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3st脱出
3st脱出ーその6-
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追悼を終えたアリアはサイドチェストのベルを鳴らす。
レインへの復讐を果たすために、そのためにもまずは力を付けなくては。
昨日とはまた違う侍女が朝食を運び今日の世話係だと挨拶をする。
それに鷹揚に頷き、食事を済ませて侍女を隣室へと引っ込ませる。
倦怠感が取れたお陰で震える足と痛む腰でも何とか鞭打ってベッドから立つ事ができた。
漸く周囲の探索ができるようになったので、一番気になっていた足枷の鎖が続いているベッドの足元へと移動する。
鎖の端には輪が付いていてそれはベッドの足を通すようになっており、持ち上げて外そうにも釘で床にしっかりと固定されて持ち上げる事は不可能になっている。
窓は開ける事はできるが鉄格子が嵌っており、受肉している今の状態ではこの格子の幅ではすり抜ける事はできない。
隣室へのドア以外にあった扉の先はお手洗いと浴室だった。
そのどちらにも窓はない。
出入り口は一つだけ、こっそり試してみたが扉は施錠されていた。
例え施錠されていなくとも外には見張りの兵がいる。
昨日の侍女が呼びかけられて気付いたが、兵士は女性のようだ。
その事実にまあ、あのレインだし私の傍に男を置く訳がないわよねと納得する。
隣室から出入りする事は可能だろうか?
いや、今日までの様子を見るに彼女達は外へ用事がある時は必ずこの部屋のドアから出ていた様に見えた。
もしかしたら隣室もこの部屋と同じ造りになっているかもしれない。
それでも一応は機会を伺って突撃してみよう。
あるとは思えないけれど、この部屋の床や壁に何か脱出の手掛かりはないだろうか。
そう考えながら一通り叩いたり歩いてみたけれども、やっぱりそう旨い話があるわけなかった。
(となるとやはりあの唯一の出入り口が脱出の鍵よね)
ベッドに腰掛け、ジッとドアを見つめる。
女性とは言え、相手は鍛えている現役兵士だ。
今まで精霊術を使った戦闘しかした事のないアリアにどうにかできる相手ではない。
(そうだ、今の私には彼女から貰った魔力があったわ!)
ベッドに横になり魔力の流れを辿る。
今度こそと精霊術を使おうとしたが、魔力は蓋がされているかのように外に放出される前に肉体の外壁に反射し、内へと戻ってしまう。
これが体内でグルグルと魔力が回っているだけだとアリアが感じていた原因だ。
原因は分かっても何度試しても結果は変わらなかった。
外への放出の仕方が分かるのだから、この身体も元々は外へ魔力を放出していたはずだ。
一般的な家庭で育った人間であれば、魔道具の使用に少なからず魔力を使用しているはずだし、使用する為には体外への魔力の放出ができなくては話にならない。
思い返せば、この身体に憑依してからまだ一度も魔道具を使用していない。
(この部屋の何処かにないかしら)
ベッドの上から周囲を見渡すと、サイドチェストの上に小さなランプがあるのに気が付いた。
手に取ってみると明かりを灯す魔道具で間違いない。
「灯よ」
手を触れ、明かりを灯す呪文を唱えるがランプが灯る事はない。
何度か試し、魔力の流れを意識して行ってみたが結果は変わらず。
通常この手の魔道具は魔力を少量でも保有していれば反応するようになっているのだが、アリアが憑依したせいかうんともすんとも言わない。
ランプを元の場所に戻す。
何故魔力が上手く放出されないのか全く見当もつかない。
前途多難さに溜息が出そうだが、それならばと発想を変える事にした。
外に出せないのであれば中で使う事は出来ないだろうか?
例えば、身体強化。
大地の精霊が得意とする精霊術で、一時的に身体能力を向上させる。
これを使って見張りの騎士を倒し、逃走させるのが一番手っ取り早そう。
(問題は、私にそれが仕えるかどうかだけれど……。
と言うかそもそも、身体強化はどういう魔力の流れをすれば?)
アリアはあれこれ思惑しながら身体に魔力を流してみるが、どうにもしっくりこない。
それどころか、
「痛っ!」
魔力を操作していると指先に痛みが走った。
見ると右の中指がぱっくりと割れてしまっている。
「奥様? どうなさいましたか?」
アリアの声に隣室にいた侍女が入って来た。
傍に寄り、割れた指先を見つけて血相を変える。
「まあ!大変!!直ぐに手当てをっ!!」
「この位、平気よ」
「そう言う訳にはまいりませんっ!」
侍女が慌てて部屋を出ていく。
(別にこの程度の怪我、放っておけばその内直るのに……ん?)
今が隣室を除く絶好の機会では?
そう思い至ったアリアは直ぐさま立ち上がり、隣室への扉へと向かう。
あと少しで扉に手が届く、その距離で足の鎖が限界を迎えつんのめった。
あわや顔面から転倒しそうになるのを何とか堪える。
「ふんっ!このっ!!」
足と手を限界まで伸ばしてみるが、あと少しの所で届かない。
肩で息をしながらアリアは理解した。
何はともあれこの鎖をなんとかしなければ何もできないと。
諦めてさっきと同じくベッドに腰掛けたところで侍女が医者を連れて戻って来た。
ギリギリだったわねと胸を撫でおろし大人しく診断を受ける。
「ふむ、乾燥して割れてしまったようだね。
部屋の保湿を入念に行い、この軟膏を塗れば直ぐに治るさ」
「乾燥?」
首を傾げるアリアに医師が説明をする。
「ああ、空気の湿度が低いと皮膚から水分が抜けて割れやすくなるんだよ。
雨が長く振らない大地が割れるようにね」
「へえ」
人間の体は乾燥すると割れるのか。
指先をまじまじと見る様子に医師は笑い、軟膏を塗って包帯を巻く。
「取り敢えずはこれで良し。
一晩このままにして明日からさっき渡した軟膏を最低限半日に一回は塗る様にしてくれ」
「はい、ありがとうございました」
侍女が深々と頭を下げ、医師を見送る。
それを横目にアリアは興味深そうに治療された指を見つめていた。
レインへの復讐を果たすために、そのためにもまずは力を付けなくては。
昨日とはまた違う侍女が朝食を運び今日の世話係だと挨拶をする。
それに鷹揚に頷き、食事を済ませて侍女を隣室へと引っ込ませる。
倦怠感が取れたお陰で震える足と痛む腰でも何とか鞭打ってベッドから立つ事ができた。
漸く周囲の探索ができるようになったので、一番気になっていた足枷の鎖が続いているベッドの足元へと移動する。
鎖の端には輪が付いていてそれはベッドの足を通すようになっており、持ち上げて外そうにも釘で床にしっかりと固定されて持ち上げる事は不可能になっている。
窓は開ける事はできるが鉄格子が嵌っており、受肉している今の状態ではこの格子の幅ではすり抜ける事はできない。
隣室へのドア以外にあった扉の先はお手洗いと浴室だった。
そのどちらにも窓はない。
出入り口は一つだけ、こっそり試してみたが扉は施錠されていた。
例え施錠されていなくとも外には見張りの兵がいる。
昨日の侍女が呼びかけられて気付いたが、兵士は女性のようだ。
その事実にまあ、あのレインだし私の傍に男を置く訳がないわよねと納得する。
隣室から出入りする事は可能だろうか?
いや、今日までの様子を見るに彼女達は外へ用事がある時は必ずこの部屋のドアから出ていた様に見えた。
もしかしたら隣室もこの部屋と同じ造りになっているかもしれない。
それでも一応は機会を伺って突撃してみよう。
あるとは思えないけれど、この部屋の床や壁に何か脱出の手掛かりはないだろうか。
そう考えながら一通り叩いたり歩いてみたけれども、やっぱりそう旨い話があるわけなかった。
(となるとやはりあの唯一の出入り口が脱出の鍵よね)
ベッドに腰掛け、ジッとドアを見つめる。
女性とは言え、相手は鍛えている現役兵士だ。
今まで精霊術を使った戦闘しかした事のないアリアにどうにかできる相手ではない。
(そうだ、今の私には彼女から貰った魔力があったわ!)
ベッドに横になり魔力の流れを辿る。
今度こそと精霊術を使おうとしたが、魔力は蓋がされているかのように外に放出される前に肉体の外壁に反射し、内へと戻ってしまう。
これが体内でグルグルと魔力が回っているだけだとアリアが感じていた原因だ。
原因は分かっても何度試しても結果は変わらなかった。
外への放出の仕方が分かるのだから、この身体も元々は外へ魔力を放出していたはずだ。
一般的な家庭で育った人間であれば、魔道具の使用に少なからず魔力を使用しているはずだし、使用する為には体外への魔力の放出ができなくては話にならない。
思い返せば、この身体に憑依してからまだ一度も魔道具を使用していない。
(この部屋の何処かにないかしら)
ベッドの上から周囲を見渡すと、サイドチェストの上に小さなランプがあるのに気が付いた。
手に取ってみると明かりを灯す魔道具で間違いない。
「灯よ」
手を触れ、明かりを灯す呪文を唱えるがランプが灯る事はない。
何度か試し、魔力の流れを意識して行ってみたが結果は変わらず。
通常この手の魔道具は魔力を少量でも保有していれば反応するようになっているのだが、アリアが憑依したせいかうんともすんとも言わない。
ランプを元の場所に戻す。
何故魔力が上手く放出されないのか全く見当もつかない。
前途多難さに溜息が出そうだが、それならばと発想を変える事にした。
外に出せないのであれば中で使う事は出来ないだろうか?
例えば、身体強化。
大地の精霊が得意とする精霊術で、一時的に身体能力を向上させる。
これを使って見張りの騎士を倒し、逃走させるのが一番手っ取り早そう。
(問題は、私にそれが仕えるかどうかだけれど……。
と言うかそもそも、身体強化はどういう魔力の流れをすれば?)
アリアはあれこれ思惑しながら身体に魔力を流してみるが、どうにもしっくりこない。
それどころか、
「痛っ!」
魔力を操作していると指先に痛みが走った。
見ると右の中指がぱっくりと割れてしまっている。
「奥様? どうなさいましたか?」
アリアの声に隣室にいた侍女が入って来た。
傍に寄り、割れた指先を見つけて血相を変える。
「まあ!大変!!直ぐに手当てをっ!!」
「この位、平気よ」
「そう言う訳にはまいりませんっ!」
侍女が慌てて部屋を出ていく。
(別にこの程度の怪我、放っておけばその内直るのに……ん?)
今が隣室を除く絶好の機会では?
そう思い至ったアリアは直ぐさま立ち上がり、隣室への扉へと向かう。
あと少しで扉に手が届く、その距離で足の鎖が限界を迎えつんのめった。
あわや顔面から転倒しそうになるのを何とか堪える。
「ふんっ!このっ!!」
足と手を限界まで伸ばしてみるが、あと少しの所で届かない。
肩で息をしながらアリアは理解した。
何はともあれこの鎖をなんとかしなければ何もできないと。
諦めてさっきと同じくベッドに腰掛けたところで侍女が医者を連れて戻って来た。
ギリギリだったわねと胸を撫でおろし大人しく診断を受ける。
「ふむ、乾燥して割れてしまったようだね。
部屋の保湿を入念に行い、この軟膏を塗れば直ぐに治るさ」
「乾燥?」
首を傾げるアリアに医師が説明をする。
「ああ、空気の湿度が低いと皮膚から水分が抜けて割れやすくなるんだよ。
雨が長く振らない大地が割れるようにね」
「へえ」
人間の体は乾燥すると割れるのか。
指先をまじまじと見る様子に医師は笑い、軟膏を塗って包帯を巻く。
「取り敢えずはこれで良し。
一晩このままにして明日からさっき渡した軟膏を最低限半日に一回は塗る様にしてくれ」
「はい、ありがとうございました」
侍女が深々と頭を下げ、医師を見送る。
それを横目にアリアは興味深そうに治療された指を見つめていた。
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