婚約破棄された侯爵令嬢は悲しみに浸りたいのに周りが騒がしいです！

誰かこの人達を止めて下さい！

ジュリア公爵夫人の秘密

「なっ⋯何を言ってるんだ！」

モール公爵は夫人が言っている意味が理解できない。

「ですから双子は貴方の子ではありません」

私も理解できない、多分お父様もだ。私達は説明を求めベルを見たがまたしても鼻で笑われた。解せぬ！

「私の子ではないだと！では誰の子だ！」

「分かりません」

「⋯はぁ？」

ジュリア公爵夫人は淡々と話し出す。ジュリア公爵夫人は子が出来ずモール公爵や前公爵夫妻にプレッシャーをかけられ精神的にも追い詰められていた。そんなジュリアに追い打ちをかけるようにモール公爵の愛人が男の子を産む、それがオーウェンだ。だが愛人は平民出身の為にジュリアが産んだことにされた。最初はオーウェンを愛そうとしたがどうしても無理だった。

だが今から約3年前いつもの日課である教会に参拝に行った時、教会の入口側で赤子の泣き声が聞こえた。多分捨て子だがジュリアは何故か引き寄せられるように赤子の元へ急ぐと何とも可愛らしい双子だった。そしてこの双子に運命を感じたジュリアはこの子達に手を握った時に心から愛おしいと思ったのだった。

ジュリアはその日のうちに双子を引き取り屋敷に連れてきて、セロンとハロルと名付けた。モール公爵には子が出来たと話したが今さら勝手にしろと顔も見ず言われた。考えればそういう行為をしていないと分かる筈だがまた違う女性と間違えているのでしょう。ジュリアは双子の為、自分の為に自立しようと考えて色々と準備してきて今に至るのだ。

話を聞いたモール公爵は黙ってしまう。私もお父様もモール公爵の非道さに怒りを覚える。

「モール公爵、あんたそれでも亭主か？」お父様が睨み付ける。

「本当に酷いですね、よくそれでオーウェン様の事を言えましたね？」

私も睨み付ける。

「分かった！離縁するし慰謝料⋯「要りません！」

「その慰謝料はアンジェリーナ令嬢との婚約破棄の慰謝料にして下さい。私は大丈夫ですので」

「はっ！お前も金が必要だろ？実家にでも帰るのか？」

本当に最低な奴だと怒り心頭の私の横でお父様が何か考え込んでいる。そしてお母様を見ると何故か不敵な笑みを浮かべている。怖い⋯

「私にも仕事はありますのでご心配なく」

「ジュリア、もしかしてうちで働いてないか？」

「そうよ。うちの商会の服飾部門のリーダーよ！二年前から服飾部門が爆発的に業績が伸びたのはジュリアのお陰なのよ！」

お父様の問いにお母様が平然と答えた。モール公爵とオーウェンは驚いてジュリアを見るが、彼女はそんな二人を無視して書類を書き終えると私達の方を向き頭を下げた。

「ウィーンズトン家やアメリアちゃんには返しきれない恩をもらいました。ありがとうございます。一生懸命働くのでこれから双子共々よろしくお願いいたします！」

「ジュリアちゃん！そんな畏まらないでよ！親友でしょ？これからは自由よ！好きなことをしましょうね！」

「えぇ！セロとハロと行きたい所がいっぱいあるのよ！」

そう言ってモール公爵とオーウェンを無視して颯爽と出ていくジュリアであった。残った彼等は顔面蒼白だ。婚約破棄で事業の提携を打ち切られ、妻には捨てられ、婚約破棄の慰謝料は莫大な金額になるのでこのままでは没落する事になるからだ。

「どうかお願いいたします！このままでは公爵家が⋯我が公爵家が⋯」

遂に泣き出してしまったモール公爵。オーウェンは下を向き黙り込んだままだ。余程ショックだったのだろう。でも私も婚約破棄の意志は固い。先程のジュリアさんのように新しい人生を歩みたいからだ。