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第二部 1章 森の国

案内人を連れて

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 第2界境『エリア大森林』。
 魔界『エルフビレッジ』と人間界『森羅衆』とを繋ぐ、大陸最大規模の樹海。

 方向感覚を狂わせる、あまりにも広大な面積。地上からは見ることの出来ない、空を覆い尽くす濃霧。
 他ふたつの界境とは異なり、その複雑怪奇な地形のみで魔族軍の侵攻を阻み続けてきた、天然の迷宮。

 今やアーツを使えば百キロ以上の彼方まで見渡せる九々の目ですら、全容を目視することの難しいこの森を抜けることは、決して容易ではない。
 現に夜行が最初に『エリア大森林』へと飛ばされた際は、帰り道で半ば遭難している。
 異常なまでの身軽さと足の速さでゴリ押して、無理矢理抜け出したに過ぎなかった。

 ――故に。

「さ、もうすぐ出口だ。こっちから『森羅衆』に抜けられる」

 夜行は、今の状況に全く納得が行っていない。

「……どうしてこんな簡単に出られんだよ……」

 樹海奥部にある筈の洞窟から出発して、精々3時間。
 それもただ普通に歩いていただけだと言うのに、夜行達一行の現在位置はニーヴァ曰く、既に出口付近。

 ……幾らなんでも、物理的に有り得なかった。
 夜行だけでなく九々やサクラも、ここまで案内してくれたニーヴァへと、怪訝な眼差しを向けている。

「この森には、定期的に空間が捩れる場所がそこかしこにある。本来よりも狭くなったり広くなったり、離れた別の場所とくっ付いたりな。前にお前達が来た時は安定期だったから使えなかったが、タイミングが重なればこうして近道できるんだ」
「ま、マジかよ……あん時の俺の苦労って……」

 彼女のそんな淡々とした説明に、迷子経験のある夜行が口元をひくつかせながらそう返す。
 過ぎたことで落ち込んでもしょうがないと割り切ったらしく、ひとつ溜息を吐くといつもの調子に戻っていたが。





「にしても、マジで良かったのか? 俺達に着いて来ちまって」

 人の手など一切入っていない不安定な足場、道とすら呼べない道を進む夜行。
 けれどその足取りは淀みなく、何故か頻りに背が低い位置の枝を折り、退かせるサイズの石を蹴飛ばす程の余裕まで存在している。

 そして森を出てから、ずっとそんな行いを続けていた彼は。
 隣のニーヴァにちらと視線を向けた後。不意に後ろへと振り返りながら、尋ねた。

「……それに、ニーヴァちゃんだけならともかく。あの子達まで連れて来て、さ」

「マレイシャマレイシャ、なぞなぞですぅ。他人に自分の荷物まで運ばせた挙句、その荷物に乗っかってる奴のことをなんて言うですぅ?」
「むむ、唐突だねミリーちゃん。うーん、なんだろう……他人を顎で扱き使う天才?」
「――若しくはどうしようもねぇクズだっつーの。分かったならサッサと降りてテメェの足で歩きやがれ、腐れゴミ虫がぁ……!!」
「な、なんだとー!? 稀代の天才に向かって何たる言い様かーッ!!」

 振り返った先には、夜行のすぐ後ろを歩く九々と、樹上を飛び移るサクラ。
 更には――自分の体積を軽く超したバックパックを背負うミリー、その荷物の上に座っているマレイシャの姿があった。

 枝や石を払う夜行の行いは、彼女達が歩き易いように道を作るためのものだったらしい。
 ぼそぼそとミリーが何事かを呟き、それを聞いたマレイシャが憤慨して暴れるサマに、彼はまたひとつ溜息を吐き。
 再びニーヴァへ、視線を戻す。

「ん……心配ない、2人とも役に立つと保証する。少なくとも、道中で荷物になることは無いさ」
「いや、そう言うことじゃなくて……もしもまた、魔族の奴等が村に来たら……」

 性格はともかく、能力的には大陸でも間違いなく有数の薬師と、幼い外見からは信じられないほどの武力を秘めた拳士。
 彼女達を欠いた状態で再び襲撃を受ければ、今度こそ全てが滅ぶ。

 口調に不安の色を含ませた夜行の問い掛けは、それを懸念したもので。
 けれど対するニーヴァは、ゆっくりとかぶりを振った。

「それについては、大丈夫だろう。連中はそもそも、ワタシ達に大して興味など無い筈だからな」
「……どう言うことだ?」

 目を瞬かせる夜行。
 幾らか間を置いた後、ニーヴァは言葉を続けた。

「兄はワタシに少々別件で用があったようだが、そっちも精々オマケ程度。結局のところ、魔界から人間界に抜ける時の通り道にワタシ達が居たから、襲った。恐らくはそれだけのこと」

 『セブンスターズ』と矛を交えるべく、帝国を訪れた『星喰』。
 彼等がエルフの村を襲撃したのは、たまたま目的地へと向かうまでの道程に村が重なっていたから。
 一晩の宿を得るため、或いは己達の暴力欲を満たすための行い。
 決してエルフそのものを標的とした襲撃では無かったと、彼女はそう告げる。

「んなバカな……理由も無しに村ひとつを襲うなんて……」
「十分に有り得る話さ。魔族やその眷属達は、総じて好戦的だ。大半の連中は戦うことに理由など求めないし、殺すことに呵責も持たない。強者には敬意を払うが、弱者は羽虫並みにしか扱わない。そう言う種族だ」
「……マジかよ。で、それプラス人間を遥かに超える力を持ってるってか」

 何百年も争い続けているワケだ、と。夜行は納得した風に、内心で呟く。

 人と魔族との間では、価値観……取り分け争いや諍いに対するそれが、根本的にズレているのだ。
 元は魔物化した人間を祖にしているとは言え、今となっては最早完全な別種。
 思想が重なる筈もない。何せ同じ人間でさえ、完全に理解し合うことは不可能に近い。
 相手が他種族となれば、より溝が深いのは自明の理だった。

「向こうからしてみりゃあ弱い方が悪い、か……俺達も不純な動機で姫さんの頼みを引き受けて勇者になったクチだから、あんまりよそ様に色々言えねぇが……駄目だ、友達にはなれそうもない」
「だろうな。魔族の中にも人間寄りの思想を持つ者、或いはその逆も存在するが、何れも少数派。大多数の考え方が相反していれば、対立するのは半ば必然。ワタシだって、一線を越えれば身内すら手にかけかねない奴等と仲良くするなど無理だ」
「益々友達にはなれねぇな、そいつは」

 夜行は、身内に本気で手を上げるなど考えたことすらない。
 九々か躑躅を殴るか自分の腕をへし折るかだったら、間違いなく後者を選ぶ。

「まあともかく、そんな連中だ。滅ぼした村の取りこぼしなど気にもかけないどころか、寧ろ積極的に野放しさ。力をつけて報復など、魔族からしてみれば望む所だろうからな。何せ大好物の戦いが、自分からやってくるんだ」

 だからその芽をわざわざ摘むような真似をするなど、まず有り得ないこと。
 そう言葉を締め括ったニーヴァに、けれど完全には不安を拭いきれない様子の夜行。

「……ニーヴァちゃんの言い分は分かった。けど、万が一ってこともあるだろ? せめてミリーちゃんとマレイシャは、向こうに残しておいた方が……」

 話しながら振り返ってみれば、未だ言い争いの喧嘩を続けている少女と幼女。
 その姿に苦笑しつつも、考え込むようにニーヴァが指先を顎に添える。

「ん……ミリーはワタシから離れたがらないし、マレイシャも前から森の外を見たがっていた。それにあの子達はまだ幼い。出来れば、目の届くところに居させたいんだ」

 それなら、やはり3人とも洞窟へ戻り、ほとぼりが冷めるまで魔族への警戒を続けるべきだ。
 未だ頭にこびり付いて離れない村跡の惨状に、夜行は強くそう思う。
 そして、視線だけでなく身体ごとニーヴァへと向き直り、自分の意志を伝えようとした。

 ――だが。

「オマエの気持ちも、十分わかる」

 相手は読心に近い種族技能スキルを持ち、尚且つ長い歳月を生きたエルフ。夜行の心が示す色を見通し、そこから彼が何を言いたいのか察したのだろう。
 開きかけた唇に指を当て、紡ぎ始める前に言葉を止める。

「正直、オマエの行きたい場所に案内できる者は他にも居た。更に言えば、必ず案内がなければ辿り着けない場所でもない」

 けど――。
 一拍の間を置き。彼女は続けた。


「――ヤコウ。ワタシは、オマエと一緒に居たいんだ」


「ッ……!?」

 聞きようにようっては、告白とも取れるような台詞。
 2人の後ろを歩いていた九々の息を呑む音が、夜行の鼓膜に響いた。

「オマエの役に立ちたい。オマエのために、何かしたい」

 唐突な言葉に戸惑いを孕んだ視線へと重ねられた、静けさを湛えた瞳。
 ニーヴァはそっと手を下ろし、ひとつ息を吐く。

「勝手なことを言ってすまない。だが、どうしても抑えが利かなかった」
「え……あ、いや、別にそんな……寧ろ気持ちはありがたいけど、なんでそこまで……」

 出会ってから日も浅く、会った回数そのものも少ない。
 そんな相手に、何故そうまでしようとしてくれているのか。

 夜行が抱いた疑問は、確かに至極当然のものだろう。
 ――しかし、彼は忘れている。或いは、自覚すらしていない。

「……嬉しかった」
「?」
「出会って間もないワタシ達のために、こんな所まで来てくれたことが。殺された者達に墓を作り、弔ってくれたことが」

 ニーヴァ達エルフに対し夜行の取った行動もまた、彼女達からすれば考え難い行いだったのだ。
 2度会っただけの相手を心から案じ、安否を確かめるべく広大な樹海奥地を訪れ。死者を悼み、墓を掘り、冥福を祈った。
 突然の襲撃に多くの仲間を失い、消沈していたエルフ達にとって。夜行から向けられた温かな心が、どれ程の励ましと慰めになったことか。

「ワタシ達一同、皆感謝している。ワタシはオマエに、身を捧げたって構わない」
「はい!? ちょ、ま、待った待った! 女の子がそんなことを軽々しく言っちゃいけません! ブログが炎上するだろ!?」
「戌伏君、ブログなんてやってないじゃない……なんか随分前にも同じことを言った気がするけど」

 以前一度やろうと思ったけれど、難しかったのでやめている。
 インターネットは難しい。

 淡い熱に揺らぐ眼差しを真っ直ぐ向けられ、テンパった様子で訳の分からないことを口走る夜行。
 心なしか、目もぐるぐるしていた。

「……すまない。ワタシのような女にこんなことを言われても、困らせるだけだったな」
「んなワケないです! 好みかどうかで聞かれたら大好き! 今期の『先輩と呼んで欲しい年下女子ランキング』でぶっちぎりの第1位!」
「ワタシ、600歳越えてるんだが……」
「人は見た目だ、実年齢など関係あるか! だから俺の中で姫さんとマレイシャは13歳だし、ニーヴァちゃんは15歳だ!!」

「ボクは16歳だぞ、言葉を慎めデコ助野郎ッ!!」

 相変わらずミリーと喧嘩していたマレイシャが、耳聡く聞き付けて憤慨する。
 夜行や千影と同じで、悪口は聞き逃さないタイプらしい。

 ――ともあれ。好意を抱いている相手に、テンションこそおかしいが面と向かって好みと言われ。
 ニーヴァはエルフ特有の真っ白な肌を赤らめると、恥ずかしそうに俯いた。

「そ……そうか。嬉しいよ、ありがとう……」
「いやいやそんな、本当のことを言ったまでだし。そうだニーヴァちゃん、森を出て適当な町に着いたらデートでも――およ?」

 勢いのまま、軽く口説き始める夜行。
 けれど横合いから突然手を掴まれたことで、強引に文句が断たれてしまう。

 彼の手を掴む細い指先、華奢な腕の先には。
 心なしかいつもより眦を吊り上げさせた不機嫌そうな表情かおで、夜行を睨み付ける九々の視線が。

「……委員長? もしかして、ご機嫌ナナメ?」
「もしかしなくてもご機嫌ナナメです。いつまで立ち止まって話し込んでる気?」

 若干刺々しいその言葉で、夜行は自分達が足を止めていたことに気付く。
 そして直後、掴まれた手が引っ張られた。

「もうすぐ出口なんだから。早くこの鬱陶しい森を抜けるわよ」
「た、たんまぷりーず委員長! せめてあと3分、デートの約束だけでも取り付けさせてー!」

 懇願する夜行に、九々はひと言。

「――絶対、ヤ」
「んな殺生な!? うわーん、ニーヴァちゃーん!!」

 体重を7分の1にする技能スキル、『ムーンウォーカー』により極度の軽量体と化しているため、簡単に引き摺られて行く夜行。
 彼のSTR値ならば力だけでも抵抗は出来るが、九々に怪我をさせてしまいかねないので全くの無抵抗だった。
 往生際悪く、空いた手をニーヴァに伸ばしていたが。

「身内には甘い男と、身内以外信じない女。相性良好なのか悪循環なのか、中々判断に困る2人なのですぅ」
「自分そっちのけで他の女と喋ってばかりなことに対するヤキモチ3割、絶対に嫌われないって信頼7割。『不信』の色があそこまで染み付いてるクク君に無条件の信頼を寄せられているヤコウ君は、きっと器が大きいんだね。あ、それとも底が抜けてるだけかも! あはははははッ!」

 その光景を、仲良く並んで興味深そうに観察しているミリーとマレイシャ。
 喧嘩はどうした。

「だぁれが底抜けのアホだー! バカにすんなー!!」

 そして既に結構な距離が開いていたのだが、マレイシャの言葉を耳聡く聞き付けて憤慨する夜行。
 やはり、悪口は聞き逃さないタイプである。

「……面倒臭い女、ね」

 ぼそりとそんなことを呟いたのは、樹上に居たサクラ。
 やがて一行は呆れたり苦笑したりと、それぞれ異なる表情かおを浮かばせながら。
 2人の背を、追いかけた。





 入り組んだ森に響く、幾つもの足音。
 最初に足を止め、眩しさで顔を覆ったのは、先頭を歩いていた九々だった。

「ッ……」

 鬱蒼とした枝葉が消え、唐突に視界へと大きく差し込む日光。
 見上げれば、空のほぼ真上に太陽が陣取っている。夜行達が洞窟を出発したのは早朝だが、時刻は既に昼近い様子。

「……マジで出られたよ……普通に歩いて昼前に着くとか、えぇえ……」

 何やら複雑そうに顔を歪ませた夜行の、遣る瀬無さが前面に滲み出た呟き。
 以前、道に迷って大幅な回り道をしたとは言え、全力で走って1日がかりだったことを思い出しているのだろう。

「今日は寧ろ時間が掛かった方だな。空間の捩れは季節によって変わる、春先や晩秋なら5分で出られた」
「6割増しで、えぇえ……」

 やってられなかった。
 頭を抱えようとする夜行だが、両手が塞がっていてそれも出来ない。
 片手は九々に。そしてもう片方は、いつの間にか樹から降りてきたサクラに取られていたのだ。

「あの、美作さん……? そろそろおててを離して欲しいなぁ、なんて」
「もうしばらく、いや」

 駄目元で頼んでみたけれど、やはり駄目らしい。
 代謝が高いからか、ひんやりした九々や躑躅のそれとは違う、熱いくらいの体温を伴った手の感触。
 鼻腔に薫る甘い芳香も伴い、やたら落ち着かなかった。

「……雪代には、何も言わないじゃない」
「ご機嫌ナナメの委員長に何言ったって無駄だし。ホント、ヤキモチさんには困ったもん――あたっ」

 軽く小突かれる側頭部。
 見れば、物言いたげに夜行へと突き刺さる九々の視線が。

「ヤキモチなんて焼いてないもん……戌伏君の、ばか」
「はっはっは。そんな可愛らしく睨まれても怖くないし、説得力だって皆無――痛い痛い、俺が悪かったから殴るのやめて」

 せめてもの照れ隠しなのか、無言のまま何度も振り下ろされる拳。
 言うなれば、飼い主に意地悪された仔猫を髣髴とさせるような光景だった。

 その後、すっかり拗ねてしまった九々を宥めるため、数分を要した夜行。
 どうでもいいが、はたから見ればなんとも上下関係の分かり辛い2人である。





「さて、それじゃそろそろ出発するか」

 九々の頭をぐりぐりと撫でながら、無駄にキメ顔でそう告げる夜行。
 アホ毛が尻尾さながらにぴこぴこ揺れているので、どうやら機嫌は直ったらしい。

「……あぁ、分かった。先ずは近場の町に向かおう、ダンジョンへ潜るには十分な備えが要る」

 苦笑交じりに、ニーヴァが頷く。
 そしてこの周辺一帯の地理を脳裏に思い浮かべ、最も近い町はどこだったかと考え始め。

 けれど彼女の中で答えが出る前に、夜行の指先がある一方を真っ直ぐ指し示した。

「なら、あっちだな。ここから見えるか、委員長」
「ふみゅう……え? あ、えと……えぇ、確認出来たわ。距離は50キロくらいかしら」

 アーツを使ったのか、カメラのレンズのようにキュッと引き絞られた九々の瞳孔。
 測定不能の視力で遥か先に街影を見とめ、彼女は頷いた。

「最初に来た時、森を抜けたのがちょうどこの辺りでな」

 目を瞬かせるニーヴァに向け、肩をすくめながら言葉を向ける。
 次いで夜行は、彼女を抱え上げた。

「ッ……ヤ、ヤコウ!?」
「最寄の町っても、のんびり歩いてたら明日になっちまう。マトモな昼飯食いたいし、少し急ごう。ちょっとガマンしてくれな、お姫様?」

 ――確かにエルフの王族だけれども。

 冗談半分な夜行の台詞回しに、突然の出来事で混乱したニーヴァは内心にてそう呟く。
 考えてみれば、お姫様抱っこなど生まれて初めての経験だった。

「ミリーちゃん、マレイシャ含めて大荷物だが走れるか?」
「大丈夫なのですぅ。50キロ程度なら、30分も要らないのですぅ」
「さいですか……ほんっとすげぇなこのスーパー幼女……実は戦闘民族なんじゃねぇのか?」
「ねぇヤコウ君、今さり気にボクをディスらなかった?」

 向けられたジト目は完全無視。
 どうせ、15秒もすれば忘れているだろうから。

 ともかく、これで移動に関しては何の問題もない。
 サクラもミリーと同じことが実行できるほどには高い脚力を持っているし、九々には『ナイトロードⅣ』がある。
 『ガン・コール』にて魔銃ライフル共々び寄せた大型バイクに跨る彼女へと、マレイシャが大きく見開いた目を向けた。

「おー、クク君何それかっこいー! 乗せて乗せて、ボクも乗せてー!」
「……嫌よ。私の後ろは友達専用なの」

 余談であるが、夜行達は九々の後ろに乗りたがらない。
 ライドテクニックこそ免許取得から2年弱とは思えないほど卓越しているけれど、彼女の運転はハッキリ言って荒過ぎるのだ。
 全員一度ずつ経験し、戦慄し、そして後悔し、躑躅に至っては泣いている。
 故に夜行からしてみれば、にべもなく断られて残念そうにしているマレイシャは、寧ろ幸運とすら言えた。

「じゃ、行くか……ホントは、あの町・・・にはあんまり行きたくないんだが……」
「……? ヤコウ、何か言ったか……?」
「いやいやなんでもない。いざ、出発進行! 茄子の糠漬けってな!」

 夜行の言葉を合図に、その場で荒々しく車体を数度スピンさせた後、石も土も一緒くたに削りながら発進した九々。
 サクラとミリーも、踏み込んだ地面に大きな亀裂と陥没が入るほどの脚力で、本当に足音なのか疑わしい轟音を響かせ、町を目指し直進する。

「……バケモンですか、あの子達は……」




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