【8話完結】主人公転生キターー!と思った時期もありましたが、ベリーハードなんてもう寄生するしかない!

キノア9g

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第5話「強くなれた気がしただけ、だった」

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「今日は街外れの森の調査だよ~。アキラくんと一緒だから、きっと楽勝だね!」

 ライオスは、昨夜の出来事など何もなかったかのように、いつもの調子で話しかけてくる。その屈託のない笑顔を見ていると、俺の心はさらに複雑になった。

(昨日あんなこと考えてたのに……やっぱり、俺の一人相撲だったのか)

 最近、任務中に感じる手応えが、少しずつ変わってきた。

 以前は、ただライオスの後ろに隠れてアイテムを拾うだけだった俺が、今では積極的にサポートに回れている。敵の配置を察知し、ライオスに警告する。地形の知識を活かして、最適なルートを指示する。危険な罠を事前に見つけて、回避を促す。

「そこ、ゴーレムが一体隠れてます!」

 俺の叫びに、ライオスが大剣を構える。彼の動きは迷いがない。

「助かるよ、アキラくん!」

 ライオスは、俺の言葉に迷いなく応え、俺の指示通りに動いてくれる。その姿を見ていると、ぎこちなかった俺たちの連携が、まるで熟練のパーティのように自然になっていくのが分かる。

 任務が終わると、ライオスはいつもの笑顔で俺を褒めてくれた。

「最近のアキラくん、頼りになってるじゃん! もう俺がいなくても戦えるんじゃない?」

 そう言って、俺の頭をくしゃくしゃと撫でてくる。

 俺は嬉しくて、顔が熱くなるのを感じた。心臓がドクドクと音を立てる。だが、その感情を悟られるまいと、俺はそっぽを向いてごまかした。

「ば、馬鹿言わないでください。あなたがいなきゃ、俺なんてただの足手まといですよ」

 口ではそう言いながらも、内心では歓喜していた。

(俺、本当に役に立ててるかも)

 この世界に来てから、ずっと抱えていた無力感が、薄れていくのを感じていた。俺は、変われたのかもしれない。

 だが、その希望は、あっという間に打ち砕かれることになる。

 翌日は、街の地下に広がる遺跡の探索任務だった。薄暗い通路に、不気味な空気が漂っている。

 俺は、記憶を辿りながら、ライオスを誘導した。

「この道なら安全です。敵の配置も覚えてますし、罠もありません」

 俺は自信を持ってそう言った。ゲーム知識をフル活用すれば、完璧なはずだった。

 しかし、遺跡の奥へ進んでいくと、突然、床に敷かれた石板が怪しく光り始めた。

「なっ……!?」

 俺の記憶には、この場所に罠があったという記録はない。だが、光を放つ石板は、間違いなく罠のサインだ。

 その瞬間、足元から爆炎が吹き上がった。

「アキラくん! 危ない!」

 ライオスの声が響く。彼が俺を庇うように、咄嗟に俺の前に飛び出した。

 轟音と共に、熱い炎が俺たちの体を包み込む。

 炎が収まった時、俺は無傷で立ち尽くしていた。だが、目の前のライオスは違った。

 彼の肩から腕にかけて、衣服が裂け、ぱっくりと裂傷が走っている。鮮血が服に滲み、滴り落ちていく。

 俺はその光景に凍りつき、声が出なかった。全身が硬直し、その場に立ち尽くすことしかできない。

 ライオスは、俺の方を振り返り、いつものように笑ってみせた。

「うわ、ちょっと派手だったね~。また勲章が増えちゃったかな?」

 冗談めかした声だが、その顔は痛みに歪んでいた。その奥に、本物の苦痛が滲んでいるのが分かった。

 俺が、間違えたからだ。俺の知識が、過信が、ライオスを傷つけた。

 ギルドに戻り、ライオスはすぐに治療を受けた。

 魔法による治療は、目に見える傷を癒してくれる。だが、彼の肩から腕にかけて走る裂傷は、完全に消えることはなく、痛々しい跡となって残る可能性が高いと言われた。

 ライオスは、そんな状況にもかかわらず、飄々としていた。

「かわいいアキラくんに傷がつかなくてよかった~。俺は元々勲章だらけだから、それがもう一個増えたってことで~」

 そう言って、いつものように軽薄な笑みを浮かべる。

 周囲の冒険者たちも、「ライオスならこの程度大丈夫だろ」と軽く流している。彼にとって、傷を負うことは日常なのだろう。

「久々にやっちゃったのかい、ライオスさん」なんて、笑い声すら聞こえる。

 だが、俺だけは、笑えなかった。罪悪感が、俺の心を支配していく。

(戦力になれたなんて、調子に乗ったからだ)

(寄生だけでよかったのに。俺が”役に立ちたい”なんて、欲張ったから……)

 あの時、俺が迂闊なことを言わなければ、ライオスが傷つくことはなかった。俺が、ライオスに認められたいなんて、そんな傲慢な気持ちを抱かなければ。

「強くなれたかもしれない」と浮かれた瞬間、俺は、大切なものを傷つけてしまったのだ。

 その日の夜。ライオスは、いつもより多めに酒を飲んでいた。

「はぁ~、今日の任務は疲れたねぇ……」

 彼は、頬を赤く染めながら、俺の隣にぴったりと密着してきた。

「ねぇねぇ、俺今日も頑張ったでしょ? かわいいアキラくんの癒しちょうだい~」

 そう言って、冗談っぽく俺にキスしようとする。

 いつものことだ。いつもなら、俺は「また始まった」と内心でため息をつきながらも、彼のキスを受け入れていた。どうせ覚えてないのだから、と。

 だが、今日はそう思えなかった。

 俺は、とっさにライオスの肩に手を置き、強く押し返した。

「……やめてください」

 俺の声は、震えていた。だが、はっきりと拒絶の意思を示した。

「冗談で気持ちを揺らがされるの、今は無理です」

 俺の言葉に、ライオスの動きが止まった。

 彼は、酔いで潤んでいた瞳をゆっくりと開け、真顔に戻る。

「え……冗談じゃないよ」

 ライオスの声は、ひどく静かだった。その声が、俺の胸に突き刺さる。

 俺は、それ以上何も聞こうとしなかった。聞けば、きっと、何かが壊れてしまう。

 俺は、無言で席を立ち、酒場を後にした。

 振り返ることはできなかった。

 宿の部屋に戻り、俺はベッドに膝を抱えて座り込んだ。

 月明かりが差し込む部屋は、ひどく冷たく感じられた。

(役に立てると思った。やっと相棒になれたと思った)

(けど、勘違いだった。寄生するしかない役立たずの俺が、彼に傷まで負わせてしまった。こんなの――一緒にいる資格、ない)

 俺は、弱すぎる自分に絶望した。

 俺は、ただの足手まといだ。変われてなんかいない。弱いままだ。ライオスに寄生して気が大きくなっただけ。

 いつからか、酔ってキスされるのさえ、俺の特権だ、特別だと勘違いしてしまった。だけど、それは、ライオスに記憶がないからこそ成り立っている。

 あんなキス、どうでもいいやつじゃなきゃできない。本当に特別な人とかだったら、できるわけがない。

 俺は相棒でもなんでもない。

 ライオスの、あの苦痛に歪んだ表情を思い出す。

「いっそ、責めてくれたらよかったのに……」

 枕をそっと濡らしながら、俺は震える声で呟いた。

 ライオスのあの笑顔を、俺のせいで曇らせるくらいなら……俺は、いなくなった方がいい。

 しかし、そんな俺の前に、部屋のドアがそっと開かれた。

「アキラくん……?」

 振り返ると、ライオスが立っていた。酔いはすっかり醒めているようで、その表情は真剣そのものだった。

「あ……」

 俺は慌てて涙を拭おうとしたが、もう遅い。

「泣いてるの?」

 ライオスは、俺の傍に静かに座った。いつものように強引に距離を詰めることはせず、少し離れた場所で俺を見つめている。

「俺、何か悪いことした?」

 その問いかけに、俺は首を横に振った。

「……違います。俺が、俺が悪いんです」

「なんで?」

「だって、俺のせいで、あなたが怪我したじゃないですか。俺が調子に乗って、知ったかぶりして……」

 俺の言葉を聞いて、ライオスは少し困ったような表情を浮かべた。

「あー、それか。アキラくん、気にしてたんだ」

「気にしますよ! 当然でしょ!」

 俺は思わず声を荒らげた。

「俺なんかのせいで、あなたに傷がついて……俺、本当に最低です」

「最低じゃないよ」

 ライオスは、俺の言葉を静かに否定した。

「アキラくんがいなかったら、俺、もっと大怪我してたかもしれないし。それに、罠のこととか、敵の配置とか、いつもアキラくんに助けられてるもん」

「でも……」

「それに」

 ライオスは、俺の方に少し体を向けた。

「俺が勝手に庇っただけだよ。アキラくんを守りたかったから。それだけ」

 その言葉に、俺の心臓が大きく跳ねた。

「……どうして、そこまで」

「だって、大切だから」

 ライオスは、当たり前のことを言うように答えた。

「アキラくんは、俺の大切な相棒だよ。……それとも、俺の一方的な思い込みだった?」

 彼の問いかけに、俺は答えることができなかった。

 大切。相棒。

 その言葉が、俺の心を激しく揺さぶる。

「俺、さっき『冗談じゃない』って言ったよね」

 ライオスは、俺の目をまっすぐ見つめて続けた。

「あれ、本当だよ。俺、アキラくんのこと……」

「やめてください」

 俺は、彼の言葉を遮った。

「今の俺には、それを聞く資格がないんです。俺は、卑怯な寄生虫で……」

「キセイチュウって、何それ?」

 ライオスは、本当に分からないという顔で俺を見つめた。

「アキラくんは、俺の大切なパートナーだよ。それ以外の何物でもない」

 俺は、そんな彼の真摯な言葉に、ますます自分が情けなくなった。

「俺、やっぱり……」

「アキラくん」

 ライオスは、俺の言葉を優しく制した。

「今日は、もう休もう。疲れてるでしょ?」

 そう言って、彼は立ち上がった。

「明日、また一緒に任務に行けるよね?」

 俺は、彼の問いかけに、小さく頷いた。

「おやすみ、アキラくん」

 ライオスは、いつものように優しく微笑みかけて、自分のベッドへ向かった。

 俺は、彼の寝息を聞きながら、天井を見つめていた。

 胸の奥で、気持ちが大きく膨らんでいる。それは、先日の夜に感じた「好きかも」よりも、もっと確実で、もっと切ない感情だった。

 だが、同時に、彼への罪悪感も、日に日に重くなっていく。

(俺が本当のことを言ったら、ライオスは俺を嫌いになる)

(でも、このまま黙って一緒に居続けるのも、もう限界かもしれない)

 俺の心は、愛おしさと罪悪感の間で、激しく揺れていた。
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