転生者は無敵!番外編

羽兎里

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貴方は何処へ?そして私は……。

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茉莉香先輩が行方不明になった。

先輩と給湯室で話した次の日、私は本を貸してもらえるのが楽しみで、会社の入り口で茉莉香先輩を待っていた。
しかし、いつまでたっても茉莉香先輩は現れない。

「行き違いになったのかなぁ。」

仕方がないので、ひと仕事終えた後、茉莉香先輩の部署に向かった。
すると向こうから、都築課長が怖い顔をしてこちらに歩いてくる。

「課長、お疲れ様です。あのー。」

「茉莉香を知らないか?」

どうやら先輩を探しているようだ。

「いえ、見かけませんでしたよ。私もちょっと用事があってそちらに行くところだったんですが、トイレにでも行ったんですかねぇ。」

「茉莉香が行方不明なんだ。会社にも来ていないし、いくら電話をかけても通じない。」

「そんな馬鹿な!」

無断欠勤なんて、茉莉香先輩が、そんな無責任なことするわけない。
しかし、都築課長の顔が、それは冗談でないことを物語っていた。
それからすぐ私たちは、タクシーで茉莉香先輩のマンションに向かった。
管理会社に訳を話し、鍵を開けてもらう。
もし、中で茉莉香先輩が倒れていたらどうしよう。
恐る恐る中をのぞく。

「茉莉香!」

私を押しのけ部長が部屋の中に飛び込んだ。
そして、次々と、部屋のドアを開け、中を確認していく。
でも、どこにも先輩はいない。

先輩の実家に連絡を取った。
あちらに帰っている様子はない。
警察にも連絡をした。すぐ、数人の警察官が来て、部屋の状況確認や、私たちへの聞き取りが始まった。
分かったことは、先輩が昨日着ていた服がないこと。
つまり、先輩は昨日ここに帰っていないのではないかとのこと。
何かしらの事件に巻きこまれている可能性も含め、会社からここまでの足取りの確認も行われた。
途中にある防犯カメラなどが調べられ、先輩の乗り降りする駅のすぐ近くのコンビニの店員さんの証言で、あの日先輩は、ここで買い物をしたことが分かった。
そして、帰り道のガードの入り口に設置されている防犯カメラにも、茉莉香先輩の姿が映っていた。
しかし、その後は、いくら調べても、先輩の姿がない。
家の方面へのカメラに写っていないなら、もしかして、ここから回り道したのかもと、違う方角のカメラを調べても茉莉香先輩の姿はなかった。
つまり、茉莉香先輩はあの日、ガード付近から、忽然と姿を消してしまったのだ。
人がそんなに簡単に消えるわけがないと、事件性を考え、同時期にカメラに写っていた車を調べたが、一向に手掛かりはつかめなかった。

そんなこんなで、先輩が行方不明になってから、2か月が過ぎた。
警察も動いているようだが、手掛かりは一向にないようだ。
都築課長は、時間が空けば先輩を探し回っているらしい。
先輩に似た人を見たと、北海道支社の同僚から情報があれば、週末、北海道まで探しに行ってしまい、
あきらめた様子で、また月曜に出社してくる。
日に日に弱っていくようで、見ているほうもつらい。

「課長、ちゃんとご飯食べてますか?」

「ほっておいてくれ!」

ほおっておける訳ないじゃん。
私だって茉莉香先輩のこと、すごく心配してるんだ。
でも、私たちがしっかりしてなきゃ、もし、万が一、先輩が助けを必要としたとき、動けないじゃん。
仕方がないから、時々部長に差し入れをしたり、無理やり、課長の家へ押しかけ、夕食を作ったりした。
陰でこそこそいう人もいたが、そんな事へっちゃら。
私にやましい気持ちはない。
ただ、先輩の大事な人が、壊れていくのを見たくないだけ。

私自身も、時間が空けば、先輩が行きそうなところを回ってみた。
図書館や、お気に入りだと言っていた公園。
ある日、ふと気が向いて、先輩の住んでいたマンションに行ってみた。
今は、もう、家族の手で引き払っていたマンションは、すでに違う人が住んでいるようだ。
それに気づかず、明かりが灯っているのを見て、思わず部屋の前まで走り、呼び鈴を鳴らそうとした。
しかし、表札に別人の名前が書かれているのを見て、ものすごくがっかりしたっけ。
そして、無駄だと分っていても、今日も先輩の住んでいたマンションに来てしまった。
もしかして、もう引き払われたと知らず、先輩戻って来てるかもしれないし。
そして、違うと分っていても、表札を確認してしまう。
ため息をついて、帰路に就く。

「あっれー、来るときこんなの無かったのに。」

駅に向かう途中のガード下に、大きな水たまりができていた。
ぐるっと見渡し、

「だめだ―こりゃ。」

とつぶやく。
だって、どこにも逃げ道ないんだもの。水たまりの向こうにたどり着くには濡れたところを歩くしかないようだ。

「しょうがないなー、お気に入りのパンプスなんだけど、ほかの道に迂回してたら電車に乗り遅れちゃうしな。」

あきらめた私はバシャバシャと水たまりに入って行った。
ところが、途中から、ズブズブと足が沈みだし、身動きが取れなくなってしまう。

「やばっ!なにこれ底なし沼か!?」

何とか足を引き抜こうとあがいてみるが、沈んでいく足の速度は一向に衰えず、
すでに膝の上まで水たまりの中に浸かっていた。
さすがの私もあせる。

「おーい!誰か―!誰かいませんかー!」

うん、いないね。
まいったな、冷静に考えようとも、足はどんどん沈んでいく。どうやって抜けばいいかな。
この時はまだ、この水たまりに底はあるものと思っていた。
この姿で電車に乗るのは、さすがに恥ずかしいな、などと考える余裕もあった。
さて、このバックのショルダーをどこかに引っ掛けてずり上がれないかな、と周囲を見渡す。
しかし、届くところには水たまりしかない。
つまり手の届く範囲には、助けになるような物すら何もない。
まいった。これは本当にまずい状態なんじゃないか?体はどんどん沈んでいく。
すでに胸あたりまで水たまりの中に沈んでいる。

「誰かー!助けて―!!」

私はなりふり構わず叫ぶ。でも気づいてくれる人がいないのか助けにはだれ一人来なかった。
そういえばおかしい。
いくら夜とはいえ、ここは駅に続く道。近くには飲み屋やコンビニなどの施設が少なからずある。
そして、終電にはまだ間がある時間帯。
なのになぜ人っ子一人通らないんだ?
この状態になってからかなり時間がたったはずだ。
このガードの向こうはオフィス街だよ。
残業を終えたサラリーマンとか通ったっていいだろう。
それどころか、静かすぎる。
今まで気が付かなかったが、ガード下なのに、電車の音をはじめ、町の喧騒が一切消えていて、ものすごく静かだ。静かすぎる。
そして私はふと気が付いた。

「ここって、先輩がいなくなったガード下。もしかして、先輩もこの底なし沼に沈んだなんてことは…。」

そんな荒唐無稽な考え、今、私自身がこんな目にあってなかったら、笑い飛ばしていたかもしれない。
しかし、その可能性は今の時点で、かなり高いのでは……。

「だったら、私も、ここに沈めば、先輩に会えるのかな。」

ばかばかしい考えかもしれない。
でも、このままでは死ぬかもと思い始めた私にとって、それも、この絶望的な状況の、ひとつの希望であった。
もしかしたら先輩にもう一度会かも知れない……。そして私の意識はフェードアウトした。



ぎゅっと私の腕をつかむものがある。
そのまま、ずるずると引かれていく。

「グワップッ。」

はあ、はあ、はあ。
あー、息が出来る。助かった。
それにしても体中泥でべとべとだ。
まあ、この状況でそんな事はどうでもいい、とにかく生きている。

「おい、大丈夫か。」

誰かが見つけてくれたんだ。何というラッキー。
私は目の周りの泥をぬぐい、何とか目を開けた。
目の前には、中世の狩人みたいな恰好をした男性がいた。
RPGのコスプレ?コミケでもあったかな?
とにかくお礼だお礼。

「ありがとうございました。もう本当に死ぬかと思っちゃいました。」

「何を好き好んで、この底なし沼に入ったんだ?ここは危険だと小さな子供だって知ってるぞ。」

そんな、道路のど真ん中に、そんな有名な底なし沼があるわけないだろ。

「あの‥。」

説明しようと思って初めて周りの様子に気が付いた。

「ここ何処?」

「だから底なし沼。」

おかしい、絶対おかしい。

「おかしいです!ここ何処ですか!?私、ついさっきまで駅の近くにいたんです!上に線路があって、近くにビルがあって、地面だって、こんな草原じゃなくアスファルトで!」

「ちょっと待て、落ち着け、どうもお前の言っている言葉が分からない。いや、分かるが、分からない言葉が混ざっていて、いまいち理解できない。」

「だから、私がぬかるみには、まったのはこんな場所ではなく、もっと街中で、あ―――。全然景色が違うんです!!!」

「分かった、分かった。とにかくお前は今興奮している。ちょっと落ち着け。」

そう言って、自分のリュックから、布を取り出し、私の顔の泥をぬぐってくれた。

「お前、今の自分のかっこ想像つくか?泥だらけでかなりひどいぞ。この先に俺の家があるから来い。」

そう言うと、私の手を掴みスタスタと歩きだした。

20分も歩いただろうか。森の中には不似合いの、ちょっと立派な屋敷が姿を現した。

「フヮーッ立派のお家ですね。」

「まあ、とりあえず屋敷だからな。で、冷たくてわるいが、お前汚れすぎだからそこの小川で軽く泥を落としてきてくれないか。」

まあそりゃそうだな。こんな格好で屋敷の中歩いたら、そこらじゅう泥だらけになってしまうわな。
仕方ない、行ってくるか。
エイッと小川の中に座り込む。
透き通っていた水が、見る間に泥水になり流れていく。

「ひゃあ、ずいぶん汚れていたな。まあ、頭の上まで泥の中に浸かっていたからな。」

だんだん水の冷たさにも慣れ、いっそ面倒くさいと、仰向けに水の中に横たわった。
その状態であちこちゴシゴシと擦る。

「いったい何やってるんだ。」

頭の上で声がした。

「え――。言われたとおりに泥落としているんだけど。」

上から私の顔を覗き込む男を見て行った。

「変わったやつだなお前は、ほら、もういいからこれで体を拭け。」

そう言うと、大きな布を私に差し出す。
私は体を起こすと川から出た。

「ちょ、ちょっと待て、お前なんてかっこしているんだ。ドレスはどうした。」

え、ドレスなんて着てるわけないじゃない。

「下着で沼に入ったのか。まさか死ぬつもりだった訳じゃないだろうな?」

「これ、立派なワンピースじゃん。それに、自殺するほど軟な性格じゃないよ。」

この服が下着だと?失礼な。そりゃ、濡れねずみにはなっているが、下ろし立てのブランドもんだぞ。
私は薄いチェリーピンクのワンピースのすそを広げ、見下ろした。
時期は3月、花見のシーズンにかこつけて、いいチョイスだと思ったんだけどな。
ところどころ泥のシミがついている。これ落ちないなぁ、きっと。

「どう見ても下着だろうが、ほらさっさとこれで体を隠せ、いくら人目が少ないといえども慎みを持て。」

「わるかったわね、貧相な体を披露しちゃって。」

「そう膨れるな。」

私は男の後に付いて屋敷に入って行った。
運良く、屋敷の床は絨毯ではなかった。
よかったよ、洗ったとはいえまだ泥っぽいところがある。汚したらまずいと思っていたんだ。
男に連れていかれた場所はお風呂のようだ。

「ほら、湯を用意した。ゆっくり汚れを落とせ。」

「ア、アリガトウゴザイマス。オコトバニアマエマス。」

兄さん、意外といい人です。

「一人でできるか?もしなんだったらメイドを呼ぶが。」

で、できるわい!深淵の令嬢じゃあるまいし。
それから湯を使わせてもらう。何度も何度も濯いで、ようやく髪から泥水が出なくなった。
まあこのぐらいならいいだろう。ざっと全身も洗い終え、湯殿から出ると一人の女の人が控えていた。
おっと、私、マッパに体を拭いた布を纏っているだけ。いくら相手が女性でも恥ずかしい。
しかし、彼女は顔色を一つ変えず私を見てにっこり笑った。

「さ、こちらにお掛けくださいお嬢様。」

お嬢様、お嬢様だって。今まで一度も言われた事なかったよ。
そう言うとやたら豪華なドレッサーの前に私を座らせる。

「私はメイド頭のマリアーヌと申します。大変な目に合われましたね。大丈夫でございますか?」

あの男はどういう説明をしたんだろう。

「ああ、髪もこんなにパサパサになってしまって、ちゃんとお手入れしなくては。」

そうなのよね、泥パックってあるけど、普通の泥って肌や髪を痛めるのよね。
マリアーヌさんは、オイルを使って髪をつやっつやっにしてくれ、腕や足までクリームでマッサージしてくれた。
一応断ったんだよ。そこまでしてくれなくても自分でやるって。でも私の仕事ですからって、譲ってくれなかったんだよ。
んで、私はいつものふわふわの髪と、どうやって用意したのかあいつが言っていたワンピースのような下着やコルセット、その他もろもろ一式と、ドレス。
ドレスだよ。そういえばマリアーヌさんのお仕着せも簡素ではあるがドレスだ。
でも私が今着ているのは本当にドレスなんだよ。ピンクのフリフリのドレスなんだよ。
ここは本当に一体どこだ。誰か説明してくれ。
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