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黒の章
黒の子 13
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「髪の毛……黒くなったね。」
ハンスが後ろから一括りにした髪の毛を引っ張って眺めた。
「引っ張んなよ。俺だって不思議なんだから。」
小さい頃は灰色だった髪の毛が、黒い毛が筋のように現れ始めたのは五つくらいだったろうか。年々それは増え、今では元の灰色の方が僅かに残っているだけだ。
「鬱陶しいからお前が切ってくれないか。」
クロードが髪を触りながら、ハンスに言った。
「お断りだ。呪われたくないからな。」
「信じてるのか?そんな戯言。」
村の噂の一つに黒い髪には魔女の呪いがあり、切ると呪われるというのがある。
「あれだろ?森の魔女の魔力の元と言われる髪を切った青年の話。」
森の魔女の数ある噂の一つ、黒髪の呪い。森に迷い込んだ旅人が魔女に食べられそうになったとき、咄嗟に一房の黒髪を掴んだ。男の手は離そうとしても魔女の髪を固く握り込んでピクリとも動かなくなった。それと同時に魔女が動きを止め、今なら逃げられると思い、男はもう片方の手で短刀を握り魔女の髪を切った。髪を切られた事に怒り狂った魔女は逃げた男に呪いをかけ、その後男は亡くなったという。その末路は全身黒髪に巻き付かれて苦しみ死に至ったと。
「信じてないけど、わざわざ俺が噂の検証することもないと思うのだよ。」
「バッカだなあ、ないって。俺ずっとホアンに切って貰っていたし。」
幼年学部を文句なく上位で卒業した二人は希望通り騎士養成学校へ入学した。寮付きの学校は各地から推薦された優秀な学生が集められている。ハンスとクロードも村を出て、寮で生活することとなった。
推薦され入学した学生達は学費免除で、生活費も国から援助してもらえるため、クロードのように地方の貧しい家の出身の者でも優秀ならば学ぶ事が出来るわけだ。
国から受けとる寮費を含む生活費だけでは正直ギリギリである。貴族で仕送りもそれなりにあるハンスと違って、クロードの場合は仕送りをできるほどホアンに蓄えはなく、入学時にせめて格好だけでもと、一揃えの服を用意してくれたのが精一杯だ。口には出さないが、支払いの付けをあちこち頭を下げて待ってもらって、用意したのだろうことは想像できる。
中学年になれば学生向けのアルバイトがあり、それによって少しはゆとりもできようが、小学年の彼らに回ってくるアルバイトは少ないし収入もわずかだ。
「だけど、いざ自分がっ…て思うとやっぱり抵抗あるよ。」
ハンスは定期的に床屋へ行き、身綺麗にしている。だが、クロードは床屋へ行く金も惜しんでそのまま延び放題にしていた。 その髪が顔に掛かり邪魔だとぼやいていたら、同期の女子が髪紐をくれた。ちょうど長い髪を切ったばかりの彼女は、その髪邪魔でしょ?使わなくなったからこの紐でも使えば、とクロードに朱色の染め組紐を手渡した。騎士の学校にも少ないながら女子学生がいる。お陰で今は後ろで一括りにして見た目にも少しだけスッキリした。
「そんな事言ったらさ、黒髪ばっかのシャノアは呪いだらけだよ。」
「はは、たしかに。ないな。」
生まれて一度も切ったことのない長い黒髪をぐるぐる頭に巻き付けている人々や、長い髪をズルズル引き摺る人達が町を歩く姿を、二人は想像して笑った。
ハンスが後ろから一括りにした髪の毛を引っ張って眺めた。
「引っ張んなよ。俺だって不思議なんだから。」
小さい頃は灰色だった髪の毛が、黒い毛が筋のように現れ始めたのは五つくらいだったろうか。年々それは増え、今では元の灰色の方が僅かに残っているだけだ。
「鬱陶しいからお前が切ってくれないか。」
クロードが髪を触りながら、ハンスに言った。
「お断りだ。呪われたくないからな。」
「信じてるのか?そんな戯言。」
村の噂の一つに黒い髪には魔女の呪いがあり、切ると呪われるというのがある。
「あれだろ?森の魔女の魔力の元と言われる髪を切った青年の話。」
森の魔女の数ある噂の一つ、黒髪の呪い。森に迷い込んだ旅人が魔女に食べられそうになったとき、咄嗟に一房の黒髪を掴んだ。男の手は離そうとしても魔女の髪を固く握り込んでピクリとも動かなくなった。それと同時に魔女が動きを止め、今なら逃げられると思い、男はもう片方の手で短刀を握り魔女の髪を切った。髪を切られた事に怒り狂った魔女は逃げた男に呪いをかけ、その後男は亡くなったという。その末路は全身黒髪に巻き付かれて苦しみ死に至ったと。
「信じてないけど、わざわざ俺が噂の検証することもないと思うのだよ。」
「バッカだなあ、ないって。俺ずっとホアンに切って貰っていたし。」
幼年学部を文句なく上位で卒業した二人は希望通り騎士養成学校へ入学した。寮付きの学校は各地から推薦された優秀な学生が集められている。ハンスとクロードも村を出て、寮で生活することとなった。
推薦され入学した学生達は学費免除で、生活費も国から援助してもらえるため、クロードのように地方の貧しい家の出身の者でも優秀ならば学ぶ事が出来るわけだ。
国から受けとる寮費を含む生活費だけでは正直ギリギリである。貴族で仕送りもそれなりにあるハンスと違って、クロードの場合は仕送りをできるほどホアンに蓄えはなく、入学時にせめて格好だけでもと、一揃えの服を用意してくれたのが精一杯だ。口には出さないが、支払いの付けをあちこち頭を下げて待ってもらって、用意したのだろうことは想像できる。
中学年になれば学生向けのアルバイトがあり、それによって少しはゆとりもできようが、小学年の彼らに回ってくるアルバイトは少ないし収入もわずかだ。
「だけど、いざ自分がっ…て思うとやっぱり抵抗あるよ。」
ハンスは定期的に床屋へ行き、身綺麗にしている。だが、クロードは床屋へ行く金も惜しんでそのまま延び放題にしていた。 その髪が顔に掛かり邪魔だとぼやいていたら、同期の女子が髪紐をくれた。ちょうど長い髪を切ったばかりの彼女は、その髪邪魔でしょ?使わなくなったからこの紐でも使えば、とクロードに朱色の染め組紐を手渡した。騎士の学校にも少ないながら女子学生がいる。お陰で今は後ろで一括りにして見た目にも少しだけスッキリした。
「そんな事言ったらさ、黒髪ばっかのシャノアは呪いだらけだよ。」
「はは、たしかに。ないな。」
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