底辺令嬢と拗らせ王子~私死んでませんけど…まあいいか

羽兎里

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用心しましょう

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豪華な馬車、普通の馬車、簡素な幌馬車。
それぞれに乗り込み、旅は始まりました。
予想はしていましたが、豪華な馬車には隊長とラスバスさん。
最初は私も一緒に乗るよう隊長から言われましたが、ラスバスさんの口添えで、ジョンさん達と一緒に移動する事が出来ました。
ラスバスさん曰く、カリオンに着くまで隊長の相手をさせるには、あまりにも気の毒…だそうです。
ありがとうございました!

バスクを旅立ち、これと言った事も無く旅は進んでいきます。
それでも4日目の午後、目の前に道を遮る大きな門が現れました。
ここから先はバーバリアン、この国屈指の頭脳と呼ばれるフランツ・シャインブルク様の納める領地です。

「ちっ、面倒だな」

隊長のご機嫌がほんのちょっと斜めみたいですが、領地を通る貴族には報告義務が有りますし、もちろん今夜お世話になる場所も、領主の屋敷と決まっていますから。
それにここを通らないと、迂回路きついですよ?

「ルドミラ、豪華なだけでそっけもない料理を食べるより、エルちゃんの作った料理の方がいいの。どうせ予定より早く出発したんだから、迂回して、野営をしながらカリオンを目指しましょ?」

瞳をパチパチしてぶりっ子しても、その後ろのオーラは隠れてませんよ。

「でもミラ姉様、私その貴族様の豪華な食事と言う奴を食べてみたいですぅ~」

私だって負けてません。
お願いポーズに手を組み、上斜め45度………。
をする前に、隊長を陥落できたたみたいです。

「仕方ないわね、エルちゃんの頼みだもの」

例え屋敷の貴賓室で無かろうとも、今まで以上の食事は取れるはず。
この機会を逃してなるものか。

「でも、私のお願いも聞いてくれる?食事の時、ルドミラと一緒にいてほしいの。もちろん隣の席で」

……………今何と仰いました?

「隊長、そんな事出来るはずが有りません」

ラスバスさんお願いします。
この常識をぶち壊す、我儘娘を何とかしてください。

「彼はその場に相応しい衣装も持ち合わせていませんし、何よりなんと言って紹介する気ですか」
「衣装なんて、この町にだって貴族御用達の店があるはずよ。吊るしで申し訳ないけれど、エルちゃんに似合う服を買ってくればいいわ」
「で、でも私は…」

性格上、嘘をつく事が苦手な私は”貴族では無い”と言う言葉を発せない。

「エルちゃん、あなたはそんな事を気にしなくていいわ。私があなたの事を守ると言ったでしょう?」

力と権力で押さえつける訳ですね。
想像できます。

「隊長そんな我儘を言って、恥をかくのは彼なのですよ。それに隊員に理不尽な事柄を押し付ける事は軍規にも反します。そんな事をして彼が隊長の事を嫌いになったら、困るのは隊長ですからね」

まあ一応テーブルマナーは教え込まれているから、困る事は無いとは思うけれど、それでもそんな堅苦しい所はゴメンです。
なんて思っていたら、隊長がガバッと私を抱きしめた。

「ごめんねエルちゃん、私が悪かったわ。我儘言わないから私の事を嫌いにならないで」
「嫌いになんてなりませんよ」

我慢する事は慣れていますから。

「それより、早く中に入った方がいいと思うのですが…。いつまでもここに止まっているから、門番さん達が困っていますよ」

と言う訳で、私達はようやくバーバリアンの地を踏みしめた。




「ふぁ~、ずいぶんと大きな町ですねぇ」

私はホロから顔を覗かせ、あたりの様子をうかがう。
道は広く、2台の馬車のすれ違いが容易に出来て、そのうえ人が往来するほどの余裕がある。
暫く進むと市街地に入ったのか、人の行き来が多くなり、店が連なるようになった。

「トルディアに似てる…」
「トルディア?エルは王都に行った事が有るのか」
「えっ?ええ、あ、そう、行った事?あ、有ります有ります」

また口に出ていたようだ。
この癖、気を付けなくちゃ。
自分の身元がバレないよう、細心の注意を払わねば。

「そう言えば、さっき門番と話をした時に聞いたんだが、トルディアから厄介な客が来ているようだぞ」
「厄介な?何でしょうね」
「客と言うか、表面上はここに配属された事になっているらしいが、ここにいる奴らにとっては厄介な賓客だと言っていた」
「それって人間なんですか?」

話を聞くと、何となく魔族や天人など人外を連想させる。
やっぱりそう言うのって、興味が出て来るよね。

「人間だと思うよ。俺達とは種類が違うだろうけど」

種類が違う人間?ってどんな人間だろう。
ますます興味がわく。

「トルディアから来た種類の違う賓客って何ですかね!?」

例えば空を飛べるとか、目が3つあるとか……。

「この国の第二王子様だと。名前は確か…」

アレクシス様…………勘弁して。
私は馬車の中、思わず自分を守るよう体を抱きしめる。

「急にどうしたんだエル、何か有ったのか!?」

有りましたとも。
でも、私に関する一連の騒動の元凶が彼だとも言えず、皆に助けを求める事も出来ない。
だってもし何かあった場合、火の粉が降りかかるのは、きっと皆なんだもの。

「こんなに青くなって、そいつに何かされたのか!」
「俺たちのエルに何かしたならただじゃおかねぇ!」
「たとえ相手が王族だろうとギタギタにしてやる!」

いえ、それ無理だから。
王族に楯突いて、無事ですむ訳が有りません。

「こんなに怯えて、一体何が有ったんだ」

そりゃぁあれですよ、いきなり結婚を申し込まれて、実は二股で、だから私は逃げて………。
あれ?私のされた事ってそれだけだよね。
こんなに怯える必要ってないよね。

「あはっ、ごめんなさい。私ってば何やってるんだろう」
「無理するな、きっととても辛い事が有ったんだろ?」
「いえ、冷静に考えたら、そんなに酷い事は有りませんでした」

昔、同姓同名の人に二股掛けられてフラれました。
だからその名を聞いてつい驚いちゃっただけだと言い訳をする。

「そ、そうか、それはそれで辛かったな」
「ええまあ」

気が付けば怯えるほどつらくは無かったなぁ。

「で、お前今16歳になったばかりだよな。一体いつそんな目に有ったんだ?」
「そうですね……彼と初めて会ったのは、私が2歳の頃でした……」

とたん皆が顔を背ける。
その背が震えているのはどういう訳ですか?
時々聞こえる、堪えたような笑い声は一体なんですか?
まあ別にいいですけれど。

「でも、たとえ同姓同名と言えども、その方にはあまり会いたくありませんね…。尤も明日には私達も出発する事だし、王家の人になどに会う機会も、きっと無いですよね」
「お、おう。そいつと鉢合わせしないように、気に掛けてやるよ」

よろしくお願いしますね。
絶対ですよ。
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