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41、おじさんの接待

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 * * *

 レーヴェは嘆息した。

 接待されるというのもあまり楽しいものではない。
 高級な宿屋の一室で、レーヴェは一人の男と机をはさんで向かい合っていた。
 良い女を用意するというから楽しみにしていたが、つまらない商売女ばかりだった。

(あの程度なら、自分で買えるっつーの)

 今日寝た女とまた寝るくらいなら、ノアを相手にしている方が百倍良かった。絶倫の名をほしいままにしているレーヴェは、それこそ取っ替え引っ替えいろんな相手と交わっていた。
 しかしやはり、戻るべきところはノアなのである。

(愛だな。愛があるセックスが一番気持ち良いもんな)

 ふざけたことを考えながら、レーヴェは葉巻を不味そうに吸った。いつも吸っているものではなくて、すすめられたものだ。
 これがまた不味い。口に合わない。

 馳走にもつられたが大した味でもなかったし。
 とにかく今日はつまらない。こんなことなら出かけるのではなかった。

「レーヴェルト・エデルルーク。剣聖とうたわれたあなたが、何故リトスロード侯爵家などに肩入れされているのですか? 本来なら陛下のおそばに仕える身では?」

 口髭を生やし、上等な衣服に太った体を包んだ、見るからにお高くとまったその男は、ウェイブルフェン公爵家の回し者である。

「剣聖は俺のじいさんとやらが言われてただけだろ。俺じゃないって」
「エデルルークは騎士の家系。あなたも御前試合で見事に勝利をあげられた」
「陛下がぶらぶらしてるならたまに戻ってきて出ろって仰るから出ただけでさ……。俺は騎士なんて柄じゃねーのよ」

 諸国をうろつきながら、小競り合いに首をつっこんで傭兵の仕事をして暮らしていた。エデルルーク家は王家に忠誠を誓っているが、レーヴェは個人的に誓った記憶はない。
 世話にはなっているから一応行方はくらまさずに、しばらくよそで修行したいと国王申し出て許可を得ていた。

 ただ必ずいつか戻って騎士として働くようにと言いつけられていて、愛用していた家宝の剣は取り上げられていた。

「リトスロードに何故とどまっているのですか」
「さあね。居心地良いからじゃない?」

 ノアのアンリーシャ家に転がりこんで、それからリトスロード家にくっついてきた。報告をすると王からも別に構わないと言われている。目の届かないところにいるよりはいいと思われているだろう。

 リトスロード家にいればノアがいるし、駆除の仕事で体も鈍らないから、レーヴェとしてもちょうどよかった。風変わりな者が集まっているのでなんとなく馴染む。

「リトスロードに義理でもあるのでしょうか」
「ないよ」

 ジュード・リトスロードは悪い男ではない。フィアリスと同じくらいこじらせている人間ではあるが。
 レーヴェはそういう問題に首をつっこんで正させようというつもりはないから主に傍観している。自分も他人にああだこうだ言えるまともな男ではない。

 あの家にはこじれた問題が多すぎて、実は崩壊寸前である。しかしレーヴェはろくでもない人間なので救ってやれないから仕方ない。駄目人間っぷりで言えば一番である。
 ところでこのウェイブルフェンの回し者だが、レーヴェを味方に引き入れたくて呼び出したらしかった。

 ご苦労なことだとレーヴェは思う。レーヴェは指図されるのが嫌いで、誰の言うことも聞きたくない野良犬のような性格をしているのだ。だからあちこちから諦められている。
 ウェイブルフェン側につくわけがない。つまらないし好きではない。
 この男との会話も飽きてしまって、途中から生返事ばかりしていた。

「あなたも妙だと思いませんか」
「ええ……何が?」
「ジュード・リトスロードの力です」

 それは確かに、思わないでもない。いくら才能があったところで、あの強さは異常としか言いようがなかった。
 だから素直に「そうだね」と答える。すると、男は身を乗り出してきた。

「侯爵は不正をしているのではないでしょうか。国の決まりに反するような……。そして力を独り占めにしているのです」
「というと?」
「魔石ですよ」

 ははあ、とレーヴェは気のない返事をする。

「つまり、あんたは侯爵が通常であれば手に入れられない石を使って、力を引き出していると言いたいんだな。一級石を武器にはめて使っていると」
「そうでなければ説明がつかないではありませんか」
「ないなー。俺もそれを疑って、侯爵の剣をそれとなく調べてみたんだよ。どこからどう見ても、普通の二級石だったぜ。それに一級石っていったら国宝だよ?」
「しかし、あの家は特別扱いをされていますから王家から極秘に下賜されていてもおかしくはないのでは」

 要するに、そういう噂を真に受けてウェイブルフェンの者はリトスロードを妬んでいるのだ。確かにリトスロードはちょっと贔屓されているかもしれない。ただそれは働きを認められてのことだ。

 常に命をかけているし、並みの人間では務まらない仕事である。魔物は尽きることなく湧き続け、リトスロードの者達は四六時中、危機にさらされているのだ。羨ましいなら、代わりに魔物の駆除をやってみればいい。

(嫌だねー、貴族の嫉妬っていうのは)

 とにかくレーヴェに言わせれば、一級石が与えられるなど有り得ない。妄想だ。
 一級石はそうそう扱える代物じゃないし、個人に使わせるくらいなら迷宮を封じるのに使われるだろう。「あんたのこと気に入ってるからあげるねー」とか、「貸してあげるよー」とかいうやりとりにあがるブツではない。

 何度も言うが、国宝なのだ。

(楽しくないなぁ)

 おじさんがおじさんに誉められるというこの図。

 さっさとつまらない会話を切り上げて、帰ってしまいたかった。
 レーヴェは男から、リトスロードに対するうらみつらみや自分へのおべっかを聞かされ、辟易しながらノアのことを考えていた。
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