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第4話「それでも俺は……寄生したい!」
しおりを挟む俺はあくまで寄生しているだけ。あいつが強いのに乗っかってるだけ――だったはずなのに。
あのドラゴンの巣窟イベント以来、ライオスとの関係が、どうもおかしくなってきている。
最初の頃は、俺が足手まといにならないよう、ライオスはかなり気を遣ってくれていた。だが、俺が地図を読んだり、罠の場所を教えたりするようになってから、明らかに俺を「対等なパートナー」として扱ってくれるようになった。
調査依頼も、事前にわざわざ俺に報告に来る。
「アキラくんとなら楽しいし、効率もいいんだよ!」
そう言って嬉々として話すライオスの顔は、「酔っ払いキス魔のS級冒険者」とはまるで違う。瞳はまっすぐ俺を見ていて、笑顔も柔らかい。まるで、俺を本当に大切な相手として見ているかのような——そんな錯覚を起こさせる。
(こっちは、レベル上げをするためだけに一緒にいるつもりなのに……)
俺は心の中でモヤモヤしていた。なんだか、とんでもなく悪いことをしている気分になる。…いや、確かに悪いことしてはいるんだが。でも、俺は毎日キスされてるし、キス代だと思えばトントンじゃないかとも思う。そう考えることで、なんとか心の均衡を保とうとしていた。
(そもそも、こいつだってズルいと思うんだよな。毎回こんなイケメンに、キスされた上で優しくされてたら、誰だって変な気起こしちゃうだろ……)
任務中も、自然と連携が取れるようになっていた。ライオスが敵を引きつけ、俺が援護に回る。俺が指示を出し、ライオスがそれに応える。周囲の冒険者たちも、俺とライオスのパーティを「あの最強のS級と、珍しいサポート役の新人」として認識し始めているようだった。
「すごいな、アキラ! ライオスとあんな風に連携できるなんて!」
そんな声を聞くたびに、俺は複雑な気持ちになる。俺はただ、ゲームの知識を活かして動いているだけだ。連携がハマるのは、ライオスが俺のやりやすいように立ち回ってくれているからが大きい。ライオス自身は、そのことに気づいているのだろうか。それとも、俺が思っているよりも、彼は俺のことを——。
そんな淡い期待を抱きそうになって、俺は慌てて頭を振った。
今日の任務も無事に終え、俺たちは街へ向かう街道を歩いていた。
その時、ライオスが突然、俺の肩にふわりともたれてきた。
「ちょっと疲れた~」
子供のように無邪気な声でそう言いながら、俺に密着してくる。彼の体温と、髪から漂うほのかな香りが、俺の理性を揺さぶる。
(いや、なんで素面のときまで距離ゼロなの!?)
俺の脳内は、再び混乱の渦に飲み込まれた。酔っている時だけならまだしも、素面でもこうしてスキンシップを取ってくるなんて、俺の心臓が持たない。この男には、パーソナルスペースという概念がないのだろうか。
宿に到着し、夕食の時間になった。いつものように酒を注文するライオスに、俺は心のどこかで少しだけ期待してしまった。今日も、いつものように酔った勢いで甘く囁いてもらえるのだろうかと。
だが、ライオスは意外な言葉を口にした。
「今日はワイン抜きで! アキラくんが毎回心配そうにしてるからさ」
彼はそう言って、にこやかに水を注文した。
ギクリとした。──俺の表情の変化に気づいていたのか?
「あれ? 嬉しくなさそう? もしかして、酔ってない俺じゃ……イヤ?」
ライオスは少し拗ねたような顔で、そう尋ねてきた。その表情があまりにも可愛らしくて、俺は思わず息を呑んだ。
(いやいやいや、素面の方がタチ悪いから!)
俺は内心叫んだ。酔っていたら「酒乱だから仕方ない」で割り切れる。だが、素面でそんな言葉を言われたら、俺の心がもたない。
就寝前、部屋に戻ろうとした時、ライオスが突然、俺の手をぎゅっと握ってきた。
「なんか今日の君、つんつんしてるね。……かわいい」
ライオスの指が、俺の手の甲を優しく撫でる。その甘い声と、手のひらから伝わる体温に、俺は悶絶寸前だった。指先がゆっくりと俺の肌を滑る感覚に、鳥肌が立つ。
「や、やっぱり今日も、飲んでたんでしょ? (俺の心臓が持たないので)……もうどうか、禁酒してください」
俺は懇願するように、そう呟いた。
俺の言葉を聞いたライオスは、俺の手を握ったまま、顔を上げた。
そして、まっすぐ俺の目を見つめて言った。
「ん? なんでそう思うの? 今日は一滴も飲んでないよ? ……俺、アキラくんが好きだから、言ったんだよ?」
酔ってない。完全に素面。それなのに真顔で、俺の目をまっすぐ見つめて、そう言い切っている。
俺はフリーズした。予測不能事態に思考が停止し、時間が止まったかのように感じられた。ライオスは不思議そうに俺を見ている。
「……いやいやいや、待ってください!! 今回は珍しく酔ってないから、きっと脳が混乱しているだけです(?) もしくはキス魔の症状が条件反射でついうっかり出ているだけです!」
俺は必死に反論した。これは、きっと何か勘違いだ。彼の酒乱が引き起こす、一種の錯乱症状みたいなものに違いない。
しかし、ライオスは、まるで俺の言葉が届いていないかのように、ゆっくりと首を傾げた。
「そんなことないよ? だってアキラくんと一緒にいたら嬉しいし、すごく楽しいもん」
彼は、俺の手を握ったまま、そう追撃した。
(こいつ……どこまで素で言ってんだよ!?)
俺は心の中で絶叫した。俺がどんなに否定しようとしても、ライオスの言葉は真っ直ぐで、心を揺さぶってくる。
その言葉が、嘘だと、勘違いだと言い切るには、あまりにも彼の表情が、瞳が、真剣だった。
結局、それ以上言葉を交わすことはできなかった。ライオスは、俺の手を離すと、いつも通りに「おやすみ」と言って自分のベッドに入った。
俺も、心臓がバクバク鳴り響く中で、自分のベッドに潜り込んだ。
ライオスに背を向けて眠る俺。だが、その距離は、今までにないほど近くに感じられた。
深夜、ふと目を覚ました。隣のベッドから聞こえる、穏やかなライオスの寝息。
俺は寝返りを打ち、ぼんやりと彼の寝顔を見つめた。
薄暗い部屋の中で、月明かりが彼の金色の髪を淡く照らしている。長い睫毛が、頬に影を落としている。
(「好き」「大切」「相棒」……)
これまでライオスに言われた言葉が、走馬灯のように脳裏を駆け巡る。
最初は、全部酔っぱらいの軽口だと思っていた。彼が寂しがり屋で、誰かに構ってほしいだけだと。でも、最近の彼は、明らかに違った。目もまっすぐで、笑顔も柔らかく、俺への信頼がそこにはあった。
まさか俺だけが、この関係を「一時的なもの」だって思ってるのか……?
その考えに至ると、胸の奥がギュッと締め付けられるような痛みが走った。
「どうしよう……俺こいつのこと、もう好きになりかけてるかも」
心の奥底から湧き上がってくる感情を、俺はまだ「かも」という言葉で踏みとどまらせようとした。認めたくなかった。
だって、相手はチャラ王子のキス魔でS級冒険者。どう考えても望み薄すぎるじゃないか。俺は若干役に立つようになってきたけれど、所詮情報量だけ多いモブ以下の存在。それに何より、俺が一緒にいる理由が最低すぎる。こんなことバレたら嫌われるに決まっている。そう思うと、目尻に熱いものが滲みそうになった。
俺の寄生先は、知らないうちに、どんどん俺の心を食ってくる。
こんなはずじゃなかった。ただ、生き残るために、最強の冒険者に寄生しようとしただけなのに。
俺の心は、もうライオスから離れられないかもしれない。
(……もう少し、俺のレベルが上がって、一人でも戦えるようになったら。そのとき俺は――ちゃんと離れられるよな?)
そんな問いが、静かな夜の闇に吸い込まれていった。
俺の心は、もう逃げ場所を見失いつつあった。
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