美しき檻 捕らわれた花嫁

羽兎里

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発症

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僕はうつらうつらするものの、深くは眠れずただ目を閉じているだけの状態だった。
そんな僕に、母さんは解熱剤やおかゆなんかを持って来てくれたけれど、薬すら飲む気にならない。

「結樹、頭上げて」

そう言い頭の下に差し込まれた物は、棚の奥から引っ張り出してきたのだろう氷枕だった。
小さい頃よく熱を出した僕がよく使っていたものだ。
火照った体に氷枕が気持ちいい。
懐かしいな……、そんな思いと共に、僕はようやく眠りに落ちる事が出来た。


目が覚めた切っ掛けは、慌しく鳴る玄関のチャイムの音だった。
一体なんだろうと思っていると、何人かの煩い話声がする。
意味は聞き取れないけれど、その言葉のトーンから、どうやら大変な事が起こっているような気がした。

やがてドタドタと慌しい足音がこの部屋に向かってくる。
そしていきなり開いた部屋のドアから数人の人が飛び込んで来た。

「失礼します!ご無事でしょうか!」

ご無事?何の事だ?
白衣を着た一人の男性が僕の枕元に膝をつき、持っていた鞄から、何かを慌しく取り出した。
それから検温や脈拍を取ったり、簡単な検査をしてから、腕に針を刺された。

「緊急事態なので、この様な真似をお許しください。これは人体に影響のない鎮静剤と点滴です、ご安心ください」

はっ?注射なんて今まで何回もしているのに、なぜ許可を取る必要が有るんだろう…。

「結樹……」

声のする方に目を向ければ、父さんと母さんが心配そうに僕を見つめていた。

「…きっとただの風邪…だから……、心配…しないで………」



そして再び僕が気が付いた時、全てが変わっていた。

後で聞いた話では、俺が眠っていたのは病院に隣接していたペントハウスの一室だったらしい。
僕が眠っている間は、看護師さんが付きっ切りで見守っていたようだ。

「お目覚めになりましたか。ご気分はいかがでしょうか?」

気分?別に普通だけど……。
あぁそうだ、確か僕は熱を出していたんだっけ。

「ここは一体…?父さんや母さんは……」
「申し訳ございません。説明は担当医がお話いたします。今呼んでまいりますのでしばらくお待ちください」

そう言った後、看護師さんは部屋から出て行った。
僕は周りの様子を確かめるために起き上がろうとした。

「どうかそのまま、眩暈などが起こる可能性がございますので、横になったままお待ちください」

思わず声のする方に首を向けると、また一人看護師らしき人がいた。
一体どうなっているんだ?


駆け付けた医者が事の経緯を説明してくれた。

「おめでとうございます。検査の結果あなたがオメガと言う事が分かり、正式に国から認定されました。結樹様の体質に合った抑制剤はすでに投入されておりますので、ヒートは抑えられているはずですが、具合はいかがでしょうか」
「僕が…オメガ………?そんなはず有りません。僕はただの人間です!」

いくら僕がそう言い張っても、検査は全て済んでおり、僕は間違いなくオメガと言う結果が出たらしい。

取り敢えず、あの経験が無いような火照りは収まっている。
だけど事態は最悪だ。

「僕は…オメガなんですか……?」
「はい。異常はどこにも有りませんでしたので、健全なオメガだと認定が下りました。証明証等は後日届けられることになっております」

………………。

「僕はどうなるのですか?家に帰れるんですよね?」
「……申し訳ございません。あなたオメガと判明した以上、家に戻る事は叶いません。あなたは国、いえ世界の宝ですので、大切に保護しなければならないのです。しかし家族をここに呼ぶ事は出来ますのでご安心ください」
「そうじゃなくて、今までのような生活は出来ないんですか!?」

違う、僕はオメガなんて嫌なんだ。
何の制限のない普通の生活がしたいんだ。
学校に行って、家に帰って、父さん達や武史や友達と気軽に話をして、遊んで、いずれは会社に勤めて……。
そんな生活がもうできないって言うのか?
これからの生活は、24時間管理され続け、いずれは家畜のように子供を産むだけの機械になり下がるのか?
いやだ、いやだ、いやだ!!

「僕を家に帰してよ!僕はオメガなんかじゃない!ただの高校生だよ!」

そして手の届くものを、医者や看護師に向かって投げつけた。

「君、鎮静剤を」

医者が看護師に命じ、何人かの人に体を拘束された後、酸素マスクのようなものをされ、僕はまた眠りに落ちて行った。


そんな騒ぎを起こした僕には、普通以上の監視が付いたようだ。

「あなたはまだ、今の状態が飲み込めず情緒不安定になっているのでしょう」

オメガと分かれば、普通だったら喜んでその現実を受け入れるのに、一体どうしてだ?
そんな話が耳に入った。
こんな状況をどうして喜ぶんだろう?
僕には苛立ちと不安ともどかしさしかないのに。
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