9 / 47
1st監禁
1st監禁-その9-
しおりを挟む
次の日からレインは時間が空いたら図書館に入り浸る様になった。
何を調べているのかと尋ねたアリアにレインはにっこりと笑いながら「精霊の事です」と答えた。
「僕はアリアたち精霊の事を何も知りません。だからこの間もアリアに対して無理を言って困らせてしまいました。なのでこれから勉強しようと思ったんです」
『なるほど、レインは勤勉ね』
「ありがとうございます」
アリアに褒められて嬉しそうに頬を染めたレインはまた黙々と手にした書物に目を通し、時々メモをしていく。
アリアも昔ヴァンと一緒に読んだ事を思い出し懐かしみながら後ろから覗き込み、一緒に読んでいく。
ヴァンの時よりも精霊に関する書物は増え、アリアにとっても新しい発見が多く、得る物の多い日々が続いてく。
アリアは普通の精霊とは違う。
彼女は他の精霊の様に召喚されたり気まぐれで自主的に精霊界から降りたのではなく、たまたま足を滑らしてこの世界に落ちてきたうっかり者な精霊だ。
彼女の様な精霊は極稀に存在し、その大多数が落ちた衝撃で記憶喪失に陥り易く、彼女ももれなくその一人だった。
たまたま落ちた衝撃でぼんやりしている中、幼子の泣き声につられてフラフラと歩いて行った先に幼いヴァンがいた。
霞がかる意識の中泣いている幼子を泣き止ませなければと思い、話しかけるが霊眼を持っていないヴァンにはアリアの姿は見えず、又、契約していないので声も届かない。
辛うじて文字は覚えていたので草花を操って文字を浮かべるも文字を学べる様な環境で育ってはいなかったヴァンにはただ空中に浮かんだ不思議な模様でしかない。
会話は出来なかったが不思議な現象に目をまん丸にし、泣き止んだヴァンに気を良くしたアリアは空中に草花で次々と動物の姿を作り出し、それを動かしていく。
目の前で起こる楽しくも不思議な現象にヴァンはあっという間に虜になり、手を叩いて喜んだ。
文字での意思疎通を諦めたアリアは絵で己の存在を認識させ、ヴァンとの意思疎通を行う様になる。
精霊との契約は契約者が精霊に対して名を授け、その名を精霊が受け入れる事で結ばれる。
だが、二人の契約に関してはアリアは記憶喪失、ヴァンは精霊については何も知らず、本人たちにはそんなつもりもなく全くの偶然で結ばれた。
二人で共に森で生活し、その日々でアリアによって文字を学んだヴァンがある日、いつまでも精霊さんと呼ぶのも変だよなと言い出したのに対してじゃあヴァンが名前を付けてよとアリアが言った流れで契約は結ばれたのだ。
突然目の前に水色に近い薄緑色の髪を持ち、薄いヴェールを幾重にも重ねて作った布の様な服を身にまとっている裸足の美女が現れたヴァンは慌てふためき、人目に付かない様に河原で話していたのが仇となり足をよろめかした拍子に川に落ちた。
いきなり慌て出して川に落ち、流されていくヴァンにアリアは慌てた。
急いでヴァンを助けたのをアリアは昨日の事の様に覚えている。
それからしばらくしてヴァンが精霊と契約している事が広がり、城から使いがやって来て紆余曲折を経て宮廷精霊術師ではなく文官として城に勤務している今に繋がる。
最初の頃はアリアもヴァンも精霊の事に関しては無知なので宮廷精霊術師に教わったり城の図書館にある書物を読んだりして契約や制約のかけ方、精霊への魔力の供給方法などを学んでいった。
契約を結んだばかりの頃は魔力の供給方法などは知らなかったが偶々アリアが隙あれば触れるようになったヴァンに抱き着いたりしていたのが功を奏した。
抱き着く事によって無意識の内にヴァンから魔力を供給されていたと知ったアリアはだからヴァンに抱き着くのが気持ちいいのかと納得した。
それからも積極的に抱き着いていたが、思春期を迎えたヴァンによって抱き着く事を禁止されたアリアは嘆いた。
妥協案として辛うじて頬への口付けは許可されているがそれもアリアによる並々ならぬ交渉の末得る事ができた物だ。
命令された訳ではないがヴァンに禁止された事は極力やらない様にするアリア。
今でも禁止令は解除されず、隙あれば抱き着く口実を作る事にアリアが苦心しているのは余談だ。
アリアは未だ精霊として知識が欠けている。
今でも宮廷精霊術師たちと契約している精霊たちの手が空いていれば話をし、欠けている知識の補填に勤しんでいる。
想定よりも大物が関わっていた隣国との件に関しては最近では漸く内通者を処分するための目途が立ち、内通者の存在には頭を痛めていたがこれで隣国との余計な火種を燻らせずにもすむと陛下も胸を撫で下ろしていた様子だった事と確実な身の安全を確保する事ができたと上司から伝達されたヴァンたちは漸く缶詰生活から解放され、一息つくことができた。
事が片付いたら休暇でも取って一緒に旅行にでもいくかとアリアとヴァンもやっと仕事から解放される事に喜びを感じていた。
ある日、いつも通りレインの警護をしていたアリアは見せたい物があると言われ、今まで一度も足を踏み入れた事の無い部屋へと呼び出された。
ドアに空気の塊を当て、ノックするが返事は無い。
『レインー? 入るわよ?』
聞こえないのは百も承知だが、一応マナーとして一声かけたアリアはいつも通り壁をすり抜けて頭だけを部屋へと出した。
そこは簡素なベッドだけが置かれたがらんとした部屋だった。
絨毯も敷いておらず、窓ガラス越しに日の光が剥きだしのままの床に差している。
王宮には似つかわしくない部屋にアリアは眉を顰める。
こんな所に何があるのかしらと頭だけではなく全身も部屋に入れた時、剥きだしのままだった床板に魔法陣が浮かびあがった。
『なっ!』
部屋の四隅から光の綱が伸び、アリアへと巻き付いていく。
あっと言う間に上半身が縄でぐるぐる巻きにされたかと思うとフッと光を撒き散らしながら掻き消えた。
『……あら?』
もしかしてとアリアは部屋の外に出ようと壁に手を当てるが、その手が壁をすり抜ける事は無く、固い壁の感触を掌で感じるだけに終わった。
部屋の窓へと向かうが窓は開かない。
ならばと少し離れて空気の塊を窓へと当てるがそれは窓に当たると霧散した。
眉を顰め、先ほどよりも少し強めに当てるがこれも同じく霧散する。
全力で当ててみても結果は同じだった。
『やっぱりこれは、精霊封印術よね?』
困ったわねぇとアリアは頬に手を当てた。
何を調べているのかと尋ねたアリアにレインはにっこりと笑いながら「精霊の事です」と答えた。
「僕はアリアたち精霊の事を何も知りません。だからこの間もアリアに対して無理を言って困らせてしまいました。なのでこれから勉強しようと思ったんです」
『なるほど、レインは勤勉ね』
「ありがとうございます」
アリアに褒められて嬉しそうに頬を染めたレインはまた黙々と手にした書物に目を通し、時々メモをしていく。
アリアも昔ヴァンと一緒に読んだ事を思い出し懐かしみながら後ろから覗き込み、一緒に読んでいく。
ヴァンの時よりも精霊に関する書物は増え、アリアにとっても新しい発見が多く、得る物の多い日々が続いてく。
アリアは普通の精霊とは違う。
彼女は他の精霊の様に召喚されたり気まぐれで自主的に精霊界から降りたのではなく、たまたま足を滑らしてこの世界に落ちてきたうっかり者な精霊だ。
彼女の様な精霊は極稀に存在し、その大多数が落ちた衝撃で記憶喪失に陥り易く、彼女ももれなくその一人だった。
たまたま落ちた衝撃でぼんやりしている中、幼子の泣き声につられてフラフラと歩いて行った先に幼いヴァンがいた。
霞がかる意識の中泣いている幼子を泣き止ませなければと思い、話しかけるが霊眼を持っていないヴァンにはアリアの姿は見えず、又、契約していないので声も届かない。
辛うじて文字は覚えていたので草花を操って文字を浮かべるも文字を学べる様な環境で育ってはいなかったヴァンにはただ空中に浮かんだ不思議な模様でしかない。
会話は出来なかったが不思議な現象に目をまん丸にし、泣き止んだヴァンに気を良くしたアリアは空中に草花で次々と動物の姿を作り出し、それを動かしていく。
目の前で起こる楽しくも不思議な現象にヴァンはあっという間に虜になり、手を叩いて喜んだ。
文字での意思疎通を諦めたアリアは絵で己の存在を認識させ、ヴァンとの意思疎通を行う様になる。
精霊との契約は契約者が精霊に対して名を授け、その名を精霊が受け入れる事で結ばれる。
だが、二人の契約に関してはアリアは記憶喪失、ヴァンは精霊については何も知らず、本人たちにはそんなつもりもなく全くの偶然で結ばれた。
二人で共に森で生活し、その日々でアリアによって文字を学んだヴァンがある日、いつまでも精霊さんと呼ぶのも変だよなと言い出したのに対してじゃあヴァンが名前を付けてよとアリアが言った流れで契約は結ばれたのだ。
突然目の前に水色に近い薄緑色の髪を持ち、薄いヴェールを幾重にも重ねて作った布の様な服を身にまとっている裸足の美女が現れたヴァンは慌てふためき、人目に付かない様に河原で話していたのが仇となり足をよろめかした拍子に川に落ちた。
いきなり慌て出して川に落ち、流されていくヴァンにアリアは慌てた。
急いでヴァンを助けたのをアリアは昨日の事の様に覚えている。
それからしばらくしてヴァンが精霊と契約している事が広がり、城から使いがやって来て紆余曲折を経て宮廷精霊術師ではなく文官として城に勤務している今に繋がる。
最初の頃はアリアもヴァンも精霊の事に関しては無知なので宮廷精霊術師に教わったり城の図書館にある書物を読んだりして契約や制約のかけ方、精霊への魔力の供給方法などを学んでいった。
契約を結んだばかりの頃は魔力の供給方法などは知らなかったが偶々アリアが隙あれば触れるようになったヴァンに抱き着いたりしていたのが功を奏した。
抱き着く事によって無意識の内にヴァンから魔力を供給されていたと知ったアリアはだからヴァンに抱き着くのが気持ちいいのかと納得した。
それからも積極的に抱き着いていたが、思春期を迎えたヴァンによって抱き着く事を禁止されたアリアは嘆いた。
妥協案として辛うじて頬への口付けは許可されているがそれもアリアによる並々ならぬ交渉の末得る事ができた物だ。
命令された訳ではないがヴァンに禁止された事は極力やらない様にするアリア。
今でも禁止令は解除されず、隙あれば抱き着く口実を作る事にアリアが苦心しているのは余談だ。
アリアは未だ精霊として知識が欠けている。
今でも宮廷精霊術師たちと契約している精霊たちの手が空いていれば話をし、欠けている知識の補填に勤しんでいる。
想定よりも大物が関わっていた隣国との件に関しては最近では漸く内通者を処分するための目途が立ち、内通者の存在には頭を痛めていたがこれで隣国との余計な火種を燻らせずにもすむと陛下も胸を撫で下ろしていた様子だった事と確実な身の安全を確保する事ができたと上司から伝達されたヴァンたちは漸く缶詰生活から解放され、一息つくことができた。
事が片付いたら休暇でも取って一緒に旅行にでもいくかとアリアとヴァンもやっと仕事から解放される事に喜びを感じていた。
ある日、いつも通りレインの警護をしていたアリアは見せたい物があると言われ、今まで一度も足を踏み入れた事の無い部屋へと呼び出された。
ドアに空気の塊を当て、ノックするが返事は無い。
『レインー? 入るわよ?』
聞こえないのは百も承知だが、一応マナーとして一声かけたアリアはいつも通り壁をすり抜けて頭だけを部屋へと出した。
そこは簡素なベッドだけが置かれたがらんとした部屋だった。
絨毯も敷いておらず、窓ガラス越しに日の光が剥きだしのままの床に差している。
王宮には似つかわしくない部屋にアリアは眉を顰める。
こんな所に何があるのかしらと頭だけではなく全身も部屋に入れた時、剥きだしのままだった床板に魔法陣が浮かびあがった。
『なっ!』
部屋の四隅から光の綱が伸び、アリアへと巻き付いていく。
あっと言う間に上半身が縄でぐるぐる巻きにされたかと思うとフッと光を撒き散らしながら掻き消えた。
『……あら?』
もしかしてとアリアは部屋の外に出ようと壁に手を当てるが、その手が壁をすり抜ける事は無く、固い壁の感触を掌で感じるだけに終わった。
部屋の窓へと向かうが窓は開かない。
ならばと少し離れて空気の塊を窓へと当てるがそれは窓に当たると霧散した。
眉を顰め、先ほどよりも少し強めに当てるがこれも同じく霧散する。
全力で当ててみても結果は同じだった。
『やっぱりこれは、精霊封印術よね?』
困ったわねぇとアリアは頬に手を当てた。
0
あなたにおすすめの小説
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
前世で私を嫌っていた番の彼が何故か迫って来ます!
ハルン
恋愛
私には前世の記憶がある。
前世では犬の獣人だった私。
私の番は幼馴染の人間だった。自身の番が愛おしくて仕方なかった。しかし、人間の彼には獣人の番への感情が理解出来ず嫌われていた。それでも諦めずに彼に好きだと告げる日々。
そんな時、とある出来事で命を落とした私。
彼に会えなくなるのは悲しいがこれでもう彼に迷惑をかけなくて済む…。そう思いながら私の人生は幕を閉じた……筈だった。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
娼館で元夫と再会しました
無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。
しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。
連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。
「シーク様…」
どうして貴方がここに?
元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!
じゃない方の私が何故かヤンデレ騎士団長に囚われたのですが
カレイ
恋愛
天使な妹。それに纏わりつく金魚のフンがこの私。
両親も妹にしか関心がなく兄からも無視される毎日だけれど、私は別に自分を慕ってくれる妹がいればそれで良かった。
でもある時、私に嫉妬する兄や婚約者に嵌められて、婚約破棄された上、実家を追い出されてしまう。しかしそのことを聞きつけた騎士団長が何故か私の前に現れた。
「ずっと好きでした、もう我慢しません!あぁ、貴方の匂いだけで私は……」
そうして、何故か最強騎士団長に囚われました。
転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。
琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。
ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!!
スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。
ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!?
氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。
このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる