【8話完結】恋愛を諦めたおじさんは、異世界で運命と出会う。

キノア9g

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第7話「心の鎖」

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 夜風が静かに吹き抜けるバルコニーで、俺は一人、深く息を吐いた。

 エルヴェルの言葉が、まだ胸の奥で燻っている。

 ──「我はそなたを愛している」

 真っ直ぐで、迷いのない声だった。

 けれど、それを素直に受け入れられない自分がいる。

 俺はそんなふうに愛される価値のある人間じゃない。

 何度もそう思って、心の奥底に閉じ込めてきた気持ち。

「……何やってんだ、オマエ」

 突然、背後から低い声がした。

 振り向くと、黒豹の獣人──ライナスが、腕を組んで俺を睨んでいた。

「ライナス……」

「何をしょげてる。エルヴェル様、オマエのために落ち込んでる」

「……俺なんかのために、そんな必要ないだろ」

 そう言うと、ライナスの耳がピクリと動いた。

 次の瞬間──

「バカか、オマエは!」

 低い声で怒鳴られ、肩を掴まれる。

 その迫力に圧倒されて、思わず目を見開いた。

「俺オマエ生まれてから、ずっと二人知ってる! 王の気持ちを否定するな」

 ライナスの瞳が鋭く俺を射抜く。

「オマエがどう思おうと、エルヴェル様本気でオマエを愛してる。なのに、勝手に『相応しくない』決めつけて、拒絶する……そんなの、ただの逃げだ」

 逃げ──

 その言葉が、胸に鋭く突き刺さる。

「……俺は……」

「それに、オマエは愛されていい」

 静かな、でも確かな声だった。

「自分で自分否定して、幸せになっちゃいけないみたいな顔するな。そんなの、見てるこっちが腹立つ」

 ライナスの手が、俺の肩を軽く押すように離れる。

「……少しは、自分の気持ちに向き合え」

 そう言い残し、ライナスはバルコニーを後にした。

 ──自分の気持ちに、向き合う。

 俺は、何を怖がっているんだろう。

 幸せになりたいくせに、それを認めるのが怖い。

 エルヴェルを愛してしまったら、もう戻れなくなる。

 そんな考えに縛られて、ずっと足を止めていた。

 だけど──

「……エルヴェル」

 その名前を口にした瞬間、迷いがふっと消えた。

 俺はバルコニーを飛び出し、エルヴェルのもとへ向かった。


◇◇◇


 王の執務室の扉を叩くと、すぐに「入れ」と低い声が返ってきた。

 部屋に入ると、エルヴェルは机に座り、書類を見ていたが、俺の姿を認めるとすぐに立ち上がった。

「透……」

 琥珀色の瞳が、驚きと戸惑いを映している。

 俺は喉が詰まりそうになりながらも、一歩、彼の前へ踏み出した。

「……俺は、ずっと怖かったんです」

 震える声で、正直に言う。

「誰かを好きになっても、報われないんじゃないかって……幸せを手に入れたら、いつかそれが壊れるんじゃないかって……そう思っていました」

 エルヴェルは、何も言わずに俺を見つめている。

「でも……それでも、エルヴェルさんが好きです」

 言葉にした瞬間、胸の奥がすっと軽くなった気がした。

 エルヴェルの目が、驚きに見開かれる。

「透……」

「俺は……エルヴェルさんと一緒にいたい」

 言った途端、エルヴェルはそっと俺の頬に触れた。

「そなたが何を思おうと、我はそなたを愛している」

 優しく、揺るぎない声だった。

 気づけば、俺はエルヴェルの胸に飛び込んでいた。

 心の鎖が、音を立てて解けていくのを感じながら──
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