2 / 14
発症
しおりを挟む
僕はうつらうつらするものの、深くは眠れずただ目を閉じているだけの状態だった。
そんな僕に、母さんは解熱剤やおかゆなんかを持って来てくれたけれど、薬すら飲む気にならない。
「結樹、頭上げて」
そう言い頭の下に差し込まれた物は、棚の奥から引っ張り出してきたのだろう氷枕だった。
小さい頃よく熱を出した僕がよく使っていたものだ。
火照った体に氷枕が気持ちいい。
懐かしいな……、そんな思いと共に、僕はようやく眠りに落ちる事が出来た。
目が覚めた切っ掛けは、慌しく鳴る玄関のチャイムの音だった。
一体なんだろうと思っていると、何人かの煩い話声がする。
意味は聞き取れないけれど、その言葉のトーンから、どうやら大変な事が起こっているような気がした。
やがてドタドタと慌しい足音がこの部屋に向かってくる。
そしていきなり開いた部屋のドアから数人の人が飛び込んで来た。
「失礼します!ご無事でしょうか!」
ご無事?何の事だ?
白衣を着た一人の男性が僕の枕元に膝をつき、持っていた鞄から、何かを慌しく取り出した。
それから検温や脈拍を取ったり、簡単な検査をしてから、腕に針を刺された。
「緊急事態なので、この様な真似をお許しください。これは人体に影響のない鎮静剤と点滴です、ご安心ください」
はっ?注射なんて今まで何回もしているのに、なぜ許可を取る必要が有るんだろう…。
「結樹……」
声のする方に目を向ければ、父さんと母さんが心配そうに僕を見つめていた。
「…きっとただの風邪…だから……、心配…しないで………」
そして再び僕が気が付いた時、全てが変わっていた。
後で聞いた話では、俺が眠っていたのは病院に隣接していたペントハウスの一室だったらしい。
僕が眠っている間は、看護師さんが付きっ切りで見守っていたようだ。
「お目覚めになりましたか。ご気分はいかがでしょうか?」
気分?別に普通だけど……。
あぁそうだ、確か僕は熱を出していたんだっけ。
「ここは一体…?父さんや母さんは……」
「申し訳ございません。説明は担当医がお話いたします。今呼んでまいりますのでしばらくお待ちください」
そう言った後、看護師さんは部屋から出て行った。
僕は周りの様子を確かめるために起き上がろうとした。
「どうかそのまま、眩暈などが起こる可能性がございますので、横になったままお待ちください」
思わず声のする方に首を向けると、また一人看護師らしき人がいた。
一体どうなっているんだ?
駆け付けた医者が事の経緯を説明してくれた。
「おめでとうございます。検査の結果あなたがオメガと言う事が分かり、正式に国から認定されました。結樹様の体質に合った抑制剤はすでに投入されておりますので、ヒートは抑えられているはずですが、具合はいかがでしょうか」
「僕が…オメガ………?そんなはず有りません。僕はただの人間です!」
いくら僕がそう言い張っても、検査は全て済んでおり、僕は間違いなくオメガと言う結果が出たらしい。
取り敢えず、あの経験が無いような火照りは収まっている。
だけど事態は最悪だ。
「僕は…オメガなんですか……?」
「はい。異常はどこにも有りませんでしたので、健全なオメガだと認定が下りました。証明証等は後日届けられることになっております」
………………。
「僕はどうなるのですか?家に帰れるんですよね?」
「……申し訳ございません。あなたオメガと判明した以上、家に戻る事は叶いません。あなたは国、いえ世界の宝ですので、大切に保護しなければならないのです。しかし家族をここに呼ぶ事は出来ますのでご安心ください」
「そうじゃなくて、今までのような生活は出来ないんですか!?」
違う、僕はオメガなんて嫌なんだ。
何の制限のない普通の生活がしたいんだ。
学校に行って、家に帰って、父さん達や武史や友達と気軽に話をして、遊んで、いずれは会社に勤めて……。
そんな生活がもうできないって言うのか?
これからの生活は、24時間管理され続け、いずれは家畜のように子供を産むだけの機械になり下がるのか?
いやだ、いやだ、いやだ!!
「僕を家に帰してよ!僕はオメガなんかじゃない!ただの高校生だよ!」
そして手の届くものを、医者や看護師に向かって投げつけた。
「君、鎮静剤を」
医者が看護師に命じ、何人かの人に体を拘束された後、酸素マスクのようなものをされ、僕はまた眠りに落ちて行った。
そんな騒ぎを起こした僕には、普通以上の監視が付いたようだ。
「あなたはまだ、今の状態が飲み込めず情緒不安定になっているのでしょう」
オメガと分かれば、普通だったら喜んでその現実を受け入れるのに、一体どうしてだ?
そんな話が耳に入った。
こんな状況をどうして喜ぶんだろう?
僕には苛立ちと不安ともどかしさしかないのに。
そんな僕に、母さんは解熱剤やおかゆなんかを持って来てくれたけれど、薬すら飲む気にならない。
「結樹、頭上げて」
そう言い頭の下に差し込まれた物は、棚の奥から引っ張り出してきたのだろう氷枕だった。
小さい頃よく熱を出した僕がよく使っていたものだ。
火照った体に氷枕が気持ちいい。
懐かしいな……、そんな思いと共に、僕はようやく眠りに落ちる事が出来た。
目が覚めた切っ掛けは、慌しく鳴る玄関のチャイムの音だった。
一体なんだろうと思っていると、何人かの煩い話声がする。
意味は聞き取れないけれど、その言葉のトーンから、どうやら大変な事が起こっているような気がした。
やがてドタドタと慌しい足音がこの部屋に向かってくる。
そしていきなり開いた部屋のドアから数人の人が飛び込んで来た。
「失礼します!ご無事でしょうか!」
ご無事?何の事だ?
白衣を着た一人の男性が僕の枕元に膝をつき、持っていた鞄から、何かを慌しく取り出した。
それから検温や脈拍を取ったり、簡単な検査をしてから、腕に針を刺された。
「緊急事態なので、この様な真似をお許しください。これは人体に影響のない鎮静剤と点滴です、ご安心ください」
はっ?注射なんて今まで何回もしているのに、なぜ許可を取る必要が有るんだろう…。
「結樹……」
声のする方に目を向ければ、父さんと母さんが心配そうに僕を見つめていた。
「…きっとただの風邪…だから……、心配…しないで………」
そして再び僕が気が付いた時、全てが変わっていた。
後で聞いた話では、俺が眠っていたのは病院に隣接していたペントハウスの一室だったらしい。
僕が眠っている間は、看護師さんが付きっ切りで見守っていたようだ。
「お目覚めになりましたか。ご気分はいかがでしょうか?」
気分?別に普通だけど……。
あぁそうだ、確か僕は熱を出していたんだっけ。
「ここは一体…?父さんや母さんは……」
「申し訳ございません。説明は担当医がお話いたします。今呼んでまいりますのでしばらくお待ちください」
そう言った後、看護師さんは部屋から出て行った。
僕は周りの様子を確かめるために起き上がろうとした。
「どうかそのまま、眩暈などが起こる可能性がございますので、横になったままお待ちください」
思わず声のする方に首を向けると、また一人看護師らしき人がいた。
一体どうなっているんだ?
駆け付けた医者が事の経緯を説明してくれた。
「おめでとうございます。検査の結果あなたがオメガと言う事が分かり、正式に国から認定されました。結樹様の体質に合った抑制剤はすでに投入されておりますので、ヒートは抑えられているはずですが、具合はいかがでしょうか」
「僕が…オメガ………?そんなはず有りません。僕はただの人間です!」
いくら僕がそう言い張っても、検査は全て済んでおり、僕は間違いなくオメガと言う結果が出たらしい。
取り敢えず、あの経験が無いような火照りは収まっている。
だけど事態は最悪だ。
「僕は…オメガなんですか……?」
「はい。異常はどこにも有りませんでしたので、健全なオメガだと認定が下りました。証明証等は後日届けられることになっております」
………………。
「僕はどうなるのですか?家に帰れるんですよね?」
「……申し訳ございません。あなたオメガと判明した以上、家に戻る事は叶いません。あなたは国、いえ世界の宝ですので、大切に保護しなければならないのです。しかし家族をここに呼ぶ事は出来ますのでご安心ください」
「そうじゃなくて、今までのような生活は出来ないんですか!?」
違う、僕はオメガなんて嫌なんだ。
何の制限のない普通の生活がしたいんだ。
学校に行って、家に帰って、父さん達や武史や友達と気軽に話をして、遊んで、いずれは会社に勤めて……。
そんな生活がもうできないって言うのか?
これからの生活は、24時間管理され続け、いずれは家畜のように子供を産むだけの機械になり下がるのか?
いやだ、いやだ、いやだ!!
「僕を家に帰してよ!僕はオメガなんかじゃない!ただの高校生だよ!」
そして手の届くものを、医者や看護師に向かって投げつけた。
「君、鎮静剤を」
医者が看護師に命じ、何人かの人に体を拘束された後、酸素マスクのようなものをされ、僕はまた眠りに落ちて行った。
そんな騒ぎを起こした僕には、普通以上の監視が付いたようだ。
「あなたはまだ、今の状態が飲み込めず情緒不安定になっているのでしょう」
オメガと分かれば、普通だったら喜んでその現実を受け入れるのに、一体どうしてだ?
そんな話が耳に入った。
こんな状況をどうして喜ぶんだろう?
僕には苛立ちと不安ともどかしさしかないのに。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
愛されないと吹っ切れたら騎士の旦那様が豹変しました
蜂蜜あやね
恋愛
隣国オデッセアから嫁いできたマリーは次期公爵レオンの妻となる。初夜は真っ暗闇の中で。
そしてその初夜以降レオンはマリーを1年半もの長い間抱くこともしなかった。
どんなに求めても無視され続ける日々についにマリーの糸はプツリと切れる。
離縁するならレオンの方から、私の方からは離縁は絶対にしない。負けたくない!
夫を諦めて吹っ切れた妻と妻のもう一つの姿に惹かれていく夫の遠回り恋愛(結婚)ストーリー
※本作には、性的行為やそれに準ずる描写、ならびに一部に性加害的・非合意的と受け取れる表現が含まれます。苦手な方はご注意ください。
※ムーンライトノベルズでも投稿している同一作品です。
【完結】姉は聖女? ええ、でも私は白魔導士なので支援するぐらいしか取り柄がありません。
猫屋敷 むぎ
ファンタジー
誰もが憧れる勇者と最強の騎士が恋したのは聖女。それは私ではなく、姉でした。
復活した魔王に侯爵領を奪われ没落した私たち姉妹。そして、誰からも愛される姉アリシアは神の祝福を受け聖女となり、私セレナは支援魔法しか取り柄のない白魔導士のまま。
やがてヴァルミエール国王の王命により結成された勇者パーティは、
勇者、騎士、聖女、エルフの弓使い――そして“おまけ”の私。
過去の恋、未来の恋、政略婚に揺れ動く姉を見つめながら、ようやく私の役割を自覚し始めた頃――。
魔王城へと北上する魔王討伐軍と共に歩む勇者パーティは、
四人の魔将との邂逅、秘められた真実、そしてそれぞれの試練を迎え――。
輝く三人の恋と友情を“すぐ隣で見つめるだけ”の「聖女の妹」でしかなかった私。
けれど魔王討伐の旅路の中で、“仲間を支えるとは何か”に気付き、
やがて――“本当の自分”を見つけていく――。
そんな、ちょっぴり切ない恋と友情と姉妹愛、そして私の成長の物語です。
※本作の章構成:
第一章:アカデミー&聖女覚醒編
第二章:勇者パーティ結成&魔王討伐軍北上編
第三章:帰郷&魔将・魔王決戦編
※「小説家になろう」にも掲載(異世界転生・恋愛12位)
※ アルファポリス完結ファンタジー8位。応援ありがとうございます。
【完結】体目的でもいいですか?
ユユ
恋愛
王太子殿下の婚約者候補だったルーナは
冤罪をかけられて断罪された。
顔に火傷を負った狂乱の戦士に
嫁がされることになった。
ルーナは内向的な令嬢だった。
冤罪という声も届かず罪人のように嫁ぎ先へ。
だが、護送中に巨大な熊に襲われ 馬車が暴走。
ルーナは瀕死の重症を負った。
というか一度死んだ。
神の悪戯か、日本で死んだ私がルーナとなって蘇った。
* 作り話です
* 完結保証付きです
* R18
貴方なんて大嫌い
ララ愛
恋愛
婚約をして5年目でそろそろ結婚の準備の予定だったのに貴方は最近どこかの令嬢と
いつも一緒で私の存在はなんだろう・・・2人はむつまじく愛し合っているとみんなが言っている
それなら私はもういいです・・・貴方なんて大嫌い
【書籍化決定】憂鬱なお茶会〜殿下、お茶会を止めて番探しをされては?え?義務?彼女は自分が殿下の番であることを知らない。溺愛まであと半年〜
降魔 鬼灯
恋愛
コミカライズ化決定しました。
ユリアンナは王太子ルードヴィッヒの婚約者。
幼い頃は仲良しの2人だったのに、最近では全く会話がない。
月一度の砂時計で時間を計られた義務の様なお茶会もルードヴィッヒはこちらを睨みつけるだけで、なんの会話もない。
お茶会が終わったあとに義務的に届く手紙や花束。義務的に届くドレスやアクセサリー。
しまいには「ずっと番と一緒にいたい」なんて言葉も聞いてしまって。
よし分かった、もう無理、婚約破棄しよう!
誤解から婚約破棄を申し出て自制していた番を怒らせ、執着溺愛のブーメランを食らうユリアンナの運命は?
全十話。一日2回更新
7月31日完結予定
没落貴族か修道女、どちらか選べというのなら
藤田菜
キャラ文芸
愛する息子のテオが連れてきた婚約者は、私の苛立つことばかりする。あの娘の何から何まで気に入らない。けれど夫もテオもあの娘に騙されて、まるで私が悪者扱い──何もかも全て、あの娘が悪いのに。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる