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第四章

三十六話 【前を向く惣一郎!】

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睡眠不足もあってか、陽もまだ高い時間から惣一郎は寝ていた。

ベンゾウとスワロは、あれから言葉を発しない惣一郎の寝顔を、心配そうに見ていた。



起きてからも、惣一郎はひどく落ち込んでいた。

自分の都合で利益しか考えず、不用意に渡してしまった違う世界の杖で、少女が人生を呪うほどの傷を負ったのだ。

派生的にリアカーを売ってしまった、ジュグルータさんをも心配していた。

ベンゾウとスワロも、クロさえ例外なく、惣一郎の都合で影響を受けている。

盗賊の件にしても、感情的にふたりに人殺しをさせた事実は変わらないのだ……

前の世界で責任から逃げ、この世界では自由に生きる、そう思っていたが大間違いで、自由には責任がつきまとう。

それも他人の人生を背負い込まなければいけない程の重責だ。

俺は馬鹿だった……

何も手に付かず、ただソファーで落ち込んでいると。

隣にちょこんと座るベンゾウ。

「ご主人様、ベンゾウね、今がすごく幸せ」

何を知って、何を理解しての言葉かわからないが、惣一郎の中から込み上げる感情が、涙になって溢れ出す。

年下の少女の胸で声を殺しながら、惣一郎は泣いていた。

少女の手は優しく包んでくれていた。






落ち着きを取り戻し、スワロの淹れてくれたお茶を飲む。

スワロもまた惣一郎に、優しい言葉をかけ抱きつきたかったが、ベンゾウに先を越され我慢していたのだった。

惣一郎にはちゃんと伝わっていた。

ワン! (ふたりにここまで気を遣わせ、巻き込んだんだ! 落ち込んでる場合じゃないだろう、惣一郎!)

そんなクロの言葉は、伝わっていなかった……



気を取り直し少しスッキリしたので、今度は美味い物だと食事の準備を始める。



コンコン!

倉庫の扉を叩く音にスワロが開けると、そこにはギルマスが立っていた。

「少しいいだろうか?」と、ギルマスは惣一郎を外へ連れ出す。

少し離れた建物の上に、街を見晴らす火の見やぐらの様なものが建っており、そこに案内するとギルマスは惣一郎にゆっくりと話し始める。

今回の事、この国の事、これからの事、そして惣一郎の事。

ピノは無事、回復に向かっているそうだった。

今回の様な事に惣一郎には耐性がないと思ったのだろう、ギルマスは今、各地で起きている惨状を、厄災がもたらした悲劇を、淡々と語ってくれた。

すっかり陽も落ちて来た頃、ギルマスは今回の盗賊には、懸賞金が出る事を話の最後に帰って行った。

街を見渡し、惣一郎が守ったものを見せたかったギルマスの意図を理解して、倉庫に戻る。



倉庫に戻ると、惨状が待っていた。

出かけている間にベンゾウとスワロが、惣一郎の為に食事を作ろうとしたのだろう。

ベッドとテントの一部が燃え焦げ、爆発しただろうカセットコンロが数台と鍋などが散乱し、それを消そうと樽の水で辺りはびしょびしょに濡れていた……

まだ何も言ってないのに、そこには耳を畳む少女と、汚れたダークエルフが並んで正座していた。

そしてここには、泣いてた男がもう笑っていた。





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