ヤンデレ王子と風の精霊

東稔 雨紗霧

文字の大きさ
24 / 47
2st脱出

2st脱出ーその6-

しおりを挟む
 良い気分転換をする事ができた。

 自室に帰り式典用の堅苦しい服を着替えて一息ついたレインは上機嫌で鼻歌を歌う。
 アリアとあの男の大切な場所だと言っていた場所は炎の精霊メラと土の精霊ツッチーの手により徹底的に破壊された。
 滂沱し、半狂乱した様子で宝石を内側から必死に叩いてなんとか出ようとするアリアの悲痛な叫びを聞きながら、自身の精霊の手によってあの男が関連する場所が原型を留めなくなる様子を眺めていると心が満たされていく様な充足感を得られた。
 アリアの半狂乱した様子とその後の悲しみに沈んだ表情を思い返すとレインの胸は痛んだ。
 だが、それ以上に感じるゾクゾクとした堪らない感覚にレインは全身を震わせた。

 僕のとる行動一つでアリアの心を掻き乱してしまえるというその事実が、たまらなく心地良い。
 ああ、大好きで大切で大事にしたい人。
 大事に慈しんで笑顔で過ごして欲しいけれども、それと同時に傷つき、苦しみ、悲しんでいる表情も見てみたい。

 それを人は背徳感と呼ぶのだがレインはまだそれを知らない。


 愛は素晴らしいなんて言う者もいるけれども、それは恵まれた立場にいる人間の台詞だ。
 欲しい愛を与えられるのは一部の存在だけで全ての存在が分け隔てなく与えられる訳ではない。
 レインは別にそれに悲観する気はない。
 愛されないのであればそれ以外を手に入れてしまえばいいのだから。
 欲しい物が既に他人の物であれば奪えばいいだけの話だ。
 愛や慈しみがあの男だけに向けられるのならば、それ以外の憎しみや恐怖と言うあの男では決して得られる事のできない感情は全部僕の物にしてしまおう。

 今は亡き母上は父上への愛を囁きながらもその口で放置されている現状や一向に渡って来てくれない父上への怨嗟を零しては一人泣いていた。
 レインが霊眼持ちだと判明してからは再び霊眼持ちを産むかもしれないと期待した父上が渡る様になり、生活環境は一変した。
 食事や生活の水準が大きく上がり、今まで母上に高圧的だった者が急にぺこぺこと頭を下げ始めたのだ。
 今まで押さえつけられていた反動か母上は嫌がらせをしていた者を徹底的に扱き使い、虐げていた。

 憎しみは下手な愛情よりも強く人を結びつけると本に書いてあったが、確かにそうなのだろう。
 その証拠に、自らのその振る舞いをレインには隠そうとしていた事から母上も自分のその行いが正しい物ではないと理解していた様だが、かつて受けた屈辱を晴らすその様は父上と話している時よりも楽しそうで、瞳はキラキラと輝いていた。




 部屋の大鏡に映るアリアは膝を抱えて泣いている。

 ああ、早く顔を上げて下さい。
 そしてその両の瞳で僕を見た時、強い憎しみで染まった瞳で僕を写すのでしょうか。
 ああ、でもアリアは優しいからまだ僕を憎み切れないかもしれません。
 ここまでされても尚僕を憎めないのなら、それならば代わりに一体どんな感情を抱き、どんな表情で僕を見るのか。
 早くそれが見たくて見たくて堪らないのです。

 大鏡に手を這わせ、レインは恍惚とした息を吐いた。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

ヤンデレにデレてみた

果桃しろくろ
恋愛
母が、ヤンデレな義父と再婚した。 もれなく、ヤンデレな義弟がついてきた。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

前世で私を嫌っていた番の彼が何故か迫って来ます!

ハルン
恋愛
私には前世の記憶がある。 前世では犬の獣人だった私。 私の番は幼馴染の人間だった。自身の番が愛おしくて仕方なかった。しかし、人間の彼には獣人の番への感情が理解出来ず嫌われていた。それでも諦めずに彼に好きだと告げる日々。 そんな時、とある出来事で命を落とした私。 彼に会えなくなるのは悲しいがこれでもう彼に迷惑をかけなくて済む…。そう思いながら私の人生は幕を閉じた……筈だった。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

娼館で元夫と再会しました

無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。 しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。 連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。 「シーク様…」 どうして貴方がここに? 元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!

じゃない方の私が何故かヤンデレ騎士団長に囚われたのですが

カレイ
恋愛
 天使な妹。それに纏わりつく金魚のフンがこの私。  両親も妹にしか関心がなく兄からも無視される毎日だけれど、私は別に自分を慕ってくれる妹がいればそれで良かった。  でもある時、私に嫉妬する兄や婚約者に嵌められて、婚約破棄された上、実家を追い出されてしまう。しかしそのことを聞きつけた騎士団長が何故か私の前に現れた。 「ずっと好きでした、もう我慢しません!あぁ、貴方の匂いだけで私は……」  そうして、何故か最強騎士団長に囚われました。

転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。

琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。 ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!! スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。 ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!? 氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。 このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。

処理中です...