士カイル。彼は俺のささやかな機転を「稀代の戦術眼」と絶賛し、半ば強引に魔王討伐隊へと引き入れた。
しかし、そこは最強のアルファたちの巣窟だった!
リーダーのカイルに加え、皮肉屋の天才魔法使いリアム、寡黙な獣人暗殺者ジン。三人の強烈なアルファフェロモンに日々当てられ、俺の身体は甘く疼き始める。
隠し通したい秘密と、抗いがたい本能。偽りのベータとして、俺はこの英雄たちの中で生き残れるのか?
これは運命に抗う一人のオメガが、本当の居場所と愛を見つけるまでの物語。
信じて送り出した養い子が、魔王の首を手柄に俺へ迫ってくるんだが……
鳥羽ミワ
BL
ミルはとある貴族の家で使用人として働いていた。そこの末息子・レオンは、不吉な赤目や強い黒魔力を持つことで忌み嫌われている。それを見かねたミルは、レオンを離れへ隔離するという名目で、彼の面倒を見ていた。
そんなある日、魔王復活の知らせが届く。レオンは勇者候補として戦地へ向かうこととなった。心配でたまらないミルだが、レオンはあっさり魔王を討ち取った。
これでレオンの将来は安泰だ! と喜んだのも束の間、レオンはミルに求婚する。
「俺はずっと、ミルのことが好きだった」
そんなこと聞いてないが!? だけどうるうるの瞳(※ミル視点)で迫るレオンを、ミルは拒み切れなくて……。
お人よしでほだされやすい鈍感使用人と、彼をずっと恋い慕い続けた令息。長年の執着の粘り勝ちを見届けろ!
※エブリスタ様、カクヨム様、pixiv様にも掲載しています
ざこてん〜初期雑魚モンスターに転生した俺は、勇者にテイムしてもらう〜
キノア9g
BL
「俺の血を啜るとは……それほど俺を愛しているのか?」
(いえ、ただの生存戦略です!!)
【元社畜の雑魚モンスター(うさぎ)】×【勘違い独占欲勇者】
生き残るために媚びを売ったら、最強の勇者に溺愛されました。
ブラック企業で過労死した俺が転生したのは、RPGの最弱モンスター『ダーク・ラビット(黒うさぎ)』だった。
のんびり草を食んでいたある日、目の前に現れたのはゲーム最強の勇者・アレクセイ。
「経験値」として狩られる!と焦った俺は、生き残るために咄嗟の機転で彼と『従魔契約』を結ぶことに成功する。
「殺さないでくれ!」という一心で、傷口を舐めて契約しただけなのに……。
「魔物の分際で、俺にこれほど情熱的な求愛をするとは」
なぜか勇者様、俺のことを「自分に惚れ込んでいる健気な相棒」だと盛大に勘違い!?
勘違いされたまま、勇者の膝の上で可愛がられる日々。
捨てられないために必死で「有能なペット」を演じていたら、勇者の魔力を受けすぎて、なんと人間の姿に進化してしまい――!?
「もう使い魔の枠には収まらない。俺のすべてはお前のものだ」
ま、待ってください勇者様、愛が重すぎます!
元社畜の生存本能が生んだ、すれ違いと溺愛の異世界BLファンタジー!
【8話完結】効率厨の転生魔導師は、あふれ出る魔力を持て余す騎士団長を「自律型・魔力炉」として利用したいだけ
キノア9g
BL
「貴方は私の『生命維持基盤』です。壊れたら困ります」
「ああ、俺もお前なしでは生きていけない……愛している」
(※会話は噛み合っていません)
あらすじ
王宮魔導師レイ・オルコットには、前世の記憶がある。
彼の目的はただ一つ。前世の知識(エアコン・冷蔵庫・温水洗浄便座)を再現し、快適な引きこもりライフを送ること。
しかし、それらを動かすには自身の魔力が絶望的に足りなかった。
そんなある日、レイは出会う。
王国の騎士団長にして「歩く天変地異」と恐れられる男、ジークハルトを。
常に魔力暴走の激痛に苦しむ彼を見て、レイは歓喜した。
「なんて燃費の悪い……いや、素晴らしい『自律型・高濃度魔力炉(バッテリー)』だ!」
レイは「治療」と称して彼に触れ、溢れ出る魔力を吸い取って家電を動かすことに成功する。
一方、長年の痛みから解放されたジークハルトは、レイの事務的な接触を「熱烈な求愛」と勘違いし、重すぎる執着を向け始めて――?
【ドライな効率厨魔導師(受) × 愛が重たい魔力過多な騎士団長(攻)】
利害の一致から始まる、勘違いと共依存のハッピーエンドBL。
※主人公は攻めを「発電所」だと思っていますが、攻めは結婚する気満々です。
【8話完結】強制力に負けて死に戻ったら、幼馴染の様子がおかしいのですが、バグですか?
キノア9g
BL
目が覚めたら、大好きだったRPGの世界に転生していた。
知識チートでなんとか死亡フラグを回避した……はずだったのに、あっさり死んで、気づけば一年前に逆戻り。
今度こそ生き残ってみせる。そう思っていたんだけど——
「お前、ちょっと俺に執着しすぎじゃない……?」
幼馴染が、なんかおかしい。妙に優しいし、距離が近いし、俺の行動にやたら詳しい。
しかも、その笑顔の奥に見える“何か”が、最近ちょっと怖い。
これは、運命を変えようと足掻く俺と、俺だけを見つめ続ける幼馴染の、ちょっと(だいぶ?)危険な異世界BL。
全8話。
乙女ゲームが俺のせいでバグだらけになった件について
はかまる
BL
異世界転生配属係の神様に間違えて何の関係もない乙女ゲームの悪役令状ポジションに転生させられた元男子高校生が、世界がバグだらけになった世界で頑張る話。
婚約破棄された悪役令息は従者に溺愛される
田中
BL
BLゲームの悪役令息であるリアン・ヒスコックに転生してしまった俺は、婚約者である第二王子から断罪されるのを待っていた!
なぜなら断罪が領地で療養という軽い処置だから。
婚約破棄をされたリアンは従者のテオと共に領地の屋敷で暮らすことになるが何気ないリアンの一言で、テオがリアンにぐいぐい迫ってきてーー?!
従者×悪役令息
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる