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就職活動

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「どうしようかなー」

噴水のへりに座って、屋台で買ったペロペロキャンディーを舐めつつ、一人物思いにふける。
普段だったらこんな高価なもの買わないんだけれど、自棄になりつい買ってしまった。
今まで頑張ったんだから、自分へのご褒美…でいいよね。
そう思った私の前を、キャンディーを持った何人もの子供が”ワーイ”と叫びながら走っていった。

「裕福な子が多いな………」


とにかく
まずは今晩のねぐらを確保しなくちゃぁ。
取りあえず髪を売ったお金も残っているから、宿に泊まる事は出来る。
だけど、いつまでもそのお金を頼りにしている事は出来ないな。

「ジョンさんがいる所、確かフェネックだったよね。宿をしているなら一緒に泊ったって大丈夫だろうし……」

またジョンさん達を頼るのは気が引けるけれど、このままグダグダしていても仕方が無い。
そうと決めたなら、出来る事から始めよう。
だからまずはフェネックに行く事にした。
一人で森でキャンプは危ないみたいだから、宿の部屋をキープして、それから町を見ながら勤め先を探そう。


私は西を目指し町を歩く。
しかし30分歩こうが、1時間歩こうが、一向に町の端が見えてこない。
どうやらかなり広い街のようだ。
そうしているうちに、お腹がグ~ッと鳴った。

「お腹減った……」

前ならこんな事めったに無かったのに、ジョンさん達と暮らすうちに、お腹迄もが軟弱になったわ~。
そんな私はいい匂いにつられ、ふらふらと目の前の屋台へ引き込まれていった。


「は~美味し~い」
「そうかい、嬉しい事言ってくれるねぇ」

のれんに書かれている文字は”ラ~メ~ン”
どうやら異国の地の食べ物らしいです。

「私こんなに美味しい物初めて食べました。それに熱々で体が温まる~」
「そうだろそうだろ、坊主、もう一玉サービスしてやるぜ」
「無理です~お腹が一ぱいでもう入りません。せっかくおじさんが言ってくれたのに残念です、この胃がもう少し大きければ」

そう言い、ぱんぱんになったお腹をポンと叩く。

「そうかい残念だ、なら別腹をサービスするかな」

そう言い、ジュースを私の前にコンッと置いた。

「今はやりの、果汁を炭酸で割ったジュースだ。飲んでみろ」

炭酸ですか?確かにコップの中に、細かい泡がプツプツしてますけれど。
初めての物にビクビクするも、それを手に取り、一気に口に流し込んだ。

「クハーー!」

何て表現すればいいんだろう。
ちょっと口の中が痛いと言うか、ジュワッてくると言うか、それでいてサッパリしていて甘い。

「美味しい………おじさんこれも美味しいです!凄い!おじさん凄い!」
「そうかそうか」

おじさんもめちゃ嬉しそうです。
でもこんなに美味しい物を作れるって、本当にすごいです。

それから私は屋台の裏に席を変え、ジュースをチビチビやりながらおじさんと世間話をする。
もちろん営業妨害にならないように気を付けましたよ。

「へー、頼って来た兄ちゃんがどっかに行っちゃったんだ」
「行っちゃたのではなく、出かけていたんです。長期に。だから帰りを待つ間、ここで仕事を見つけようと思って……」
「俺の所で雇えたらいいんだが、何せ家族を養うのが精いっぱいで、人を雇う事は……悪いな」
「そんな!そう思っていただけるだけ嬉しいです」
「それで、仕事が決まるまで宿はどうするんだ?何だったら俺の所に泊まるか?煩いガキがいて、凄く狭いが、雨風は凌げるぜ」

でも私は自立した女、おじさんにこれ以上甘える事は出来ません。

「いえ、町の西の外れに、フェネックと言う宿が有るそうで、そこに泊まろうと思っているんです」
「フェネックか………」

その名を聞いた途端、おじさんの顔が曇る。

「あそこはあまり良い噂を聞かないな。ガラの悪い奴の溜まり場とか、連れ込み宿だとか………できれば他の宿を探した方がいい」
「そうなんですか!?」

でもいい所に泊まるとお金が………。

「そうだ、木賃宿が有るぞ。寝るのはごろ寝だが、そこの女将さんは真っ当な人だ。部屋は男女別々だし、面倒見もいい。もし嫌でなければそこに泊まったらどうだ?」
「私、今までそう言う所に何度も止まりました!」

確かに今まで泊まった所の宿代は格安だったもんね。

「おじさん、ありがとうございます。私そこに行ってみますね」

地元の人が勧めてくれる宿だから、間違いは無いだろう。
私は道順を聞き、おじさんが夕飯に食えと渡してくれた包みを持って、その宿を目指した。
 

ラ~メ~ン屋台を出てから30分も歩いた頃だろうか。
通り掛かった一軒の建物に目を向ければ”募集”と言う文字が目に入る。
えっ、募集?その前に何か書いてあるけれど、良く読めない。
とにかく行って確かめてこよう。

”新兵募集”

兵隊さんでしたか。
私じゃ無理かなぁ。
でも誰だって初めては有るのだ。
ここに新と言う文字だって書かれているじゃないか。
だって私より小さな子だって、今まさに中に入ろうとしている。
私だってチャレンジする価値はあるんじゃないか?
下手な魔法も数打ちゃ当たる。
この際、雇ってもらえるなら何だっていいわ。

「たのもー!」

「はい。って君、何しに来たの?」

受付に出てきてくれたのは、ボン・キュ・ボンの素敵がお姉さんでした。
ただ、かっこいい制服をきっちりと来ていますが。

「あの、外の看板を見て伺いました!」
「外の……って、あの看板?」
「はい!」
「ふむ…」

お姉さんが、私の上から下までをじっと見渡した。

「成長期……って所かしら。まだ若すぎるし細いわね。出来れば即戦力になりそうな人が欲しいのだけれど………ところであなた、何か特技が有る?」
「得意な物ですか?たくさんあります!料理に掃除、それに裁縫に、洗濯も出来ますよ。それと一般教養と………」
「なるほどね。良く分かったわ。申し訳ないけれど、ここはオママゴトをする場所じゃないの。国を守るために戦う人を募集しているの。下手をすれば命を掛けなければならないのよ。あなたみたいな人を求めている訳じゃないの!」

あの…まだ話が済んでません、出来れば最後まで聞いてもらえませんか?
なたも使えるし、魔法も使えるんですよ。
ケガや病気を治せるし、もしかすると攻撃魔法も使えるかも………。

「とっとと出て行ってくれる?それでなくても人手不足でイライラしてい………ねえ、今、料理とか、家事一般出来るって言ったわよね……?」
「すいません、剣での戦いが出来なきゃいけないんですね。仕方が有りません、私ほかの仕事を探す事にします…」
「ちょっと待ったあぁぁ!」

お姉さんにいきなり手を掴まれ拘束されました。
そしてそのまま奥に引っ立てられます。
その様子を、兵隊さんみたいな人が気の毒そうに眺めてますが、誰も助けようとしてくれません。
私何か悪い事しましたか!?
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