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ミラ姉様の弟(臨時)
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「ねえエルちゃん、お姉ちゃんに話したい事って、ない?」
小首をかしげた隊長が、私を見つめる。
それは至極真面目な質問、と言う名の取調べ。
「そんな事言われても……これと言って話す事は……」
飲みたい物を聞かれ、何でもいいと言われたから、ホットアップルミルクコーヒーを頼んでみたら、本当に出て来た。
しかも美味しい、何故だろうブレンドの比率のせい?新境地だわ。
なんて気を紛らわしても、隊長はニコニコしながら私の答えを待っている。
誤魔化す事は出来ないかー。
「もしエルちゃんが話したくないなら別にいいのよ。ただそうなると、私は勝手に推測するしかなくなるわ」
それって、私が白状しないと、勝手に調べるって言う意味ですよね。
「……できれば…。いえ、これはプライベートな問題で、他人を巻き込む話ではありませんから」
「やだ~、エルちゃんは私の大切なお・と・う・と、他人じゃないのよ。私、アレクシス様達の前で堂々と宣言しちゃったもの。でももしエルちゃんが私の本当の弟じゃないってバレたら、偽証罪で我が家はどうなっちゃうのかしら。怖いわ~」
それは自業自得だろうけれど、でも隊長は私をかばってくれた。
だから私は隊長の恩に報いなければならない。
でも………。
「きっとあなたは、アレクシス様の亡くなった婚約者と似ているのね」
その言葉に思わず目を背けてしまい、それを見た隊長がにやりと笑う。
「うそ。冗談よ。きっとエルちゃんには、とても辛い事が有ったんでしょう?簡単に人には話せないような事が。ならば私は無理強いはしない。でももしあなたに困った事や、私の力が必要となった時には、私を頼ってほしいな。私ってけっこう便利よ、伯爵とはいえ、かなりの人脈と財産が有るし、腕っぷしもたつのよ」
「ミラ姉様…」
それは良く知っています。
大の男5人を、拳だけでノックアウトしたのをの見てますから。
「それにこれから権力も手に入れるつもり。軍で手柄を立てて、もっと上り詰めて、あの小憎らしいフランツを顎で使ってやるわ」
大いなる野望を語るミラ姉様です。
「そうそう知ってる?アレクシス様と亡くなった婚約者様の有名なお話。何でも巷では事実に基づいて、ノンフィクションの悲恋物語として出版しようって言う話が出ているんですって」
「うそ!そんな、困ります!」
「そうよねぇ」
「あ……………」
しっかりと隊長の策略にはまってしまいました。
「嘘よ。それはまだ噂話に過ぎないわ。変な事言ってゴメンね。だからエルちゃんは無理に話さなくてもいいのよ(大方の事は分かったから)。ルドミラあなたが(全て)話してくれるのを待つわ。その間にいろいろ調べてみるのもいいし、時間が空けばアレクシス様の婚約者のお宅に伺ってもいいわね」
何のために!って理由は分かるけれど。
「真面目な話、私はエルがしてほしくない事はしない。エルはエルなりにいろいろ有ったのだろうし、エルにはエルの考えが有るのだろう。それはエルが決めた事だ、付き合いの浅い私がとやかく言う立場じゃない。でもこれだけは覚えておいてほしい。私はあなたの事がとても気に入っているのだ。だからあなたの不利になる事は決してしない。それは約束する」
つまり私の味方になってくれるのでしょうか。
「多分フランツも気が付いていると思う。あいつは殿下がここに来ると決まった時点で、かなりの情報を仕入れていたはず。当然亡くなった婚約者様の事も。それと私に弟がいない事を彼は知っている。それでもそれを追求しなかった。きっとあいつなりの考えが有るのだろう。もしくは厄介事を引き起こさないためか……」
「えっ!?」
あの短時間でそこまで考えていたのだろうか。
しかし現に、隊長は気が付いた。
隊長が認めているシャインブルク様の事だ、きっと気が付いている。
いや、既に何らかの策略をめぐらしているかもしれない。
とにかくここにいる間、ミラ姉様の弟として大人しくする事にする。
尤も明日の午前中までだけれど。
私はミラ姉様と行動を共にする弟。
つまり晩餐も一緒に取らなければならないのでした。
「あっ、体の弱い私ってば、急にめまいが……熱も有るみたいだし、咳も、コンッコンッ…」
「だめよエルドレット、下手に避ければそれなりに疑われるし、会えなければそれだけ思いが募るものよ」
「……分かりました…頑張ります」
何か、凝ったフリルを使ったダークグリーンの夜会服を着せられ、ミラ姉様をエスコートする。
そして同じテーブルにはやはりアレクシス様の姿が有った。
さりげなく他愛も無い会話。
時々アレクシス様の視線を感じるが、決して目を合わせることは無かった。
「どうだルドミラ、しばらくここに滞在しては」
「御冗談を。今は任務中であり、カリオンからは早く戻るよう急かされていますので」
「相変わらず冷たいね。婚約者だと言うのに」
えっ?ええぇぇぇ!!
いきなりの衝撃だけど、弟である私は、この驚きを周りの皆さんに気づかれてはならない。
「ミッ!ミミ、ミラお姉様!ご婚約、お、おめでとうございます!」
「あら、そんなのどうでもいいわ。私が一番大事なのはエルちゃんよ」
美味しい物を食べて、楽しい話とつまらない話を聞き、それなりに時間が過ぎていく。
しかし先ほどの件については、何一つ会話に上らなかった。
それでもアレクシス様の気持ちが、私に向いている事が分かる。
でも、アレクシス様は未だに亡くなった婚約者の事を忘れられず、女性を近づけないと聞く。
それが何で、私の事を気にするの?
まさか……まさか対象が男性になったとか?
もしそうだったら私のせい?
ごめん、本当にごめんね。
小首をかしげた隊長が、私を見つめる。
それは至極真面目な質問、と言う名の取調べ。
「そんな事言われても……これと言って話す事は……」
飲みたい物を聞かれ、何でもいいと言われたから、ホットアップルミルクコーヒーを頼んでみたら、本当に出て来た。
しかも美味しい、何故だろうブレンドの比率のせい?新境地だわ。
なんて気を紛らわしても、隊長はニコニコしながら私の答えを待っている。
誤魔化す事は出来ないかー。
「もしエルちゃんが話したくないなら別にいいのよ。ただそうなると、私は勝手に推測するしかなくなるわ」
それって、私が白状しないと、勝手に調べるって言う意味ですよね。
「……できれば…。いえ、これはプライベートな問題で、他人を巻き込む話ではありませんから」
「やだ~、エルちゃんは私の大切なお・と・う・と、他人じゃないのよ。私、アレクシス様達の前で堂々と宣言しちゃったもの。でももしエルちゃんが私の本当の弟じゃないってバレたら、偽証罪で我が家はどうなっちゃうのかしら。怖いわ~」
それは自業自得だろうけれど、でも隊長は私をかばってくれた。
だから私は隊長の恩に報いなければならない。
でも………。
「きっとあなたは、アレクシス様の亡くなった婚約者と似ているのね」
その言葉に思わず目を背けてしまい、それを見た隊長がにやりと笑う。
「うそ。冗談よ。きっとエルちゃんには、とても辛い事が有ったんでしょう?簡単に人には話せないような事が。ならば私は無理強いはしない。でももしあなたに困った事や、私の力が必要となった時には、私を頼ってほしいな。私ってけっこう便利よ、伯爵とはいえ、かなりの人脈と財産が有るし、腕っぷしもたつのよ」
「ミラ姉様…」
それは良く知っています。
大の男5人を、拳だけでノックアウトしたのをの見てますから。
「それにこれから権力も手に入れるつもり。軍で手柄を立てて、もっと上り詰めて、あの小憎らしいフランツを顎で使ってやるわ」
大いなる野望を語るミラ姉様です。
「そうそう知ってる?アレクシス様と亡くなった婚約者様の有名なお話。何でも巷では事実に基づいて、ノンフィクションの悲恋物語として出版しようって言う話が出ているんですって」
「うそ!そんな、困ります!」
「そうよねぇ」
「あ……………」
しっかりと隊長の策略にはまってしまいました。
「嘘よ。それはまだ噂話に過ぎないわ。変な事言ってゴメンね。だからエルちゃんは無理に話さなくてもいいのよ(大方の事は分かったから)。ルドミラあなたが(全て)話してくれるのを待つわ。その間にいろいろ調べてみるのもいいし、時間が空けばアレクシス様の婚約者のお宅に伺ってもいいわね」
何のために!って理由は分かるけれど。
「真面目な話、私はエルがしてほしくない事はしない。エルはエルなりにいろいろ有ったのだろうし、エルにはエルの考えが有るのだろう。それはエルが決めた事だ、付き合いの浅い私がとやかく言う立場じゃない。でもこれだけは覚えておいてほしい。私はあなたの事がとても気に入っているのだ。だからあなたの不利になる事は決してしない。それは約束する」
つまり私の味方になってくれるのでしょうか。
「多分フランツも気が付いていると思う。あいつは殿下がここに来ると決まった時点で、かなりの情報を仕入れていたはず。当然亡くなった婚約者様の事も。それと私に弟がいない事を彼は知っている。それでもそれを追求しなかった。きっとあいつなりの考えが有るのだろう。もしくは厄介事を引き起こさないためか……」
「えっ!?」
あの短時間でそこまで考えていたのだろうか。
しかし現に、隊長は気が付いた。
隊長が認めているシャインブルク様の事だ、きっと気が付いている。
いや、既に何らかの策略をめぐらしているかもしれない。
とにかくここにいる間、ミラ姉様の弟として大人しくする事にする。
尤も明日の午前中までだけれど。
私はミラ姉様と行動を共にする弟。
つまり晩餐も一緒に取らなければならないのでした。
「あっ、体の弱い私ってば、急にめまいが……熱も有るみたいだし、咳も、コンッコンッ…」
「だめよエルドレット、下手に避ければそれなりに疑われるし、会えなければそれだけ思いが募るものよ」
「……分かりました…頑張ります」
何か、凝ったフリルを使ったダークグリーンの夜会服を着せられ、ミラ姉様をエスコートする。
そして同じテーブルにはやはりアレクシス様の姿が有った。
さりげなく他愛も無い会話。
時々アレクシス様の視線を感じるが、決して目を合わせることは無かった。
「どうだルドミラ、しばらくここに滞在しては」
「御冗談を。今は任務中であり、カリオンからは早く戻るよう急かされていますので」
「相変わらず冷たいね。婚約者だと言うのに」
えっ?ええぇぇぇ!!
いきなりの衝撃だけど、弟である私は、この驚きを周りの皆さんに気づかれてはならない。
「ミッ!ミミ、ミラお姉様!ご婚約、お、おめでとうございます!」
「あら、そんなのどうでもいいわ。私が一番大事なのはエルちゃんよ」
美味しい物を食べて、楽しい話とつまらない話を聞き、それなりに時間が過ぎていく。
しかし先ほどの件については、何一つ会話に上らなかった。
それでもアレクシス様の気持ちが、私に向いている事が分かる。
でも、アレクシス様は未だに亡くなった婚約者の事を忘れられず、女性を近づけないと聞く。
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