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第24話 家事指導スタート
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「えっと、まずはスポンジに洗剤つけて、と」
いやあ、ほんとに便利! 便利すぎるわ、この世界!
私はルンルン気分で、手にしたスポンジに液体の洗剤をダーッとかけた。
横には、かわいいまひろ先生もいる。よけいにご機嫌になっちゃうよ。
「ストップ!」
ん? ストップ?
あれ、気のせいかな……まひろ先生、声の調子がちょっとキビシイような……
「え? なんですか?」
私はひとまず泡だらけの手を止めて、横に立つまひろ先生を見た。
大変だ。かわいい先生の顔に笑顔のかけらもない。
「あのね、いきなり洗剤で洗うんじゃなくて、まずはお湯でさっと汚れを落とすの。そのほうがよく落ちるから……あと、その前に洗剤つけ過ぎです」
「あ、はい、すみません」
そうなのか……これ、つけ過ぎなのか……っと、お湯、お湯……と……
「くぼんでるところは洗い残しやすいですから、念入りに……あ、カミさん、まだ食器に泡がついてますよ! あぁ、重ねるのはお皿から、かさばるものはあとからです!」
ううっ、まひろ先生の口調が、どんどんキビシくなっていく……
「こ、こんな単純作業にもルールがあるんですね」
「あのですね、かごに洗い終わった食器を重ねる順番を、逆にしてみたらどうなるか、実際にやってみてください」
「は、はあ……」
私はまひろ先生に言われるがまま、先にコップ、後から皿を重ねてみた。
あ、なるほど。
「なんかバランスが悪いし、重ねにくいです」
「そうでしょう? 単純作業にもルールがあるのは、スムーズに良い結果を残すために必要なものなんですよ。単純でも単純じゃなくても、仕事にはコツがあるものなんです。自分なりのそれを掴むのが楽しかったりするんですよ」
にこっ。
あ、やっとまひろ先生が笑った。ほっ。
しかし、家事……ううむ……なかなかに奥が深いぞ。
「じゃ、次は洗濯物です。洗濯は洗濯機に洗剤と柔軟剤を入れるだけですから、私がやっておきました。カミさんには、これから干す作業をしてもらいます」
出た、異世界七大便利グッズの一つ、洗濯機!
ちなみに異世界七大便利グッズとは、電子レンジ、掃除機、洗濯機、冷蔵庫、エアコン、テレビ、パソコンだ。
しかし、この洗濯機という箱と洗剤とかいう液のタッグは最高だよ! ボタンを押して待つだけで、面倒なことこの上ない洗濯が終わるんだから。
うちの世界の場合は、こうはいかない。
家の近くにある川まで行き、桶に水を張ってギザギザのついた板に衣服をこすりつける。
一年を通して、この世界ほど気温に落差はないけど、空気が乾燥する日や雨の日もある。
│嫁《あいつ》、顔色一つ変えずに荒れた手に薬草をすり込んでたっけな……
あの作業、こっちは慣れっこになってあいつがやるのが当たり前って思ってたけど……やっぱり、一人にやらせるのは良くないような気がしてきた。
大変だもんな。肌、傷むしさ。
「いいですか? 一応先にやってみせますけど、こうやって干すんですよ」
│嫁《あいつ》の荒れた肌の手と違って、きれいなまひろ先生の手が、濡れた洗濯物を洗濯ばさみに挟んだ。
「はい、こうですね」
私は、少し複雑な心境になりながら、なんとなくまひろ先生を真似てやってみる。
干したのは、白地に淡い黄色の花がらがついたハンカチだ。
「カミさん、それじゃシワだらけですよ」
ん? シワ? あぁ……それ、そんなに気にすることかな?
って、またまひろさんから笑顔が消えてるや。
「えっ、あの、シワって乾けば伸びるんじゃないんですか?」
「なに言ってるんですか、伸びませんよ! シワシワのまま乾くんです。ハンカチだけじゃなくて、靴下もタオルも同じです。ですから、シワを伸ばしてから干すんですよ。あとは、洗濯物同士の隙間をあけないと空気が通らないので、この時期は特に乾かないですから。そこもポイントですよ」
「んー、でも、別にシワシワでも良くないですか? 使えれば」
「カミさん……見た目って、けっこう大事ですよ?」
うっ、まひろ先生の頬が引きつってるような感じがする!
「それと、カミさんは身だしなみにもう少し気を使った方がいいような気がします」
ぐさっ!
「えっ……でも、私、これから嫁をもらうわけじゃないし」
「あのですね、女性からモテる、モテないの問題じゃありません! 顔、洗いましたか? 髪、梳かしましたか?」
「あっ……えっ……どうだったかな? した、ような?」
言葉を濁していると、小さなため息を吐かれてしまう。あああ。
「カミさん、だらしなくしてると、福の神にも逃げられますよ」
嫁だけじゃなく、福の神にまでもか! 嫌だわ、それは!
「はい、ではこの状態のまま乾いたらどうなるか、シワがないものと比べてどう見えるのか、自分の目で見て判断しましょう」
「はい……」
身だしなみ、か。そういえば、昔からよくあいつにも言われてたっけな。
正直、面倒なんだよな。あ、いやいや、変わるんだ私は! その為に弟子入りしてるんだから!
私は干した洗濯物を物干し竿にかけるまひろさんの背を見ながら、そっとため息を吐いたのだった。
いやあ、ほんとに便利! 便利すぎるわ、この世界!
私はルンルン気分で、手にしたスポンジに液体の洗剤をダーッとかけた。
横には、かわいいまひろ先生もいる。よけいにご機嫌になっちゃうよ。
「ストップ!」
ん? ストップ?
あれ、気のせいかな……まひろ先生、声の調子がちょっとキビシイような……
「え? なんですか?」
私はひとまず泡だらけの手を止めて、横に立つまひろ先生を見た。
大変だ。かわいい先生の顔に笑顔のかけらもない。
「あのね、いきなり洗剤で洗うんじゃなくて、まずはお湯でさっと汚れを落とすの。そのほうがよく落ちるから……あと、その前に洗剤つけ過ぎです」
「あ、はい、すみません」
そうなのか……これ、つけ過ぎなのか……っと、お湯、お湯……と……
「くぼんでるところは洗い残しやすいですから、念入りに……あ、カミさん、まだ食器に泡がついてますよ! あぁ、重ねるのはお皿から、かさばるものはあとからです!」
ううっ、まひろ先生の口調が、どんどんキビシくなっていく……
「こ、こんな単純作業にもルールがあるんですね」
「あのですね、かごに洗い終わった食器を重ねる順番を、逆にしてみたらどうなるか、実際にやってみてください」
「は、はあ……」
私はまひろ先生に言われるがまま、先にコップ、後から皿を重ねてみた。
あ、なるほど。
「なんかバランスが悪いし、重ねにくいです」
「そうでしょう? 単純作業にもルールがあるのは、スムーズに良い結果を残すために必要なものなんですよ。単純でも単純じゃなくても、仕事にはコツがあるものなんです。自分なりのそれを掴むのが楽しかったりするんですよ」
にこっ。
あ、やっとまひろ先生が笑った。ほっ。
しかし、家事……ううむ……なかなかに奥が深いぞ。
「じゃ、次は洗濯物です。洗濯は洗濯機に洗剤と柔軟剤を入れるだけですから、私がやっておきました。カミさんには、これから干す作業をしてもらいます」
出た、異世界七大便利グッズの一つ、洗濯機!
ちなみに異世界七大便利グッズとは、電子レンジ、掃除機、洗濯機、冷蔵庫、エアコン、テレビ、パソコンだ。
しかし、この洗濯機という箱と洗剤とかいう液のタッグは最高だよ! ボタンを押して待つだけで、面倒なことこの上ない洗濯が終わるんだから。
うちの世界の場合は、こうはいかない。
家の近くにある川まで行き、桶に水を張ってギザギザのついた板に衣服をこすりつける。
一年を通して、この世界ほど気温に落差はないけど、空気が乾燥する日や雨の日もある。
│嫁《あいつ》、顔色一つ変えずに荒れた手に薬草をすり込んでたっけな……
あの作業、こっちは慣れっこになってあいつがやるのが当たり前って思ってたけど……やっぱり、一人にやらせるのは良くないような気がしてきた。
大変だもんな。肌、傷むしさ。
「いいですか? 一応先にやってみせますけど、こうやって干すんですよ」
│嫁《あいつ》の荒れた肌の手と違って、きれいなまひろ先生の手が、濡れた洗濯物を洗濯ばさみに挟んだ。
「はい、こうですね」
私は、少し複雑な心境になりながら、なんとなくまひろ先生を真似てやってみる。
干したのは、白地に淡い黄色の花がらがついたハンカチだ。
「カミさん、それじゃシワだらけですよ」
ん? シワ? あぁ……それ、そんなに気にすることかな?
って、またまひろさんから笑顔が消えてるや。
「えっ、あの、シワって乾けば伸びるんじゃないんですか?」
「なに言ってるんですか、伸びませんよ! シワシワのまま乾くんです。ハンカチだけじゃなくて、靴下もタオルも同じです。ですから、シワを伸ばしてから干すんですよ。あとは、洗濯物同士の隙間をあけないと空気が通らないので、この時期は特に乾かないですから。そこもポイントですよ」
「んー、でも、別にシワシワでも良くないですか? 使えれば」
「カミさん……見た目って、けっこう大事ですよ?」
うっ、まひろ先生の頬が引きつってるような感じがする!
「それと、カミさんは身だしなみにもう少し気を使った方がいいような気がします」
ぐさっ!
「えっ……でも、私、これから嫁をもらうわけじゃないし」
「あのですね、女性からモテる、モテないの問題じゃありません! 顔、洗いましたか? 髪、梳かしましたか?」
「あっ……えっ……どうだったかな? した、ような?」
言葉を濁していると、小さなため息を吐かれてしまう。あああ。
「カミさん、だらしなくしてると、福の神にも逃げられますよ」
嫁だけじゃなく、福の神にまでもか! 嫌だわ、それは!
「はい、ではこの状態のまま乾いたらどうなるか、シワがないものと比べてどう見えるのか、自分の目で見て判断しましょう」
「はい……」
身だしなみ、か。そういえば、昔からよくあいつにも言われてたっけな。
正直、面倒なんだよな。あ、いやいや、変わるんだ私は! その為に弟子入りしてるんだから!
私は干した洗濯物を物干し竿にかけるまひろさんの背を見ながら、そっとため息を吐いたのだった。
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