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第3話「イベント:ドラゴンの巣窟へ」
しおりを挟むギルドの掲示板を何気なく見ていると、俺の目に飛び込んできたのは、見慣れたクエスト名だった。
【期間限定クエスト:ドラゴンの巣の掃討】
「これって……あの神イベントじゃん!!!」
思わず声を上げてしまった。周囲の冒険者たちが、訝しげな視線を向けてくる。だが、そんなこと気にしてる場合じゃない。
『エターナル・ブレイブ』をプレイしていた頃、この期間限定クエストは、プレイヤーの間で「神イベント」とまで呼ばれていた。通常では手に入らないレアアイテムが手に入り、経験値効率もぶっ飛んで高かったからだ。俺も、数十回とリセマラして、このイベントに挑戦したものだ。
ドラゴンの巣窟の、詳細な地形、ボスの配置、隠された罠の場所……全てが俺の頭の中に完璧に記憶されている。
これは、俺がこの世界で「使える」ことを証明する絶好のチャンスだ!
俺はライオスの元へと駆け寄った。
「ライオスさん! これ、すっごくおいしいイベントで! ぜひ行きたいです!」
俺の言葉に、ライオスは目を丸くした。普段の諦めモードの自分からは想像できないくらい、俺は必死だった。
「へえ、そうなんだ~。アキラくんがそんなに熱心になるなんて、楽しそうだね」
ライオスは興味なさげな返事だったが、俺の珍しく前のめりな姿に、最終的には了承してくれた。
(よし! 戦えない代わりに、せめてナビくらいは完璧にやってやる!)
俺は心の中でガッツポーズをした。
「じゃあ、行こうか! アキラくん!」
ライオスが軽やかな足取りでダンジョンの入り口へと向かう。
俺たちは、いざドラゴンの巣窟へと突入した。入り口からすぐに広がるのは、複雑に入り組んだ迷宮構造。初めての者なら、すぐに方向感覚を失うだろう。
「ライオスさん、こっちです! ここは一本道に見えるけど、途中で偽装のトラップがあるんです。うっかり踏むと、天井から岩が降ってくるんで、少し回り道をしましょう」
俺が言うと、ライオスは不思議そうな顔で首を傾げた。
「アキラくん、なんでそんなに詳しいの? このダンジョン、まだ発見されたばかりだって聞いたけど……」
「えっと、その、昔、似たような場所を旅したことがあって……」
俺はしどろもどろにごまかした。転生者であることを話すわけにはいかない。
俺のナビ通りに進むと、難なく罠を回避し、さらにショートカットまで発見することができた。
「ここを抜ければ、すぐに次のエリアに行けます! 時間効率大幅アップです!」
俺の指示に、ライオスは目を見張った。
「すごいね、アキラくん! このダンジョン、かなり複雑だって有名なのに……君のおかげでかなり楽な進行かも」
ライオスの言葉に、俺は少しだけ胸を張った。
戦闘は相変わらずライオス無双だ。巨大なトカゲ型のモンスターが群れで襲いかかってきても、ライオスは一撃でそれらをなぎ倒していく。その圧倒的な実力は、何度見ても見飽きない。
俺はといえば、相変わらず壁の影に隠れながら、ライオスが倒したモンスターのアイテムを回収する役目を果たしていた。
(俺の役目はGPSだからな……!)
俺はそう自分に言い聞かせ、自虐気味ながらも、パーティに貢献できていることに満足感を覚えていた。ライオスの言葉が、俺への信頼に繋がっているようで、少し嬉しかった。
ダンジョンの奥地へと進んでいくと、これまでとは比べ物にならないほど、禍々しいオーラを放つ空間へとたどり着いた。
「ここだ……!」
俺はゴクリと唾を飲み込んだ。ゲームで何度も対峙した、あの場所だ。
ギィィ、という耳障りな鳴き声と共に、複数のミニドラゴンが現れた。
真っ赤な鱗に覆われた小さな体だが、その目には凶暴な光が宿っている。
「うそ!? このパターン……EXルートだ!」
ゲームでは滅多に現れない、レアな出現パターンだ。興奮が俺の体を駆け巡る。だが、すぐに冷静さが戻った。
(ここでやられたら、笑い話にもならん……!)
俺は冷静にライオスへ作戦指示を飛ばした。
「ライオスさん! 左奥の岩の影に、隠しスイッチがあります! それを踏めば、天井から毒ガスが噴き出す罠が発動します! 手前の二体を誘導して、一気に仕留めましょう!」
俺の指示を聞いたライオスは、迷いなく指示通りに動く。
ライオスがグールを手前へ誘導し、俺が隠しスイッチを踏み込んだ。
シュゥゥ、という音と共に、天井から緑色の毒ガスが噴き出す。グールが苦しみもがき、動きが鈍くなる。
「今です! ライオスさん!」
俺の合図と共に、ライオスは一気に二体のグールに斬りかかった。絶妙なタイミングで罠を発動させ、敵の動きを分断し、ライオスの攻撃をサポートする。まるでゲームをプレイしているかのように、強敵のHP(体力)管理を的確にナビしていく。
「今日の君、超優秀じゃん」
ライオスは、ミニドラゴンを倒しながらニコニコと笑った。
(素面のチャラ王子はちょっとイケメン度高すぎて困るんだよなぁ……!)
その笑顔に、俺は内心動揺を隠しきれない。
全てのミニドラゴンを討伐し終えると、地面には超貴重な素材と、ゲームでも一回しか見たことのないレア武器が転がっていた。
「やった……! こんなの初めて見ました!」
俺は興奮して声を上げた。
「うん! アキラくんのおかげだね! すごいよ!」
ライオスも満面の笑みで、その戦利品を手に取った。
二人で戦利品を分け合い、喜びを分かち合う。これが、俺たちが初めて「仲間」らしく感じられた瞬間だった。
宿に戻ると、ライオスは打ち上げと称して、早速ワインを開け始めた。
「今日はがんばったな……俺なりに……」
俺はぐったりと椅子にもたれかかり、一息ついた。
しかし、そんな俺の隣に、酔いが回り始めたライオスがぴとっと密着してきた。
「アキラくん……」
とろけるような甘い声で、俺の名前が呼ばれる。
「今日のキミ、すごくかっこよかったぁ……好き」
ドクン、と心臓が跳ねた。
次の瞬間、俺の唇に柔らかい感触が押し付けられる。
「ちゅっ」
「う、うわぁぁ!!!」
俺の脳が再起不能になった。まただ。
(これもう“冒険の終わりに毎回キスされるルーティン”じゃん! もはやイベントだよ!)
俺は心の中で絶叫していた。この人、これで本当の本当に記憶がないのか!? だとしたら、あまりにもタチが悪い。
ベッドに潜り込んだ後も、俺の思考は止まらない。
(毎日キスしてくるけど、マジで翌日には何も覚えてないんだよな……)
(そして、俺はそれに慣れてきてる……)
いや、待て。慣れるってヤバくないか!?
最初は動物にでも舐められたと思って割り切ろうとしていたのに、もう完全にその領域は超えている気がする。
(いや、あの顔で「好き」とか言われて、拒否できるわけないだろ……! そもそも、酔っぱらい相手にドキドキしてんじゃねぇよ、俺の脳みそぉ!)
自分の心臓が、まだドクドクと音を立てているのが分かる。
その時だった。
隣のベッドから、微かな寝息と共に、うわ言のような声が聞こえてきた。
「ん、おれ……アキラく……すき……」
「だから覚えてないんだってばバカぁああああ!」
俺の理性の箍が、ぷつりと音を立てて切れた。
こいつ、素面でも、酔ってても、寝てても、俺の心をかき乱す気か!?
俺の新たな感情は、まだはっきりと形にならなかったが、確実にライオスに傾き始めていた。そして、その事実に、俺は一番混乱していた。
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