112 / 159
お仕事の時間ですよ 3
王宮騎士物語 28 黒の国 3
しおりを挟む
ヨークラウデンはカリネの侍女に頼み、切りっぱなしの髪を揃えてもらった。見た目には気付かなかったが、自分で切った髪は所々極端に短く、さらに予想以上に塗装剤が髪の上部まで掛かっていて、それを全て取り除き整えると、あちこちに跳ねたベリーショートのツンツン頭になってしまった。
「鏡を…」
出来上がりを確認したいと、鏡を要求するヨークに、サアラは躊躇した。綺麗に手入れされた艶々の長い黒髪が、意図せず汚され、容赦なく切られてしまった。今までの王子の印象を大きく壊すヘアースタイルにきっとショックを受けるに違いないと思い…鏡を恐る恐る向けた。だが、鏡を見たヨークラウデンはその姿を見るなり笑いだした。
「ヨーク?」
「はは、す、すまない!サアラもこの姿になるかと思うと、悪いなと、思うのだが……おかしくて………」
侍女は切り落とした髪をささっと片付けて、椅子を指差す。
「さあ、次はサアラ様の番です。座って下さいな。おなじ、髪型にいたしますから。落とした髪は付け毛にでもいたしますか?」
サアラは、無情な宣告に肩を落とした。
「さて、その間、私は少し散策してくるよ。」
「うぃ~。出来上がりを、楽しみになぁ……」
「頭が軽いな…ふふ。」
ヨークラウデンは屋敷の中庭に出て体を伸ばした。
「長い髪は引っ掛けたり、うっかり挟んだりして邪魔だったんだよな…切りたいと言っても反対されるから、かえって良かったな……」
花壇の花を楽しみながら歩くと、少し離れた場所に黒い毛玉が見えた。と、思ったら女の子の後ろ姿だ。しゃがみ込み、扇状に背中に広がった癖のある後ろ髪が体を隠し、黒い固まりに見える。
この屋敷に小さな女の子はいないはず、と思い彼女に近づき声を掛ける。
「何をしてるの?」
クルリと振り返り、目を合わせた途端、ぷっと吹き出し、大きく口を開けて笑い出した。
その笑顔がなんとも可愛らしく、ヨークは一瞬、見とれてしまった。
「その髪!」
指を指しておかしい!とばかりにけたけた笑う。
「短いぃ~」
ヨークはそんなに短くないよ、と前髪をツンと引っ張って言った。
「そうかな。」
「だって~」
「君、どこから入ったの?お屋敷に勝手に入ってはいけないよ?」
ヨークは近所の子どもが入り込んだと思って、見つからないうちに帰りなさい、と言った。
「早く行きなさい。見つかったら叱られるよ。」
叱られる、という言葉を聞いた途端に、急に静かになった彼女は大変とばかりに、クルリと後ろを向き、駆け出した。
走る後ろ姿に、ヨークは何かに突き動かされるように、呼び掛けていた。
「君の名前は?」
「クローリ……」
小さく聞き取れた声は、そう聞こえた。
「鏡を…」
出来上がりを確認したいと、鏡を要求するヨークに、サアラは躊躇した。綺麗に手入れされた艶々の長い黒髪が、意図せず汚され、容赦なく切られてしまった。今までの王子の印象を大きく壊すヘアースタイルにきっとショックを受けるに違いないと思い…鏡を恐る恐る向けた。だが、鏡を見たヨークラウデンはその姿を見るなり笑いだした。
「ヨーク?」
「はは、す、すまない!サアラもこの姿になるかと思うと、悪いなと、思うのだが……おかしくて………」
侍女は切り落とした髪をささっと片付けて、椅子を指差す。
「さあ、次はサアラ様の番です。座って下さいな。おなじ、髪型にいたしますから。落とした髪は付け毛にでもいたしますか?」
サアラは、無情な宣告に肩を落とした。
「さて、その間、私は少し散策してくるよ。」
「うぃ~。出来上がりを、楽しみになぁ……」
「頭が軽いな…ふふ。」
ヨークラウデンは屋敷の中庭に出て体を伸ばした。
「長い髪は引っ掛けたり、うっかり挟んだりして邪魔だったんだよな…切りたいと言っても反対されるから、かえって良かったな……」
花壇の花を楽しみながら歩くと、少し離れた場所に黒い毛玉が見えた。と、思ったら女の子の後ろ姿だ。しゃがみ込み、扇状に背中に広がった癖のある後ろ髪が体を隠し、黒い固まりに見える。
この屋敷に小さな女の子はいないはず、と思い彼女に近づき声を掛ける。
「何をしてるの?」
クルリと振り返り、目を合わせた途端、ぷっと吹き出し、大きく口を開けて笑い出した。
その笑顔がなんとも可愛らしく、ヨークは一瞬、見とれてしまった。
「その髪!」
指を指しておかしい!とばかりにけたけた笑う。
「短いぃ~」
ヨークはそんなに短くないよ、と前髪をツンと引っ張って言った。
「そうかな。」
「だって~」
「君、どこから入ったの?お屋敷に勝手に入ってはいけないよ?」
ヨークは近所の子どもが入り込んだと思って、見つからないうちに帰りなさい、と言った。
「早く行きなさい。見つかったら叱られるよ。」
叱られる、という言葉を聞いた途端に、急に静かになった彼女は大変とばかりに、クルリと後ろを向き、駆け出した。
走る後ろ姿に、ヨークは何かに突き動かされるように、呼び掛けていた。
「君の名前は?」
「クローリ……」
小さく聞き取れた声は、そう聞こえた。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました
佐倉穂波
恋愛
転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。
確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。
(そんな……死にたくないっ!)
乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。
2023.9.3 投稿分の改稿終了。
2023.9.4 表紙を作ってみました。
2023.9.15 完結。
2023.9.23 後日談を投稿しました。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
指令を受けた末っ子は望外の活躍をしてしまう?
秋野 木星
ファンタジー
隣国の貴族学院へ使命を帯びて留学することになったトティ。入国しようとした船上で拾い物をする。それがトティの人生を大きく変えていく。
※「飯屋の娘は魔法を使いたくない?」のよもやま話のリクエストをよくいただくので、主人公や年代を変えスピンオフの話を書くことにしました。
※ この作品は、小説家になろうからの転記掲載です。
義妹がピンク色の髪をしています
ゆーぞー
ファンタジー
彼女を見て思い出した。私には前世の記憶がある。そしてピンク色の髪の少女が妹としてやって来た。ヤバい、うちは男爵。でも貧乏だから王族も通うような学校には行けないよね。
王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません
きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」
「正直なところ、不安を感じている」
久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー
激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。
アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。
第2幕、連載開始しました!
お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。
以下、1章のあらすじです。
アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。
表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。
常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。
それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。
サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。
しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。
盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。
アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
男爵家の厄介者は賢者と呼ばれる
暇野無学
ファンタジー
魔法もスキルも授からなかったが、他人の魔法は俺のもの。な~んちゃって。
授けの儀で授かったのは魔法やスキルじゃなかった。神父様には読めなかったが、俺には馴染みの文字だが魔法とは違う。転移した世界は優しくない世界、殺される前に授かったものを利用して逃げ出す算段をする。魔法でないものを利用して魔法を使い熟し、やがては無敵の魔法使いになる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる