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第7話「心の鎖」
しおりを挟む夜風が静かに吹き抜けるバルコニーで、俺は一人、深く息を吐いた。
エルヴェルの言葉が、まだ胸の奥で燻っている。
──「我はそなたを愛している」
真っ直ぐで、迷いのない声だった。
けれど、それを素直に受け入れられない自分がいる。
俺はそんなふうに愛される価値のある人間じゃない。
何度もそう思って、心の奥底に閉じ込めてきた気持ち。
「……何やってんだ、オマエ」
突然、背後から低い声がした。
振り向くと、黒豹の獣人──ライナスが、腕を組んで俺を睨んでいた。
「ライナス……」
「何をしょげてる。エルヴェル様、オマエのために落ち込んでる」
「……俺なんかのために、そんな必要ないだろ」
そう言うと、ライナスの耳がピクリと動いた。
次の瞬間──
「バカか、オマエは!」
低い声で怒鳴られ、肩を掴まれる。
その迫力に圧倒されて、思わず目を見開いた。
「俺オマエ生まれてから、ずっと二人知ってる! 王の気持ちを否定するな」
ライナスの瞳が鋭く俺を射抜く。
「オマエがどう思おうと、エルヴェル様本気でオマエを愛してる。なのに、勝手に『相応しくない』決めつけて、拒絶する……そんなの、ただの逃げだ」
逃げ──
その言葉が、胸に鋭く突き刺さる。
「……俺は……」
「それに、オマエは愛されていい」
静かな、でも確かな声だった。
「自分で自分否定して、幸せになっちゃいけないみたいな顔するな。そんなの、見てるこっちが腹立つ」
ライナスの手が、俺の肩を軽く押すように離れる。
「……少しは、自分の気持ちに向き合え」
そう言い残し、ライナスはバルコニーを後にした。
──自分の気持ちに、向き合う。
俺は、何を怖がっているんだろう。
幸せになりたいくせに、それを認めるのが怖い。
エルヴェルを愛してしまったら、もう戻れなくなる。
そんな考えに縛られて、ずっと足を止めていた。
だけど──
「……エルヴェル」
その名前を口にした瞬間、迷いがふっと消えた。
俺はバルコニーを飛び出し、エルヴェルのもとへ向かった。
◇◇◇
王の執務室の扉を叩くと、すぐに「入れ」と低い声が返ってきた。
部屋に入ると、エルヴェルは机に座り、書類を見ていたが、俺の姿を認めるとすぐに立ち上がった。
「透……」
琥珀色の瞳が、驚きと戸惑いを映している。
俺は喉が詰まりそうになりながらも、一歩、彼の前へ踏み出した。
「……俺は、ずっと怖かったんです」
震える声で、正直に言う。
「誰かを好きになっても、報われないんじゃないかって……幸せを手に入れたら、いつかそれが壊れるんじゃないかって……そう思っていました」
エルヴェルは、何も言わずに俺を見つめている。
「でも……それでも、エルヴェルさんが好きです」
言葉にした瞬間、胸の奥がすっと軽くなった気がした。
エルヴェルの目が、驚きに見開かれる。
「透……」
「俺は……エルヴェルさんと一緒にいたい」
言った途端、エルヴェルはそっと俺の頬に触れた。
「そなたが何を思おうと、我はそなたを愛している」
優しく、揺るぎない声だった。
気づけば、俺はエルヴェルの胸に飛び込んでいた。
心の鎖が、音を立てて解けていくのを感じながら──
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