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3st脱出
3st脱出ーその7-
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「アリア!!」
「っ!!」
血相を変えて部屋へと入って来たレインにアリアは肩を揺らす。
驚いた拍子に飲んでいた蜂蜜紅茶が器官に入り、咽る。
「ああ!すまない!!大丈夫?!」
レインは慌てて傍に寄りアリアの背中を撫でた。
咳が止まるまでそれを続け、落ち着いたアリアをそっと抱き締める。
「君が怪我をしたと聞いて心臓が止まるかと思ったよ。
部屋が乾燥していて指が割れてしまったんだって?
部屋の空調管理を怠ったあの侍女は処分したし、もう二度とこんなことが無いように厳命したからこれからは大丈夫だよ。
安心してここで暮らしてね」
「処分?」
「ああ、気にしなくて良いから。
任された仕事も満足にこなせないような奴を君の傍におく訳にはいかないからね。
可哀想に、痛かっただろう?」
「はぐらかさないで、彼女に何をしたの?!」
アリアが指先に口付けをするレインを払いのけ、睨むとレインは笑顔を返す。
「君が心配しなくて良いよ。
処分と言ってもただ首にしただけだから」
「本当でしょうね?」
「うん、本当だとも。僕がアリアに嘘を吐いた事があったかい?」
「……」
眉根を下げ、そう問いかけてくるレインにいつかの幼い日の姿が重なる。
その幻影をアリアは強く瞼を閉じる事でかき消す。
アリアが愛した者は全て失われた。
陽だまりの中で出会った愛しいヴァン、一人で泣いていた幼いレイン。
アリアが慈しみ、愛を注いだ者達は既にいない。
愛しいヴァンはアリアの隣から姿を消し、幼いレインは見るも悍ましい存在へと変貌した。
いくら過去の面影が残っていようと、今のレインはかつて共に過ごし慈しみを持って育てていた彼とは違う。
今のレインならばアリアのためどと言う理由だけで躊躇なく命を奪う。
「今後、私に関することで侍女たちに罰を与えるのは止めてちょうだい。
人間の体の事なんて私には分からないし、普通の人間は他人の体のことなんて普通わからないものなのでしょう。
私の体が割れるだなんて思わないじゃない」
「いいや、彼女たちは人間の体に慣れていないアリアの為に用意した侍女だ。
求められた仕事をこなせないのならここにいる資格はないんだよ」
「だとしても、実際にお世話をされている私が気にしなくて良いと言っているのよ?
ああ、レインは私が彼女たちが罰を受けないかをずっと気にしていた方がいいのね」
アリアの言葉にレインは降参だと両手を上げた。
「アリアには敵わないな。
分かったよ、君の侍女には罰を与えないと約束する。
兎に角、アリアは今日は安静にしていて。
僕はちょっと仕事があって今日は一緒に寝れないけれども、明日はちゃんと一緒に寝れるように頑張るから!」
「一生頑張らなくて良いわ」
「うん!頑張るね!」
子供の様に笑顔で手を振って部屋を出ていくレインを無視してアリアはベッドの中へと潜り込む。
あれから新しくやって来た侍女には夕食時になったら起こすようにとそれまでそっとしておいて欲しいと言ってある。
今から夕食時までは誰の邪魔も入らない。
瞼を閉じ、体内の魔力に意識を集中させる。
受肉したとしても自分は風の精霊だ。
ただの人間ではできない事もできるはず。
この身体の持ち主の意思も託されたのだから、ただ一度の失敗で諦める訳にはいかない。
『部屋の空調管理を怠ったあの侍女は処分した』
レインのあの言葉を思い出し、胸が痛んだ。
侍女に罰を与えないとは約束させたけれども、これからもアリアが魔力を使おうとして怪我をすれば彼女達が犠牲になる可能性は拭いきれない。
それでも、彼女達の命を危険に晒してでも、アリアには何としてもレインに復讐すると言う果たすべき使命がある。
アリアは、こんな言い訳じみた事を考えている自分に嘲笑した。
これではまるで自分一人を召喚する為に何人もの精霊と人間の命を犠牲にしてきたレインと同じではないか。
所詮、似た者同士だとでも言うのか。
(いいえ……いいえ!私はあいつとは違うわ!)
要するにアリアが怪我をするから彼女達に危害が加わるのだ、怪我をしないようにもっと緻密に魔力を操作させればいい。
(ヴァンの能力制限で微調整は散々やってきたじゃない。
ここで今までの経験を生かさずしてどこで生かすって言うのよ!)
もっと、もっと集中して。
体内の魔力の流れ、血のように全身を流れているそれを毛髪の先から爪先、隅々まで感知する。
こんなものではまだ足りない。
内臓の奥の奥まで魔力は流れている。
どこで魔力は作られ、どうやって動いているのか。
今まで無意識に行っていた魔力の操作。
その無意識を全て意識領域へと引き上げる。
体が震え、額にうっすらと汗が噴き出る。
まだ、あともう少し。
血の、細胞の、遺伝子の微に入り細をわたるまでこの体の全てを掌握する。
やがて、不意に目の前が開けるような感覚をアリアは覚える。
魔力を、どうやって、どの量まで、どうすれば、自分が望むようにできるのか。
分かってしまえば何故今まで自分はこれが出来なかったのだろうと思える程に、体内の魔力は自在に動く。
その状態で再度、魔力を外へ流せないか試してみたが、やはり肉体の外壁に阻まれるかのように魔力は反射される。
これはもう、そう言うものだと諦めるしかない。
けれども、これでどうすれば良いのか方向性は見えた。
「奥様、夕食のお時間でございます」
侍女の声に瞼を開く。
背中を支えられながらベッドから身を起こすと重湯とは違う匂いがした。
匂いに釣られてクルルルと鳴るお腹を押さえて視線をテーブルに向ける。
瑞々しい野菜のサラダとカリカリに焼かれたベーコン、綺麗な黄色のスクランブルエッグに焼きたてのバターパンと細かく刻んだ根菜が煮込まれたスープ、デザートに果物とこの国の一般家庭で摂られる朝食のメニューだ。
とても見覚えのあるメニューに僅かにアリアが目を見開く。
これは、王族の食事としては質素極まりないがレイン母子の朝食はいつもこのメニューだった。
「お体の方もお食事に対して問題ないようでしたので今回からは重湯ではなく軽いメニューをご用意いたします。
本来ならば朝食のメニューなのですが、本日のメニューはレイン様からのご指名でこの様になっております」
「……そう」
色々と思うところはあるが、食べ物に罪はない。
溜息を吐き、まずはともあれ補給は大事だと考え食事に手を付ける。
(見ていなさい、レイン)
必ず、目に物を見せてやる。
・・・・・・・・・・
✻✻✻
「申し訳ございません!申し訳ございません!」
鞭打ちをされながら必死で謝罪を繰り返す侍女をレインは冷たい目で見下ろす。
己の何よりも大事なアリアの身体に傷をつけたのだ、この程度では生ぬるい。
「あと100追加しろ」
「ですが、それですとあの者が死んでしまいます」
「構わん、死んだら他の使用人どもにでも晒しておけ、失態を起こしたら自分がこうなると、な」
アリアには彼女の侍女には罰を与えないと約束した。
あの約束をした段階ですでにこの侍女はアリアの担当を外れており、彼女の侍女ではなかった。
だから彼女の侍女には罰を与えないと言う約束は違えていない。
約束は違えていないのだから、犯した罪には罰を与えなくては。
「っ!!」
血相を変えて部屋へと入って来たレインにアリアは肩を揺らす。
驚いた拍子に飲んでいた蜂蜜紅茶が器官に入り、咽る。
「ああ!すまない!!大丈夫?!」
レインは慌てて傍に寄りアリアの背中を撫でた。
咳が止まるまでそれを続け、落ち着いたアリアをそっと抱き締める。
「君が怪我をしたと聞いて心臓が止まるかと思ったよ。
部屋が乾燥していて指が割れてしまったんだって?
部屋の空調管理を怠ったあの侍女は処分したし、もう二度とこんなことが無いように厳命したからこれからは大丈夫だよ。
安心してここで暮らしてね」
「処分?」
「ああ、気にしなくて良いから。
任された仕事も満足にこなせないような奴を君の傍におく訳にはいかないからね。
可哀想に、痛かっただろう?」
「はぐらかさないで、彼女に何をしたの?!」
アリアが指先に口付けをするレインを払いのけ、睨むとレインは笑顔を返す。
「君が心配しなくて良いよ。
処分と言ってもただ首にしただけだから」
「本当でしょうね?」
「うん、本当だとも。僕がアリアに嘘を吐いた事があったかい?」
「……」
眉根を下げ、そう問いかけてくるレインにいつかの幼い日の姿が重なる。
その幻影をアリアは強く瞼を閉じる事でかき消す。
アリアが愛した者は全て失われた。
陽だまりの中で出会った愛しいヴァン、一人で泣いていた幼いレイン。
アリアが慈しみ、愛を注いだ者達は既にいない。
愛しいヴァンはアリアの隣から姿を消し、幼いレインは見るも悍ましい存在へと変貌した。
いくら過去の面影が残っていようと、今のレインはかつて共に過ごし慈しみを持って育てていた彼とは違う。
今のレインならばアリアのためどと言う理由だけで躊躇なく命を奪う。
「今後、私に関することで侍女たちに罰を与えるのは止めてちょうだい。
人間の体の事なんて私には分からないし、普通の人間は他人の体のことなんて普通わからないものなのでしょう。
私の体が割れるだなんて思わないじゃない」
「いいや、彼女たちは人間の体に慣れていないアリアの為に用意した侍女だ。
求められた仕事をこなせないのならここにいる資格はないんだよ」
「だとしても、実際にお世話をされている私が気にしなくて良いと言っているのよ?
ああ、レインは私が彼女たちが罰を受けないかをずっと気にしていた方がいいのね」
アリアの言葉にレインは降参だと両手を上げた。
「アリアには敵わないな。
分かったよ、君の侍女には罰を与えないと約束する。
兎に角、アリアは今日は安静にしていて。
僕はちょっと仕事があって今日は一緒に寝れないけれども、明日はちゃんと一緒に寝れるように頑張るから!」
「一生頑張らなくて良いわ」
「うん!頑張るね!」
子供の様に笑顔で手を振って部屋を出ていくレインを無視してアリアはベッドの中へと潜り込む。
あれから新しくやって来た侍女には夕食時になったら起こすようにとそれまでそっとしておいて欲しいと言ってある。
今から夕食時までは誰の邪魔も入らない。
瞼を閉じ、体内の魔力に意識を集中させる。
受肉したとしても自分は風の精霊だ。
ただの人間ではできない事もできるはず。
この身体の持ち主の意思も託されたのだから、ただ一度の失敗で諦める訳にはいかない。
『部屋の空調管理を怠ったあの侍女は処分した』
レインのあの言葉を思い出し、胸が痛んだ。
侍女に罰を与えないとは約束させたけれども、これからもアリアが魔力を使おうとして怪我をすれば彼女達が犠牲になる可能性は拭いきれない。
それでも、彼女達の命を危険に晒してでも、アリアには何としてもレインに復讐すると言う果たすべき使命がある。
アリアは、こんな言い訳じみた事を考えている自分に嘲笑した。
これではまるで自分一人を召喚する為に何人もの精霊と人間の命を犠牲にしてきたレインと同じではないか。
所詮、似た者同士だとでも言うのか。
(いいえ……いいえ!私はあいつとは違うわ!)
要するにアリアが怪我をするから彼女達に危害が加わるのだ、怪我をしないようにもっと緻密に魔力を操作させればいい。
(ヴァンの能力制限で微調整は散々やってきたじゃない。
ここで今までの経験を生かさずしてどこで生かすって言うのよ!)
もっと、もっと集中して。
体内の魔力の流れ、血のように全身を流れているそれを毛髪の先から爪先、隅々まで感知する。
こんなものではまだ足りない。
内臓の奥の奥まで魔力は流れている。
どこで魔力は作られ、どうやって動いているのか。
今まで無意識に行っていた魔力の操作。
その無意識を全て意識領域へと引き上げる。
体が震え、額にうっすらと汗が噴き出る。
まだ、あともう少し。
血の、細胞の、遺伝子の微に入り細をわたるまでこの体の全てを掌握する。
やがて、不意に目の前が開けるような感覚をアリアは覚える。
魔力を、どうやって、どの量まで、どうすれば、自分が望むようにできるのか。
分かってしまえば何故今まで自分はこれが出来なかったのだろうと思える程に、体内の魔力は自在に動く。
その状態で再度、魔力を外へ流せないか試してみたが、やはり肉体の外壁に阻まれるかのように魔力は反射される。
これはもう、そう言うものだと諦めるしかない。
けれども、これでどうすれば良いのか方向性は見えた。
「奥様、夕食のお時間でございます」
侍女の声に瞼を開く。
背中を支えられながらベッドから身を起こすと重湯とは違う匂いがした。
匂いに釣られてクルルルと鳴るお腹を押さえて視線をテーブルに向ける。
瑞々しい野菜のサラダとカリカリに焼かれたベーコン、綺麗な黄色のスクランブルエッグに焼きたてのバターパンと細かく刻んだ根菜が煮込まれたスープ、デザートに果物とこの国の一般家庭で摂られる朝食のメニューだ。
とても見覚えのあるメニューに僅かにアリアが目を見開く。
これは、王族の食事としては質素極まりないがレイン母子の朝食はいつもこのメニューだった。
「お体の方もお食事に対して問題ないようでしたので今回からは重湯ではなく軽いメニューをご用意いたします。
本来ならば朝食のメニューなのですが、本日のメニューはレイン様からのご指名でこの様になっております」
「……そう」
色々と思うところはあるが、食べ物に罪はない。
溜息を吐き、まずはともあれ補給は大事だと考え食事に手を付ける。
(見ていなさい、レイン)
必ず、目に物を見せてやる。
・・・・・・・・・・
✻✻✻
「申し訳ございません!申し訳ございません!」
鞭打ちをされながら必死で謝罪を繰り返す侍女をレインは冷たい目で見下ろす。
己の何よりも大事なアリアの身体に傷をつけたのだ、この程度では生ぬるい。
「あと100追加しろ」
「ですが、それですとあの者が死んでしまいます」
「構わん、死んだら他の使用人どもにでも晒しておけ、失態を起こしたら自分がこうなると、な」
アリアには彼女の侍女には罰を与えないと約束した。
あの約束をした段階ですでにこの侍女はアリアの担当を外れており、彼女の侍女ではなかった。
だから彼女の侍女には罰を与えないと言う約束は違えていない。
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