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第九章

十九話 【思い込み!】

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「どうしよう…… 逃しちゃった」

「ドンマイ!」

この男の体じゃ無いと召喚出来ないって言ってたし、コウモリ女はもう出ないだろう。

「魔族の男は一応、倒したし…… まいっか!」

惣一郎はハイジに魔族は倒したとコールする。

連絡を受けたハイジが、みんなに報告する。

「惣一郎様が魔族を倒したわ! 仲間には逃げられたけど、召喚してた男は倒したのでもう、召喚獣は出ないそうですわ!」

村人から歓声が上がり、久しぶりの夜を楽しんだ。

「お嬢様…… お聞きですかこの歓声を」

「ハイジよ! 聞こえてますわ、ここにいるんですもの……」

ふたりは、向けられた歓声を受け、貴族の時は聞いた事も無い人々の喜びの声に、深い感銘を覚えた。

惣一郎達が村に戻ったのは、早朝だった。

早朝にも関わらず、惣一郎を出迎えてくれた村人の前に、倒した男の上半身を出す。

「これが犯人の魔族だ」

古い火傷の痕を残す顔に、村人は息を呑む。

惣一郎は、もしかしたら知ってる人が居るかもと期待して出したが、当てが外れた様だ。

惣一郎は再度、もう召喚獣が来ることは無いと念を押し、村人の感謝の言葉を、眠いからとおざなりにする。

カールに魔道具を返し、前回と同じ場所にテントを出して、仮眠を取る。

クロの背に乗る事に疲れた惣一郎だった。



午後には目を覚ます惣一郎。

すでにみんな起きており、ベンゾウがお腹すいたと騒ぎ出す。

「夕方には村人が、感謝の宴をしてくれるそうですが、それまで待たれては? きっと美味しい料理も出してくれますよ」

そう言うカールに惣一郎は、

「いや、飯食べたらすぐ村を出ようと思う」

そう言いながら、食事の準備を始める。

「宴には参加なさらないと?」

「ああ、面倒臭いだろ」

カールとハイジは衝撃を受けた。

感謝の言葉どころか見返りすら求めていない惣一郎の姿勢は、感謝されるのは施した者の礼儀と思っていたハイジ達貴族とはかけ離れていた。

して当たり前、惣一郎の姿勢に頭が下がる思いだった。

過大評価し過ぎであり、惣一郎は本当に面倒臭いだけなのだが……

食事を終えると惣一郎は、陽が高いうちにとテントを収納し、クロの荷車に乗り込み村を出る。

途中広場で村人が宴の準備をしていたが、惣一郎は手を振って通り過ぎる。

慌てて追いかけて来る村人も、すでに景色の点となり、惣一郎達は魔法が盛んな次の街[ゴスガイルの街]を目指す。

そう言えば、カール達はキリの村までって言ってたが…… 普通を望むなら手伝うって言っちゃたし、あの村じゃね…… ま、いっか!

地図によれば、次のゴスガイルの街から二手に東に温泉地イカホの町があり、西へ二つ先にコマレークの街がある。

貴族に嫁ぐ気はもう無さそうだが、ゴスガイルの街が、ふたりこれからの分岐点になるだろう。

木が立ち並ぶ草原の道を、北へ進み続ける。

「惣一郎殿、お借りしたこのナイフ、ダンジョン産なのですか? 凄い切れ味で驚きました」

そういえばカールに、包丁貸してたままだった。

「まぁ、そんな所だ!」

「短剣はあまり慣れてませんが、凄く使いやすい!」

あれ?

「え? 短剣使ってたよね?」

「ええ、魔法武器だったので使ってはいましたが、得意武器は細身の長剣か槍ですね」

そうなんだ…… 勝手に短剣使いかと思ってたわ! どおりで、みんなして短剣っておかしいと思ってたのよね~ 待てよ……

「弁慶! 弁慶は短剣使いだよな?」

「え? いえ旦那様、アタイは大剣しか使った事無いですよ?」

「ハイ? だって前のごっつい塊は?」

「あれは使い過ぎた大剣です! 潰れたり折れたりそのままぶっ叩きまくっていたら、短くなっちゃって」

衝撃の事実だった……

「あぁ、でも、侃護斧は気にっている。 前の大剣より全然重いし、硬いしな!」

「そう…… 良かったね」

「まさかベンゾウさん! ベンゾウは短剣使いだよな?」

「うん、ご主人様! 短剣二刀使いです!」

ホッとする惣一郎だった。


次からは、ちゃんと確認しよう……


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