仕事やめても……いいですか……?

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お仕事の時間ですよ

転・マリー2

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  私達は馬車に揺られて訓練所内を見学中。

「キャア!」
  馬車の前を急に横切った狐に馬が驚いて急停止した。衝撃に思わず姫が声をあげ、隣に座る私の膝に頭を乗せて伏せる。私はすぐさま、その上から覆うように上半身で姫をかばうように抱きしめた。
  近衛騎士が周囲を確認し、声を掛けるまで、じっと息を潜め待つ……
「マリー、野生の狐のようだ。もう大丈夫。」
  近衛騎士の声にほっと息を吐き、姫の身体を助け起こした。
「姫様、お怪我はありませんか?」
私は姫を守るため、護身術を学んでいる。襲撃された場合、身代りになるべく行動する訓練も受けている。今回も自然と身体が動いた。
「マリー、大丈夫よ。ありがとう。」
  馬車での移動は限られた場所しか、見学できないが、遠くで訓練中の騎士見習いの一団を見ることができた。これで姫様が満足できる訳がないのだが、立場上ぐっと我慢している姿が、可愛らしい。
「もっと近くで見たいわ……」
つい、声が漏れたようだ。私は笑いをこらえて、姫様に提案する。
「姫様少しだけ、歩かれますか?」
「いいの?」
「あちらの、訓練中の騎士の方々にお声を掛けられてはいかがてすか?」
「マリー、大好き!」
予定通りですよ、姫様。
  馬車で移動では、見習い騎士達と直接話すことはできないと、残念に思っていた姫に抱きつかれた。
「少しだけですよ。」
  動きやすいパンツスタイルのドレスを用意したのはこのため。私は姫の後ろからついていく。今日は彼と初めて出会う日だ……

「あちらの方々は?」
案内の騎士に尋ねる。
「騎士見習いになりたての二人です。クロード、ハンス、こちらへ。」
そう声をかけられたのは黒髪と金髪の少年。
  歳は十歳位だろう。黒は魔術師に多
い色でとても珍しい。もしかしたら魔術師の血を引くのかも……彼はクロード。
  同じく十歳位のもう一人の少年はハンス。王子様のように美しいさらさらの金髪。
  二人の少年は姫の前まで進むと片膝をついて頭を垂れた。
「姫様?」
見つめたまま声をかけない姫様を不思議に思い、口を開く。
「あ、二人とも、顔を上げて。」
「クロードです。」
「私はハンスと申します。姫様。お目にかかれて光栄です。」
口調から、クロードは平民。ハンスは貴族と理解した。
「クロード。」
「はい。」
姫様が黒髪の少年を見た。黒い瞳がじっと見返す。
「ハンス。」
「はい。」
隣の金髪のハンスは少し下向き加減で答える。彼は貴族の礼儀作法を身に付けているようで、目を合わさずに答えた。初対面の男女は目を会わすのを良しとしない。
  姫様はにっこり笑う。
「名を覚えておきます。先輩方に習い、立派な近衛騎士となったあなた方と再び会う時は、誓いの儀の場であることを希望します。」

  視察を終えて訓練所を去り際に、先程の少年の姿を見つけた。
「姫様、先程の騎士見習いの少年です。記念に何かお渡ししては?」
「何かとは?」
「姫のお持ちのハンカチなど、いかがでしょう。」
「そうね、でも一つしか……」
「こちらを。」
もちろん用意しております。
「ちょうど彼らの瞳の色と同じ色の刺繍が入っています。」
姫の名前とメッセージが入っている、黒い羽の刺繍のハンカチと翠の若葉の刺繍のハンカチ。この日が来るのは私には分かっていたから特注しておきました。
  馬車を止め、ドアを開けて降りた私はクロードを手招きした。馬車の側まで来た彼に姫から見えるようにハンカチを渡す。彼は姫の顔を数秒ほど見つめ、お辞儀した。続いてハンスも手招きした。同じようにハンカチを渡そうと手を出し、受け取ろうとした彼の手が、私の手を握る。驚き手を引くと、私はバランスをくずした。とっさに、支えようとハンスが手を伸ばし、抱き止められる。
「失礼を、お許し下さい。」
すぐに離れ、謝罪したハンス。
「いえ、ありがとうございます。」
真っ赤な顔をしていたと思う。でも、なんとかお礼を言えた。まだドキドキしているわ。
「あなたのお名前を聞かせていただけませんか?」
「マリー…」
「マリー…素敵な名だ。」
ハンスの呟きが聞こえ、恥ずかしさのあまり、慌てて馬車に乗り込んだ。
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