【8話完結】恋愛を諦めたおじさんは、異世界で運命と出会う。

キノア9g

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第8話「愛を受け入れて」

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 夜の王宮は静かだった。

 エルヴェルの胸に顔を埋めながら、俺は心臓の鼓動を聞いていた。

 規則正しく、けれどどこか早いそのリズムが、俺の存在を確かめるようで心地よかった。

「透」

 低く優しい声が、俺の名前を呼ぶ。

 顔を上げると、琥珀色の瞳が柔らかく細められていた。

「そなたがそばにいてくれるなら、それ以上の幸福はない」

 その言葉が、嘘偽りのないものだとすぐに分かった。

 エルヴェルはいつだって、俺を真正面から受け止めてくれる。

 何度拒もうとしても、ただ静かに、まるごと包み込んでくれた。

 そんな人に、愛されている。

 ──なら、俺も、もう逃げない。

「……俺も、エルヴェルのそばにいたいです」

 ゆっくりと、言葉にする。

 この世界に来たときは、すぐにでも元の世界に戻りたいと思っていた。

 でも今は──ここが、俺のいるべき場所だと思える。

 エルヴェルは微笑み、俺の手をそっと握った。

「ならば、正式に番となろう」

 その言葉に、胸が少しだけ高鳴る。

「……番になるって、何か儀式とかあるのですか?」

「誓いの言葉を交わし、互いに印を刻む。そうすれば、そなたは我が唯一の伴侶となる」

 伴侶──

 その響きに、思わず指先が震える。

 長い間、俺は恋愛を諦め、誰かと深く結びつくことを避けて生きてきた。

 けれど、もう迷わない。

「……よろしくおねがいします」

 そう言うと、エルヴェルの瞳が柔らかく細められた。

 そのまま俺の手を引き、額にそっと口づける。

「我が愛しき番よ」

 静かな声が、胸に染み渡る。

 温かくて、優しくて、これが『愛される』ということなんだと、やっと理解できた。


◇◇◇


 翌日、正式な儀式が執り行われた。

 エルヴェルと向かい合い、誓いの言葉を交わす。

 「我が生涯をそなたと共に」

 その言葉に応じ、俺も声を震わせながら答えた。

 「俺も……エルヴェルさんと生きます」

 次の瞬間、温かい光が指先を包み込む。

 手の甲に、淡く光る紋様が浮かび上がった。

 これは、番の証──

 エルヴェルが、誇らしげに微笑んだ。

 俺の手を取り、その紋様にそっと口づける。

「これで、そなたは正式に我が番だ」

 胸が、じんわりと温かくなる。

 こんなふうに、誰かに愛されることを、ずっと怖がっていたのに。

 でも今は、その温もりを素直に受け入れられる。

「……ありがとうございます」

 心からの言葉だった。

 エルヴェルが、俺を抱きしめる。

 その腕の中で、俺はふっと息を吐いた。

 恋を諦めた男は、もうここにはいない。

 これからは、愛を受け入れた男として──

 俺は、エルヴェルと共に生きていく。



 ◇◇◇


 儀式が終わり、俺たちは王宮の庭園を並んで歩いていた。

 夜空に瞬く星々が、まるで祝福するかのように輝いている。

「透、寒くはないか?」

 エルヴェルがそっと俺の肩に自分の外套をかける。

 その気遣いが嬉しくて、思わず微笑んだ。

「大丈夫です。けど……こういうの、慣れないですね」

「何がだ?」

「誰かにこんなに気を遣われること。俺、ずっと一人で生きてきましたから……」

 エルヴェルは立ち止まり、俺の手を優しく握った。

「そなたはもう一人ではない。我が番として、これからはずっと共にいる」

 その言葉が、まるで魔法のように胸に響く。

 俺は自分の手の甲に刻まれた番の証を見つめた。

 これはただの印じゃない。俺が誰かと繋がっている証明だ。

「そうですね……じゃあ、これからは甘えてもいいのですか?」

 冗談めかして言うと、エルヴェルは満足そうに微笑んだ。

「もちろんだ。どれほどでも甘えてよい」

「じゃあ……あの、まずは手を繋いでほしいです」

 照れくささを誤魔化しながら差し出した手を、エルヴェルは優しく包み込んだ。

 指先が触れ合うだけで、心の奥まで温かくなる。

 もう、孤独に震えることはないんだ。

 王宮に戻ると、ライナスが腕を組んで待っていた。

「やっと素直になったか」

「……うるさい」

「王を泣かせたら、承知しない」

 彼なりの祝福なんだろう。

 ライナスはニヤリと笑い、俺の肩を軽く叩いた。

 ──こうして、俺の新しい生活が始まった。

 最初は戸惑いもあった。

 けれど、エルヴェルと過ごす日々は穏やかで、優しくて、俺の心を満たしてくれる。

 王宮の庭で共に朝を迎え、食事を共にし、夜には寄り添って眠る。

 たまにエルヴェルが仕事に追われると、俺は彼の執務室に足を運び、ささやかな時間を共にする。

「透、少し休憩しようか」

「でも、メルヴェルさん忙しいんですよね?」

「そなたと過ごす時間こそ、我にとって最も大切なものだ」

 そんな甘い言葉を躊躇なく口にする彼に、俺はまだ少し照れながらも、心のどこかで安堵していた。

 ──この幸せが、ずっと続くのだと。

 王として、そして俺の伴侶として、エルヴェルは俺を全力で愛してくれる。

 それを疑う理由は、もう何もない。

 俺もまた、彼を大切にしたいと思う。

 恋を諦めた男は、今、愛される幸せを知った。

 そして、俺もまたエルヴェルを愛している。

 静かな夜風が、そっと俺たちを包み込む。

 俺は彼の手を強く握り返し、小さく微笑んだ。

 ──この手を、もう二度と離さない。

 
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