ヤンデレ王子と風の精霊

東稔 雨紗霧

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1st監禁

1st監禁-その8-

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 「アリア、これ凄く美味しいです! ありがとうございます!」
 『レインのお口にあったようで良かったわ。たくさん買って来たからたくさん食べてちょうだいね』
 「はい! それとお人形もありがとうございます!」
 『レインは男の子だし普通の人形よりも兵隊人形の方が良いかと思ったの。この国との兵との装いの違いもわかって勉強にもなるだろうってヴァンが』
 「……そうなんですか? 確かに王宮でみる兵士の制服とは随分様式は違いますね」


 テーブルに侍女が用意した紅茶とアリアがお土産で持ってきた焼菓子が並べられ、それをレインは笑顔で食べている。
 兵隊人形の話の時に妙な間はあった気はしたが顔は笑顔のままだったので気のせいかしらとアリアは内心首を傾げる。
 帰ってきたアリアにレインが泣きついたあの日から彼の態度は激変した。
 それまでの張りつめていたまず雰囲気が柔らかくなり、表情を浮かべるようになった。
 それから


 「アリア、アリア」
 『はい、何かしら?』
 「ふふふ、呼んだだけー」
 『そうなの』


 アリアの体に合わせて作っている空気の塊にレインは笑顔で抱き着く。


 「アリア、アリア」
 『はい?』
 「頭撫でて」
 『ええ、良いわよ』


 レインは甘えん坊になった。
 これまでのアリアはレインが勉強や鍛錬をする時は邪魔しない様にただ見守るだけで姿を現さない様にしていたが、レインは授業でも横に居て欲しいとアリアにお願いした。
 又、ことある事にアリアに抱き着きたがり、頭を撫でて欲しがった。
 寝る時には手を握って欲しいとお願いされた事もあった。
 ヴァンと契約したのが彼が7歳の時と言うのもあってアリアは子供が好きだ。
 ツンツンした子も良いが思い切り甘えてくれる子も大好きだ。
 レインが可愛らしく甘える度にときめく胸の導くままにアリアはレインを甘やかす。
 契約時のヴァンと同い年である事が判明すると更に全力で甘やかす様になった。
 彼の母親がそうしていた様に何かを頑張ったら必ず頭を撫でながら褒めて。
甘やかして甘やかして、甘やかしてはいけない所はしっかりと叱って。
 そうして徐々にレインは母親を失ったショックから立ち直っていく。

 3カ月が過ぎる頃には母親の死との折り合いも心の整理もしっかりと終わり、レインの精神は安定した。
 泣きもせず、ただ人形の様に日々を過ごしていたレインを心配していたアリアは心の底から安堵した。
 これならもう大丈夫だ、と。


 〔と言う事でこれからは少しずつヴァンと一緒にいる時間を増やしていくわね〕
 「まあ、俺は構わないさ。元々王子が立ち直るまでの間だけの予定だったしな」


 目の下に濃い隈を抱えているヴァンが栄養剤を飲みながらホッとした表情を浮かべた。
 ここ最近、殺人的な仕事の忙しさでヴァンたちは昼夜を問わずに働いていた。
 ヴァンの報告を受けた上司はすぐさまヴァンの身の安全確保の為に動き出したが内通者は相当上の地位にいるらしく上司の命も狙われだした。
 更に、隣国との国境近くの領地にある軍の中で最近あった汚職の事も隣国と通じていた者が関係していたらしくその案件を担当していた先輩であるラノンもついでとばかりに標的にされ、現在はアリアが警護しやすいからと言う理由で3人とも仲良く良く場に寝泊まりしている現状である。
 仮眠所の隅にはベッドの他に簡易的に調理ができる様に道具が置かれ、現在では3人で当番制で食事を作っている。
 食堂で食べる事も出来るが、毒が混入される可能性がある恐怖のロシアンルーレットが開催されている可能性もあるので遠慮している。
 5日に1度の頻度で協力者から食材などを提供して貰っているので何とか成り立っている現状だ。

 ヴァンたちはアリアや協力者たちから集められる情報を元に内通者を割り出し、その証拠固めに翻弄されていた。
 仮眠所にあるベッドはあくまでも仮眠用として設置されているベッドなので完全には疲れが取れにくい。
 更に昼夜問わずに命を狙われている事に対して行われる警戒。
 常に張り詰めた生活は既に三ヶ月続いてる。
 アリアの自由な時間が出来ればその分ヴァンたちの警護に回る事ができ、多少は気を抜くことができるようになるだろう。
 アリアがもう大丈夫と判断した日から魔力供給以外は一緒からレインが寝るまで一緒に変わり、それが夜までに変わり、徐々に以前の様な勤務体制へと変わっていったある日、毎日の授業が終わってから部屋でくつろいでいるとレインが口を少し尖らせながらアリアに言った。


 「最近、アリアといる時間が少なくなってきていますが前と同じように一緒にはいられないのですか? 寂しいです」
 『ごめんなさい、それは無理よ』
 「どうしてですか?」
 『ヴァンの仕事が忙しいの』『私の契約者はヴァンだから』『私はヴァンと一緒にいなくてはいけないのよ』
 「……僕の、王族の警護の名目でもダメなのですか?」
 『そうね、精霊にとっては契約者以外の人間に違いは』『さして違いはないし興味もないから』『王族よりもヴァンを取るわ』
 「僕はアリアにとってはどうでもいい人間なのですか?」
 『いいえ、レインは別よ』
 「それなら」
 『だからこそこうして私が警護しているの』『レインじゃなければとっくに全ての警護を』『眷属に任せてヴァンの傍にいるわよ』
 「……そうなんですね……でも、寂しいです」
 『私が傍にいない時は眷属が傍にいるから何かあったらちゃんと来るわよ?』『それに侍女たちも傍にいるから大丈夫』
 「そういう意味じゃないです……」


 レインは一人じゃないと言ったつもりだったが寂しそうに首を横に振ったレインにアリアは首を傾げる。
 母親が死んだ事に対する気持ちの整理が終わりレインはもう立ち直っているはずだ。
 亡くなった母親との約束通りアリアは毎日傍に居るし、離れても傍には眷属と侍女がいて一人になる事が無い様にはしてある。
 レインが一人になるとしたら本人がそう望むか周囲がそうした方が良いと判断した時位だ。
 以前のレインの時はそっとしておいた方が良いと周囲が判断して部屋に人はいなかったがそれでも何かあったら直ぐに対処できるようにドア一枚隔てた先には必ず人がいる様にはなっていた。
 レインもそれを知っているはずなのだけれどとアリアは困惑した。


 「あ、それなら。僕とアリアが契約したらもっと一緒にいられる様になりますか?」
 『無理ね』
 「……どうして?」


 泣き出しそうな顔をしたレインにアリアは慌てて草を操る。


 『私はもうヴァンと契約したから重複で契約はできないの』
 「それなら、解除してから僕と契約するのはどうですか?」
 『解除したら私をこの世界に止める楔が無くなって帰還する事になるわ』
 「じゃあ、アリアをもう一回召喚すれば」
 『いいえ、それは不可能よ』


 アリアの言葉にレインは首を傾げた。


 『精霊を召喚して契約する事は可能だけれども』『精霊の中の一個人を指定して召喚する事は不可能なの』
 「それじゃあ、アリアが帰還したらもう会えなくなるって事ですか?」
 『そうなるわね』
 「……」


 アリアの言葉にしばらく考え込んだレインはやがて、ゆっくりと頷いた。


 「分かりました、我が儘を言ってすみませんでした。我慢します」
 『分かってくれてありがとう。ごめんなさいね』
 「いいえ、仕方がないことですから」


 先ほどまでとは違いすっきりとした顔のレインはいつもの通りアリアに抱き着き、にっこりと笑った。
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