結婚ー彼女と再会するまでの男の長い話ー

キュー

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第十章兄弟

1悪いな、死んでくれ

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「テオ!」
「悪いな、死んでくれ。」
「止めてくれ!……仲間だと……友達だと思ってたのに…そんな!」
「イグナートも死んだ。マックもだ。次はお前だ。」
「嘘だ!…」
「嘘じゃない。その目で見ないと信じられないか?」
「どうして…」
「……話す必要はない。」
「テオ……」
「ソニー、生き永らえなければ良かったな。俺に殺されなくて済んだのに。」
「訳もわからず、死にたくない。」
「……時間稼ぎはやめろ。もう、終わりだ。」
テオは音もなくソニーに抱きつくが、すぐに離れた。ソニーはその場に崩れ落ちた。その胸には短剣がある。動かないソニーの胸に赤い染みが拡がる。
「心臓を突いた。せめて…苦しまないように…逝かしてやるよ。」
テオは首から下げた青い石を握りしめた。
「近くで聞いてたんだろう?終わったよ。約束は果たした。今度はお前が果たす番だ。出てこいよ、オーカドル公爵!」
テオは誰も動かなくなった部屋の中で叫んだ。
「テオ。」
  ドアを開けて入ってきた男。ハンカチを鼻に押し当て、部屋に充満した臭いに、嫌そうな顔で入ってきた。
「ここは臭う、場所を移そう。」
「オーカドル公爵。もう、話す事はない。すぐに、弟に会わせろ。」
「…………わかったよ。祝盃をあげる時間も惜しいのか?まあいい、ついてこい。」
先に歩き出す男はオーカドル公爵。

  すべては、この日の為。長い年月をかけて、嘘を積み重ねた。偽りの姿は彼の願いを叶えるための祈りと誓い。

  これがテオの本当。

・・・・・・・・・・・・

「ソニー様。」
  王宮で仕事中、ハンから緊急の連絡が入り、イグナートに事情を話して警備の交代後、家まで戻った。
「兄は無事なのか!?病院は!?」
ドアを開けるとハンが待ち構えていた。
連絡では、兄が倒れたとしかきいていない。
「ご安心ください。お兄様はもうすぐ、こちらにいらっしゃいますので。」
「ここに来る?倒れたと…………」
ハンに尋ねると、後ろから誰かに突き飛ばされ、床に転がった。
「痛。」
突き飛ばした奴を見て、思わず声が出た。
「何するんだよ、テオ?……っか、何故ここに?」
「立て。」
「?」
乱暴に腕を引き上げられ、無理やり立たされた。
「ハン、ここは、もういい。」
「はい。」
「車は使えるな?コイツは俺が屋敷に連れていく。お前は先に戻って部屋を準備しておいてくれ。」
テオがハンに指示を出している。どういうことだ?
テオに腕を掴まれたまま引き摺られるように歩いた。

「テオ!」
「黙れ。」
「どうしたんだよ!?」
「うるさい、黙って歩け。」
いつものからかうような口調の、陽気なテオは姿を消していた。イグナートに従う時の彼とも違う。飲み屋街で身体を斜めにして歩くゴロツキのようだ。
「乗れ。」
  俺は拘束されたまま、テオと一緒に、車に乗り込んだ。
「どこへいく?」
「黙ってろ。」
「テオ。」
「うるさい。騒ぐなら口を塞ぐぞ。」
どうしたんだテオ……不用意に喋ると殴られそうなので、黙って言う通りにした。
  しばらくして、テオが顔を上げ、外の様子を気にし始めた。俺の目にも、大きな立派な門が見えた。豪華な屋敷も見える。そこが目的の場所か?と思っていたら、車は通り過ぎ、立派な門は後ろにどんどん遠ざかる。

  テオは苦しそうな顔をしてそれを見ていた。
「テオ?」
その姿すら見られたくないようで、顔をそむけた。
「黙ってろ。」
一瞬、テオが泣いていたように見えたが、気のせいか………?

  木々に囲まれた立派な屋敷。貴族…それもかなり上の方の…屋敷だ。車は外周を回り、裏にあった小さな門の前に止まった。俺は引きずられるように降ろされ、建物まで歩いた。そこにあった小さな扉から建物内に入る。俺は訳がわからず、テオを見つめることしか出来ない。
「入れ。」
小さな部屋の扉が並ぶ廊下。テオは扉の一つを開け、俺は中に突き飛ばされた。
「痛。」
「ソニー、短い付き合いだったが、お別れだ。」
「何?」
テオが懐から短剣を出した。よく見えるように、俺の目の前で、握る感触を確かめた。これから何が行われるのか、予告するように刃先を向けられ、テオが俺を見つめる感情のない目に、鳥肌がたった。
「テオ……冗談……」
「そう見えるか?」
「や……やめろ…テオ。」
テオは笑って腕を引いた。それは…獲物を狙う肉食動物が襲いかかる寸前の、キリキリ張りつめた……動の前の静……あまりの格好良さに、あろうことか、見惚れて、静止の言葉も浮かばず、動けなかった。
  なんとか絞り出した声はたった一言。
「テオ!」
「悪いな、死んでくれ。」
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