再会ー男と親友の写真の話ー

第二章

校医のミズカ先生

「先輩～勘弁してくださいよ～」
   ユーリが砕けた感じてその場の緊張をこわす。だが、相手は見逃してくれそうにない。獣人に対する差別は、少なくなったとはいえ、存在する。集団でいたぶって、うさを晴らすような輩はどこにでもいるのだ。
「一年、でしゃばるなよ。」
ユーリに向かって手を伸ばそうとするが、するりとかわし、視線を彼らの背後に向ける。
「でも、先輩、もうやめた方がいいと思いますよ。あれ……」
ユーリが指差した。校舎から白衣の人物が駆けてくるのが見えた。              
「大丈夫かぁぁ～?」
「やばい、校医だ。」
「いくぞ。」
あわてて立ち去る男たち。
「ユーリ、大丈夫か？」
マックが校医の後ろからひょっこり顔を出した。
「具合悪くなった奴は、どこだ？」
「あ、なおりました。」
ペコッとお辞儀してユーリが言った。
「私は校医者のミズカ。君達は一年かい？急に具合が悪くなったと聞いたが、何か持病でもあるのか？救護室で休め。診察もできるぞ。」
「えっとー」
面倒事を避けたかっただけなので、本当は悪いところは一つもない。マックの慌てぶりに先生が驚いたのだろう。
「先生。俺たち昼まだで、多分腹ペコすぎて、気分が悪くなっただけです。」
マックが白衣の袖を引っ張り振り向かせて言った。同じ位の身長だったので、振り返ったミズカのちょうど間近にマックの顔があった。ほんの一瞬、ミズカはマックの顔を見詰め固まったが、コホンと咳払いして、一歩さがり下を向く。
「そ、そうだね、時間がないから、食堂に急いだ方がいい。」
「はーい。……いくよ。」  
ユーリがピット達を連れて行く。
「ありがとうございました。」
マックはミズカに一礼してユーリを追いかけようとしたが。
「あ、君……」 
ミズカがマックに何か言いかけた。 
「？」
   ユーリに後で行くから、と言ってマックはその場に残った。なんだかもじもじしているミズカを見て、可愛いと……マックは思ってしまった。
「先生、俺と一緒にカフェに行きませんか？」
   食堂とは別に、学校にはカフェがある。フリースペースと隣り合わせで、空き時間をゆっくり過ごす者や勉強に利用する者も多い。
   食堂に行くとユーリ達がいるので、ミズカ先生が話しづらいかと思い、誘いの言葉とともに、にっこり笑いかける。
   ミズカが真っ赤になってうつむいた。
   マックがミズカの手を引いて歩き出す。
   ミズカは自分の白衣が目を引くのか、すぐ前を歩く美人が目立つのか、すれ違う人達の視線が集まっているのが気になって、益々下を向き足早になる。しかし、手を引くマックは普段から見られる事に慣れているのか全く気にしない。ミズカに合わせて歩く。
「……混んで来ましたね。」
   分岐点に近づくと思い思いに動く人達で、少し混雑してきた。マックからミズカが離れないように、背に手を回して引き寄せた。
「こちらへ。」
  エスコートされ、火が出るんじゃないかと思うくらい顔が熱い。
「ミズカ先生…」
呼び掛けられ、顔を上げる。
「やっぱり、カフェはやめません？」
ミズカは意を酌みきれず首を傾げた。
「二人っきりになれるとこ…行こ？」
  マックの少し潤んだ朱色の瞳がミズカをとらえた。ミズカの身体が一瞬で熱くなり、無言で頷く。腰に回された手にぐっと力が入り、再び歩き出した。