(無自覚)妖精に転生した僕は、騎士の溺愛に気づかない。

キノア9g

文字の大きさ
10 / 20

8話


 目を覚ますと、甘い香りがふわりと鼻先をくすぐった。まだ夢見心地でぼんやりと目を開けると、ベッドの上がバラのような花で敷き詰められているのを目にし、思わず驚いて身を起こす。

「え? これ……何?」

 呆然としていると、部屋の入り口で様子を見ていたエリオットが、照れたように微笑みながら歩み寄ってくる。

「(おはよう、陽貴。よく眠れたか?)」

「あ、うん……これって、もしかしてエリオットが?」

 ベッドの上の花に目を落としながら聞くと、エリオットは少し赤くなりながら頷いた。

「(そうだ。君が目を覚ました時、喜んでくれたらいいなと思って、用意したんだ)」

 エリオットの言葉に、思わず目が丸くなる。
 ベッドに花を敷き詰めるなんて、こちらの文化か何かなんだろうか? 昨日おばあさんに無料で花をもらったし、こういうのが普通なのか? これはどう反応したらいいんだろうか?
 悩んでエリオットの姿をチラりと見てみると、期待に満ちたキラキラの目でこちらを見ている。それがなんだか褒められ待ちの犬のようで、自然と微笑んでしまった。
 とりあえず、当たり障りのない感謝を伝えておこう。

「……ありがとう、エリオット。綺麗だし、とてもいい香りだね」

 なぜか顔が熱くなるのを感じながら感謝を伝えると、エリオットは安堵したように柔らかく微笑み返してくれた。
 僕は花を落とさないように気をつけながら、そっとベッドから立ち上がる。
 綺麗な花を見つめていると、いつの間にか近寄ってきたエリオットにぎゅっと抱きしめられた。あまりに自然な動作に何も言えず、されるがままになる。

「(それなら良かった)」

 ……なんか、この雰囲気おかしくないか?
 今まであまり感じたことのなかった甘い空気に戸惑う。バディに向けるような感じじゃない。それに困惑が隠せない。
 だが、結局それを聞き出す勇気は出ず、とりあえず朝の支度を済ませることにした。

 エリオットが作ったという手の込んだ朝食を終えると、彼が何か思い出したように僕の方を見つめて言った。

「(陽貴、俺は今日も休みをもらっているんだ。一緒に街に行かないか? 君に見せたいものがある)」

「うん、行きたい!」

 また街に行けるのが嬉しくて、笑顔で返事をすると、エリオットは満足げに頷き、早速二人で街へと出かけることにした。

 今日も街は色とりどりの屋台が立ち並び、人々がにぎやかに行き交っている。
 僕はあちこちを目移りしながら、昨日と同様はしゃいでしまった。

「エリオット、あの屋台昨日なかったよね? 見たことのないアクセサリーがいっぱい並んでる!」

 思わず指差す僕に、エリオットは微笑みながら説明してくれる。

「(あれはこの街の特産品だ。地元の職人が作った装飾品で、一つ一つ手作りだと聞いている)」

 エリオットの念話を聞きながら、そのアクセサリーの細かな造りや、輝く石の美しさに見とれた。

「綺麗な石。宝石みたい……」

 僕がそう呟くと、エリオットが何かを思いついたように、真剣な眼差しで僕を見つめてくる。

「(陽貴、もし良かったら……君にこの中から好きなものを一つ選んでほしい)」

「え? 僕が選ぶの?」

 突然の申し出に驚いたが、エリオットは真剣な表情で頷いてくる。

「(……君に何か特別なものを贈りたいんだ。これまでの感謝の気持ちを込めて)」

 感謝するのはむしろこっちの方だからと即座に遠慮したが、エリオットはどうしてもと譲らない。
 何度話しても平行線を辿る会話。必死のエリオットに、これ以上拒否するのも申し訳なくなってくる。
 少し申し訳ない気分になりながら「じゃあ……せっかくだから、選ばせてもらうね」と答えた。

 アクセサリーを眺めていると、ふと小さなブローチが目に留まる。
 それは淡い青色の石が中央に嵌め込まれたシンプルなデザインで、優しい光を放っている。

「この青い石のブローチ、すごく綺麗……」

 ブローチを手に取ってじっくり眺めていると、エリオットもそれに視線を向け、柔らかな微笑みを浮かべる。

「(……陽貴によく似合う綺麗な色だ。見ているだけで心が和むな。これをもらおう)」

 エリオットの言葉に、少し頬が赤くなるのを感じながら、買ってもらったブローチを胸に大切に抱えた。

「ありがとう、エリオット。ずっと大事にするね」

 感謝の気持ちを込めてそう言うと、エリオットは嬉しそうに頷き、ブローチをそっと僕の服に留めてくれた。
 その手つきはまるで恋人に触れるように甘く優しい。その甘さにまたも困惑し、ドキドキする胸を抑えた。

 その後、エリオットは僕を連れて街の中心から少し離れた丘へと案内してくれた。
 丘の上に登ると、街の全景が一望でき、遠くには青く澄んだ湖が輝いて見える。

「ここ……すごく綺麗な場所だね!」

 僕が感激していると、エリオットが隣に立ち、穏やかな眼差しで景色を眺めながら言った。

「(ここは街で一番景色のいい場所なんだ。俺が小さい頃から、何か大切なことがあるたびにこの場所を訪れていた。母がよく連れてきてくれた秘密の場所なんだ)」

 エリオットの話に耳を傾けながら、そんな大切な場所に連れてきてもらえたことになぜか胸が苦しくなると同時に、とても幸せな気持ちが湧き上がってくるのを感じた。

「エリオット……今日も色んな場所に連れて行ってくれて、ありがとう」

 僕が感謝の言葉を伝えると、エリオットは照れたように微笑みながら、視線を合わせてくれる。

「(陽貴……君のためなら、何だってしてやりたいと思っている。君が喜んでくれるなら、それだけで俺は満足なんだ)」

 エリオットの真剣な眼差しに、頬が熱くなっていく。僕の顔は今真っ赤に違いない。
 甘いセリフに戸惑いながらも、エリオットの気持ちの深さが伝わってくるのを感じた。
 僕を大切に思ってくれているエリオットの姿にまたぎゅうっと胸が苦しくなる。

 二人でしばらく景色を眺めながら、静かな時間を共有した。
 やがて夕暮れが近づき、空が茜色に染まり始めると、エリオットがそっと僕の手を取る。

「(陽貴、もう一ヶ所、君を連れて行きたい場所があるんだ)」

 何か決意のようなものを秘めたその言葉に、驚きながらも頷く。エリオットに手を引かれるまま再び街の方へと向かって歩き出す。
 どこか緊張した面持ちのエリオットの姿に、これからどこに連れて行かれるのか少し不安を感じた。


 エリオットに手を引かれて向かった先は、街で最初に見たあの教会だった。
 夕闇に染まり始めた空を背景に、教会のシルエットが重々しくも美しく浮かび上がっている。
 中に入ると、柔らかな燭台の明かりが祭壇を包み込み、荘厳な雰囲気が漂っていた。

 エリオットはそのまま無言で僕を導き、静かに祭壇の前で立ち止まる。そして、ゆっくりと僕の手を取り、真剣な眼差しで見つめてくる。

「(……陽貴、ここでもう一度、今度は言葉で誓わせてほしい)」

 エリオットのまっすぐな瞳に見つめられ、僕は息をのむ。
 心臓が早鐘のように打ち始め、何か特別な瞬間が訪れていることを感じた。

「言葉で誓う……って、どういうこと……?」

 戸惑いを隠せないまま尋ねると、エリオットは僕の手を握りしめ、静かに言葉を紡ぎ出す。

「(俺は……君を愛している。君がどんな存在だとしても、俺にとってかけがえのない大切な人だ。だから、神の前で誓いたい。君を生涯、守り、支え続けることを)」

 エリオットの言葉が真っ直ぐに胸に響き、まるで夢を見ているような気持ちになった。
 どう聞いてもプロポーズだった。今まで勝手にバディだと勘違いしていた自分が恥ずかしくなる。それと同時にその言葉の重さに、不安が押し寄せてきた。

「……エリオット、待ってほしい」

 僕は握られていた手を小さく引き、エリオットの視線から逃げるように俯いた。
 こんなにも真剣に想ってくれているエリオットに対し、自分が本当に応えられるのか、迷いが胸に渦巻く。

「君に伝えていないことがあるんだ。今まで黙っていてごめん。僕……実は、他の世界の記憶を持っているんだ。それに……僕の体は、君たちと違うかもしれない」

 僕は勇気を振り絞って、これまで知る限りのことを全て話した。
 僕の元の世界のこと。謎の大きな植物の中で目覚めたこと。そして鏡を見て知った、人間と異なる存在であるかもしれないこと。
 こんなに大事にしてくれているエリオットにそれらを隠したままでいるなんてできなかった。
 僕のすべてを知ってもらった上でもう一度考えてほしい。

「こんな僕が、君の大切な人でいていいのか、僕にはわからないんだ」

 その言葉を聞いたエリオットは、驚いた表情を浮かべたが、すぐに優しく微笑み、僕の手をしっかりと握りしめてくれた。

「(陽貴、さっきも言ったが、君がどんな存在であろうと俺は気にしない。君がこの世界に生きていること、俺の隣にいてくれること、それだけで俺には十分なんだ)」

 エリオットの言葉には何の迷いもなく、僕をまっすぐに見つめるその瞳には深い愛情が宿っている。

「(君がどこから来たか、何者であるかなんて関係ない。俺にとっては、ただの『陽貴』で、それ以上でも以下でもない。だから、どうか俺のこの想いを受け入れてくれ)」

 その言葉に胸がじんわりと温かくなり、今まで抱えていた不安が少しずつ消えていくのを感じた。エリオットの隣で生きていくこと、それがどれほど幸せなことか、少しずつ実感が湧いてくる。

「……エリオット、僕も……ずっと君と一緒にいたい」

 小さく呟くようにそう言うと、エリオットの表情が一層柔らかくなり、そっと僕を抱きしめてくれた。温かな腕の中で、自分がどれだけ大切に思われているのかを改めて感じ、自然と微笑みがこぼれる。

「(陽貴、愛している)」

 エリオットの優しい声が耳元に響き、僕の心は一層幸せに包まれる。
 彼の温かな体温に包まれながら、僕たちは神の前で口づけを交わした。

 静寂に包まれていたはずの教会の鐘が鳴る。まるでこの世界の神に祝福されているようだった。

 そして二人は、神の前で互いを見つめ合い、伴侶としての誓いを心に刻み、新たな一歩を共に踏み出した。

あなたにおすすめの小説

転移したらなぜかコワモテ騎士団長に俺だけ子供扱いされてる

塩チーズ
BL
平々凡々が似合うちょっと中性的で童顔なだけの成人男性。転移して拾ってもらった家の息子がコワモテ騎士団長だった! 特に何も無く平凡な日常を過ごすが、騎士団長の妙な噂を耳にしてある悩みが出来てしまう。

ざこてん〜初期雑魚モンスターに転生した俺は、勇者にテイムしてもらう〜

キノア9g
BL
「俺の血を啜るとは……それほど俺を愛しているのか?」 (いえ、ただの生存戦略です!!) 【元社畜の雑魚モンスター(うさぎ)】×【勘違い独占欲勇者】 生き残るために媚びを売ったら、最強の勇者に溺愛されました。 ブラック企業で過労死した俺が転生したのは、RPGの最弱モンスター『ダーク・ラビット(黒うさぎ)』だった。 のんびり草を食んでいたある日、目の前に現れたのはゲーム最強の勇者・アレクセイ。 「経験値」として狩られる!と焦った俺は、生き残るために咄嗟の機転で彼と『従魔契約』を結ぶことに成功する。 「殺さないでくれ!」という一心で、傷口を舐めて契約しただけなのに……。 「魔物の分際で、俺にこれほど情熱的な求愛をするとは」 なぜか勇者様、俺のことを「自分に惚れ込んでいる健気な相棒」だと盛大に勘違い!? 勘違いされたまま、勇者の膝の上で可愛がられる日々。 捨てられないために必死で「有能なペット」を演じていたら、勇者の魔力を受けすぎて、なんと人間の姿に進化してしまい――!? 「もう使い魔の枠には収まらない。俺のすべてはお前のものだ」 ま、待ってください勇者様、愛が重すぎます! 元社畜の生存本能が生んだ、すれ違いと溺愛の異世界BLファンタジー!

拾われたのはたぶん僕です 〜ポンコツ魔法使いと騎士団の平和な大事件〜

ニア。
BL
崖から落ちただけなのに、騎士団長に拾われました。 真面目に生きてきた魔法使いモーネ。 ただ薬草を採ろうとして滑落しただけなのに、なぜか王国最強の騎士団長イグラムに連れて行かれ、騎士団で暮らすことに。 しかしこの魔法使い、少しだけ普通ではありません。 回復魔法を使えば何かが増え、 補助魔法を使えば騎士団が浮き、 気づけば庭はプリンになります。 ——本人はちゃんとやっています。 巻き込まれる騎士団と、なぜか楽しそうな団長。 さらに弟子や王子、ドラゴンまで加わって、騎士団は今日も平和に大騒ぎ。 これは、ポンコツ魔法使いが真面目に頑張るたびに世界が少し壊れる、騒がしくて優しいファンタジーです。

異世界で聖男と呼ばれる僕、助けた小さな君は宰相になっていた

k-ing /きんぐ★商業5作品
BL
 病院に勤めている橘湊は夜勤明けに家へ帰ると、傷ついた少年が玄関で倒れていた。  言葉も話せず、身寄りもわからない少年を一時的に保護することにした。  小さく甘えん坊な少年との穏やかな日々は、湊にとってかけがえのない時間となる。  しかし、ある日突然、少年は「ありがとう」とだけ告げて異世界へ帰ってしまう。  湊の生活は以前のような日に戻った。  一カ月後に少年は再び湊の前に現れた。  ただ、明らかに成長スピードが早い。  どうやら違う世界から来ているようで、時間軸が異なっているらしい。  弟のように可愛がっていたのに、急に成長する少年に戸惑う湊。  お互いに少しずつ気持ちに気づいた途端、少年は遊びに来なくなってしまう。  あの時、気持ちだけでも伝えれば良かった。  後悔した湊は彼が口ずさむ不思議な呪文を口にする。  気づけば少年の住む異世界に来ていた。  二つの世界を越えた、純情な淡い両片思いの恋物語。  序盤は幼い宰相との現実世界での物語、その後異世界への物語と話は続いていきます。

悪役令息に転生した俺は推しの為に舞台から退場する

スノウマン(ユッキー)
BL
前世の記憶を思い出したアレクシスは悪役令息に転生したことに気づく。このままでは推しである義弟ノアが世界を救った後も幸せになれない未来を迎えてしまう。それを回避する為に、俺は舞台から退場することを選んだ。全てを燃やし尽くす事で。 そんな俺の行動によってノアが俺に執着することになるとも知らずに。

春野くんち―僕の日常は、過保護な兄弟たちに囲まれている―

猫に恋するワサビ菜
BL
春野家の朝は、いつも賑やかで少しだけ過保護。 穏やかで包容力のある長男・千隼。 明るくチャラめだが独占欲を隠さない次男・蓮。 家事万能でツンデレ気味な三男・凪。 素直になれないクールな末っ子・琉生。 そして、四人の兄弟から猫のように可愛がられている四男の乃空。 自由奔放な乃空の振る舞いに、兄たちは呆れながらも、とろけるような笑顔で彼を甘やかす。

イケメンチート王子に転生した俺に待ち受けていたのは予想もしない試練でした

和泉臨音
BL
文武両道、容姿端麗な大国の第二皇子に転生したヴェルダードには黒髪黒目の婚約者エルレがいる。黒髪黒目は魔王になりやすいためこの世界では要注意人物として国家で保護する存在だが、元日本人のヴェルダードからすれば黒色など気にならない。努力家で真面目なエルレを幼い頃から純粋に愛しているのだが、最近ではなぜか二人の関係に壁を感じるようになった。 そんなある日、エルレの弟レイリーからエルレの不貞を告げられる。不安を感じたヴェルダードがエルレの屋敷に赴くと、屋敷から火の手があがっており……。 * 金髪青目イケメンチート転生者皇子 × 黒髪黒目平凡の魔力チート伯爵 * 一部流血シーンがあるので苦手な方はご注意ください

公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜

上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。 体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。 両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。 せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない? しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……? どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに? 偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも? ……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない?? ――― 病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。 ※別名義で連載していた作品になります。 (名義を統合しこちらに移動することになりました)