底辺令嬢と拗らせ王子~私死んでませんけど…まあいいか

羽兎里

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氷解

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「アレクシス様が言ったのよねー」
「な、何って仰ったんですか!?」

まさか彼女が出来たとか……。

「今日はいい天気ですねって」

はぁ~~。

「それからすごく可愛いって言うのよ」
「えっ、えっ、えっ?」
「ジョンがあなたの事を」
「なんだ」

またいつもの冗談ですか。

「それにしてもいつまでも結婚しないって言うのも困りものよね」
「そうですよね、チャンスがあれば早く結婚する方が良いのに」

ジョンさんももう三十路、早く身を固めた方が良いと思います。

「だから、いろいろな所から釣書が届いているみたいよ?」

ほー、見かねた誰かがジョンさんに縁談を持って来ているのか。

「アレクシス様の所に」
「えっ、何で?アレクシス様?えっ、えっ?」
「あなたとの婚約を正式に破棄したと発表したせいでしょうね」
「そ、そう、正式に発表。まあステキな方ですから、たくさん集まるのも 頷けますね…」

婚約破棄はこちらからお願いした事だもの、当然の流れよね。

「それで婚約指輪を用意しているみたいなの」
「えっ、もうお相手は決まったのですか!?」
「もちろん。フランツったら私に内緒にしているつもりらしいけれど、バレバレなのよね。でもはめる石でかなり悩んでいるみたいなの。私はどんな物でもいいのにね」

シャインブルクさんの事ですか……。
でも婚約指輪か、いいなぁ、星空の下バラの咲き乱れる庭園で、二人はじっと見つめ合い”ルドミラ、プレゼントが有るんだ、手を出して……いや、左の方だよ………”なんて、キャーーッ。

「そうですか、きっと一番良いものを隊長に送りたいと思って悩んでいらっしゃるのですね。でも本人が知っているのにはっきりしてもらえないのも、焦らされているようで、ちょっと困惑してしまいますよね」
「そうでしょ?アレクシス様可哀そう」

えっ、えぇ!また対象が変わったんですか!?

「エルちゃん、あなたはアレクシス様の事が好きなのよね?アレクシス様もあなたの事を愛しているって知ってる?」
「え、でもそれはきっとアレクシス様の勘違いで…」
「知っている?」
「あ…はい……」

それは何度も聞いた。
好きだと、愛していると…。

「それなのにあなたはその言葉を真摯に受け止めず、冗談だとはぐらかす。それって真剣に話している人にとって、とても失礼な事よ?」

その言葉に異論を唱える事は出来ない。
それはどこかで分かっていた事だから。
だけど自分へのコンプレックスで、それを認めたくなかった。

「さあ、言いたい事が有るなら今ここで吐き出しなさい。このミラ姉様が全部受け止めてあげる。そしてあなたの心配を全て払拭してあげるから」
「ミラ姉様………」

そして勢いのまま私の気持ちを全部言葉にした。
ミラ姉様は、笑いもせず、私の話を真摯に受け止め、一つ一つ説明してくれる。
私の体のコンプレックス。
財政状況。
不釣り合いな家柄。
能力。
そしてアレクシス様が本当に私を愛しているのかを。
そして私の気持ちを。

全て話し終わり、ミラ姉様が答えられる事は全て教えてもらって、気が付けばなんて単純な問題だったのだろうと思えたほどだ。


私は鏡の前に立たされ、その姿をよく見なさいと隊長に言われる。

「ほらね、あなたは今はこんなにも素敵なレディなのよ。マナーだってリン姉様に叩き込まれている。だからアレクシス様の隣に並んでも恥じることは何も無いの。そして今のあなたには地位や財産なんて必要はない。そんなエルちゃんをお嫁に欲しいと思わない人がいると思って?私が男だったら絶対にプロポーズしているわよ」

確かに隊長の横には、すらりとした姿に、菫色の瞳を見開いた美しい自分が立っている。
こんなにまじまじと自分の姿を見たのは、一体いつぶりだろう。

「ミラ姉様…大好き!」

そう言い、隊長に抱き着く。

「あ~ダメだわ。女の私でも嫁にしたいわ」
「ミラ姉様ったら、またそんなじょう……」

冗談ばかりと言いそうになって、思わず口を噤む。
ちゃんと相手の言葉と向かい合うって決めたばかりだもの。

「ありがとうミラ姉様」
「さてエルちゃん、これでも自分はアレクシス様に相応しくないと言うの?」
「……いいえ」
「そう、それならここから先は自分で考えて答えを出しなさい。そしてまた叱ってほしい時はいつでも私を頼ってね。私はいつだってあなたの味方よ?」


そして隊長は満足げに自分の部屋に戻った。
気が付けばいつの間にか日は沈み、空には星が瞬き始めている。
明日の早朝、私は兄様と共にカゼインを目指す。
そして、カゼインから帰ったら、アレクシス様に告白しよう。
私はアレクシス様が好き。
その時まだアレクシス様が、私を好きだったらいいなぁ………。
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