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1st監禁
1st監禁-その4-
しおりを挟む次の日、上司から王子は肋骨にヒビが入っており兄妹たちからの接触を断つために絶対安静と判断されたと聞かされたアリア。
更に使用人たちによる職務怠慢や備品の窃盗などの調査が行われ、近々一斉検挙が挙げられ事になり、それに合わせて信頼のおける人物が王子たちの近くに仕える事になったと聞き胸を撫で下ろす。
「明日その人物が来る事になっているがその新しい奴が来てもお前の警護は続くからな」
〔ええ。それじゃあヴァン、行ってくるわね。仕事頑張って〕
「アリアもな」
いつもの様に頬に口付けを落とし王子の元に向かったアリアは風で室内の人間の位置を捕捉し、死角となる場所から頭を突き出して中の様子を見渡してからするりと壁をすり抜けて中へと入る。
物陰から除くと王子はベッドに寝ており、その傍で母親のアグネーゼ妃が刺繍をしている。
よくある一般的な風景と言った感じだ。
「勉強は教師の方がわざわざこちらにいらしてくれるそうですよ。
レインの授業姿を見る機会もそうそう無いでしょうし母も一緒にいても良いかしら?」
「母上が一緒に勉強してくれるのですか?嬉しいです!」
「あまりはしゃぐと怪我に障りますよ」
「はーい」
母親と一緒、それだけで至極嬉しそうに笑うその顔は年相応に天真爛漫としていた。
王子はレインというのね、と頷いたアリアはここで初めて王子の名前を知らなかったことに気が付くがヴァン以外にはさして興味も湧かないので特に何の感情も湧かなかった。
ふと、風の不自然な揺らぎを感じてそちらへ意識をやると空に細い針の様な物が浮いていた。
アリアによって空に止められた針の先には王子の姿があり、更に意識するとその反対の直線状に筒の様な物を手に持つ人間が居る事が分かった。
その人物は筒を口元へと運ぶと勢いよく息を吹いた。
すると筒の中から今空に浮いているのと同じ針が飛び出し、先ほどとさほど変わらない軌道で王子に向かって飛んで行く。
それを事も無げにアリアは止め、そっくりそのままその人物の足へと針を撃ち返す。
己の足に刺さった針に気が付いた人間は驚愕の表情のまま床に倒れ、ビクビクと泡を吐きながら痙攣を起こした。
その様子を鼻で笑ったアリアは壁をすり抜け、廊下に出る。
〔我が意を伝える者よ、今ここに現れよ〕
掌を上に向け、そう唱えたアリアの手の上に一匹の小鳥が現れる。
アリアが確保したもう一本の針を鳥に咥えさせると鳥はすぐさまその手を離れ、ヴァンに確保した針と襲撃者の情報を伝える為に飛び去るのを見送り、アリアは再び部屋へと戻る事にした。
その日は襲撃者が回収された以外は特に何も起こらなかったが、もしも今の王子たちの味方が居ない状態でまた襲撃される事があっても対処できる様にと明日信頼できる人物の選定が終わるまでアリアが付きっきりで王子の護衛を出来ないかと打診がきた。
『嫌よ、ヴァンと離れなければいけないなんて』
「大丈夫だ、フォレストは暫く泊りがけで仕事するから」
「えっ」
『うーん、それなら』
「えっ」
こうしてヴァン本人の意思は華麗に無視されアリアによる警護は延長される事になった。
夜
誰しもが寝静まり暗闇と静寂が広がる後宮の庭園の芝生を踏む者がいた。
その人物は庭園の中ほどまで行くと辺りを見渡し口を開く。
「精霊さん……そこに、いますよね?」
『あら、よく分かったわね?』
ふわりと姿を現したアリアに王子はホッとした顔をする。
「痛みのせいで見た幻覚だったらどうしようと思いましたが、やっぱり貴女が僕を助けてくれたんですね」
『そうよ、ほんとうはすがたをみせてはいけないのだけれども』『あのときはそうするのがさいぜんだったから』
「そうだったんですね、ありがとうございます」
『おさないこどもを守るのはおとなのしごと』
「大人の仕事…………ですか」
アリアの言葉に王子は眉をしかめる。
「一体、何が目的ですか?」
『もくてき?』
「何の見返りも無く僕を助ける理由が無いです」
『なぜ?』
「僕を助けても何も得をしないからです。
僕は兄妹たちの中で継承権が一番低いですし、助けても他の姉様や兄様たちの不評を買うだけですからね」
『わたしのもくてきはきみたちおやこをまもること』
「どうしてですか?」
『れいがんは、くにのたからだから』
「……母上から聞きました、僕の目がどれほど貴重なのかを。……やっぱり利用するためなんですね」
『それと、よわきものはまもられるものだから』
「フンッ……取ってつけたような理由ですね」
『きみをまもりたい』
「…………」
『どうおもうかはきみのじゆう、わたしはかってにまもるだけ』
「…………」
アリアの言葉に何も返さず、王子は踵を返すと自分の部屋へと戻って行った。
それを陰から護衛しつつ、アリアは二桁にも満たない幼い子供があれだけ人間不信を拗らせている現状に、その小さな体に一体どれだけの悪意をぶつけられたのかと王子の周囲の人間に怒りを抱いたのだった。
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