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1st脱出
1st脱出-その2-
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ついいつもの癖でレインが抱き着ける様にと空気の塊を作ったアリアはその頭を撫でながら困ったわねぇと頬に手をあてる。
母親が亡くなってからずっと傍にいた自分が一緒にいる時間が少なくなっている事に寂しさを覚え、それゆえに今回の強行に出たのだろうと思い至ったアリア。
出会った頃のヴァンを思い出す事から幼子にはとことん甘い上に強請られている事も頭を撫でるや抱き締めるや傍にいるなどの可愛らしいおねだりである事もあり、あまり強く言えなかった。
『つまりレインは寂しかったって事ね!』
「うーん?……そうなるのかな……?」
首を傾げ、うーんと考えるレインにアリアは頬を緩めた。
『……仕方がないわね。ずっとは無理だけれども少しの期間位ならここにいてあげるわ』
「少しじゃなくてずっとがいいです」
『お願い、聞き分けて頂戴』
「……嫌です」
『……じゃあ、こう言うのはどうかしら? 私のお願いを聞いてくれるなら代わりに願いをなんでも一つ叶えてあげるわ』
「……なんでも?」
『ええ、なんでも。ただし私の力が足りる範囲でね』
「……アリアのお願いは何ですか?」
『この部屋から解放してほしい』
「……」
『……』
しばらく考え込んだレインはやがてゆっくりと頷いた。
「……分かりました。ただし先に僕のお願いを聞いて下さい」
『ええ、良いわよ。何かしら?』
「2週間、2週間でいいのでこの部屋にいて僕と一緒に過ごして下さい。2週間過ぎたら解放します」
『2週間……ね』
仕事の大詰めを迎える今の時期に2週間という期間ヴァンの傍から離れる事にアリアは一抹の不安を感じたが、ヴァンなら大丈夫よねと思い直す。
『分かったわ。あ、それとヴァンに2週間レインと一緒にいると伝えて貰えるかしら?』
「分かりました」
何とか解放される方向でまとまった事にアリアは胸を撫で下ろした。
それから、レインにとっては夢のような日々が始まる。
2週間だけこの部屋で過ごしたいと侍女たちにお願いすると滅多にないレインの我が儘に侍女たちは全力で取りかかり、部屋は元の物置部屋から王子が住んでも違和感が無いレベルまで上昇した。
朝起こすのはアリアの仕事で身支度をするとアリアは見ているだけの形だが一緒に食事をとる。
その後は授業を受けに行き、終わったら直ぐに部屋に戻ってアリアに甘えたり部屋から出られないアリアのためにその日にあった出来事などを話したり読書をしたりして一緒に遊ぶ。
午後は鍛錬を終えた後兄たちの相手をすることなく部屋に直行し、またアリアに甘えたり一緒に遊んだりして夕食を摂った後いつも通りアリアに甘えた後、アリアに寝かしつけられる。
まさにおはようからおやすみまでアリアと共に過ごす日々だ。
2週間だけだとアリアと約束したが、この日常がいつまでも続いたら良いとレインは切実に願った。
ある日の事、いつも通り授業を受ける為の部屋にいると教師ではなくアリアと契約している男、ヴァン・フォレストがやってきた。
「こんにちはレイン殿下。無礼を承知で単刀直入にお聞きします、アリアはどこです」
「……ヴァン・フォレストさんですよね、アリアと契約をしている」
「ええ、しばらく前にレイン殿下からアリアはしばらく帰らないと連絡が来ましたがアリアはどこにいるのです?」
「アリアは貴方では手の届かない場所にいますよ」
「……殿下、貴方は精霊の事を良く知らないからこんな事ができるのかもしれませんね。知らないのであればお教えしますが、精霊は契約者から魔力を与えられなければいずれ死にます。貴方はアリアを殺したいのですか?」
「僕が、僕がアリアを殺したい訳ないじゃないですか!!」
レインは殺したいのはむしろ目の前にいるこの男だと殺意を込めてヴァンを睨む。
己を殺意の籠った目で睨みつけてくる第五王子にヴァンはため息を吐きたくなった。
随分前から第五王子がアリアに執心している事はヴァンも薄々気付いていた。
周りから冷遇されている中、母親以外に優しくしてくれた存在であり、母親が亡くなった今では唯一甘えられる相手であり唯一愛情を注いでくれる相手となった。
そんな相手に執着しない訳がない。
だからあれほど気を付けろと言ったのにあの馬鹿は……!
アリアに対する怒りと焦燥に戦慄く拳をグッと抑えた。
仮にも相手は王子だ。
余計な波風をたてるのは得策ではないと上司にあれだけ言われただろうと自分に必死に言い聞かせる。
ゆっくりと息を吐き、レインに問いかける。
「……では、何故アリアを拘束しているのです? 彼女を殺す気ではないのでしたら速やかに解放していいただきたい」
「……まだ、ダメです」
「まだ?」
「後、一週間待って下さい。一週間後には必ず解放します」
「……分かりました、一週間ですね。約束を違える事が無いよう祈っております」
そう言うとヴァンはレインに礼を一つし、退室していった。
その後姿をじっとレインは見つめていた。
母親が亡くなってからずっと傍にいた自分が一緒にいる時間が少なくなっている事に寂しさを覚え、それゆえに今回の強行に出たのだろうと思い至ったアリア。
出会った頃のヴァンを思い出す事から幼子にはとことん甘い上に強請られている事も頭を撫でるや抱き締めるや傍にいるなどの可愛らしいおねだりである事もあり、あまり強く言えなかった。
『つまりレインは寂しかったって事ね!』
「うーん?……そうなるのかな……?」
首を傾げ、うーんと考えるレインにアリアは頬を緩めた。
『……仕方がないわね。ずっとは無理だけれども少しの期間位ならここにいてあげるわ』
「少しじゃなくてずっとがいいです」
『お願い、聞き分けて頂戴』
「……嫌です」
『……じゃあ、こう言うのはどうかしら? 私のお願いを聞いてくれるなら代わりに願いをなんでも一つ叶えてあげるわ』
「……なんでも?」
『ええ、なんでも。ただし私の力が足りる範囲でね』
「……アリアのお願いは何ですか?」
『この部屋から解放してほしい』
「……」
『……』
しばらく考え込んだレインはやがてゆっくりと頷いた。
「……分かりました。ただし先に僕のお願いを聞いて下さい」
『ええ、良いわよ。何かしら?』
「2週間、2週間でいいのでこの部屋にいて僕と一緒に過ごして下さい。2週間過ぎたら解放します」
『2週間……ね』
仕事の大詰めを迎える今の時期に2週間という期間ヴァンの傍から離れる事にアリアは一抹の不安を感じたが、ヴァンなら大丈夫よねと思い直す。
『分かったわ。あ、それとヴァンに2週間レインと一緒にいると伝えて貰えるかしら?』
「分かりました」
何とか解放される方向でまとまった事にアリアは胸を撫で下ろした。
それから、レインにとっては夢のような日々が始まる。
2週間だけこの部屋で過ごしたいと侍女たちにお願いすると滅多にないレインの我が儘に侍女たちは全力で取りかかり、部屋は元の物置部屋から王子が住んでも違和感が無いレベルまで上昇した。
朝起こすのはアリアの仕事で身支度をするとアリアは見ているだけの形だが一緒に食事をとる。
その後は授業を受けに行き、終わったら直ぐに部屋に戻ってアリアに甘えたり部屋から出られないアリアのためにその日にあった出来事などを話したり読書をしたりして一緒に遊ぶ。
午後は鍛錬を終えた後兄たちの相手をすることなく部屋に直行し、またアリアに甘えたり一緒に遊んだりして夕食を摂った後いつも通りアリアに甘えた後、アリアに寝かしつけられる。
まさにおはようからおやすみまでアリアと共に過ごす日々だ。
2週間だけだとアリアと約束したが、この日常がいつまでも続いたら良いとレインは切実に願った。
ある日の事、いつも通り授業を受ける為の部屋にいると教師ではなくアリアと契約している男、ヴァン・フォレストがやってきた。
「こんにちはレイン殿下。無礼を承知で単刀直入にお聞きします、アリアはどこです」
「……ヴァン・フォレストさんですよね、アリアと契約をしている」
「ええ、しばらく前にレイン殿下からアリアはしばらく帰らないと連絡が来ましたがアリアはどこにいるのです?」
「アリアは貴方では手の届かない場所にいますよ」
「……殿下、貴方は精霊の事を良く知らないからこんな事ができるのかもしれませんね。知らないのであればお教えしますが、精霊は契約者から魔力を与えられなければいずれ死にます。貴方はアリアを殺したいのですか?」
「僕が、僕がアリアを殺したい訳ないじゃないですか!!」
レインは殺したいのはむしろ目の前にいるこの男だと殺意を込めてヴァンを睨む。
己を殺意の籠った目で睨みつけてくる第五王子にヴァンはため息を吐きたくなった。
随分前から第五王子がアリアに執心している事はヴァンも薄々気付いていた。
周りから冷遇されている中、母親以外に優しくしてくれた存在であり、母親が亡くなった今では唯一甘えられる相手であり唯一愛情を注いでくれる相手となった。
そんな相手に執着しない訳がない。
だからあれほど気を付けろと言ったのにあの馬鹿は……!
アリアに対する怒りと焦燥に戦慄く拳をグッと抑えた。
仮にも相手は王子だ。
余計な波風をたてるのは得策ではないと上司にあれだけ言われただろうと自分に必死に言い聞かせる。
ゆっくりと息を吐き、レインに問いかける。
「……では、何故アリアを拘束しているのです? 彼女を殺す気ではないのでしたら速やかに解放していいただきたい」
「……まだ、ダメです」
「まだ?」
「後、一週間待って下さい。一週間後には必ず解放します」
「……分かりました、一週間ですね。約束を違える事が無いよう祈っております」
そう言うとヴァンはレインに礼を一つし、退室していった。
その後姿をじっとレインは見つめていた。
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