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第四章

三十二話 【願いは一緒!】

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「今、この国が危機的状況にある事はご存じだろうか?」

お茶を飲み、話し始めるギルドマスター。

「ここより、南東にあるマイズと言う村に厄災が現れてから、もう二年になる。マイズの村に城を築いた厄災は、繁殖し大群となって周りの街や村を食い尽くした。その中には、この国を支えて来た産業都市などが含まれていてな、国は取り返そうと軍を出したんだが、多くの犠牲を出すだけだったのだ。奴らは何故か城から遠くまでは離れない習性で、マイズを中心に70kmの地域は死の大地となった。多くの兵と収入源を失ったエリリンテは、東と南の国からも狙われる様になってな、国境付近では小競り合いが絶えないのだ。それにさらに多くの兵を取られてしまい、厄災に対処する事も出来ないでいる。このままでは、いずれこの国は無くなるだろう。そこでギルドは、厄災を倒せる者や武器を集めるべく動いている最中なのだ。どうだろう、惣一郎殿。我々に力を貸してくれないだろうか?…… アレ? 聞いてる? どうだろうか……」

知っている長い話に、ベンゾウは途中から寝ているし、惣一郎は違う事を考えていた。

スワロだけが、感慨深く聞いていた。

はっ!と、話しが終わっていた事に気付き、聞いてましたよ的な顔で惣一郎は、

「もとより、私はこのスワロの為に厄災を倒しにこの国に来ました」

スワロが歓喜し、惣一郎に抱きつく!

ゴフッ!と、何かが漏れる音を出す惣一郎は話を続ける。

「しかし、私自身目立つ事を良しとしません。今日の件含め、これからの私に関する事全て、内密にしていただけないでしょうか?」

想像してた答えと違い、驚き固まるギルドマスターが、我に帰り考える。

『この男は、金や名声に興味がないのか?』

「一つだけ教えていただきたい事があります」

額に汗を流し、真面目な顔で惣一郎の目を見るギルマス。

「ゴキコロリとは…… あなたですか?」

YES

ギルマスの中で何かが繋がったのだろう、深く息を吐き、

「わかりました、内密に事を進めましょう。あくまでも惣一郎殿とは無関係なゴキコロリとして」

ギルマスの目は期待に溢れた目に変わっていた。

今後入り用な物があれば直接手配するとまで言ってくれたギルマス。

惣一郎は倉庫を一つと、これまた欲のない要求をする。

ギルドで騒いでいた連中にも素早く緘口令が敷かれたが、見た者の記憶を消す訳じゃない。

街を歩く惣一郎は視線を集めていた。

ギルドを出てからずっと抱きつき離れないスワロが原因なのかも知れないが…… 歩きづらい。



紹介された倉庫は広さはも十分。

取り敢えずテントとトイレを設置する。

スライムは後で手に入れよう。



お茶を淹れ、まったりタイムを楽しむ惣一郎にスワロが、

「惣一郎殿、この街での予定は?」

まずはギルドの買取金の準備ができるまで、移動用の馬車でも見に行こうかと考えていた。

「私は魔導書店へ行ってみようかと」

スワロなりに、これからの厄災戦を思っての事だろう。

それなら前回も言った様に、名前はまだ決まってないがチームとしての必要経費だ。

みんなで行こうと説得すると、感謝して自分の財産もチームの為に使ってほしいと出してきた。

だが惣一郎は、前回の転移トラップの件もあるので、個人で持っていた方がいいと受け取らなかった。

「ではこの身は惣一郎、あなたに捧げ…「所でベンゾウは?」」

『私の覚悟が……』っと、落ち込むスワロ。

ベンゾウの姿を探している惣一郎。

すると、途中から姿を消していたベンゾウが帰って来る。

トイレだったのかな?

ベンゾウは、倉庫を覗く人がいたので、追いかけて捕まえて来たと、少女の長い耳を掴み連れて来る。

「私、あ、初めまして、私……」

ウサギの様な耳の獣人の女性であった。

「あ、あの、私、ギルドで、その、貴女の魔法を見て、その、」

どうも冒険者らしい若いこの女性は、訓練所で見たスワロの魔法に強く感銘を受け、少しでも近づき教えを請いたいと、後をつけて来たとの事でした。

ベンゾウとクロに気づかれず、ここまでつけて来ただけでも冒険者なのだろう。

スワロは兎の獣人を見て、

「私の魔法はこの方とこの杖による物だ、悪いが教えを請いたいのであれば他を当たるといい」

内心は『せっかく良い雰囲気だったのに!』

少女は食い下がらず、

「あ、でも、どうしても強くなりたいんです!」

この子にも曲げられない理由があるのだろう。

態度には強い意志を感じた。

惣一郎が魔法は何が使えるのか尋ねると……

……… えっ、シカト!





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