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第十七章

五話 【知ってるけど知らない敵】

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「ダンジョンで魔物が出ないなんて事、あるのか?」

みんなを送るだけのはずが、一緒にダンジョンに入ってしまったギドが、疑問を口にする。

惣一郎もその答えはわからない。

だが、階段の部屋に着くと、下から異様な空気がセシルにもわかった。

「惣一郎様、ここを降りるのですか……」

ミコが鉈を抜く。

「おいおい、なんだこりゃ! ここまで殺気が伝わって来るぞ!」

階段の上で、鳥肌が立つ惣一郎。

マジか……

異様なプレッシャーを感じる惣一郎は間違いなく、過去にない強敵を予感させる一本道の罠に、

「他に道はないし、行くしかないか……」

っと準備を整え、ゆっくりと階段を降りて行く。

いつもなら階段の途中にあるはずの魔法陣もない。

皆、口を閉じ、ゆっくりと降りて行く。



降りた先に広い空間が現れ、薄暗い空間の中央に立つ大きな人影。

弁慶の倍はありそうな影は、巨大な2本のツノを左右に伸ばし、分厚い筋肉に覆われた赤い体は、巨大な斧を構えている。

牛の顔……

「[ミノタウロス]か!」

黒い毛に覆われた下半身から蹄のついた足で地面を蹴り、今にも突進して来そうなミノタウルスは、ヨダレを垂らし殺気を向けている。

惣一郎の知るミノタウロスは、ゲームなどでさほど強敵では無かったが、実際に向けられる殺気とその巨体を前に、惣一郎も足が震える。

「だ、旦那…… 知ってるのかアレを!」

「なんちゅ~ 殺気じゃ……」

ミコ達も知らない魔獣。

惣一郎だけでなく、みんなが震え動けなかった…… ひとりを除いて。

小刀を抜き、髪の毛を逆立てながらも、引き攣った笑顔のベンゾウが前に出る。

強敵を前に、喜びが勝るベンゾウ。

その背中に思い出した様に、鉈を振り上げるミコ。

「姉弟子に負けてらんね~っての!」

見る見る毛深くなるミコ。

弁慶も赤くツノを伸ばし、侃護斧を構える。

仲間のその勇姿に、惣一郎も震えを忘れる。

仲間…… 心強い!

「ギド! セシルとクロを連れ下がっててくれ!」

2枚の盾を出し、前に浮かせる惣一郎が叫ぶ。

ケッヒイイイィ!

ヨダレを撒き散らし、声にならない音を出すミノタウロスが、斧を振り上げ襲いかかる!

ベンゾウも銀の閃光を残しながら突っ込むと、ミコと弁慶が続く!

閃光の先にタイミングを合わせ、巨大な斧が空を斬る!

地面をえぐり、振り抜いた斧を軽々と、また逆に斬り込む!

だがベンゾウには、当たらない!

隙を突いて、惣一郎の鉄球がミノタウロスの腹部にめり込むが、分厚い筋肉に鈍い音をさせるだけだった。

ミノタウロスは気にもしていない。

五月蝿いハエを払う様に、軽々とベンゾウを追いかける斧。

その度、ミノタウロスの腕に小さな切り傷を作るが、出血も締め付ける筋肉で止まる。

弁慶のフルスイングが背後からミノタウロスの腰に伸びるが、ベンゾウを追いかける斧が進路を変える!

盾が弁慶の前に割り込むと、盾ごと弁慶を吹き飛ばす!

盾のおかげで、吹っ飛んだ弁慶も無傷!

だが、呼吸が乱れる。

腰を落とし、その弁慶に突っ込む巨大なミノタウロス。

それをい追いかける黒い弾丸が、ミノタウロスの背中に撃ち込まれる!

息を漏らし、突進を止めるミノタウロスの背中に何本もの深い傷が見えたが、雄叫びと同時に引き締まった背筋で傷が塞がる。

「どっこいしょ!」 ガキン!

っと、高音を岩で囲まれた空間に響かせ、右のツノを折るガブガ!

バランスを崩したミノタウロスに、閃光が走り肩に傷を作り、姿を表すベンゾウ!

だらんっと斧を持つ腕が下がると、ガオの右ストレートが顔面を捉える!

よろけるミノタウロス。

だが、曲げた首をゆっくり戻すとその顔には、牛の顔でも分かる程の怒りが見てとれた!

その隙を突いて、呼吸を整えた弁慶のフルスイングが右膝に撃ち込まれると膝を折り地面に突く!

「畳みかけろ!」

弾丸がまた背中に撃ち込まれ、斧を持つ腕に閃光が通り過ぎて傷を残し、地面を凹ませる軸足から伸びたガオのボディーブローが脇腹にめり込み、首筋にガブガの2本の斧が突き刺さる!

惣一郎の苦無が数本、背中に刺さると、

ブオオオオオオオォォ!!!!!

と両手を広げ立ち上がるミノタウロス!

左手でガオを無造作に掴み、投げつける!

そのまま両手で巨大な斧を握ると、筋肉が一回り大きく膨らみ、フルスイング!

風圧で吹き飛ぶ、ガブガとミコ!

踏み止まった弁慶に、蹄の蹴りがめり込み、飛ばされた弁慶が岩壁にめり込む!

離れていた惣一郎は、ガードした腕で見えていなかった。

その背後のセシル達は、ギドの瞬間移動で、さらに離れていて無事だった。

「弁慶!」

「ご主人様! 盾を! 足場を!」

惣一郎はベンゾウの声に、瞬間的に盾を何枚も出し、ミノタウロスの周りに浮かせると、閃光が盾を足場に何本もの銀色の線を作る!

盾にのしかかる重さが徐々に増し、惣一郎は理喪棍を握りしめ、それに耐える!

光の線に囚われたミノタウロスは、至る所から血を吹き出し、目に見えない閃光を捕まえようともがくが、やがて膝を突き、崩れ倒れる。

前のめりに倒れたミノタウロスは、ミキサーに巻き込まれた様に、切り刻まれ、肉片となっていた。





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