転生者は無敵!番外編

羽兎里

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ヴィクトリア・第一世の夢

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夢を見た。

俺は、見覚えのある背の高い石造りの建物の中の一角にいる。
幾つかに仕切られた部屋の中だ。
入り口には給湯室と書かれている。

「茉莉香先輩、休憩ですか?」

ひょっこり顔をのぞかせたのは、後輩の観月香苗(ミズキカナエ。)
こんな堅そうな会社には不似合いなふわふわっとした外見をしているが、じつはがっつりとオタクじみた科学者肌の彼女。
曰く、外見まで気にしなくなると、女としての自分を捨ててしまいそうで怖いと、自分に対しての抵抗だそうだ。

「うん、ちょっとね。」

そう言いながら、メーカーにカップをセットし、ボタンを押す。
抽出されたコーヒーに、ミルクは2つ砂糖なし。

「ふ、ふ、ふ。茉莉香先輩、私見ちゃったんですけどー。」

「え、香苗ちゃん。な、何かなー、何見たのかなー。」

「い、ま、さ、ら。往生際悪いですよー。先週のクリスマスイブ、と言ったら分かりますか。」

うーわ。最悪。それって、絶対言い訳できない事だよね。

「とある高級ホテルの前、都築課長と手をつないで中入って行ったの、私の見間違いでなければ――。」

「あー、分かった。それ以上言わなくてもいい、認めるから。はい、それは私です。」

「やっぱりー、て言うか間違いないと思ってはいたんですがね。いやー茉莉香先輩と部長がねー、でも、考えてみればお似合いですわー。」

「もうそれ以上言わないで、恥ずかしいから。で、口止めの条件は?あなたの事だから、何かあるんでしょ?」

「やったっ!さすが茉莉香先輩、話が早い、それじゃ、先輩の秘蔵本、『現代科学の真実と矛盾』貸してください。あれ、絶版になって見つからなかったんです。」

「うー、仕方ない、その代わり絶対破ったり汚したりしないでよね。」

「勿論ですとも。」

「わかった。明日持ってくる。」

「あざっす。ところで、都築課長とホテルってことは、もう当然そういうことしちゃったということで……。」

ぶほっ!思わずコーヒーを吹き出しそうになった。

「香苗ちゃん、そ、そういう表現はもう少しソフトに、ね。」

「えー充分ソフトでしょ、私、エッチしました?なんて言ってないし。」

「か、香苗ちゃーん、もう少し声を押えようね。」

「で、で、都築課長って優しそうだから、どんなんですかー。」

「ノーコメント、そうゆうの、すべてノーコメント。」

「えーつまんない。」

「交換条件出した以上、もう詮索なし。オーライ?」

「わっかりましたー。」

そう言いながら、香苗ちゃんは自分の分のブラックコーヒーを入れている。

「では、本、楽しみにしてますねー。」

そう言いながら、コーヒー片手に給湯室をスキップでもしそうな雰囲気で出て行った。

「とうとうバレたかー。」

私はふっと息を吐きだす。

「何がばれたって?」

ひえっ、振り向くと噂の本人、都築課長だった。

「課長、お疲れ様です。いえ、ちょっとした問題発生でしたが、すでに対処済みです。」

「なんだ、茉莉香、ずいぶん他人行儀だな。」

「いえ、他人ですから。」

「…確かに今は他人だが、いずれ夫婦となる他人とか、せめて恋人とか、少し格上げしてくれないかな。」

「本気ですか?」

「かなり。」

「んー、それって、こんな場所ではなく、もう少し違ったところで聞きたかったです。」

「すまん、茉莉香が他人なんて言うから焦った。」

「ごめんなさい、会社だからと思って、つい。…その案件につきましては、少々お時間をいただいてからのお返事でよろしいでしょうか?」

「やはり、即答はしてくれないか。まあよろしく。いい返事を楽しみにしている。
ところで、何がばれたんだ?」

「先週のクリスマスイブ、目撃者あり。」

「おお、だれに?」

都築課長、ちょっと嬉しそうなのはなぜでしょう。

「第2研究室の観月香苗ちゃん。すでに口止め済みですのでご安心ください。」

「なんだ、口止めしちゃったんだ。」

え、それってばれてもいいてこと?

「言っただろ?恋人だって、いずれ妻にしたいって。社内恋愛が禁止されているわけでもなし、自分的にはオープンしたってかまわない。いや、逆にオープンにして、茉莉香は俺の者だと防衛線を張りたい。」

「何言ってるんですか、そんな必要ないですよ。」

「そう思ってるのは茉莉香だけだぞ。今度気を付けて周りを見てみろ。どうしてあんなに苦労して、俺の下に引っ張ってきたのか分からないのか?俺の目の届かない、狼だらけの部署に、お前を置いとけなかったからだぞ。」

「あの急な異動は、そんな理由だったんですか?信じられない。職権乱用じゃないですか。」

「なんとでも言え。まあ、あの部署のたった一人の女性をかっさらったんだから、かなり恨まれているとは思うが、そんなこと知ったことじゃない。俺は茉莉香さえ傍に居てくれればいいんだから。」

「よく、恥ずかしげもなく、そんなセリフ吐けますね。」

「おお、いくらでも言ってやるぞ。」

「やめてください。」

聞いてるこっちのほうが恥ずかしくなってくる。

「それより部長、いつまでもこんなところで油売ってないで、さっさと席に戻ってください。お茶ですか?コーヒーですか?入れてお持ちしますから。」

「茉莉香が冷たい。」

「何とでも。」

「仕方ない、仕事するか。じゃ、コーヒーを頼む。」

「はい。ミルクなし、砂糖1つですね。」

「うん、よろしく。」

そういうと都築はしぶしぶ給湯室を出ていき、茉莉香は都築のためにコーヒーカップを手に取った。


ある日、定時を1時間ほど回ったころで、もう少し残業していくという都築に挨拶をし、茉莉香は一人、帰社した。
冬の日暮れは早い。真っ暗になった自宅近くのホームに降り立ち、寒さをこらえながら歩きだす。

「そういえば冷蔵庫の中、ほぼ空っぽだったっけ。仕方ない、コンビに寄って行くか。」

私は駅近くの店に寄り、適当な食料を調達し、家へ向かった。
荷物がちょっと重い。買いすぎたかな。早く家へ帰ろう。
しかし、道すがらのガード下をくぐろうとすると、なぜか大きな水たまりがある。

「おかしいな。ここのところ、雨なんか降ってないのに、なぜ水たまりがあるんだろう?水道管から水漏れでもしてるのかな?」

そう思いながら、しばらく佇んだ。
何せ、道いっぱいに広がっている水たまりだ。どこかに水に触れずに歩ける場所はないかと見渡すが、
どうやらなさそうだ。

「明日は別の靴を履いて行くしかなさそうね。」

靴の中に水が入ってしまうのを覚悟で水の中に踏み出した。
ところが3歩ほど進んだところで、ずぶずぶと、足元が不安定になっていく。

「何よこれ、アスファルトはがれて、底は泥にでもなっているの?」

ところが、泥状態どころではない。
どんどん足が、沈んでいくのだ。
足が、膝が、腿が、ズブズブと沈んでいく。
這い上がろうとしても、全然抜ける様子がない。

「誰か!誰か助けて!」

大声を張り上げても、誰もいる様子はない。

「そうだ、携帯!」

茉莉香は、バックから携帯電話を取り出し、都築のアドレスをタッチした。
しかし電話は呼び出し音すらしない。

「しまった、電池切れ?」

でも、目盛りは充分残っている。
何も反応しない電話に向かって、茉莉香は必死になって呼び掛ける。

「都築さん!都築さん!隆さん!!!!」

その間も体は容赦なく沈んでいき、とうとう茉莉香の姿は消えた。



「うわ!」

俺は思わず飛び起きた。
なんつーリアルな夢だ。
でも今の夢、夢としてはずいぶんリアル過ぎる。
……………………………。
いや、あれは俺の過去だ。
今まで忘れていた。
多分、俺の最初の記憶のはずだ。
あの後俺はどうしたっけ。
しばらく考えていたが、思い出せない、やめた。
あまりにも昔すぎる。
これだけ考えても思い出せないんだ。無理するのは俺の性に合わない。
そのうちまた突然思い出すだろう。
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