【8話完結】主人公転生キターー!と思った時期もありましたが、ベリーハードなんてもう寄生するしかない!

キノア9g

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第7話「レベル20の決断」

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 いつものように目を覚ましたが、気分は晴れないままだった。今日中にはレベルが上がるだろう。 そうなれば、A級パーティに返事をしなければならない。

 そして、ライオスとの別れを告げる日になる。

 朝の任務を終えて宿に戻ると、ライオスがいつものように明るく迎えてくれた。本来なら喜ばしい日のはずなのに、俺の心は重い。

「アキラくん、この調子なら今日いけそうだね!」

 そう言われ、俺は自分のステータス画面をそっと確認した。経験値ゲージは99%を示している。あと少し、本当にあと少しで目標レベルに到達する。

 午後、深い森の奥で、最後の小さな任務を終えた瞬間だった。

 ステータス画面に、光る文字が浮かび上がった。

 レベル:20

 ついに、この時が来た。あの「経験値取得倍率×0.1」という絶望的な呪いの中で、俺が目標としていたレベルに、ついに到達したのだ。

 この時を夢見て、俺はここまで歩いてきた。足を引っ張りながら、情けなくも、この最強の男に「寄生」しながら。

 でも、寄生でも、情けなくても、ここまで来た。それだけは、偽りない事実だ。

「やった……! ついにやったんだ、俺……!」

 俺は握り拳をぎゅっと握りしめた。これまでの苦労が、まるで走馬灯のように脳裏を駆け巡った。

 街の子供に半笑いで「生きてるだけですごいっすね!」と言われた屈辱。

「知識だけでは勝てない」と一蹴された日々。

 そして、毎晩のようにライオスにキスをされては混乱し、それでも離れることができなかった苦悩の日々。

 ライオスが、満面の笑顔で俺に駆け寄ってきた。その表情は、まるで自分のことのように嬉しそうで、俺の達成を心から喜んでくれているのが伝わってくる。

「ついにやったね! アキラくん!」

 そう言って、俺を力強く抱きしめる。その腕の温もりが、あまりにも心地よくて、俺は一瞬、全てを忘れてしまいそうになった。このままずっと一緒に冒険できたら、どんなにいいだろう。彼の胸に顔を埋めながら、俺は必死に涙を堪えた。

 だが、そのぬくもりを享受するわけにはいかない。俺は強引に抱擁を解いた。

 A級パーティへの返事。そして、ライオスとの別れ。

(……これでもう十分。ここが、終わり時なんだ)

 まるで自分自身に言い聞かせているかのように心の中で呟く。だが、心の奥底では、別の声が叫んでいた。本当は離れたくない、ずっと一緒にいたい、と。

 ライオスの顔から、笑顔が消えた。彼は、ただ静かに俺を見つめている。その瞳には、何かを察したような、悲しげな光が宿っていた。

「アキラくん……?」

 彼の声は、いつもより小さく、不安そうだった。俺の態度の変化を敏感に感じ取っているのだろう。

「ここから先は、俺ひとりでやります。もう、寄生しなくても戦えるから」

 俺の声は、震えていた。だが、ここで引いてはいけない。俺は、自分自身のこれまでの行動に責任を持つべきだ。その場の空気が急に重くなったのを感じた。

 ふと顔を上げると、ライオスの瞳に、戸惑いの色が浮かんだ。 そして、その奥に、深い悲しみのような感情が宿っているのを俺は見つけてしまった。普段の堂々とした彼が、まるで傷ついた動物のような表情を浮かべている。

「……ねえ、それって、俺がいらなくなったってこと?」

 その声は、どこか怯えているようにも聞こえた。普段の明るいライオスからは想像もつかない、弱々しい声だった。

「ちがっ……いや、違わないです。俺は自分が強くなるためだけにライオスさんのそばにいたんです。それだけだから」

 俺は、そう言い切った。嫌われることはわかっている。だからこそ、優しいライオスに気を遣わせないよう、必死だった。自分の心を殺して、彼を突き放そうとしている自分が嫌で仕方がなかった。

 ライオスは、苦笑した。だが、その笑顔は、いつもの笑顔とは全然違う。

「ずっと一緒にいたのに、こんな終わり方ってある?」

 彼の悲しげな言葉に、俺の心は、潰れてしまいそうだった。

 本当はずっと一緒にいたいと伝えたかった。けれど、寄生なんて最低な手段で一緒にいた俺に、迷惑ばかりかけた俺に、そもそもその資格はない──。

 俺の目には、我慢しきれず涙が滲んでいた。こんな時に泣くのは卑怯すぎると、必死に押さえ込む。辛いのは、ライオスなのだから。

 ライオスは、黙って俺の腕を掴んだ。その手は、とても力強かった。彼の瞳は、俺から逃げることを許さないような強さを持っていた。そして、俺の目をまっすぐ見つめて、言った。

「それ、本気で言ってるの?」

 俺は何も答えられなかった。ライオスの瞳は、まるで俺の心の奥底を見透かしているかのようだった。その視線の前では、どんな嘘も通用しないような気がした。

 沈黙の中、ライオスがゆっくりと口を開いた。時間が止まったように感じられる静寂の中で、彼の言葉だけが響いた。

「俺さ……何回も君が好きだって言ってたんだけど。聞こえてなかった? 俺のアピールが足りなかったの?」

 ライオスの言葉に、俺は絶句した。

 好き? アピール?

 俺の世界が、一瞬にして崩れ去ったような感覚だった。これまでの認識が、すべて間違っていたのだろうか。

「え?……だってあれは、翌日には忘れてしまう酔っぱらったノリだったはず……まさか全部、覚えてたんですか……?」

 俺がそう尋ねると、ライオスはこれまで見たことがないほど真剣な眼差しで言った。

「うん、もちろん。酔ってた日も確かにあるけど……でも、ちゃんと覚えてるよ。アキラくんと初めて会った、あの日からずっと。あの時俺ね、君を見て、どうしようもなく惹かれたんだ」

 彼の言葉は、俺の耳にはとても信じられないものだった。

「はあ!? いやいや、嘘をつかないでください! だって俺、人類最弱だったんですよ? どこにも取り柄なんてなかったはずです」

 俺は混乱して、声を荒らげてしまった。自分でも驚くほど動揺していた。

 ライオスは、俺の言葉に、ふわりと笑った。

「それさ、そんなに気にすることかなぁ? 君は、誰よりもまっすぐだったよ。強くなりたくて、どんなに辛くても諦めなくてさ。それに、俺の酒癖が悪いってわかっても……俺と一緒にいてくれた」

 彼の言葉に、俺の心は揺れた。そんな風に見てくれていたのか、と思うと、嬉しさと同時に申し訳なさが込み上げてくる。

「それはただ……寄生先が他になかったからで……」

 俺は、それでも言葉を止められなかった。

 ライオスは、一歩近づいてくる。俺は、反射的に半歩下がった。だが、俺の心は、もう逃げ場所を見つけられずにいた。

「俺ね、本当はもっと早く伝えたかったんだよ。でも、君が俺のことを『強くなるための手段』だと思ってるって分かってたから……素面で告白したら、君を困らせちゃうかもしれないって思ったんだ」

 寄生であることをわかった上で、彼は一緒にいてくれた? しかも彼は、俺の気持ちを気遣って、あえて酒の勢いでしか想いを伝えなかったのか。彼の優しさの深さに、俺は愕然とした。

「俺キス魔って言われてるけど、唇にキスしたのはね、……君だけだったんだよ。アキラくんに意識して欲しくて。それが答え。君が一緒にいようとした理由なんて、俺には関係なかったんだよ?」

「嘘……」

 ライオスの言葉が、俺の心の鎧を完全に打ち砕いた。あのキスは、酒の勢いでも、気まぐれでもなかった。彼にとって、あれは本気の愛情表現だったのだ。

「どう? 俺の気持ち、伝わったよね?」

 彼の瞳は、俺の返事を待っていた。その眼差しは、希望と不安が入り混じったような、切ないものだった。

「ライオスさんも……俺が好きなんですか?」

 俺の声は、かすれていた。

「好きだよ。出会った頃からずっと」

「……待ってください。俺、まだあなたに隠していることがあります。信じられないかもしれないけど、俺……前世の記憶があるんです。この世界の前に生きてきた世界の記憶です。それをあたかも自分の能力みたいに言って……」

 俺は、今まで隠していた秘密を打ち明けた。これで本当に嫌われるかもしれない。だが、もう隠し事はしたくなかった。

「ああ、あの豊富な知識のことだね? そんな記憶を持ってるなんてすごいじゃん! だから、あんなに的確だったんだね。それで?」

 ライオスの反応は、予想とは全く違っていた。まるで、俺の告白を当たり前のことのように受け入れている。

「…………それで? いやいや、だから、俺は嘘だらけなんです。そんな奴はやっぱりライオスさんには相応しくな──」

「俺、関係ないって言ったよ」

 彼の声は、とても穏やかで、でも確固たる意志を感じさせた。

「関係なくないです……! 俺はこんなに嘘ばかりの、怪しい奴なんですよ!? だから、ライオスさんに出会うまで誰にも見向きもされなかった! ちゃんと相手にしてくれたのはあなただけで……!」

「それなのに、迷惑ばっかりかけて、役立たずで……っ、俺なんかが隣にいる資格なんてない……っ!」

 俺の目から、堰を切ったように涙が溢れ出した。声は震え、もう抑えようがなかった。これまで心の奥底に溜め込んでいた感情が、一気に噴出してしまった。

「俺、ライオスさんが好きで、好きで……っ、でも、嘘がバレて嫌われるのが怖くて……っ、苦しくて……っ!」

 しゃくり上げながら、俺はただひたすらに、ライオスへの想いと、これまでの不安を吐露した。涙でぐしゃぐしゃになった顔で、俺は彼を見上げた。

「怖かったんだね。ごめんね。もっと早く伝えておけばよかった」

 ライオスは、そんな俺をそっと抱き寄せた。その腕は優しく、俺の背中をゆっくりと撫でる。彼の胸の温もりが、俺の震えを静めてくれた。

「ライオスさんは……何も悪くないですっ、俺が全部言わなかったから!」

 俺は、彼の胸に顔を埋めながら、泣きじゃくった。

「いや、君は悪くないよ」

 彼の声は、俺の頭上から優しく降り注いだ。

「違いますっ……俺は悪い……ごめんなさい」

「うーん。俺が予想するより、君は遥かにまっすぐな子だということはよくわかったよ。……でも、人に全部を伝える必要なんてないんだよ? 君は間違ってない。そんなに気にすることじゃないよ」

「でも、でも……!」

「不誠実だと思っちゃったのかな。……アキラくんって、悪いことができないタイプだよねぇ」

 彼は、俺の頭を撫でながら、穏やかな声でそう言った。その声色には、愛おしさが込められていた。

「それは、悪いことじゃなくて普通のことだよ。レベルが高い者が低い者を手伝うのは当たり前」

「……当たり、前?」

 俺は、涙で濡れた顔を上げて、彼を見つめた。

「そう。だから気にしなくていいんだよ。なんたって、アキラくんは俺の大切な相棒だからね」

 ライオスの言葉は、まるで魔法のように俺の心を解き放っていく。こんなに優しく慰められたのは、いつぶりだろう。長い間、一人で抱え込んでいた重荷が、ようやく軽くなったような気がした。

 彼の胸の中で、俺は子供のように泣き続けた。その間ずっとライオスは俺に「かわいい」と言い続け、顔中にキスを落としていく。額、頬、鼻先、そして唇に。そのすべてが、愛情に満ちていた。

「俺に嫌われることをそんなに嫌だと思ってくれたんだと思うと嬉しいなぁ。アキラくん、かわいいね」

 その言葉に俺は何も返せなかった。ただ、彼の腕の中で安らぎを感じていた。

 しばらくして、落ち着きを取り戻した俺は、ライオスの腕の中で顔を上げた。涙でぐしゃぐしゃの顔だっただろうが、そんなことはもうどうでもよかった。ライオスと見つめ合い、自然と笑顔がこぼれる。 

 夕暮れの森は、すでに薄暗くなり始め、木々の間から差し込む西日が二人の姿を長く引き伸ばしていた。その光は、まるで俺たちの新しい未来を祝福しているかのようだった。
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