ヤンデレ王子と風の精霊

東稔 雨紗霧

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1st監禁

1st監禁-その9-

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 次の日からレインは時間が空いたら図書館に入り浸る様になった。
 何を調べているのかと尋ねたアリアにレインはにっこりと笑いながら「精霊の事です」と答えた。


 「僕はアリアたち精霊の事を何も知りません。だからこの間もアリアに対して無理を言って困らせてしまいました。なのでこれから勉強しようと思ったんです」
 『なるほど、レインは勤勉ね』
 「ありがとうございます」


 アリアに褒められて嬉しそうに頬を染めたレインはまた黙々と手にした書物に目を通し、時々メモをしていく。
 アリアも昔ヴァンと一緒に読んだ事を思い出し懐かしみながら後ろから覗き込み、一緒に読んでいく。
 ヴァンの時よりも精霊に関する書物は増え、アリアにとっても新しい発見が多く、得る物の多い日々が続いてく。

 アリアは普通の精霊とは違う。
 彼女は他の精霊の様に召喚されたり気まぐれで自主的に精霊界から降りたのではなく、たまたま足を滑らしてこの世界に落ちてきたうっかり者な精霊だ。
 彼女の様な精霊は極稀に存在し、その大多数が落ちた衝撃で記憶喪失に陥り易く、彼女ももれなくその一人だった。

 たまたま落ちた衝撃でぼんやりしている中、幼子の泣き声につられてフラフラと歩いて行った先に幼いヴァンがいた。
 霞がかる意識の中泣いている幼子を泣き止ませなければと思い、話しかけるが霊眼を持っていないヴァンにはアリアの姿は見えず、又、契約していないので声も届かない。
 辛うじて文字は覚えていたので草花を操って文字を浮かべるも文字を学べる様な環境で育ってはいなかったヴァンにはただ空中に浮かんだ不思議な模様でしかない。
 会話は出来なかったが不思議な現象に目をまん丸にし、泣き止んだヴァンに気を良くしたアリアは空中に草花で次々と動物の姿を作り出し、それを動かしていく。
 目の前で起こる楽しくも不思議な現象にヴァンはあっという間に虜になり、手を叩いて喜んだ。
 文字での意思疎通を諦めたアリアは絵で己の存在を認識させ、ヴァンとの意思疎通を行う様になる。
 精霊との契約は契約者が精霊に対して名を授け、その名を精霊が受け入れる事で結ばれる。
 だが、二人の契約に関してはアリアは記憶喪失、ヴァンは精霊については何も知らず、本人たちにはそんなつもりもなく全くの偶然で結ばれた。
 二人で共に森で生活し、その日々でアリアによって文字を学んだヴァンがある日、いつまでも精霊さんと呼ぶのも変だよなと言い出したのに対してじゃあヴァンが名前を付けてよとアリアが言った流れで契約は結ばれたのだ。
 突然目の前に水色に近い薄緑色の髪を持ち、薄いヴェールを幾重にも重ねて作った布の様な服を身にまとっている裸足の美女が現れたヴァンは慌てふためき、人目に付かない様に河原で話していたのが仇となり足をよろめかした拍子に川に落ちた。
 いきなり慌て出して川に落ち、流されていくヴァンにアリアは慌てた。
 急いでヴァンを助けたのをアリアは昨日の事の様に覚えている。
 それからしばらくしてヴァンが精霊と契約している事が広がり、城から使いがやって来て紆余曲折を経て宮廷精霊術師ではなく文官として城に勤務している今に繋がる。
 最初の頃はアリアもヴァンも精霊の事に関しては無知なので宮廷精霊術師に教わったり城の図書館にある書物を読んだりして契約や制約のかけ方、精霊への魔力の供給方法などを学んでいった。
 契約を結んだばかりの頃は魔力の供給方法などは知らなかったが偶々アリアが隙あれば触れるようになったヴァンに抱き着いたりしていたのが功を奏した。
 抱き着く事によって無意識の内にヴァンから魔力を供給されていたと知ったアリアはだからヴァンに抱き着くのが気持ちいいのかと納得した。
 それからも積極的に抱き着いていたが、思春期を迎えたヴァンによって抱き着く事を禁止されたアリアは嘆いた。
 妥協案として辛うじて頬への口付けは許可されているがそれもアリアによる並々ならぬ交渉の末得る事ができた物だ。
 命令された訳ではないがヴァンに禁止された事は極力やらない様にするアリア。
今でも禁止令は解除されず、隙あれば抱き着く口実を作る事にアリアが苦心しているのは余談だ。

 アリアは未だ精霊として知識が欠けている。
 今でも宮廷精霊術師たちと契約している精霊たちの手が空いていれば話をし、欠けている知識の補填に勤しんでいる。

 想定よりも大物が関わっていた隣国との件に関しては最近では漸く内通者を処分するための目途が立ち、内通者の存在には頭を痛めていたがこれで隣国との余計な火種を燻らせずにもすむと陛下も胸を撫で下ろしていた様子だった事と確実な身の安全を確保する事ができたと上司から伝達されたヴァンたちは漸く缶詰生活から解放され、一息つくことができた。
 事が片付いたら休暇でも取って一緒に旅行にでもいくかとアリアとヴァンもやっと仕事から解放される事に喜びを感じていた。


 ある日、いつも通りレインの警護をしていたアリアは見せたい物があると言われ、今まで一度も足を踏み入れた事の無い部屋へと呼び出された。
 ドアに空気の塊を当て、ノックするが返事は無い。


 『レインー? 入るわよ?』


 聞こえないのは百も承知だが、一応マナーとして一声かけたアリアはいつも通り壁をすり抜けて頭だけを部屋へと出した。
 そこは簡素なベッドだけが置かれたがらんとした部屋だった。
 絨毯も敷いておらず、窓ガラス越しに日の光が剥きだしのままの床に差している。
王宮には似つかわしくない部屋にアリアは眉を顰める。
 こんな所に何があるのかしらと頭だけではなく全身も部屋に入れた時、剥きだしのままだった床板に魔法陣が浮かびあがった。


 『なっ!』


 部屋の四隅から光の綱が伸び、アリアへと巻き付いていく。
 あっと言う間に上半身が縄でぐるぐる巻きにされたかと思うとフッと光を撒き散らしながら掻き消えた。


 『……あら?』


 もしかしてとアリアは部屋の外に出ようと壁に手を当てるが、その手が壁をすり抜ける事は無く、固い壁の感触を掌で感じるだけに終わった。
 部屋の窓へと向かうが窓は開かない。
 ならばと少し離れて空気の塊を窓へと当てるがそれは窓に当たると霧散した。
 眉を顰め、先ほどよりも少し強めに当てるがこれも同じく霧散する。
 全力で当ててみても結果は同じだった。


 『やっぱりこれは、精霊封印術よね?』


 困ったわねぇとアリアは頬に手を当てた。
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