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第五章

三話【定員1名】

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「まさか、この魔力は……」

驚く犬神。

「嘘だろ……」

覚えのある魔力に涙を流す、弁慶。

セシルは砂浜に両膝を突き、祈りのポーズで渦を見上げる。

さっき帰ったサーズリが、遠くで驚き立ち止まり、声を失う。

慌てて外に出て来るギド。

手に持つ酒瓶からは、中身がこぼれていた。



『ベンゾウ!』

溢れ出す涙を堪えきれず、渦を見るベンゾウ。

『聞こえるか? ベンゾウ』

「聞こえる… 聞こえるよ! ご主人様!」

その声に驚き、ベンゾウを見る弁慶とセシル。

だがベンゾウの返事は、惣一郎には届かない。

『ベンゾウ、聞こえてるものとして話すぞ!』

「うん!」

『俺は死んだ後、別の世界も救う様にと頼まれ、厄災のいる世界に来ている! そっちと似た世界だが、厄災だらけだ! こっちの厄災の数を減らさないとまた、そっちの世界に溢れてしまうかも知れない!』

「うん!」

『ベンゾウ! また助けてくれるか?』

「うん! 当たり前でしょ!」

『もし、助けてくれるなら、ミルドラを倒した厄災の島に3日後、また次元を開く! 多分通れるのはベンゾウだけだ!』

「うん!」

『だが、無理はするな! 無理なら3日後、島には近付くな!』

「行くに決まってるでしょ!」

『弁慶にも済まないと伝えてくれ! お前の力も借りたかったが、ふたりは無理だと! 全部終わったら、ベンゾウはちゃんと返すと!』

「うん!」

『3日後!』

「うん! 待ってる!」

ベンゾウの言葉を最後に、空が晴れていく。

涙と鼻水でくしゃくしゃの顔を手で隠し、肩を揺らし砂浜で座り込むベンゾウ。

「はっ、話したのか? 旦那様は、旦那様はなんだって! ベンゾウ! 教えてくれ、旦那様は生きてるんだな!」

「うん…… いぎでだ… いぎでだよ~」

力が抜ける様に膝を突く、弁慶。

クロは惣一郎の魔力とは別に、薄っすら感じた懐かしい魔力に、混乱する……


駆け寄るサーズリ。

だが、泣いて話が聞けないベンゾウと弁慶に、何が起こったのか聞けず、慌てる事しか出来なかった。

そしてセシルは、また奇跡を目にし祈り続ける。






「まさか厄災の来る、向こうの世界にいただなんて……」

話を聞き、驚くサーズリ。

「旦那様がこれ以上、こっちに厄災が来ない様に向こうで戦ってくれていたんだな」

「死してなお、私達の為に……」

白髪の淑女が祈りを捧げると、白い犬神が話しかける。

「行くのか? 惣一郎の元に」

「ああ、ベンゾウは今でもご主人様のモノだ!」

「アタイは! なんでアタイは行けないんだ! どうしてアタイには旦那様の声が聞こえなかったんだ!」

「弁慶の事も気に掛けてた! ベンゾウにだけ聞こえたのは、コレのおかげ!」

手首のレーテウルは、もう光りを失っていた。

「アタイも行くぞ!」

「ひとりしか無理なんだって!」

「どうして!」

「デカいから?」

「ベンゾウ! なら足を切れ!」

ケラケラケラ。

「やれやれ、すっかり元気を取り戻した様だな。だが、惣一郎がそうまでして助けを求めて来たのだ。危険は覚悟して行くが良い」

「うん、クロ! お土産買ってくるね」

「くっそ~ なんでアタイは行けないんだ!」

「弁慶殿、みんなして行かれても困ります! 厄災の出現が少なくなっても、今やジビカガイライは冒険者のトップチームなんです! ショウニカガイライだけでは、あの数の特級依頼を捌けません!」

「ですが、ベンゾウさんが居なくなると私達だけでは、厳しいのでは?」

「リーダーだろ! やっぱ、アタイが代わりに行くよ! 3日で痩せてやる!」

「ワイドンテが解散するそうですから、私から、何人か臨時に応援に来れないか、あたってみましょう」

「ああ~ クソ、ベンゾウ! 全部終わったら必ず、旦那様も連れて帰ってくるんだぞ! 約束だからな」

「うん! 任せて、弁慶」



だが3日後……

島で待つベンゾウに、迎えが来る事は無かった。



話を聞きつけ集まったツナマヨやミコ達も、見送りに来ていたが……

「サーズリ、本当なのか? 惣一郎殿が生きていたと言うのは」

「おいおい、何も起きねぇじゃね~か!」

「ガウ!」

空を見つめ続けるベンゾウ……






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