底辺令嬢と拗らせ王子~私死んでませんけど…まあいいか

羽兎里

文字の大きさ
36 / 109

脱走ではありません

しおりを挟む
隊長と一緒に部屋に戻ろうと思ったら、メイドさんに別の部屋にと呼び止められた。

「エルは私と同じ部屋でかまわないわ」
「いえ、エルドレッド様の部屋は別にと主人に仰せつかっておりますので、どうかこちらへ」

それでも食い下がろうとする隊長を軽くいなし、メイドさんは私を他の部屋に連れて行った。
そこは隊長の部屋と大した変わりのない、豪華な部屋だった。

「今夜はここに寝なくちゃいけないの?」

ベッドに腰かければずぶずぶと沈み込むし、こんな所に横になったら、きっと溺れ死ぬのではないだろうか。
日頃固いベッドや地面で寝てたのに、こんな所で寝ろだなんて、無理に決まったいる。

「仕方ないな」

ベッドから上掛けを引きずり下ろし、ラグの上で横になる。
これだって、いつもよりかなり寝心地がいい。



「あっ………」

そう言えば、ジョンさん達に何も言っていないや。
きっと今頃心配している。
メイドさんに、”何かあったらお呼び下さい”と言われたけれど、一体どうすれば来てくれるかな。
メイドさんもそう言うなら、呼ぶ方法を説明してほしかった。

まあいい、とにかく自力で行ってみよう。
そう思い、部屋を出た。

所々に明かりが灯り、真っ暗では無いのが心強い。
あてずっぽうで歩いても、運が無けりゃジョンさん達の部屋に辿り着けない。
それは分かっている。
でも時刻はそう遅くもないし、こうして歩いていれば、いつかは誰かとすれ違えるかもしれないじゃない。
そうすればジョンさん達のいる部屋に案内してもらえる…かもしれない。
そんな甘い考えの下、私は今放浪しています。


「月が明るいなぁ……」

その月明かりの下、窓の外を見下ろせば、こんな寒い冬の中でも、美しい花の咲いた庭が眼下にある。

「明日ここを発つ前に散歩してもいいかなぁ」
「ええ、かまいませんよ」

いきなり隣で響いた声に、私は文字通り驚き飛び上がった。

「シャインブルク様…」
「メイドも付けず、こんな所でどうなさったのですか?」
「あの、ここに私と共に来た人達に、今晩は違う部屋で寝る事を伝えておこうと思いまして……」
「なるほど、今まであなたは、あの者たちと一緒に寝ていたのですか」
「はい」

…………………。
これって答えを間違えたんじゃないか?

「あの、やはりミラお姉様は女性ですから、ご一緒する訳にはいきません。だから今まではあの人たちと一緒に寝ていたんです」
「そうですか、だが彼らとあなたは立場が違う。それならルドミラと同じく、もう一つ部屋を取るべきでしょう」
「でも、私は、その、ひ、一人だと眠れなく………、そう、眠れないので一緒に寝てもらっていたんです」
「しかしそれは、あまりにも危機感が足りませんね」
「そ、そんな事ありませんよ。彼らはああ見えて紳士ですし、とても優しい人たちです。それに、えーと」

確かに私が、ミラ姉様の本当の弟だとしたら、新兵に雇われた人たちと一緒に寝るなんて事は絶対にないだろう。
だからって今更取り消す事は無理。

「とにかく今夜も一緒に寝るつもりでしたから、きっとジョンさん達は心配しているだろうと思ったんです。だからそれを伝えに行こうと思ったんですが、ジョンさん達の部屋が分からなくて…………」
「ジョン…?あぁ、あの男か」

彼の事を知っているんですか?

「あの者共を部屋に通した時、挨拶に出向いたのですよ。何せルドミラの下で働いてもらいますから、釘を刺しておかねばなりません。それで、あのグループの代表がジョンと名乗っていた事を覚えています。多分あれがあなたの言う人間なのでしょう」
「そうですか。それで、あの、ジョンさん達の部屋の場所を教えてもらえないでしょうか?」

月明かりが差し込む中、シャインブルクさんは薄っすらとほほ笑んだ。
何でこう、私の周りって、こうイケメン指数が高いんだろう。

「教える事は構いませんが、あなたが出向く事は賛成しかねますね。そのジョンさんとやらには、こちらから知らせておきましょう」

そう言い、手をポケットに入れ、何かを操作している。
すると1分も経たず、メイドさんが現れた。

「ルドミラの率いてきた兵の下に行き、エルドレッド様は別の部屋で就寝すると伝えてくれ」
「あ、あの、エルです。普段はそう畏まった名前を使っていないので」
「なるほど…そのように」
「畏まりました」

礼を取った後、スススと滑るようにメイドさんは階下へ降りていく。

「さて、これでいいでしょうか?ではあなたの部屋までお送りしましょう」
「はい、ありがとうございます」

実は半分迷子になり掛けてましたので、とても助かります。
改めて見れば、シャインブルク様はまだ昼間の服のまま、まだ仕事をしていたのでしょうか?

「実はあなたに聞いてみたい事が有りましてね。かなり沢山。でもあなたにとってはご迷惑でしょうね」
「はい。あっ、いいえ………」
「ははっ、素直ですね。いいんですよ。大方ルドミラに、私と口をきくなとでも言われているのでしょう?」

そこまでは言われてませんが。

「あなたは素直なのか、それとも心が深い所でこじれていらっしゃるのか……どちらでしょうね」
「一体何の事でしょうか?」

それは自分以外の人が下す判断。
素直とか捻くれてるなど口にしたところで、人から見た印象の真偽など、自分では分からないのだから。

「彼も苦労しますね。いっそ哀れにも思われますよ」
「彼?」
「おや、お分かりにならない?なるほど……」

謎かけ遊びをするつもりは無いんですけどね。
そんな曖昧な事を言ってないで、ズバッと言っちゃって下さいよ。

「まあいいでしょう、どうやらもう少し時間を掛けた方がよさそうです。ならば私もその心づもりでいましょう。ただ私の方からも力添えをさせていただきたい」

力添えですか?これ以上面倒な事はお断りしたいのですが。

「それから私からあなたに頼みも一つ有ります。出来ればルドミラの新しい兵たちには、なるべく近寄らないでいただきたいのですが…それは無理でしょうね」
「そうですね、彼らにはとてもお世話になりましたから」
「なるほど」

こんななぞなぞ……私には彼が何を考えているのか、知る由もない。

「さあ、着きましたよ、もし眠れないならば、傍にいるようメイドを付けましょうか?」
「いえ、大丈夫です。お休みなさいシャインブルク様」
「お休み」

そう言い、来た道を引き返していった。
そう言えばメイドさんを呼ぶ方法を、また聞きそびれちゃったな。

それから私は、先ほど作った仮の寝床に潜り込み、目を閉じた。



「あーーー!」

そう言えば、隊長に私の身元バレちゃって、きっとシャインブルク様にもバレていると言われたんだっけ。
それを前提にすれば、先ほどの言葉も、何となく腑に落ちる事も有る。
やっぱりありゃバレてるわ。
明日隊長に、彼に口止めするようにお願いしておかなければ。
しおりを挟む
感想 13

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

10年前に戻れたら…

かのん
恋愛
10年前にあなたから大切な人を奪った

どうぞ、おかまいなく

こだま。
恋愛
婚約者が他の女性と付き合っていたのを目撃してしまった。 婚約者が好きだった主人公の話。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

最愛の番に殺された獣王妃

望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。 彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。 手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。 聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。 哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて―― 突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……? 「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」 謎の人物の言葉に、私が選択したのは――

【完結・おまけ追加】期間限定の妻は夫にとろっとろに蕩けさせられて大変困惑しております

紬あおい
恋愛
病弱な妹リリスの代わりに嫁いだミルゼは、夫のラディアスと期間限定の夫婦となる。 二年後にはリリスと交代しなければならない。 そんなミルゼを閨で蕩かすラディアス。 普段も優しい良き夫に困惑を隠せないミルゼだった…

処理中です...