【8話完結】主人公転生キターー!と思った時期もありましたが、ベリーハードなんてもう寄生するしかない!

キノア9g

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第8話「彼の正体」

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 翌朝、いつもより早く目が覚めた。隣のベッドを見ると、ライオスがまだ眠っている。昨夜のことを思い出して、顔が熱くなった。

 俺たちは、本当に恋人同士になったのだ。

 予想外の大変な目にもあったが、まだ夢の中にいるような気分だった。あれほど長い間、一人で抱え込んでいた気持ちが、こんなにもあっさりと受け入れられるなんて。彼の隣にいられることが奇跡のように思えた。

 ライオスがゆっくりと目を開ける。そしてすぐ隣で寝顔を見つめていた俺に気づくと、眠そうな顔で微笑んだ。

「おはよう、アキラくん」

 そう言って、彼は俺の額に軽くキスをした。

「お、おはようございます……」

 俺は慌てて顔を伏せた。まだ慣れない。でも、嫌ではない。むしろ、とても幸せだった。

 朝食を取りに食堂に向かうと、他の冒険者たちが俺たちを見て、にやにやと笑っている。

「おお、アキラ、なんか今日は顔色がいいな!」

「ライオスさんも、昨日からやけに上機嫌で」

 俺は恥ずかしくなって、ライオスの袖を引っ張った。

「これ、絶対みんなにバレてますよね……昨日の夜の酒場のせいですよね?」

 ライオスの膝の上に座らされたことを思い出し、羞恥で顔が熱くなった。

「そうかな? でも、それだけじゃないと思うよ? 昨日のあの森でも、他の冒険者に結構見られてたし。……アキラくんは泣いてて気づいていなかったみたいだけど」

「そんなぁ! なんであの時教えてくれなかったんですか!」

 俺はあの森で、ライオスに抱きしめられながら子供みたいに泣き続けた。だって、転生者としてこの世界に突然現れてから、助けてくれる人もいないまま必死で一人で生きてきた。それが初めて、そのままの自分を肯定してもらえたのだ。泣いたってしょうがないだろう。だが、その醜態を他の人たちにも見られていたというのは、恥ずかしすぎる。

「え? 俺も余裕なかったよ? ……アキラくん、離れて行っちゃいそうだったし」

 ライオスはまだ少し拗ねた顔でこちらを見ている。彼を責めることなどできない。結局全ては自分のせいだった。

「別に隠すことないし、よくない? いっそアキラくんが俺のだって全員にわかってもらえたら、俺も安心できるよ」

 そう言って笑う彼の堂々とした態度に、俺は少し苦笑いをした。

 ◇ ◇ ◇

 実はあの森での一件の後、一悶着あった。二人で森から帰る途中、俺はA級パーティに誘われていたことをライオスに正直に話した。彼はこのことには気づいていなかったらしく、とても動揺していた。俺が彼と別れ、A級パーティに移るつもりだったという話をすると、子供のように拗ねた。

 寄生や前世の記憶の話は全く気にしなかったのに、このことだけは彼的に受け入れられなかったらしい。平謝りし続けたが、機嫌を直してもらえず、そのまま拗ね続けるライオスに手を引かれ、俺たちはA級パーティがいるという酒場へと向かった。

「俺に断りもなく、俺の大事な相棒をパーティに誘うってどういうつもりなの?」

 酒場の奥の個室。そこで俺たちとA級パーティは対面していた。あたりには酒場の空気とはそぐわないピリピリした空気が流れている。

 ライオスはA級パーティに絶対零度の冷ややかな視線を送っている。いつもの穏やかな笑顔など微塵もなく、その場にいる面々を凍りつかせていく。俺に声をかけてくれたA級パーティの彼は、顔面蒼白で固まってしまっていた。

 俺はというと、なぜか椅子に座るライオスの膝の上に後ろから抱きしめられる形で座らされるというとんでもない状態で、この場にいさせられている。こんなの公開処刑以外の何ものでもない。だが、ライオスが俺を離さないのだから、どうしようもなかったのだ。それよりも、俺はこの場をどうにかしなければならなかった。

「ライオスさん、彼らは悪くないです! こんな最弱の俺を誘ってくれたんですよ? 感謝の気持ちしかないんです」

 必死に訴えたが、拗ねたライオスは俺の話を相変わらず聞いてくれない。ただ俺の腰を後ろから抱きしめる彼の腕の力が強くなった。

「巻き込んでしまって本当に申し訳ないです」

 俺がA級パーティに深々と頭を下げると、ライオスが俺の耳に顔を寄せる。

「返事」

 そう言って、ライオスは俺の肩に顔を埋める。俺は熱くなっていく頬を手で隠しながら、再びA級パーティに頭を下げた。

「すみません。俺はあなた方の元へは行けません」

 俺の言葉にライオスが安心したのか、絶対零度の空気が一気に緩む。A級パーティの面々も安堵の表情を浮かべていた。

 A級パーティへの返事も無事終わり、俺たちはそのまま宿屋へ戻った。相変わらずライオスは拗ねている。だが、俺の手をしっかり握り締め続ける姿に、困るよりも愛おしさが湧いた。

「どうしたら許してくれますか?」

 ライオスは何も答えない。それでも、彼の不安な気持ちが伝わってくるようだった。

「わかりました……俺、ライオスさんに散々迷惑をかけた分、ちゃんとケジメをつけたいです」

「……ケジメ?」

 俺の言葉が気になったのか、ライオスは顔を上げる。やっと目が合ったことに安堵を覚えた。

「ライオスさんには沢山手伝ってもらいました。だから、俺もできることを何か手伝わせてください。何かして欲しいこととかありませんか? それで、手打ちにして欲しいです」

 俺は気持ちを込めて深々と頭を下げた。

 少し待ったが反応がなく、心配になって顔を上げると、さっきまで拗ねていたはずの彼が、どうやら俺の言葉に目を輝かせている様子だった。

 まるで、獲物を見つけた狩人のような、そんな視線を感じる。

「……それはなんでもいいの?」

 彼の声色が、微妙に変わったのを俺は感じ取った。

「はい」

「それ、もう嘘にできないからね?」

 ライオスは、それまでの雰囲気から一転、前のめりになって俺を見つめた。その顔には、隠しきれない期待と興奮が浮かんでいる。彼の瞳が、いつもより輝いて見えた。

「は、はい、なんでも……俺にできる範囲なら」

 俺は、その勢いに少しだけ気圧された。優しいライオスに限って、とんでもないことは頼まないだろうとは思うが、ほんの少しだけ不安を覚えた。彼の表情が、何かを企んでいるように見えてしまったからだ。

 そして、その不安は的中した。

 俺は入浴後、ライオスのベッドに押し倒された。予想を遥かに超えた急展開に頭が真っ白になる。

「手伝ってほしい。俺、君とキス以上のことが……したい」

 ライオスが俺を見下ろし、いつもとは全く違う妖艶な表情で笑った。どう返したらいいのか分からず、必死でライオスを見つめ返す。

「ライオスさんへの手伝い、本当にこれでいいんですか?」

 情けなくも、俺の声は震え、声が裏返っていた。

「うん。これがいい」

「で、でも俺、こんなの手伝えるか分からないです。前世でもそういう経験何もしたことがなくて、キスだってしたこと──」

 そこでふと気づく。俺は前世でも今世でも恋愛経験は0だった。だからライオスとのあのキスが俺の正真正銘のファーストキス。

 それをライオスは、事故ではなく、酔ったフリをして奪ったのである。

(……あれ? 俺って、自分で思ったほど悪くないような気がする。ファーストキスの対価だと思えば、むしろ安いくらいなのでは……?)

「ん? あれ? 酒を飲んだ時いつも記憶や意識があったのなら、なんでライオスさんにキス魔の実績と噂なんて出回っているんですか?」

「ふふふ。なんでだろうね?」

 ライオスは相変わらず妖艶な笑顔で、こちらを見つめてくる。彼の手が俺の頬を撫でると、ゾワりとした未知の感覚が俺の体を襲った。久々の本気の理解不能状態に、俺の体は固まる。

「…………やっぱりこれなしにしません!? 俺ファーストキスもあなたに奪われているんですよ!?」

「そうなんだ? それは嬉しいなぁ。でもそれはそれじゃない? もう嘘はつかないよね? だって、自分の発言には責任を持ってるもんね?」

 痛いところを突かれて、俺は黙るしかない。

「それに俺たち……もう、恋人だよね?」

「はい……いや、でも、こういうのって、もっとこう順序というか……」

 思い返すと出会った翌日にはキスされていた俺。今更順序とか彼に通用するはずがない気がして、冷や汗が額を伝う。

「…………、ライオスさんって、実は結構悪い人ですか?」

 俺は変な人だと思うだけで、その可能性を考えたこともなかった。彼はいつも俺を笑顔で肯定し、支え続けてくれていたから。

「今気づいたの? ふふ。アキラくんはかわいいなぁ。でももう、逃してあげないよ?」

 そう言って、ライオスは俺の顔にキスを落とした。夕方の優しいキスとは違うキスに、俺の理解はまだ追いつかない。ただ、そんな彼も嫌ではなかった。

(こんなの、もう逃げられるわけない)

「怖がらないで大丈夫。俺、優しいからね」

 この笑顔もかっこいいと思ってしまった俺は、彼に身を委ねた。

 ここから先は、俺に何があったのかはとても語れそうにない。ただ、仲直りはできた。明日起き上がれるのか、心配だったが。

 窓の外では、月が静かに輝いていた。

 異世界に転生し、最弱として絶望し、ただ生き残るために寄生した俺が、まさかこんな形で、最強のS級冒険者の隣にいるなんて。

 この世界で、誰もが俺を”特別ではない”と見なす中で、ただ一人、俺の全てを受け入れ、愛してくれたライオス。

 もう、どこにも逃げ場なんてなかった。そして、それが何よりも幸せなことだと、俺は知っていた。明日からの日々が、どんな色に染まるのか。その答えは、すぐ隣で眠る彼だけが知っているのだろう。
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