腐りきったこの世界で。

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第1章 終わりの始まり

「今は昔」

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 《こちらーーまーーすか?》
《現在ーーきゅーーでーー》
は直ちーーなごーーて下さい!》
《繰り返します!こちら、あいーー》

ラジオからのブツッという機械音と共に、静寂が戻る。
どうやらたまたま電波が通っただけのようだ。

「なご……?あい……?もしかして愛知県の名古屋か?」

「私もそう思う……ここからなら電波が届いてもおかしくない……かも?」

「だけど……外はもう壊滅していたのに、誰かをいつまでも助ける余裕があるとは思えないぞ?ひょっとしたら罠かもしれない。」
俺はそう言い放って窓を見下ろし、<奴ら>を見て唇を噛む。
なるほど、確かにこの状況下で生存者は最初は助け合い、協力しようと試みるのかもしれない。
だが、大規模に人は群れると、いざこざが生じるはずだ。
そんな中で、いつまで持つか分かったもんじゃない……。

ーー腐りきったこの世界では、ほとんどの人間が最終的には自分の保身に走ることしか出来ないのだーー。


  ……時は二週間前に遡る。

「きたぁぁあああ!!!」

昼休憩、高校の教室に勝利の咆哮が鳴り響く。

「やっとバ○オハザード豆腐モードクリア……!ラストバトルでどれだけ死んだことか……」

丸々2日、徹夜までしてゲームクリアしたことに俺こと小畠 翔生は喜びを噛みしめた。

ほんと好きだよな……やりこみすぎて軽く引くレベルだわ……正直どうやったらそんなんクリア出来んの?」

「難易度高いほどゲーマーは燃えるもんなのーーってか誰が和尚だ!?俺は坊主じゃねぇよッ!?
名前を略しすぎだろ!」

俺を和尚呼びして巫山戯ている男は松屋 博(まつや ひろ)。
幼稚園からの幼なじみで、親友とも呼べる仲だ。
実家は有名定食屋という訳では無い。
高身長のイケメンで、女子からの人気もけっこう高い。
彼女もいるとか風の噂で聞いたが、俺はまだこいつから何も話を聞いていない。
リア充爆ぜろ!
俺とはある意味真反対の存在かもしれないが、仲がいいため、憎みきれなーーリア充爆ぜろ!

「ゲームオタクはやることが違う……ねぇ……あっ。」
「和尚?後ろみてみ?」

「だから和尚じゃーーうん?後ろ?」

博の顔が青ざめる。
瞬時に背後から殺気を感じとった俺は、
後ろを振り向いた。
いや、

そこには、わなわなと怒りをこらえているのか、今にもブチ切れそうな風紀委員の唐田 美結(からた みゆ)が立っていた。
にっこりしているのが余計怖い。

「ここ、なんだけど...?何をやってるのかな翔生クン!?」

「え!?いや、これはーー」

「はいはい没収ね?とりあえず職員室行こっか?」

言い訳の暇もなく制服の襟を捕まれる。
非力な俺には為す術もなく、引きずられていった。
女子にストレングス筋力対抗で負ける俺って一体……

俺は抵抗を諦めて、大人しく美結に連行されることにした。
教室を出る間際、笑いをこらえながら「ぷぎゃー!」と笑う博の姿があった。

イラァッ……!!
「よし、あいつ後でぶっ飛ばそう!」と俺は心に誓ったのであった。
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