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第8話:お前と共に
しおりを挟むレオナードの屋敷に来るのも、もう何度目だろうか。
最初にここを訪れたときとは違い、今の俺は堂々とこの扉をくぐることができる。
──いや、正確には、堂々としているつもりだが、内心は落ち着かない。
理由は簡単だ。
俺は、レオナードが好きだ。
それを自覚してからというもの、彼の一挙一動にいちいち心が揺れる。
今だって、目の前で椅子に腰掛ける彼の仕草に、視線を奪われてしまう。
「カイル?」
「……な、なんだよ」
「そんなに私の顔をじっと見て……何か言いたいことでもあるのか?」
「っ!?」
心臓が跳ね上がる。
やばい、また無意識に見すぎていたらしい。
慌てて視線を逸らすと、レオナードがくすっと微笑んだ。
「……お前がここに来るのも、もうすっかり馴染んできたな」
「ああ……まぁな」
確かに、最初は遠慮がちだったけれど、今では自然に話せるようになった。
──ただし、“普通の親友として”ではなくなっている自覚はある。
レオナードが俺のことを信じてくれたあの日から、俺はずっと考えていた。
自分が何をしたいのか。
これから、どう生きるべきなのか。
そして──この気持ちにどう向き合うべきなのか。
「それで、話っていうのは?」
レオナードが静かに俺を見る。
俺は深呼吸をして、言葉を選んだ。
「俺、仕事を探すことにした」
レオナードは少し驚いたように目を瞬かせたが、すぐに微笑んだ。
「いい決断だな。君なら、どんな仕事でもやっていけると思う」
「そうだといいんだけどな」
俺は苦笑しつつ、続ける。
「俺の知識を活かせる仕事をやってみたいんだ。算術とか、管理業務とか……そういうの、得意だから」
「なるほどな」
レオナードは考えるように顎に手を当てる。
「それなら、私のところで働かないか?」
「……え?」
「私の領地には商会がある。経理や計画管理をできる人材は、いくらいても足りない」
「でも……俺が、お前の下で働くってことか?」
レオナードは少し寂しそうに笑う。
「……嫌か?」
「いや、そうじゃなくて……」
むしろ、こんなに嬉しい話はない。
それなのに、素直に受け取るのが怖かった。
本当にいいのか?
俺がここにいていいのか?
「君が変わろうとしているのを、私は知っている」
レオナードはまっすぐ俺を見つめる。
「それに、君とずっと一緒にいたい」
「──!」
脈が一気に跳ねる。
「君が隣にいてくれるなら、私は嬉しい」
「……っ、お前、簡単にそういうこと言うな……」
俺は思わず顔を伏せた。
レオナードは、俺がどれだけ動揺しているのか気づいているのだろうか。
「カイル」
俺の名を呼ぶ声が、優しくて、温かくて。
次の瞬間、レオナードの手が俺の頬に触れた。
「……!」
「君がどう思っているのか、聞かせてくれないか?」
目が合う。
真剣な、揺るぎない瞳。
俺は、もう誤魔化せない。
「……俺も、お前と一緒にいたい」
「……カイル」
「お前が俺を信じてくれたから……俺も、自分を信じてみようと思えた」
レオナードが少しだけ、表情を緩めた。
俺は震える手を伸ばし、彼の服を掴む。
「だから……俺に、お前のそばにいる資格があるなら……」
「あるに決まってるだろう」
俺の言葉を遮るように、レオナードが抱きしめてきた。
力強く、けれど優しく。
「あ……」
「君がいてくれるなら、それだけで私は幸せだよ」
耳元で囁かれ、全身が熱くなる。
気づけば、俺もレオナードの背に腕を回していた。
──もう、隠す必要はない。
この気持ちを。
この温もりを。
俺は、レオナードが好きだ。
「……キス、してもいいか?」
「……するなら、早くしろ」
俺がそう言うと、レオナードは微笑んで、俺の唇にそっと口付けた。
深く、けれど穏やかに。
温かくて、甘くて。
まるで、新しい人生の始まりを告げるようなキスだった。
──これからは、二人で歩いていく。
過去は過去。
これから先、俺はレオナードと共に、前を向いて生きていく。
「カイル、愛してる」
「……俺も、愛してる」
二人の未来は、きっと明るい。
俺たちはそう信じて、もう一度唇を重ねた。
(完)
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