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第3章
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しおりを挟む夕食は領主と共にとる事になった。
ライアン達の仲間として同行を頼んでいると言う説明に領主は顔を顰める。
「ライアン様、宜しければ私(わたくし)が身元が確かで道に詳しい者を手配いたしましょうか? このような素性も分からぬ者に頼むよりはいくらかは安心できるかと思います」
「お心遣い感謝します。ですが、チュリは信頼に足る人格の者だと共に旅をしていて確信しています。彼女ならば大丈夫でしょう。私には他にも頼れる仲間はいますからね」
「……これは、差し出がましい事を言いました。ご容赦下さい」
「いえ、ハイド東領主殿は私の事を思って言ってくれたのでしょう? 差し出がましいとは思いません」
「なんとありがたきお言葉」
堅苦しいなと思いながらチュリはひたすらに目の前の料理を片付けていく。
普段口にする事のない高級な食材と初めて食べる味付けの料理は新鮮で手と口が止まらない。
そんな口一杯に頬張り味わうチュリへと給仕をしていたカイルが耳打ちをした。
「チュリ様」
「?」
「誰も貴女の料理を取り上げたりはしません。ですからもう少し落ち着いて食べて下さい」
「すまないねぇ、あんまりにも美味しい物だったからつい。これからはそうするよ」
先ほどよりも気持ちゆっくりと手にした食器を動かすと満足気にカイルが頷くのでこれでいいのかと認識し、その調子で食べ進めていく。
「ライアン様、明日はどういったご予定で?」
「そうですね、チュリが合流したので当初の予定通り明日は休養日にします。何か要件でも?」
「いえいえ、大した用ではありませんが当家の娘が主催する茶会が明日あるのですが宜しければどうかと思いましてな」
「残念ながら私は伯父に国を追われた身故茶会に参加できる服を持ち合わせていません。折角の招待ですが其方の娘殿に恥をかかせる訳にもいかないでしょう」
「……そうですか、こちらこそ配慮が足らず申し訳ありませんでした。娘もライアン様に会いたがっていたのですが残念です」
「いずれまたの機会に招待してくれると嬉しいです」
「ええ、是非とも。そうそう、良い酒が手に入ったのですが今夜一杯どうですかな?
「それは愉しみです。イーサンも一緒にどうだ?」
「では、お言葉に甘えて」
この国の軍部は東領主が一番の発言権を持っている。
同盟を組むためにも東領主を懐柔するのが一番の近道だけれども自分が到着する前に懐柔し終わったみたいだなと料理を口に運びながらチュリは考える。
自分の娘と引き合わせようとするとか余程好かれたか娘を宛がってまで何か得たい情報があるのかどっちなんだと思ったけれども、貴族同士の交渉なんかには自分は関係ないし気楽で良いなと会食を終えたチュリは早々に床に就いたが、その日の夜、話し合いの終わったライアン達の部屋に呼び出された。
普段日の落ちた後には就寝しているチュリにとっては真夜中に叩き起こされた様な物で若干不機嫌な雰囲気を漂わせながらジャージでライアン達の部屋の扉を叩いたチュリを苦笑しながらリアムが招き入れた。
「チュリ、そなたはライアン様の前にも関わらずまたその様な恰好で」
「良い、私が楽な恰好で来るようにと言ったのだ。チュリ、この様な時間に呼び出してすまないが私の質問に答えてくれないか?」
「なんだい?」
「フェンリルとは何処で合流する予定なのだ?」
「明後日人目の付かない所まで行ったら笛で呼んで合流する予定だよ」
「なるほど、ではその予定を変更して貰いたい」
「どういう風に?」
「ハイド東領主も王都まで私たちと同行する事になった。この国を出るまでフェンリルの存在は隠しておきたい」
「分かった。魔の森と関係があるって思われない様にだね。魔の森の事をチラつかせる必要がない位この国との関係は良好なのかい?」
「いや、私の国は海と魔の森に挟まれる立地でな、レゲルとはそれほど関係は深くないのだ。だが、海から得られる物は大きい。ネメシス帝国の事と今後この国への海産物と塩の流通量を増やす交渉で協力は得られるだろう」
「ああ、ネメシスにライアンの国が植民地にされたらどうなるか分からないし特に貿易に重税がかけられる可能性が高いもんねぇ」
そりゃあ同盟を組むに値するよと眠たげに目をこすりながら頷いたチュリにライアンが目を見張る。
「驚いたここまで話の理解が早いとは」
「なんだい、ネメシスは税が高い事で有名じゃないか。あたしみたいな田舎者だってそれくらい見当がつくさ」
「すまぬ、馬鹿にしたつもりではないのだ」
「別に怒っちゃいないよ。レゲルの次はビスカトレーズに行くって聞いたけどそこではフェンリルはどうするんだい?」
「ビスカトレーズでも同様でいきたい。なるべく人目のない道を選んで進み、国に近くなったら別の者の馬に二人で乗って貰う事になるが良いだろうか?」
「構わないよ」
「フェンリルの存在を見せるのはナツ国や魔等の魔の森に面していない国や魔の森を神聖視しているアリス国にするつもりだ。魔の森に面していれば迷い出てくる魔物を狩って素材を得る事ができるがそれができないからな。特に、鍛冶の都市フォプスのあるナツ国は魔の森の物を欲しがるに違いない。
素材が手に入りにくいあそこではフェンリルとチュリの存在は魔の森にある未知なる素材を連想させる垂涎物だろう」
「なるほどねぇ、分かった。因みにこの後の予定はどうなっているんだい? あたしは予定を知らなかったからあの変な女に次はビスカトレーズに行くって余計な事を言っちまったわけだけど」
「その件についてはビスカトレーズに着いてから話すよ。女についてはアメリアから聞いたが一先ずはその返答で問題ない。その女の正体は見当が付いているからな」
「見当が?」
「うむ、恐らく定期的にその女は接触してくるとは思うが……まあ、気にしなくて良い」
「その女には動向を素直に教えても良いって事かい?」
「それはその都度指示する」
何故か少し疲れた様な表情でそう答えるライアンに首を傾げるチュリにイーサンが声をかける。
「明日はチュリはどう過ごす予定で?」
「今日は変な女に絡まれて買い物が出来なかったからねぇ、明日こそ買い物をするよ」
「では、そこに私も同行しよう」
「え? 何でさ?」
「では、明日の朝食一時間後にでも部屋に迎えに行く」
「え? 無視?」
「では、決まりだな。解散」
ライアンにより解散が告げられると部屋から閉め出された。
そして何故か明日の買い物にイーサンが同行することになった。
「ええー?」
状況が飲み込めず、暫くの間廊下に佇むチュリだった。
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