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1章
4.城と家 『風属性だと良くないのか?』
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この国の第三王女だというアセリアと契約を交わしたテトは、そのアセリアに導かれるがまま、生まれ落ちた森の中を進んでいった。
初めこそ、子供の足でも来られるような場所だと高をくくっていたが、案外道のりは険しく遠く、結局王宮の城壁の側までたどり着いたのは日が暮れる頃になってからだった。
『えっと……。で、どうするんだ、これ』
目の前には、王宮の裏側の城壁が、天高くそびえ立っている。とても、子供と猫いっぴきには上れない高さだ。
「こっちだよ」
アセリアは顔色一つ変えず、城壁に張り付いた蔦を幾重にもかき分け始めた。するとやがて、その先に隠されていたわずかな壁の亀裂が見えてくる。
アセリアはその亀裂の隙間をくぐり抜け、あっという間に城内へと侵入してしまった。
(ここから抜け出して来たのか)
その亀裂は子供のアセリアがぎりぎり通れるかというような大きさだ。当然猫であるテトも、手間取ることもない。
亀裂の先は、城の裏庭と思われる場所に続いていた。
長らく人の手が入っていないのか、いっそ森のなかのほうが管理が行き届いていた感がある。
『なあ、アセリア。この穴、放っておいていいのか?』
亀裂を抜けた先で、アセリアに再び抱きかかえられつつ、テトは問いかける。どう考えても、警備上問題があることは明白だろう。
しかしアセリアは、その翡翠の瞳にいたずらな光を浮かべるだけだった。
「大丈夫、私くらいしか通れないし。それにあの穴の向こうは、魔の森だからね。森を通って王城にこようとする者はいないよ」
『魔の森って?』
「さっき私たちがいた森だよ。あそこも魔物が出るんだ。君が生まれるような魔力だまりが出来る森って考えたら、なかなかのものでしょう?」
『えっ、お前そんな危ない森に勝手に入ってたの?』
「ちゃんと魔除けをもってるから問題ないよ。それに王城にも、魔除けの結界が張り巡らされてるから、そもそも浅いところには魔物は近づいてこないんだ」
『……俺とアセリアが逢ったのって、結構森を入ったところだった気がするけど?』
アセリアは一瞬黙ったものの、すぐににこっと笑顔を浮かべた。
「まあ、それでも、魔除けが効く辺り――森守りの手が入ってるあたりまでしか行ってないから」
『お前なあ』
テトは柔らかな両の肉球でその頬を挟んで、もちもちとお仕置きした。
『なんで王女がそんな危ない森の中をうろうろしてるんだよ』
「欲しいものがあったんだよ。森の浅い所じゃ手に入らないんだ」
『ふうん? で、結局、その捜し物とやらは手に入ったのか?』
「一応ね。君の魔力だまりの近くで」
『ほほう』
(つまり魔力だまりの近くのような、魔力が濃い場所でしか手に入らないものってことか)
『後で見せてあげるよ』
「それは楽しみだ」
雑草の伸びた裏庭を進み、朽ちた石づくりの広間を横切る。
そのまま暫く歩いていくと、茂みの向こうに小道が現れた。その小道の先は、華やかさには欠けるものの、きちんと手入れがなされている。
「こっちだよ。ここが私の風の宮」
小道をしばらく歩いたあと、アセリアはそう言って、城内の規模にしてはややこじんまりとした御殿を指し示した。
王城からは少し離れた場所にあるようだ。
歴史のある趣だが、華やかさには欠け、周囲にはあまり人気が感じられない。
「まあっ! アセリア様!」
テトがヒゲをそよがせて辺りをうかがっていると、横から声がかかった。
質素なドレスに身を包んだ、可愛らしいご婦人だった。年の頃は、20代といったところか。
アセリアの姉と言われても納得できるけれど、妙に落ち着いた雰囲気もあって、はっきりとした年の頃はわからない。
その顔には今、驚きと安堵が浮かんでいる。
「いったい、どこに行っていらしたのです! 探しても探してもお姿が見えなくって、このマーサ、どれだけ心配したことか……!」
マーサはそういうと、わっと顔を覆って泣き出してしまった。アーサが少し慌てたように、マーサの元へと駆け寄る。
「ごめんね、マーサ。心配かけて。風の庭に行ってたんだ」
「まあ、またですか? 整備もろくにされておりませんし、魔の森にも近うごさいますのに」
「だからだよ。ほら見て、これを探していたんだ」
アセリアはマーサを宥めるように微笑み、下げていた鞄の中から一株の花を取り出した。
「これは……まさか魔草ですか!? これが風の庭にあったのですか?」
「うん、でも一本だけ。だからマーサ、このことは誰にも……」
「もちろん、言いませんとも! すぐに口の堅い薬師を呼んでまいります」
言うが早いか、マーサはその場から駆け出して行く。
『……風の庭?』
「あの荒れてたところ」
『ああ』
どうやらアセリアは、魔の森の深くまで行っていたことは内緒にしたいらしい。
(この辺りの事情はまた、詳しく話を聞かないとだな)
内緒に協力するか否かは、その理由次第だ。
『それにしても、さっきの人。嵐みたいな勢いだったな』
「ふふっ」
思わず呟いたテトに、アセリアは楽しそうに笑った。その笑顔に、暖かな風が吹いたようにほっこりと心が温まる。
人嫌いの少女はしかし、あのご婦人には親しみを覚えているらしい。
『どういう人なんだ?』
「マーサは、母上の侍女なんだ。まあ、私にとっては育ての親みたいなものかな」
『そうか、大切な家族の一人なのだな』」
アセリアは一瞬驚いたように目を見開き、それから少し寂しそうに笑った。
「……どうかな。マーサがどう思ってるかまでは、わからないから」
『俺の目には、随分とお前を大切にしているように見えたが?』
「そうだね。マーサは優しいよ。でも、私の魔術適正は“風”だから。マーサだって、いついなくなってもおかしくないよ」
『“風"……? 風属性だと良くないのか?』
「えっ」
アセリアは、とんでもない事を聞いたというように、ぎょっと目を大きくした。
初めこそ、子供の足でも来られるような場所だと高をくくっていたが、案外道のりは険しく遠く、結局王宮の城壁の側までたどり着いたのは日が暮れる頃になってからだった。
『えっと……。で、どうするんだ、これ』
目の前には、王宮の裏側の城壁が、天高くそびえ立っている。とても、子供と猫いっぴきには上れない高さだ。
「こっちだよ」
アセリアは顔色一つ変えず、城壁に張り付いた蔦を幾重にもかき分け始めた。するとやがて、その先に隠されていたわずかな壁の亀裂が見えてくる。
アセリアはその亀裂の隙間をくぐり抜け、あっという間に城内へと侵入してしまった。
(ここから抜け出して来たのか)
その亀裂は子供のアセリアがぎりぎり通れるかというような大きさだ。当然猫であるテトも、手間取ることもない。
亀裂の先は、城の裏庭と思われる場所に続いていた。
長らく人の手が入っていないのか、いっそ森のなかのほうが管理が行き届いていた感がある。
『なあ、アセリア。この穴、放っておいていいのか?』
亀裂を抜けた先で、アセリアに再び抱きかかえられつつ、テトは問いかける。どう考えても、警備上問題があることは明白だろう。
しかしアセリアは、その翡翠の瞳にいたずらな光を浮かべるだけだった。
「大丈夫、私くらいしか通れないし。それにあの穴の向こうは、魔の森だからね。森を通って王城にこようとする者はいないよ」
『魔の森って?』
「さっき私たちがいた森だよ。あそこも魔物が出るんだ。君が生まれるような魔力だまりが出来る森って考えたら、なかなかのものでしょう?」
『えっ、お前そんな危ない森に勝手に入ってたの?』
「ちゃんと魔除けをもってるから問題ないよ。それに王城にも、魔除けの結界が張り巡らされてるから、そもそも浅いところには魔物は近づいてこないんだ」
『……俺とアセリアが逢ったのって、結構森を入ったところだった気がするけど?』
アセリアは一瞬黙ったものの、すぐににこっと笑顔を浮かべた。
「まあ、それでも、魔除けが効く辺り――森守りの手が入ってるあたりまでしか行ってないから」
『お前なあ』
テトは柔らかな両の肉球でその頬を挟んで、もちもちとお仕置きした。
『なんで王女がそんな危ない森の中をうろうろしてるんだよ』
「欲しいものがあったんだよ。森の浅い所じゃ手に入らないんだ」
『ふうん? で、結局、その捜し物とやらは手に入ったのか?』
「一応ね。君の魔力だまりの近くで」
『ほほう』
(つまり魔力だまりの近くのような、魔力が濃い場所でしか手に入らないものってことか)
『後で見せてあげるよ』
「それは楽しみだ」
雑草の伸びた裏庭を進み、朽ちた石づくりの広間を横切る。
そのまま暫く歩いていくと、茂みの向こうに小道が現れた。その小道の先は、華やかさには欠けるものの、きちんと手入れがなされている。
「こっちだよ。ここが私の風の宮」
小道をしばらく歩いたあと、アセリアはそう言って、城内の規模にしてはややこじんまりとした御殿を指し示した。
王城からは少し離れた場所にあるようだ。
歴史のある趣だが、華やかさには欠け、周囲にはあまり人気が感じられない。
「まあっ! アセリア様!」
テトがヒゲをそよがせて辺りをうかがっていると、横から声がかかった。
質素なドレスに身を包んだ、可愛らしいご婦人だった。年の頃は、20代といったところか。
アセリアの姉と言われても納得できるけれど、妙に落ち着いた雰囲気もあって、はっきりとした年の頃はわからない。
その顔には今、驚きと安堵が浮かんでいる。
「いったい、どこに行っていらしたのです! 探しても探してもお姿が見えなくって、このマーサ、どれだけ心配したことか……!」
マーサはそういうと、わっと顔を覆って泣き出してしまった。アーサが少し慌てたように、マーサの元へと駆け寄る。
「ごめんね、マーサ。心配かけて。風の庭に行ってたんだ」
「まあ、またですか? 整備もろくにされておりませんし、魔の森にも近うごさいますのに」
「だからだよ。ほら見て、これを探していたんだ」
アセリアはマーサを宥めるように微笑み、下げていた鞄の中から一株の花を取り出した。
「これは……まさか魔草ですか!? これが風の庭にあったのですか?」
「うん、でも一本だけ。だからマーサ、このことは誰にも……」
「もちろん、言いませんとも! すぐに口の堅い薬師を呼んでまいります」
言うが早いか、マーサはその場から駆け出して行く。
『……風の庭?』
「あの荒れてたところ」
『ああ』
どうやらアセリアは、魔の森の深くまで行っていたことは内緒にしたいらしい。
(この辺りの事情はまた、詳しく話を聞かないとだな)
内緒に協力するか否かは、その理由次第だ。
『それにしても、さっきの人。嵐みたいな勢いだったな』
「ふふっ」
思わず呟いたテトに、アセリアは楽しそうに笑った。その笑顔に、暖かな風が吹いたようにほっこりと心が温まる。
人嫌いの少女はしかし、あのご婦人には親しみを覚えているらしい。
『どういう人なんだ?』
「マーサは、母上の侍女なんだ。まあ、私にとっては育ての親みたいなものかな」
『そうか、大切な家族の一人なのだな』」
アセリアは一瞬驚いたように目を見開き、それから少し寂しそうに笑った。
「……どうかな。マーサがどう思ってるかまでは、わからないから」
『俺の目には、随分とお前を大切にしているように見えたが?』
「そうだね。マーサは優しいよ。でも、私の魔術適正は“風”だから。マーサだって、いついなくなってもおかしくないよ」
『“風"……? 風属性だと良くないのか?』
「えっ」
アセリアは、とんでもない事を聞いたというように、ぎょっと目を大きくした。
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