ヤンデレ王子と風の精霊

東稔 雨紗霧

文字の大きさ
27 / 47
3st監禁

3st監禁ーその1-

しおりを挟む
 アリアがヴァンの亡骸と共に精霊界に帰還してから1年と少しが経過した。

 血で赤黒く汚れた衣服で血塗れの遺体と共に帰還したアリアを見てすぐ傍にいた精霊達は騒然となった。
 一目見ただけで緊急事態が生じた事は明白であり、何が起きたのだと聞かれてもアリアは半狂乱で泣きじゃくるだけで何も答えられず、漸く落ち着いたアリアから話を聞きだした精霊達はその境遇に甚く同情した。

 元々、精霊は契約者と深く結びつく存在だ。
 その何物にも代える事のできないかけがえのない存在と、互いに想い合っていたにも関わらず他者の手により引き離され、悲惨な目に合わされたアリア。
 そしてそんなアリアを守ろうと自らの命を賭したヴァン。
 二人の話は瞬く間に精霊国中に広まり、多くの精霊がその境遇に涙し、その噂は精霊王の耳にも入る事となり、二人の話に胸を痛めた精霊王の主導でヴァンの葬儀が執り行われる事となった。
 レインの仕掛けによりヴァンの身体の損傷は酷かったがそれらの全てが精霊達の手により綺麗に補修され、ヴァンの亡骸は手厚く葬られる。
 彼の墓標はアリアの住む家の程近く、景色の良く見える丘の上に建てられた。

 アリアは精霊界に帰還した事で、誤って人間界に足を滑らせて落ちた際に陥っていた記憶喪失が改善され失っていた全ての記憶を取り戻す事ができた。
 精霊との契約は契約者が精霊に対して名を授け、その名を精霊が受け入れる事で結ばれる。
 己の名前も覚えていなかったアリアにアリアと名前を付け、契約を結んだヴァン。
 己の真名がアリアデーレである事を思い出した時はその運命に涙した。
 ヴァンとの輝かしい日々を思い返せば思い返す程に彼に対する愛情が募っていく。
 今日もアリアはヴァンの墓へと向かい、花を手向ける。
 その手首にはヴァンの亡骸が握りしめていた精霊具がぶら下がっている。


 レイン達が大広間に駆けつけたあの時、アリアは気が動転してフーイの風の精霊術には全く反応できなかった。
 あのままでは確実にレインに捕まってしまっていたが、ヴァンの亡骸がこの精霊具を握り締めていたお陰でフーイの精霊術は阻止され、アリアが我を取り戻すまでの時間を稼いでくれた。
 中に嵌められていた精霊術の籠った石は砕け散りがらんどうになっていた為、代わりにヴァンの瞳の色と同じ はしばみ色の石を嵌め込んでいる。
 その石には召喚拒否の術式が刻まれており、これを付けていると今でもヴァンに守られている様な気持ちになれた。

 そっと墓に寄り添い、今日あった事や関心を惹かれた事等をヴァンに語り掛ける。


 「最近、精霊の召喚が以前より活発に行われているらしいわよ。
 契約を結ばなかった精霊は自動的に帰ってくるのに、今の所、誰一人として帰ってきていないらしいからみんな向こうで契約を結んでいるのでしょうね。
 個人単体で賄える魔力量を遥かに超えるくらいの精霊が召喚されているらしいから、複数人の精霊術師に召喚されているのでしょうけれども、それにしても過去に類を見ない位に大勢が召喚されているみたい。
 霊眼持ちがいきなりそんなに増えたのか、はたまた向こうで戦争が始まるのかは分からないけれども、まあ、私達には関係のない話よね」


 またあの国に呼び出されたらと考えるとゾッとするが今のアリアは召喚拒否の精霊具を持っているので召喚される事は万に一つもない。
 嫌な想像を頭を振って振り払い、その場から腰を上げる。


 「じゃあ、また明日ねヴァン。おやすみなさい」


 墓標に口付けを一つ落とし、帰路へと着く。
 シャワーを浴びて一日の汚れを落としたアリアは就寝の準備をし、ベッドへと腰掛ける。
 いつもならばベッドの縁へと手首から外した精霊具を置くのだが、今日は昼間に嫌な想像をしたせいかとてもそんな気持ちにはなれなかった為、付けたまま寝る事にした。


 「!!!」


 深夜3時、声にならない悲鳴を上げて飛び起きる。
 バクバクと強く脈打つ心臓と荒い呼吸音が暗い部屋に広がる。
 じっとりと汗ばむ額を拭い、手首で揺れる榛色にほっと大きく息を吐いた。
 それを手首から外し、両手で包み込むように持って額に当てる。


 「ふ、うう……」


 ボタボタとシーツに水滴が落ちる。
 あの世界から戻ってから何度も、何度も何度もヴァンが死ぬ時の事を夢に見る。
 自らの愚かさを忘れないよう、刻みつけるかのように何度も、何度も。

 アリアの傷はまだ、癒えていない。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

ヤンデレにデレてみた

果桃しろくろ
恋愛
母が、ヤンデレな義父と再婚した。 もれなく、ヤンデレな義弟がついてきた。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

前世で私を嫌っていた番の彼が何故か迫って来ます!

ハルン
恋愛
私には前世の記憶がある。 前世では犬の獣人だった私。 私の番は幼馴染の人間だった。自身の番が愛おしくて仕方なかった。しかし、人間の彼には獣人の番への感情が理解出来ず嫌われていた。それでも諦めずに彼に好きだと告げる日々。 そんな時、とある出来事で命を落とした私。 彼に会えなくなるのは悲しいがこれでもう彼に迷惑をかけなくて済む…。そう思いながら私の人生は幕を閉じた……筈だった。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

娼館で元夫と再会しました

無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。 しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。 連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。 「シーク様…」 どうして貴方がここに? 元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!

じゃない方の私が何故かヤンデレ騎士団長に囚われたのですが

カレイ
恋愛
 天使な妹。それに纏わりつく金魚のフンがこの私。  両親も妹にしか関心がなく兄からも無視される毎日だけれど、私は別に自分を慕ってくれる妹がいればそれで良かった。  でもある時、私に嫉妬する兄や婚約者に嵌められて、婚約破棄された上、実家を追い出されてしまう。しかしそのことを聞きつけた騎士団長が何故か私の前に現れた。 「ずっと好きでした、もう我慢しません!あぁ、貴方の匂いだけで私は……」  そうして、何故か最強騎士団長に囚われました。

転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。

琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。 ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!! スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。 ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!? 氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。 このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。

処理中です...