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1章
21.対人戦 まさかの力技に、テトは絶叫した。
しおりを挟む「お待ちください陛下。1つ条件をつけてはいかがでしょうか?」
今にも試合が始まろうとしたとき、そう切り出したのは第一王子であるアーサーだった。
(条件だと? 一体何を言い出すんだこの王子は)
「ちっ、アーサー。また俺の邪魔をするつもりか」
アーサーの介入に、テトは警戒し、第三王子フレンもまた小さく舌を打った。
届くはずのない声だったにもかかわらず、アーサーは聞こえているかのように、どこか挑戦的な笑みをその唇に形作る。
「陛下、アセリアの力はもう十分に証明されたはずです。
にもかかわらず、第三王子の突然の要望により、このような男と戦わせるなどというのは、あまりに不憫です。
この男、フレンの所持する奴隷部隊の長ではありませんか」
アーサーはどこか少しばかり芝居がかった口調で、痛ましげな顔をして見せた。
「いくら魔術が使えないとはいえ、まだ子供であるアセリアに相手をさせるなどと、いかに酷なことでしょう。
しかしアセリアもまた王家の血を継ぐ者。戦いを前に尻尾を巻いて逃げ出すというわけにも行きますまい。
ですので、陛下の温情として、勝利の暁には何か褒美を与えてはいかがでしょうか?」
王は険しい顔のままどこか第一王子を試すような口調で訪ねた。
「……そなたは、何が褒美に相応しい考える?」
「そうですね……。ああ、そうです! ちょうどアセリアには、侍従師団もいないことですし、もしこの戦いに勝ったら、その奴隷率いる奴隷部隊を、まるごとアセリアに譲るというのはいかがでしょうか?」
その提案に、場が騒然となる。
「ば、バカな……奴隷部隊は俺のものだぞ兄上!」
「しかし、ただの奴隷だろう? 変わりはいくらでもいるんじゃないのかな? 奴隷師団も、またお前の好きなように作ればいい」
「く……っ」
まるで先ほどの奴隷との会話を聞いていたかのように、アーサーがにっこりと笑って告げる。
「そもそも負けなければいいだけの話だが……、お前が選んだ奴隷では、勝つ自信がないのかな?」
「なっ、そんなわけないだろう! いいだろう、その条件でアセリアと奴隷の戦いを認めてやる」
フレン王子はカッとなったようにそう叫び、男に命令した。
「いいか、貴様。負けるんじゃないぞ! 負けたらどうなるか分かってるだろうな」
「……」
奴隷の男は何を言うでもなくただ静かに、与えられた剣を正眼に構えた。
刃の潰された模擬戦用の剣とはいえ、男がそうして剣を構えるだけで、首筋の後ろがぞくりとするような、迫力を感じる。
(おいおい、益々アイツ本気になったんじゃないのか? 何考えてるんだよ第一王子は!)
テトは恨みを込めて第一王子を睨み付ける。そんなテトの耳に届くのは野次馬達のざわめきだ。
「なるほど、的当てを提案したのは第一王子ですからな。第三王子にでしゃばられては、面目つぶれもいいところです」
「しかし、アセリア様の風魔術で、歴戦の奴隷に勝てるかどうか」
「そこは、アーサー殿下の御慧眼次第、といったところでしょうか」
(……くだらない。権力争いかよ)
予想していたことだが、この王家はあまりきょうだい仲が良好ではないらしい。
「陛下、お許しをいただけますか?」
「……よかろう」
王の許しに、再び場がどよめきに包まれる。
『いいかアセリア、遠慮なんかするなよ! 思う存分に俺の魔力を使え!』
「……ん」
やがて審判役を任された男が場に進み出、アセリアと奴隷の男との戦闘開始を告げた。
「始め!」
宣言と同時、男は凄まじい力で地面を蹴った。
(なっ……早い!?)
あまりの速度に、テトは思わず目を見開いた。
その巨体が動いているとは思えないほどのスピードだった。みるみるうちにアセリアとの距離が縮まり、男の間合いが迫る。
『アセリア!』
「《《風よ 強く吹け》」
男の剣がアセリアへと届く寸前、その詠唱が完成すした。
途端、突風が吹き荒れ、男の足を止める。
(よし、通じる!)
「く……っ」
男の顔が苦悶に歪む。常人よりも大きなその巨躯のせいで、風を受ける面積が広いのだろう。
男の足が、わずかに地面にめり込む。
アセリアの風魔法によって、男はジリジリと後ろへと押し戻されていき、地面と男の足の間から砂煙が舞った。
『いいぞ、そのまま吹き飛ばしてしまえ、アセリア!!』
僅かに見えた勝利の兆しにテトが飛び上がったそのとき――
「ぐ、ぐおおおおっ!」
男が憤怒の炎をたぎらせるかのように荒々しい咆哮を上げた。
そして次の瞬間、男は大きく地面を蹴って一歩踏み出し、同時に手にしていた剣を大きく振り抜いた。
『なぁ――ッ!?』
風が、切り裂かれた。
衝撃によって細かい砂煙が舞い上がる。
男は強引に生み出したその風の隙間から、突風の向こうへと飛びだす。
『う、うそだろおおおおお!?』
まさかの力技に、テトは絶叫した。
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