「俺が勇者一行に?嫌です」

東稔 雨紗霧

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「パーティーに戻って欲しい?嫌です」

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 異世界に転生した俺は自分が転生者として選ばれし人間なのだと思い込み、意気揚々と生まれ育った田舎の村から王都へ出て自分の実力を目の当たりにした。
 産まれてからずっと伸ばしていた鼻っぱしを叩き折られ、心機一転して身の丈に合った生活をしていたある日、自分が『ドラゴニック・クエスト』と言うゲームの世界に転生していた事を知る。
 お披露目された勇者のゲーム通りの姿に感心していると目が合った勇者が何故か俺の所へやってきて仲間になって欲しいと言われた。

 「俺が勇者一行に?嫌です」

 勇者の要請を拒否した俺に周囲の人間がざわめき、騒ぎへと発展して収拾が付かなくなり、勇者お披露目会は急遽中止になった。
 何で断った位でこんな騒ぎになるんだ?俺は何処からどう見ても平々凡々な人間だぞ?勇者一行に加わった所で何の戦力にもなれないし、魔王の元へ辿り着く前に死ぬのが目に見えている。
 今の職場に不満は無いし、生活は安定している。
 昔の俺なら勇者に誘われたら飛び上がって喜んだだろうが、自分の実力を自覚している今はそんな平穏を捨てて態々命までも捨てに行く様な酔狂な人間じゃない。
 きっとあれだ、お披露目で広場中に集まった人間の多さにびっくりして錯乱していたに違いない。
 聖騎士達に回収された勇者も直ぐに気の迷いだと気付くだろう。

 間違っても調子に乗って過去の様な過ちを犯さない為に自分にそう言い聞かせる。
 職場に戻った後も店長や同僚達から『何故勇者様からの誘いを断ったんだ』と詰め寄られるが『戦えない俺が居ても足手まといになり勇者様に迷惑を掛けるから』と説明すれば『確かに』とみんな納得してくれた。
 まあ、普通に考えたら分かるよな。

 「僕の仲間になる件だけど、考えてくれたかな?」

 ……そう思っていたが、世の中にはその普通が分からない奴もいるんだな。
 俺は目の前でニコニコしている勇者様に呆れからくる溜息を吐いた。
 遠足に行くんじゃなく、世界の明暗を賭けた戦いに行くのに何で態々俺みたいなハンデを背負おうとしているんだ、この勇者様は。
 常人では理解不能な思考回路に付いて行けない。


 広場での騒ぎの次の日、どこで調べたのか勤務先の商家にやってきた王宮からの使者に職場は大騒ぎになった。
 会計作業をしていた事務室から呼び出された俺は正に寝耳に水でしかなく、店先で呼び出しの書状を読み上げる使者を呆然と見つめるしかない。
 職場の人間だけではなく、騒ぎで集まった店の近隣住民達や野次馬も勇者様による直々の王宮へのお呼びがかかった俺を見て「あの人って昨日のお披露目で勇者様に勧誘されていた方よね?」「王宮から直々に呼ばれるなんて凄い人なんだな」「何だか立ち振る舞いも俺達とは違う気がする方だぜ」等と口々に囁きながらじっと羨望の眼差しを向けてくる。
 けれど、これは俺へではなく俺を通して見ている勇者と言うブランドへの羨望だ。
 それなのにその視線に優越感を抱いてしまった事を自覚し、それが特別な存在に憧れていた嘗ての記憶と惨めな経験を思い起こし、未だに自分はこんなに愚かなのかと気が滅入って来る。
 店の奥からすっ飛んできた会長は勇者様と縁を結ぶ大チャンスと揉み手で使者におべっかを振り撒いて俺に『上手くやるんだぞ』と耳打ちで念を押してから城へと送り出す。
 結局は俺に価値がある訳ではないのだと向けられる視線と期待に身の内の劣等感が刺激される。
 王宮からの迎えを断ると言う選択肢を選ぶ事は許されず、俺は馬車に乗せられて一生入る事が無いと思っていた城へと足を踏み入れる事になった。

 こちらでお待ち下さいと通された応接室はソファどころか絨毯まで憎らしい程にふかふかでそれだけで俺とは住んでいる世界が違うのだと分かる。
 勇者みたいな存在だけで俺の劣等感を刺激してくる相手と好き好んで接するような物好きではないので今すぐここから逃げ出したい。
 と言うか、迎えに来たのが職場じゃなければ逃げていた。
 なんか憂鬱さで胃が重くなってきた気がするし、体調不良って事で帰っていいか?
 なんて事を考えているとドアがノックされ、使用人に案内された勇者が部屋に入って来た。

 「やあ!来てくれてありがとう!!」
 「はぁ」
 「何ですかその態度は!」

 勇者と共に部屋に入って来た使用人が目を吊り上げて俺に詰め寄って来る。
 
 「勇者様にお声がけ頂くなんて名誉あるお誘いを受けたのですからもっと嬉しそうに態度に出したらどうなのですか?!」
 「あー、良いから良いから。ここまで送ってくれてありがとう、後はこっちでやるから用があったら呼ぶね」
 「畏まりました!」

 お礼を言われた使用人が嬉しそうに部屋から出て行く。
 その背を見送った勇者が溜息を吐き、俺へと向き直る。

 「ごめんね!みんな僕の事が大好きなもんだからさ」
 「あー、そっすか」

 反応を返し辛い事を言ってくる勇者様に愛想笑いを返す。
 みんなが自分の事大好きってどんだけナルシストなんだよ。

 紅茶で良いよね?と部屋にあったティーセットで勇者が入れてくれた紅茶は前世と今世を合わせても飲んだ事の無い高級な香りと味がした。
 俺の貧相な語彙力では言い表せない兎に角めっちゃ美味い高級茶を楽しんで現実逃避していた所で上記の空気を読まない発言をしてきた勇者様に溜息を飲み込む。
 そもそも、なんで俺が行く事を前提で考えているんだコイツは?
 断られるって事を全く考えていないのか?
 それに俺の記憶ではゲームにこんなイベント無かったぞ?バグか?

 「嫌です、無理です、お断りします」

 全く一緒に行きたい気が起きない俺は誘いを即座に断る。
 変に間を開けて沈黙は了承とか取られたら嫌だからだ。
 そんな俺を勇者はジッと見つめてくるので視線を合わせずに紅茶の味に集中する。
 いくら見られようとも俺は絶対に意思を曲げる気は無い。
 俺をジッと見つめ、そのまま数分が経過しても一向に話し出さない勇者に「なんだコイツ?」と言う感情が湧くが、こっちから水を向けるのも癪なので俺も無言を貫く。
 ひたすら茶を啜っていると、唐突に「ふふ」と勇者が笑い出した。
 え、何?怖い……。

 「やっぱり、君は他の人とは違うね。僕の気のせいかなって思っていたんだけどそうじゃないみたいで良かった」

 何だコイツ、イカれてんのか?
 何かヤだな。
 眉を顰め、カップをソーサーに置く。

 「俺に何を求めているのかは知りませんが、俺は勇者様の期待に応えられる様な人間じゃないですよ」
 「ううん、君は僕の期待以上の人間だよ!やっぱり、君に仲間になって欲しいな」
 「嫌です」

 そうして断ったにも関わらず、次の日には俺は勇者の仲間として王都の広場で紹介される事になった。
 本当に嫌。
 そんでもって展開が早すぎる。
 勇者パーティーは他に聖騎士と魔術師に聖女が居て、この五人で魔王討伐に行くらしい。
 正気か?マジで頭が狂ってるとしか思えない。
 出発までの期間に周囲の人間に俺を仲間にするのは止めた方が良いと主張しまくったし、辞退を申し出たのに受け入れて貰えず抵抗空しく俺は魔王討伐の旅にドナドナされる事になった。

 勇者の仲間と言う嘗て焦がれた特別な存在になり、何も知らない人々から羨望の眼差しを向けられる度に何とも言い難い惨めな気持ちになる。
 「都会に行けば俺の価値を分かる人がいる」
 かつて根拠の無い自信で現れると信じていた人に出会えたとでも思えればどれ程良かったか。
 現実を知ってしまった俺はもう、そこまで楽観的な考えで生きていく事は出来ない。
 ここが『ドラゴニック・クエスト』と言う前世でプレイしたゲームの世界だからこれから先に起こるシナリオやイベントを俺は知っている。
 俺は他のパーティーメンバーと違って何かに秀でている訳でも無く、出発前に勇者の仲間になったからと一頻り訓練をしたが、戦いの才能がまるっきり無い事が分かっただけで他の補助魔法等の役に立つスキル一つ覚えられなかった。
 だから旅の最初の方ではその知識を生かそうと俺なりに頑張ってみた。
 ゲームの中盤で手に入る防御力大アップのマジックアイテムが出発地点である王都の近くの洞窟に隠されているので噂を聞いた事にしてそちらに向かう事を提案したり、混乱を掛けて同士討ちを狙ってくる魔王軍の幹部が出現するエリアに行く前にそう言った魔物の噂があるから状態異常解除とかのアイテムを備えるべきと進言したりと少しでも旅が楽になる様にと口出しした。
 だけど、マジックアイテムを手に入れる提案はそんな噂を聞いた事が無いからと一蹴され、状態異常解除のポーションは全異常状態を解除できる聖女が居るから不要と一蹴された上にその聖女が混乱状態になったから、念の為と用意しておいたポーションを使えば助けたからと調子に乗るなと諫められた。
 自分では調子に乗っているつもりは無かったのだが、珍しく役に立てたのを喜んでいた態度が他の人からそう見えてしまった様で反省した。

 邪魔になるから魔物を相手の戦いに参加も出来無い。
 戦闘では魔物と戦っているメンバーから離れて回復やバフを掛ける聖女の背に身を隠しているだけだし、旅の途中でイノシシやシカなどの食料を狩る技量もなければ、食べられる野草を見つけられる様な知識や調理技術も無い。
 普通の村人であれば自分達で野草を収穫したり獲物を狩る事が多いから狩りやそれを捌く事が出来るのだが、現実から目を背けて引きこもっていた俺はみんなが当たり前に持っている技能が無かった。
 王都で暮らしている時は近所の食堂や酒場で食事を済ませていたし、村に居た頃は母が食事の支度をしていた。
 過去の自分の愚かさが何処までも今の自分の足を引っ張る。

 掃除や洗濯の身の回りは自分で出来るが、旅の中で掃除をする機会なんて来ないし、洗濯は勇者含めた他のメンバーも自分で出来る。
 一応、足手纏いとして戦闘以外で役に立とうと洗濯係を立候補したが『一人で全員分洗うより、それぞれで洗った方が早い』とごもっともな事を言われて終わった。
 聖女も貴族らしいのに教会での奉仕でやるからと自分で洗濯をするので俺の出る幕も無い。
 食事係をやろうにも魔術師が料理を得意としており、俺が作るより遥かに準備も早くて美味い。
 一応、薪を拾ったり食材を切ったり皿を洗ったりと目に付いた雑用はする様にしているが、微々たる物だ。
 旅の途中で寄った街で物資の買い出しを担当しようにも、魔術師の使う物は専門的な物だし、武器の手入れに必要な物は聖騎士も勇者もそれぞれこだわりがあるからと結局はそれぞれに分担して買い出しになる。
 いや、マジでこれ俺いらないよな?
 何でこのメンバーに俺を入れたんだよ。
 実は本人が気付いて居ないだけで本当は何か特別な力が眠っていたとかがあるのかと一時期思いもしたが、そんな兆しは全く無く、縋る思いで相談した魔術師にはゴミを見る様な目をされた。
 最初は普通に接してくれていた聖騎士と聖女と魔術師だったが、その内に俺が本当に何も特別なところが無い人間なのだと分かると、身の程を知れと態度で言外に突き付ける様になっていった。

 戦えない、役にも立たない癖にゲームの知識で一丁前に口だけ出す俺にパーティーメンバーの視線が強くなっていくのが分かり、自分の足りない事に直面する旅に鬱々とした気持ちが心の奥に溜まっていく。
 勇者が取りなそうが「僕には君が必要なんだ」と言われようが一緒にいる人達に疎まれている生活は負担で、更にそこには魔物との闘いによる命の危険と言う恐怖が加算されていくからストレスが溜まっていく。
 本当クソ。

 結局、ゲームの展開通りのタイミングでマジックアイテムを取りに王都への道を戻る展開になって俺はマジで自分の存在は本当に居ても居なくても変わらないんだと理解した。
 そもそも、シナリオやイベントには別に俺が態々介入してまで早めなければ悲惨な結果になる様な展開は特に無い。
 俺が何もしなくても勇者は順当にゲーム通りに旅を熟していくだろう。
 むしろ下手に介入して途中で遭遇する魔物による村の襲撃イベントとかち合わなくなったりしたら大変だよな。
 シナリオでは救えた村が救えなくなる可能性すら出てくる事に今更ながらに気が付き、だから俺は駄目なんだなと自己嫌悪する。
 「俺は転生者なのだから」と言う、とうに粉々に砕かれた自尊心を「前世の記憶からこの先に起こる事を知っている」と言うゲームの知識でのアドバンテージがある事で癒そうにも、先を知っていた所で自分に出来る事が無いのだから意味が無いと突き付けられて自滅するのを繰り返す自分に嫌気が差す。

 三人は勇者を慕っており、何も出来ない癖に勇者直々に誘われて一緒に旅をする俺の事を良く思っていない。
 疎んでいるのに態度で冷たく接する位で戦闘で態と俺の方に魔物を逃がしたりしないし、俺が困っていたら手を貸してくれるから勇者パーティーに相応しい本当に良く出来た人達だと思う。
 普通は疎んでいる人間にそんな優しく接せれない。

 敵も段々強くなってくるし、旅の途中何度も勇者に「ほら、俺は何も役に立ててないからここでお別れするべきだ」と主張しても勇者は頑なに俺を追放してくれなかった。
 それどころか「君はパーティーに必要な人だよ!みんなもそう思うよね?」と三人に同意を求める始末だ。
 三人は慕ってる勇者が優遇する人間を否定する言葉を言えず、「「「その通りです」」」と自分の気持ちとは正反対の同意をさせられ、殺意すら感じるような視線を俺に向けてくる。
 ゴメンって。
 いやでも、俺これ悪くないよな?
 悪いのは人の話を聞かない勇者だと思う。
 嫌々でも関係なく俺は世間からしたら人類の希望である勇者パーティーのメンバーだからめちゃくちゃ努力したし、我慢した。
 でも、もう限界だった。

 勇者に言っても埒が明かないので勇者が居ない時を見計らって三人に「俺も旅に同行するのは本意ではない、だってどう考えても足手纏いだろ?だから逃げるのを手伝ってくれないか?」と協力を求めた
 勇者に良い顔をしていても俺が同行するのを良く思っていなかった三人は快く協力してくれた。
 息抜きと称して酒盛りをして四人がかりで勇者を酔い潰し、手配しておいた馬車に乗って町を出た俺はそのままシナリオにも出てこなかった方面へと向かって逃亡した。
 魔王討伐を目指す勇者が態々進路を変えて俺なんかを追って来るとは考えられないが、一応何度か馬車を乗り継いだり徒歩移動を挟んで攪乱入れたりはしておいた。
 そうやって何とか魔王討伐の旅から逃げるのに成功した俺は酒場で勇者一行が魔物に襲撃された村を救ったと書かれた新聞を見ながらエールを飲んでいた。
 村の名前から予定通りの進路で魔王城を目指しているのが確認出来てホッと胸を撫で下ろす。
 新聞に載っている写真で勇者の手元にあのマジックアイテムが付いているのを確認したし順調にシナリオ通りに進んでいるようで何より。
 やっぱり俺が居なくても物語は進むし、勇者達には何ら影響は無いのだ。
 ストレスから解放されて飲む酒が本当に美味い。
 元の職場にも帰れないし金はあるから取り敢えずもう暫く間をおいてほとぼりが冷めた頃に故郷にでも帰るか。
 諸国漫遊の旅とかも良いなと考えていたら相席を求める声が掛けられ、顔を上げたらここに居るはずの無い勇者が居てガチで恐怖した。

 勇者の後ろには俺の逃走を手伝ってくれた三人がいたけど何か別れた頃に比べて随分と焦燥しているし、特に憔悴した様子の聖女が何かを必死で口パクしているので取り敢えず引きつった顔で相席を了承する。

 「こんな所にいたんだね、探したよ」
 「は、はあ」
 「僕に黙って居なくなるなんて酷いんじゃないかい?」
 「……」

 無理矢理魔王討伐の旅に連れて行くのは酷い事ではないのか?と口に出すのを諦める。
 人の話を一切聞かないこいつには何を言っても無駄だと旅で学んだからな。
 急激に不味くなったエールの入ったジョッキを黙って傾ける。

 「みんなに聞いたよ、旅に同行する事を気に病んで居なくなったって。何度も言ったけれども、君の事は僕が絶対に守るし君は何も心配しなくて良いんだよ。僕と一緒に居てくれるだけで良いんだ。みんなも協力してくれるってさ!」

 どう言う事だと三人に視線を向けると力無い笑顔を向けられた。
 何かあったんだな。
 
 「だから安心してパーティーに戻ってきて!僕は絶対に君を手放したりしないから」

 いや、本当に勘弁してくれ。
 恐怖で乾く唇をエールで濡らし、俺は口を開いた。
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