(無自覚)妖精に転生した僕は、騎士の溺愛に気づかない。

キノア9g

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6話


 エリオットが僕を助けるために騎士の誓いを交わしたことで、僕たちは念話という心での会話ができるようになっていた。
 直接言葉を使わずに、彼の感情がそのまま伝わってくるのは不思議な感覚だ。エリオットが僕にとってどれだけ大切な存在になっているのか、そして彼も僕を特別に思ってくれていることが、これまで以上に心に響く。

 夜の森の冷たい風が吹くなか、僕とエリオットは肩を並べ、しばらく無言で星空を見上げている。エリオットが少し照れたように僕を見て口を開いた。

「(そういえば、君の名前を……まだ聞いてなかったな。教えてくれるか?)」

 彼の言葉にハッとする。そういえば、通じないにしても自分の言葉で自己紹介などしていなかった気がする。エリオットは早い段階で自己紹介してくれていたのに。
 こんなに色々助けてもらっておいて、名前も名乗っていなかったなんて。僕は少し恥ずかしくなりながら、しっかりと名乗ることにした。

「僕は……天川陽貴(あまかわはるき)。えっと、名前が陽貴で、苗字が天川」

「(陽貴、か……聞いたことのない不思議な響きだが、いい名前だな。俺はエリオット。って、何度も呼んでくれていたから知っているか。君を助けることができて、本当によかった。)」

 エリオットは嬉しそうに微笑みながら、噛み締めるように優しくうなずく。エリオットとの距離が近づいて彼の肩が僕の肩に触れた。

「……助けてくれてありがとう。エリオットがいなかったら、僕はきっと……」

 この世界にやってきてまだ2ヶ月くらいだが、衝撃的な経験が多かったせいか、いろんなことが思い浮かんで胸に熱いものがこみ上げてきた。
 あの時エリオットと出会っていなければ、僕はもうこの世界にはいなかったかもしれない。
 エリオットは僕が何を思い出しているのかわかったようで、心配そうな表情で僕の頭を撫でてくれた。


 月の光が湖面に反射して輝き、神域の湖はまるで別世界のように美しかった。
 静寂の中で僕たちはお互いを見つめ合う。
 エリオットは何か伝えたいことがある様子で口を開いては閉じるを繰り返している。少し遠くを見つめるように目を伏せ、申し訳なさそうに眉を下げた。
 今までとは違う悲しげな雰囲気に、不安になる。

「(陽貴……勝手に騎士の誓いを行なってしまったこと、謝らなければならないと思っている。俺が無理やり誓ったせいで、心で話せるようにはなったが、君の体は人間のようになってしまった。本来人間同士では起きなかったはずのことが、今わかるだけでも二つも起きている。君にとってこんなに負担になるなんて思いもしなかった)」

 エリオットの低い声が静かに響く。その表情は苦しそうで、まるで重い罪を告白するかのようだ。エリオットは深い青の瞳でまっすぐに僕を見つめ、丁寧に続ける。

「(君に生きていて欲しかっただけなんだ……これは、俺の命を君に捧げる誓いだ。君を生涯、守り続けるための)」

 僕はその言葉に一瞬言葉を失ってしまった。命を捧げる、守り続ける……それって、どういうこと?どこか神聖な響きもするし、すごいことをしてもらったのはわかるけど、どう受け止めればいいのか分からない。

 ただエリオットが真剣に謝罪の気持ちを伝えようとしてくれるのはわかり、僕はその言葉に驚きつつも、胸の奥がじんと温かくなった。彼はまだよく知りもしない僕のために命をかけてくれていたんだ……。

「そんな辛そうな顔しないで。僕は感謝してる。誓いのおかげで、こうして今も生きていられるし、話せなかったエリオットと心を通わせることもできる。体も小さいより大きい方が便利じゃないかな?負担だなんて全然思ってないよ。」

「これは僕にとってマイナスではなく、全部プラスなんだよ」と必死に見つめると、エリオットの表情がほっと和らぎ、柔らかな笑みを浮かべた。

「(ありがとう、陽貴。そう言ってもらえて、俺も救われた気がする)」


 夜の冷たい風が吹くなか、僕とエリオットは肩を並べ、しばらく無言で星空を見上げていた。その穏やかな沈黙が続いた後、エリオットが語りかけてきた。

「(こうして心で話せるなんて、やっぱり不思議だな……それに陽貴がそばにいてくれるだけでとても安らげる気がする)」

 これまでは何か話しても互いに理解できていなかったのに、今はエリオットの気持ちがまっすぐに伝わってくる。照れながらもどこか嬉しそうな彼の気持ちが、そのまま心に流れ込んでくるようだ。

「僕もだよ……エリオットがそばにいるだけで、僕も安心する。こんなふうに誰かを感じられるなんて……初めてだよ。」

 僕がそう返すと、エリオットの顔が赤くなり、視線をそらして照れくさそうに笑った。その仕草がどこか少し可愛らしくて、僕もつい微笑んでしまった。


 ふとエリオットが口を開き、意を決したように僕を見つめてきた。

「(誓ってから言うのも本来なら変な話なんだが、その……ずっと俺のそばにいてくれるか?)」

「!?」

 まるでプロポーズのようなその問いかけに、思わずエリオットを見つめ固まってしまう。
 思い返すとエリオットってかなりスキンシップが多いし、しまいにはキスしてくるし(あれが誓い?)かなり情熱的なんだろうなと思う。これが異性だったら勘違いする案件だから少し心配になるレベル。
 自分の思考に少し苦笑いしながら、どこか不安そうな彼のまなざしを見返した。エリオットの真摯な気持ちが直接心に響いてくるのを感じ、思わず胸が高鳴る。

「もちろん!エリオットのそばにいたい。君が僕を助けてくれたように、僕も沢山エリオットの力になりたい。」

 元気よく僕がそう答えると、エリオットはなぜか脱力したようにホッと息をついた。そして幸せそうに微笑み、流れるような動作で僕を抱きしめてくる。
 エリオットの優しい笑顔を見ていると、何でも許せてしまいそうな気がしてくるんだが……これは母性だろうか。

「(ありがとう、陽貴。君と出会えてよかった)」

 エリオットの心からの喜びの念話が伝わってくると、僕も嬉しさと恥ずかしさで胸がいっぱいになった。
 お互いを支え合える関係を築けることが、こんなにも嬉しいなんて……。


 でも「騎士の誓い」を交わしたってことは、つまり僕とエリオットは正式にバディみたいなものになったってことなのかな?
 彼がずっとそばで僕を守ってくれるって思うと嬉しいけど、こうしてみると、僕の方が頼ってばかりになりそうだなぁ……。

 頑張って強くなろうと心に誓う。

 少し照れながら、改めて右手を差し出して「これからよろしくね」と握手を求めると、エリオットは少し不思議そうな表情を浮かべ、そっと僕の手を包み込むように握り返してくれた。
 握手がしたかったのだが、なんか恋人のような絡め方をされている。
 こっちには握手の文化がないのかもしれない。でも、彼の手は大きくて温かく、なんだか安心できた。

「(こちらこそ、陽貴)」

 エリオットは絡めていた僕の手を引き寄せると、手の甲にキスをして笑った。

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