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変化
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私アレクシスは、男爵家にとって招かれざる客だった。
「お力添えを感謝いたします。だが、どうかこの後は…エレオノーラとは家族だけですごさせて下さい」
言葉は感謝の意を表してはいたが、その表情や態度の中には、私への嫌悪が浮かんでいた。
サバトスからの馬車の中で、エレオノーラについて少し話をした。
その時、彼らは決して私を責める事はしなかった。
彼らはたまたま悪い事が重なっただけだと言う。
しかしそれは私に対し、取らざる負えない態度なのだろう。
きっと心の底では私を責めていたはずだ。
「結局最後まで触れる事も、別れの言葉さえかけられなかったな……」
男爵家まで彼らを送り、城に向かい走り出した馬車の中で、私はようやく涙を流した。
そう言えば、亡くなったエレオノーラと1度だけ二人きりになる事が出来たな…。
エレオノーラの両親が警官に呼び出された時、私は彼女と二人きりになれた。
「エレオノーラ……」
呼び掛けても返ってこない言葉。
そっと触れた頬は、煤けて冷たかった。
それは、温度低下用の魔石のせいだろうが、温もりの無い体は死を表していた。
エレオノーラ、私のたった一人の思い人。
君はまだ死んではいないのだ。
そう思いたかった。
「すまないエレオノーラ」
震える声でいくら謝ろうと、それは自分の言い訳としか響かない。
心から謝りたい人は既にもういないのだ。
熱かっただろう、痛かっただろう、苦しかっただろう………。
その苦しみを、私が代わりになりたいと思うも、それは既にエレオノーラに起こっってしまった事実。
いまさら覆す事は出来ないのだ。
それから暫くは、父上達も私の事を放っておいてくれた。
いや、腫れ物には触らないと言うところだろう。
しかし、いつまでもこのままでいる訳にはいかないと思ったのだろう。
部屋に引き籠っていた私は、とうとう陛下の御前に呼び出された。
「アレクシス。次男と言う立場ではあるが、お前は王族なのだ。他国の脅威から国を守り、国民を守らなくてはならない。確かに今回の件は悲しい出来事だった。だがそれをいつまでも引きずり、悲しんでばかりで政を疎かにする事は許す訳にはいかない」
これは父と言う立場ではなく、王からの言葉だ。
私の立場から言えば尤もな話だろう。
最近では、私もその事を考える事が出来るようになっていた。
だがやはりエレオノーラの方が勝っているのだ。
現に今も、エレオノーラの事を”今回の件”と言う言葉で片づける陛下に腹を立てている。
ならばいっそ私を追放して、捨ててくれないだろうか。
彼女の事を忘れるぐらいなら、最低な生活をし、いつか誰にも知られず朽ちていきた方がいい。
だがエレオノーラがそれを知れば、きっと自分を責め、悲しむ事だろう。
それはダメだ、私はエレオノーラに真摯に向き合わなければいけないのだ。
その為には彼女の愛した人たちを守り、彼女の墓標を守るため、この国を守らなければいけないのだ。
何とも身勝手な理由だと分かっている。
だが言われるがまま意味もなく、操り人形のように事を成すよりは、自分の信念の為にやる方がよっぽどいい。
だから私はエレオノーラのため、この国を守る事を心に誓った。
「分かりました。陛下の仰る通りにいたしましょう。ですが私の我儘も、一つだけ許していただけないでしょうか」
「お前が立ち直ってくれるのだ。何なりと言ってみよ」
「ありがとうございます。ならば私を辺境の地カリオンへ派遣していただきたい」
蛮国グルドアの国境近くの地、あそこが破られれば国は荒れる。
だから私はこんなに温い王都より出て、自ら剣を握り国を守りたい。
「ふむ、カリオンか…。せっかく帰って来てくれたのに、王都から離れるか…。まあ心機一転始めるのも良かろう。しかしカリオン……、シュカルフ辺境伯の地だな。今の時期に領主を挿げ替える事には無理がある。出来ればお前には私や兄の傍にいてもらい、政を手伝ってもらいたいのだが。その間にお前に任せられる地位を用意する。だから、そうだな……10年、ここで国の政治を学び、それから侯爵なり辺境伯を名乗って他の地へ移ったらどうだ」
結局全て筋書きは考え済み、私の頼みは聞いてもらえないと言う事か。
「いえ、私は辺境伯になりたいのではありません。一兵卒から始めさせていただきとうございます。陛下が仰ったように、私はエルトランジェから帰ったばかりの身。この国の政治は文字の中でしか理解しておりません。ですので、現実的に最初からこの体に刻み込みたいと思っております。従って辺境伯の交代は無いので、陛下を悩ませる事は無いはず」
「バカ者が、一兵卒から始め、我らの助けとして働けるようになるまでにどれほど掛かると思っているのだ。お前の考えは想像がつく、欺瞞もいい加減にしろ」
「そちらもすでに私の処遇を考えていたのでしょう?願いを聞くなどと言わず、はっきりと命令なされば良かったのに」
王と言えども、親として私の事を心配してくれているとは分かってはいる。
だが私自身がそれに甘える事が許せないのだ。
結局折れたのは父の方だった。
尤も私の全ての意見が通った訳ではない。
私の行き先は辺境のカリオンではなく、その中間ほどにあるバーバリアン。
国の中央にあるトパック山の麓にある地だ。
脅威があると言うならば、この山に巣くっている魔物や盗賊程度だ。
カリオンに比べれば平穏極まりない地。
私の立場は領主の参謀及び護衛的な物らしいが、覇気のない領主の私に対する態度など想像がつく。
王族である私に対し恐縮し、委縮してしまうのが落ちだろう。
父は私に、こんな所で何をさせようと言うのだ。
「ところでジャクリーン」
「何?」
「本当の本当に、アレクシス様には例の件は伝えなくてもいいのか?」
「あ~、いいんじゃないの?」
「だが、けっこう落ち込んでいたし」
「最近はかなり立ち直ったようよ。王様の勧めで、平和な土地で仕事をする気になったみたいだし、もう変な考えは起こさないわよ」
「それならばいいが…しかし」
「へーきへーき。それに、もしエレオノーラが生きているなんて殿下が知ったら、仕事をそっちのけで、国中まわってエレオノーラの事を探すわよ。エルはその方がいいの?」
「いや、困るが…困るが、しかし……本当にこのままでいいのか?」
そう言い、頭を抱えるエルネスティであった。
「お力添えを感謝いたします。だが、どうかこの後は…エレオノーラとは家族だけですごさせて下さい」
言葉は感謝の意を表してはいたが、その表情や態度の中には、私への嫌悪が浮かんでいた。
サバトスからの馬車の中で、エレオノーラについて少し話をした。
その時、彼らは決して私を責める事はしなかった。
彼らはたまたま悪い事が重なっただけだと言う。
しかしそれは私に対し、取らざる負えない態度なのだろう。
きっと心の底では私を責めていたはずだ。
「結局最後まで触れる事も、別れの言葉さえかけられなかったな……」
男爵家まで彼らを送り、城に向かい走り出した馬車の中で、私はようやく涙を流した。
そう言えば、亡くなったエレオノーラと1度だけ二人きりになる事が出来たな…。
エレオノーラの両親が警官に呼び出された時、私は彼女と二人きりになれた。
「エレオノーラ……」
呼び掛けても返ってこない言葉。
そっと触れた頬は、煤けて冷たかった。
それは、温度低下用の魔石のせいだろうが、温もりの無い体は死を表していた。
エレオノーラ、私のたった一人の思い人。
君はまだ死んではいないのだ。
そう思いたかった。
「すまないエレオノーラ」
震える声でいくら謝ろうと、それは自分の言い訳としか響かない。
心から謝りたい人は既にもういないのだ。
熱かっただろう、痛かっただろう、苦しかっただろう………。
その苦しみを、私が代わりになりたいと思うも、それは既にエレオノーラに起こっってしまった事実。
いまさら覆す事は出来ないのだ。
それから暫くは、父上達も私の事を放っておいてくれた。
いや、腫れ物には触らないと言うところだろう。
しかし、いつまでもこのままでいる訳にはいかないと思ったのだろう。
部屋に引き籠っていた私は、とうとう陛下の御前に呼び出された。
「アレクシス。次男と言う立場ではあるが、お前は王族なのだ。他国の脅威から国を守り、国民を守らなくてはならない。確かに今回の件は悲しい出来事だった。だがそれをいつまでも引きずり、悲しんでばかりで政を疎かにする事は許す訳にはいかない」
これは父と言う立場ではなく、王からの言葉だ。
私の立場から言えば尤もな話だろう。
最近では、私もその事を考える事が出来るようになっていた。
だがやはりエレオノーラの方が勝っているのだ。
現に今も、エレオノーラの事を”今回の件”と言う言葉で片づける陛下に腹を立てている。
ならばいっそ私を追放して、捨ててくれないだろうか。
彼女の事を忘れるぐらいなら、最低な生活をし、いつか誰にも知られず朽ちていきた方がいい。
だがエレオノーラがそれを知れば、きっと自分を責め、悲しむ事だろう。
それはダメだ、私はエレオノーラに真摯に向き合わなければいけないのだ。
その為には彼女の愛した人たちを守り、彼女の墓標を守るため、この国を守らなければいけないのだ。
何とも身勝手な理由だと分かっている。
だが言われるがまま意味もなく、操り人形のように事を成すよりは、自分の信念の為にやる方がよっぽどいい。
だから私はエレオノーラのため、この国を守る事を心に誓った。
「分かりました。陛下の仰る通りにいたしましょう。ですが私の我儘も、一つだけ許していただけないでしょうか」
「お前が立ち直ってくれるのだ。何なりと言ってみよ」
「ありがとうございます。ならば私を辺境の地カリオンへ派遣していただきたい」
蛮国グルドアの国境近くの地、あそこが破られれば国は荒れる。
だから私はこんなに温い王都より出て、自ら剣を握り国を守りたい。
「ふむ、カリオンか…。せっかく帰って来てくれたのに、王都から離れるか…。まあ心機一転始めるのも良かろう。しかしカリオン……、シュカルフ辺境伯の地だな。今の時期に領主を挿げ替える事には無理がある。出来ればお前には私や兄の傍にいてもらい、政を手伝ってもらいたいのだが。その間にお前に任せられる地位を用意する。だから、そうだな……10年、ここで国の政治を学び、それから侯爵なり辺境伯を名乗って他の地へ移ったらどうだ」
結局全て筋書きは考え済み、私の頼みは聞いてもらえないと言う事か。
「いえ、私は辺境伯になりたいのではありません。一兵卒から始めさせていただきとうございます。陛下が仰ったように、私はエルトランジェから帰ったばかりの身。この国の政治は文字の中でしか理解しておりません。ですので、現実的に最初からこの体に刻み込みたいと思っております。従って辺境伯の交代は無いので、陛下を悩ませる事は無いはず」
「バカ者が、一兵卒から始め、我らの助けとして働けるようになるまでにどれほど掛かると思っているのだ。お前の考えは想像がつく、欺瞞もいい加減にしろ」
「そちらもすでに私の処遇を考えていたのでしょう?願いを聞くなどと言わず、はっきりと命令なされば良かったのに」
王と言えども、親として私の事を心配してくれているとは分かってはいる。
だが私自身がそれに甘える事が許せないのだ。
結局折れたのは父の方だった。
尤も私の全ての意見が通った訳ではない。
私の行き先は辺境のカリオンではなく、その中間ほどにあるバーバリアン。
国の中央にあるトパック山の麓にある地だ。
脅威があると言うならば、この山に巣くっている魔物や盗賊程度だ。
カリオンに比べれば平穏極まりない地。
私の立場は領主の参謀及び護衛的な物らしいが、覇気のない領主の私に対する態度など想像がつく。
王族である私に対し恐縮し、委縮してしまうのが落ちだろう。
父は私に、こんな所で何をさせようと言うのだ。
「ところでジャクリーン」
「何?」
「本当の本当に、アレクシス様には例の件は伝えなくてもいいのか?」
「あ~、いいんじゃないの?」
「だが、けっこう落ち込んでいたし」
「最近はかなり立ち直ったようよ。王様の勧めで、平和な土地で仕事をする気になったみたいだし、もう変な考えは起こさないわよ」
「それならばいいが…しかし」
「へーきへーき。それに、もしエレオノーラが生きているなんて殿下が知ったら、仕事をそっちのけで、国中まわってエレオノーラの事を探すわよ。エルはその方がいいの?」
「いや、困るが…困るが、しかし……本当にこのままでいいのか?」
そう言い、頭を抱えるエルネスティであった。
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