風魔術は最強でした! ~転生したらもふもふ猫だったので、風魔法で無双しつつ魔女のペットとして暮らしていきます~

子子

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1章

22.対人戦2 『止めた!? ウッソだろ!』

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「まずい!」

 普通の人間ではあり得ないほどの瞬発力で距離を詰められ、アセリアの目の前で男の剣が大きく振り上げられる。

『逃げろ、アセリア!』

「っ……!

 テトが声を上げる間にも、男はアセリアへと剣を振り下ろす。

 しかしその切っ先がアセリアの肩へと触れるほんの一瞬、男が躊躇うように顔を歪め、その力を緩めた。

「風よ!」

「くっ!?」

 瞬間、アセリアの詠唱が発動する。

 詠唱というほどでもない、シンプルな風の発生だ。しかしその風は、力の抜けた男の剣の軌道を僅かに逸らすには十分だった。

 ――ガンッ!

 アセリアの肩すれすれを通って、剣が地面を穿つ音が響く。

「《風よヴェントゥス  突風となれファクトゥス・テンペスタス》」

 男が体勢を整えるその隙にアセリアは再び魔術を放った。

 姿勢を崩した状態で、間近からアセリアの魔術を受けた男は耐えきれず空へと数メートル飛ばされる。

『よし、やった!』

「……ッ!」

 しかし男は吹き飛ばされながらも、巨体とは思えないしなやかさで身を捻ると、上手く勢いを殺し着地する。

(嘘だろ! あの体勢で吹き飛んで無傷とか)

 男の身体能力に、ぞっとなる。

 否――これは、身体能力が良いとか、そんな問題ではない。明らかに今の動きは、人間離れしていた。

(そうか、身体強化か)

 テトが唯一使える魔術である、身体強化。

 ただの猫の爪でさえ、身の丈の十数倍はあるイモリを切り裂けるほどに強化してしまえたあの技術。

 それを男が使っているのだとすれば、説明がつく。

『おい、アセリア! こいつ多分身体強化使ってるぞ、気をつけろ!』

『ん、大丈夫。奴隷ってそういうものだから』

『え、知ってたの?』

 言葉ではなく、繋がりパスを通して直接、脳内にアセリアの声が響く。

(……そういえば、魔術を放てない、って言ってたな。あれってそう言う意味か)

 よくよく思い返してみると、魔術を使えないのではなく、放てないと言っていた。

 あれはつまり、詠唱できないテトと同じように、魔力を内側に押し込める措置がとられているということなのだろう。

(くそっ、だからフレア王子の奴はあんなにも余裕だったわけだな)

 テトは思わず第三王子フレアを見る。

 フレア王子は攻撃が当たったことに苛立ちこそ露わにしていたが、焦る様子はまるでない。

(あんなのがアセリアにあったら、とんでもない)

 いくら刃が潰してあっても、鈍器は十二分な凶器だ。骨が折れるのは当然、打ち所によってはアセリアなど簡単に死にかねない。

『こんなの、見てられるか! 俺も戦う』

 テトはアセリアの前に飛び出し、爪を尖らせようとした。

 しかしアセリアはそんなテトの尻尾を掴んで、ぽいと後ろへ放り投げる。

「にゃぎゃっ!?」

『駄目。テトは見てて。――使う・・よ』

 体勢を立て直した男が、アセリアへと迫る寸前。

 ずっと続けていたアセリアの詠唱が、完成した。



「《《風の刃ヴェンティサギッタ、放て《ファチト・エミッテ》》!」



 その言葉と共に、アセリアは仕込んでいた砂を舞く。
 
 瞬間、それらが風により鋭利な刃となって、男へと襲い掛かった。

 

「っ――ぐ、う!!」

 ただの風には、人を切り裂く力はない。
 しかしすさまじい風速によって飛ばされたそれ、人の肌程度なら切り裂ける程の威力を持つ。

(必殺、カマイタチだ!!)

 しかし――

「ぐううううっ!!」 

『止めた!? ウッソだろ!』


 男は周囲の風の変化から、自分に攻撃が飛んでくることに気付いたらしい。

 その攻撃位置を正確に予期し、そして剣で切り裂いてみせる。


(とんでもない男だな――だが、それではアセリアの風は止められない!)


「ぐっ、ああっ!」


 剣に切り裂かれた風は、しかしちりぢりにはならずに側部へと回り込み、容赦なく男を追撃する。


 風に仕込まれた刃が、ろくな防具もない彼の肌に幾つもの傷をつけていく。

 鮮血が舞い上がり、男の身体を紅く染め上げる。


「ぐっ……!」


 男は苦痛に顔を歪めた。

 しかしそれでも尚、怯むことなくアセリアに向かって突き進んでくる。

 アセリアは後退しながら、幾度も風の刃を放った。

 しかし男はまるで痛みを感じないかのように、風の刃に傷つきながらも、一歩一歩とアセリアとの距離を詰めていく。


『まずい……! あの傷でも、こいつは止まらないぞ!』

『……ん、このままじゃ、あの人死んじゃう』

『そこ気にしてる場合か!?』

(いや、気にする必要があるのか)

 たとえ戦闘に勝利したとしても、アセリアの心に傷が残ったのでは意味がない。

(でもそんなこと言ってる場合か――!?)



 テトの脳裏に、恐ろしい光景が浮かぶ。

 風の刃をものともせず、男がアセリアに迫り、振り下ろされる剣が、彼女の身体を――。



 そんな未来だけは、絶対に避けねばならない。



『そ、そうだアセリア。俺の言う通りに風を操ってくれ!』



 刹那、閃いた妙案に、テトはひと筋の希望を見出した。



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