白の衣の神の子孫

第四章 君と一緒に生きていきたい

小さな洋食店 2

  今日は『マリー』に特別な二人がやってくる日。店の休業日に早くから、モートが一人で店内で準備を始めた。

  特に変わった料理を出すわけではない。誰でも簡単に作ることができ、よく食べられる、家庭料理だ。しかし、『マリー』で食べる料理は美味しいのだ。それは、言葉では表すことができない魔法のようで………１日に数組しか客を入れない、それが故に先々まで予約で一杯になるのだが………その日客達はゆっくりとくつろぎ、会話を楽しむ。予約時に年齢や好みや苦手な食材を聞き取り、献立を考える。客にとって特別な日であれば、希望を取り入れ下準備をしておく。後は当日。会話をしながら、飲み物をすすめ、その人に最適な味付けに料理を仕上げる。誰にもできるわけではないし、やろうとも思わないであろう繊細な作業だ。多くの客相手には出来ないため、一日に数組しか、受け入れられない。

  初代のシェフがこの店を作った時、一組の客の予約しかとらなかったと聞く。年齢を重ね、店を締める予定だったところに、二代目が手伝いとして入った。そして二代目に店を譲り、今の『マリー』という名前になったのだとか。女性の名前『マリー』シェフの伴侶の名前なのかと思ったが、違うらしい。誰も知らないその理由は代々のシェフ間でも推測の粋をでないが、二代目にとって、特別な女性であったのだろう。

  ケータリングでは全ての人が満足出来る訳ではなく、モートとしては、店に足を運んで欲しいと思っている。