仕事やめても……いいですか……?

キュー

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お仕事の時間ですよ

俺なんか…7 モフモフ

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  今日の撮影は本当に大変だった。家に帰ったのに、まだ、興奮がおさまらない。部屋に入り荷物をテーブルに置く。いつもなら、定位置の棚の上に置き、台本を取り出して明日のチェックをするのだが、後にする。まず、シャワーだな。汗を流したい…服を脱ぎながらシャワールームへ向かう…服も後でいいや…後一歩でシャワールームという所で、コール音が耳に届いた。
あ、携帯が……サクラかな?
裸のまま戻った。カバンから取り出して表示を見ると、ため息が出そうになった。
「……」
エリーからだ。どうしよう、出たくないけど、番号教えちゃったからなぁ…何の用かな……
「エリーさん?」

『誰かがドアの外に……』
怯えた様子で、震える声がした。先日相談された、ストーカーか!ドアの外だって?通報はしたのか?
「絶対鍵は開けないで!すぐ行くから!電話は切らないでそのままで!」
俺は慌てて棚から服を掴む。会話を続けながら手早くTシャツとパンツを身につける。芝居で早着替えは慣れているが、気が焦ってバランスを崩しそうになって、テーブルの上に手をついた。彼女に声を掛けるため、携帯は耳に当てたままなので片手がふさがっている。カバンをひっくり返し中身をぶちまける。転がり出た鍵の束を掴み、部屋を飛び出した。彼女に対して特別な感情を持っていた訳ではない。だが、今日の俺は撮影の余韻が抜けないのか興奮状態で、不思議な力が俺を突き動かす。彼女を助けなくっちゃ。


  木戸を吹っ飛ばし、薄暗い部屋に乗り込んだ。埃の舞う暗い部屋に捕らわれたヒロインの泣き顔が、俺を見てホッとしたように緩む。
「お前ら、覚悟しろ!」
狭い室内で長剣は使えない、足元にあった木の椅子を掴んだ。
「エリー!」
「やっちまえ!」
悪党の台詞はいつも同じ。だが、勝つのは俺だ。振り回して粉々に砕けた椅子を投げ捨て、殴りつける。たかが酔っぱらいと思っていたが、どうやら違うようだ。こいつらは、エリーを狙っていたんだ。
「くっ……相手が悪い、引くぞ!」
リーダーらしき男が一声掛けた。
「ち、逃がすか!」
追いかけようとするが、その俺の目の前にエリーが押し出された。
「うわっ、まて!」
一瞬にして崩れ倒れるエリーを支え、俺は追跡を断念する。
「大丈夫か?」
「はい。クロード様………」
エリーの無事な姿を確認した俺は、彼女を抱き締めるその手を止めることができなかった。
「エリー……良かった………もう、大丈夫……」


  脳内は騎士モードが抜けていない。俺はヤンチャな青春を送ったわけではないので、ケンカなんてしたこともない。こんなヒョロが助けになるはずもないのだが……身体が何かに突き動かされる。…助けなきゃ。
「おー、ファイブ!」
ちょうど車に乗り込もうとしていたら俺を呼ぶ声が………フォーだ!サクラに呼ばれて丁度家に来た所だ。
  ああ、サクラも来るって言ってたな……と思いながら、偶然だが、良かった!心強い味方の登場だ。
「フォー!行くぞ!一緒に!」
「ふぇ?」
そのまま車に乗り込みエンジンをかけた。

「そっちの様子は?」
『うん、まだ、ドア叩いているの……もぉやだぁ……怖いよぉ…』
部屋の奥で泣きながら話す彼女。
「ファイブ~警察に連絡したほうが……いいんじゃね?」
「うん、それも考えた。前にも何度か同じ事あったんだって。でも、そいつは警察が来る前に逃げて、彼女だけがマスコミに騒がれて、それで……」
「よくあるな、ちょっと有名になったりとか、失言とか、かわいいとか、生意気とか、何でも理由をつけて、叩きやがる。」
「今回ヒロインだから、余り騒ぎにしたくないって……でも……」
「しゃあない、俺達で何とかできりゃぁ、いいが。」

「エリー、近くまで来てる、今はどう?いる?」
電話で様子を聞くが返事がない。
「返事がない。行くぞ!」
「おう!」
俺達は車を降りた。走り出そうとした俺のすぐ横を、もの凄いスタートダッシュでフォーが駆け出した。いや、待てフォー、家を知ってるのか?
  俺の心配を他所に、フォーは一直線に目的地へ向かっていた。
「はやっ!」
少し遅れて走る俺、彼女から聞いていた建物へ飛び込む。
「エリー!」

  扉の前で、ぶつぶつ呟く男を発見!先を行くフォーがピョーンと飛びかかる。ピョーンっていうのが悲しいけど他に表現しようがない。小柄なので………残念だが。
「ひぃっっ!」
それでも、喉をグルグル鳴らして威嚇しながら飛びかかってきた獣に腰を抜かした男は弱々しく、ごめんなさい、と繰り返した。

「すみません、ご迷惑をおかけしました。」
不審な男と、エリーさんは俺とフォーに謝った。
  話を聞くために、テーブル毎に仕切りのある、近くにあったレストランにとりあえず四人で入る。真横を通らなければ、誰が座っているか見えないだろう。顔の知られている俺たちが目立たないように一番奥を選び座った。
  二人は面識がなく、話を聞いたら、ストーカーではないようだった。
「本当ににすみません。怖い思いさせてしまって。」
男は深々と頭を下げる。
「つまり、エリーさんの前に住んでた彼女の交際相手さんって訳ね。」
「はい。俺、出張で、暫く居なかったら、連絡とれなくなってて、家は鍵変わってるし、呼び鈴鳴らしてもでないし、痺れきらして直接……ドア叩いたりして、すみません。」
彼女さんに、捨てられたのかぁ、気の毒だけど、俺達には何もできない。今回の件は謝ってくれたし、事情も納得できたので、話し合って、警察に届けはしないで、終わらせることになった。
「怖かったけど、通報しなくて、良かったです。また、何言われるか…」
「でも、事務所には言った方がいいと思うよ?もっとセキュリティ高い所に引っ越ししたほうがいいと思う。」
「俺もそう思う。なんなら。俺からも言ってやるぞ。」
俺の隣にフォーがいる。ついいつものように手をにぎにぎ、すりすりしているのを彼女にも見られているが、条件反射なので、許してほしい。気持ちがいいんだもの。
「ファイブ君、本当に助けに来てくれて、ありがとう。」
エリーさんの熱い言葉も今の俺には響かない。
「うん。何もなくてよかったね。」
あんなに、助けなきゃって、高ぶってた気持ちは、どこへやら……フォーの毛並みを触っていると、癒される~
「ま、とりあえず、帰りますか。」
フォーが笑って言った。エリーさんを送って行き、俺とフォーは駐車場へ向かう。

「フォー、ファイブ!大丈夫?」
サクラが迎えに来ていた。あんたの運転は危ないから私が運転するわ、と、運転席にサクラ、後部座席に俺とフォー。
「びっくりしたわよ、ファイブが助けに向かったって聞いて。」
「騎士様みたいで、格好良かったぞ。」
「うん……なんか、クロードが入っていたみたい………」
俺は答えながら、フォーの頭を……腕を……いつものようにもふもふ中。今日はしっぽもさわっていい?

  ああ、しあわせ。
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